君のココロを守るため 作:一般魔法少女
使い魔の計量を待たずして、救済が始まった。
救済の最終段階。
罪なき人間を楽園へ導く。
クリームヒルトの救済を止める者はもういない。
だから、鹿目まどかはクリームヒルトを後押しした。現人類七十億人の罪を裁定し、全ての罪を赦した。
たった一人で七十億の人間を、裁いたのだ。
使い魔が殺す前に。
途方もない長さに頭が茹だりそうになったが、それでもやり遂げた。
そのため、多くの人間が死することなく結界へと取り込まれていく。
なぜ、こんなに頑張るのか?
ティガは負けたのに、ティガダークは死んでしまったのに。
救いなんてあるはずがないのに。
鹿目まどかは諦めなかった。
だって、信じているから。
大地が約束を破って死ぬことはないと、心の底から信じている。
私を一人にして死ぬことはない。
いつだって、私と一緒にいたのだから。
鹿目まどかが諦めることはなかった。
死んだ。
桜色の閃光が視界一杯に広がり、躱す余地もなく完璧に死んだ。
二人で撃ったダブルゼペリオン光線は拮抗することもなく飲み込まれ、二人の存在を消し去った。
死んだ、はずだった。
「し、死んだ……死んだよな……?」
「……生きてるよ『僕』」
膝に手を付き、息を必死に吸い込む『僕』。
初めての戦いで死の危機に瀕したのだ。
そうなるのも無理はなかった。
お互いの正体に驚きはない。
光を渡しあった時になんとなく理解していた。
「なんでぇ?あのタイミングは絶対死んだだろ?」
「彼女が助けてくれた」
路地の奥から黒い髪をたなびかせ、歩いてくる一人の魔女。
『やはり死にかけたじゃない。貴方達であってもクリームヒルトに勝つことはできない』
「……そんなこと言いに来たわけ?というより、ほむちゃんを解放してよ」
あの瞬間、彼女は5秒だけ時間を巻き戻した。
クリームヒルトに時間停止が効かないように、時間の巻き戻しも効かない。
故に、気づけない。
世界全ての時間が戻っていたことに気づかない。
だから、僕達だけの居場所が5秒前に戻り射線から外れることができたのだ。
『断るわ。彼女は既に、思い出の中。
解放する理由がないもの』
「てか、この人誰?お前の仲間なの?」
「うーん……」
敵なのか?
いや、敵対している……訳じゃないのか?
現に攻撃は一度たりともされていない。
助けられた回数の方が多いくらいだ。
『仲間であり、敵であり、愛であり、後悔でもある。
私は観測者。
かつての思い出を夢見る者。
故に観劇の魔女。
思い出からは逃れられない』
黒い帽子を目深に被り、その表情は窺えない。
だが、声色から深い後悔と悲しみが伝わってくる。
どうも調子が狂う。
彼女と敵対することを心が拒否しているみたいだ。
「あー、観劇の魔女さん?手伝ってくれる気は……?」
『なくもないわ。でも、貴方達は奇跡を起こせるの?奇跡を起こせないのなら、クリームヒルトを倒すことなど不可能。貴方達はウルトラマンではない』
奇跡……。
「……ほむちゃんが君の中から出て来ることはない?」
『ない。彼女の願いは出会いのやり直し。
誰よりも過去を望み、過去に縛られた女。
幸せな過去から出て来ることなど、ありえない』
暁美ほむらは過去を願った。
故に、過去を見せる観劇の魔女は天敵とも呼べる存在だった。
「じゃあ、連れ戻して来るよ。幸せな夢から、辛い現実に」
それは、残酷なことなのかもしれない。
現に観劇の魔女に取り込まれた時、幸せな夢に浸らせたほうが幸せなんじゃないかって思った。
でも、彼女は彼女の意思で未来へ行くことを決めた。
僕は彼女を、『暁美ほむら』を信じてる。
彼女と未来へ歩めると、信じてる。
『……不可能よ。彼女はそんなに強くないわ』
「そんなことない。彼女の強さを僕は知ってる。
ほむちゃん自身が否定したって、僕はそんなことないって叫び続ける。
だって、僕が彼女に救われたんだから」
強さ。
強さって何だろう。
誰かを殴れたら強いのか?
誰かに勝ったら強いのか?
僕は違うと思う。
本当の強さって、誰かが落ちそうな時に引っ張って上げることだと思う。
犯罪に手を染めそうな友人を止めたり、投げやりになってしまった人を支えたり。
そんな、誰かを救える人が本当に強い人だと思う。
僕はほむちゃんに顔を叩かれた時に、そう思えた。
彼女が僕に教えてくれた。
「僕は暁美ほむらを信じてる。
彼女はそんなに弱い人じゃないって」
『……そんなこと、ない。そんなことないの……』
「弱さだって彼女の一部だ。
一つの側面から見たら弱いのかもしれない。
でも、それ以上に強い所を僕は知ってる。
弱さも、強さも、全部を僕は愛してる。
『暁美ほむら』を愛してるよ」
『────』
それは、観劇の魔女にとって予想外の答えだった。
自分の弱さが嫌いだった。
弱い自分が嫌いで、強い自分になりたかった。
その弱さを愛するなんて、わからなかった。
「……恥っず」
顔をパタパタと手で仰ぐ『僕』。
「恥っずいわ……俺の顔で恥ずかしいこと言わないでくれない?」
「この程度で恥ずかしいの?『僕』にしては、愛が足りてないんじゃない?」
やれやれまったく、どんな人生を生きてきたのやら。
「一緒にすんなばーか!こちとら彼女いない歴=年齢なんだよ!」
「僕だっていないよ」
「は?何だこのクソボケ」
『ふ』
ん?
『ふふふ。あなたって本当に変な人よね』
お腹を抱えて笑う魔女。
どこか懐かしそうに、笑う。
きっと昔、同じ変な人でもいたのだろう。
『いいわ。貴方が連れ戻せたなら協力してあげる。ただし、連れ戻せなかったら貴方も思い出に揺蕩うことになる。それでもいいかしら?』
「構わない。そんなことはありえないからね」
『大口ばかり叩くわね』
「ウルトラマンだからね。巨人並みに大きな口も叩くさ」
観劇の魔女がプチプチと服の前を開ける。
その奥には闇が広がっていた。
『入りなさい。中にしか道はないわ』
「うへぇ、もっと見た目どうにかならないの?」
『贅沢言わないでくれる?望んでこうなった訳じゃないわ』
入る前に振り返り、『僕』に願う。
「『僕』」
「ん?」
「何かいい感じの作戦考えといて。僕じゃない『君』だから出てくる考えが、きっとある」
「そんなアバウトなことある?まぁ、考えとくけどさ……」
意を決して観劇の魔女の中に入る。
どこか暖かく、何だか懐かしい気がした。
夢を見た。
「どうかしたの?ほむらちゃん」
「いいえ、何でもないわ」
学校の帰り道を二人並んで歩く。
ずっと待ち望んでいたような、永遠に続けばいいと思える時間に頬が緩む。
まどかと二人で帰れる事が、こんなに嬉しいなんて。
夢を見た。
「ほむらちゃん。このアイス美味しいよ」
「私のも半分上げるわ」
何気ない日常。
二人でお菓子を分け合ったり、一緒に笑ったり。
そんな些細な日々が、ずっと続けばいいと思えた。
夢を見た。
「ほむらちゃ〜ん。勉強教えて〜」
「いいわよ。私も復習になるから」
休日、勉強道具を持ち寄って互いの家で勉強する。
勉強が終わったら沢山話して、あんな事がしたいね。こんな風になりたいね、なんて。
未来に向けて頑張るのが楽しかった。
大変だけど、大変が嬉しかった。
夢を、見たの────
僕は。
僕は何も言わなかった。
喋る事も、説得することも、何もしなかった。
ただ黙って彼女を見つめているだけだった。
何もできなかったと言ってもいい。
それほどまでに、幸せそうな彼女が美しかったから。
それでも、地獄へ連れて行くと決めた。
幸せな世界から辛い現実へと。
彼女の歩みを進めるために。
失くした未来を見せるために。
そして、暁美ほむらはその足を止めた。
「……本当は」
「ん?」
「本当は、わかっていたの。都合のいい夢だって。
貴女はとっくに死んでいて、私の思い出が作り上げた幻想だって、わかっていたの。
それでも、貴女と会いたかった。
『まどか』も大切な友達だけれど、まどかと笑っていける夢に縋ってしまった」
「未来へ行くと決めたのに、私は過去に囚われている。
貴女の幻想を追いかけているだけなんだって。
そんなこと、わかってたの……」
ポロポロと、その大きな瞳から涙が溢れる。
わかっていた。
わかっていたのだ……。
死んだ人は蘇らない。
どんな奇跡を持ってしても、死んでしまった人は蘇らないのだ。
蘇ったとしても、それはよく似た他人だ。
「もっと一緒に居たかった!
もっと一緒に笑いたかった!
もっと一緒に……!一緒に生きていたかった!」
ずっとずっとずっと。
私は貴女に生きていて欲しかったの。
ワルプルギスに勝てなくたって、貴女にだけは生きていて欲しかった。
でも、彼女はそんな事望んでなくて。
自分より大切な者が居たから、どんな恐怖にも立ち向かっていける強い人だったから。
最後まで生き抜いてしまった。
魔法少女としての人生を、走り抜けて行ってしまった。
「ごめんね……訳わかんないよね……。
それでも覚えておいて……。
私は貴女を愛してる。
『鹿目まどか』を愛しているわ」
だから、さようならだ。
思い出に別れを。
「さようなら……まどか。
あの時言ってくれたのに、返せなくてごめんなさい……。
ようやく言う事ができた……」
永い旅の果てに、友との別れを告げる。
未来永劫、最初の『鹿目まどか』に会うことはもう出来ない。
それでも、歩き続けると決めたのだから。
何もしない者に奇跡など起こらない。
奇跡が起こる。
ずっと歩き続けた少女に天が微笑む。
時空が歪んでいるとか、世界があやふやになっているとか、理由を付けようと思えばいくらでも付けれる。
でも、一番大事だったのは『彼女』がもう一度会いたいと望んだからだ。
「……うん。
さようなら、ほむらちゃん。
私はもう会えないけど、ずっと一緒にいる。
見えなくたって、近くにいるよ」
「私は
貴女が風の中を歩いて行けるように。
この世界を愛せるように。
一番遠い渚で、貴女を待ってる。
貴女が道に迷わないように、遥か彼方で貴女を呼んでるよ」
「だから、さようなら」
「ッ!まどかぁ!」
その小さな体を抱き締める。
力一杯、どこにも離したくない。
「ごめん……ごめんなさい!
あの時一緒に戦えなくてごめんなさい!
何人もの貴女を殺してしまってごめんなさい!」
「いいんだよ。私は、どの私であってもほむらちゃんを恨んだりしない。呪ったりしない。
貴女の全てを赦します。
だから、ほむらちゃんも自分を赦してあげて。
あんまり責めたら可哀想だよ」
まどかが足から消えていく。
夢から醒める時が来たのだ。
「大地くん」
「────!」
思い出の存在なのに、大地を知覚している。
まさか、本当に本物の『鹿目まどか』なのか?
ほむらの幻想ではなく、本物の。
「ほむらちゃんをよろしくね。
見ての通りすっごい泣き虫さんだから、あんまり泣かせちゃダメだよ」
「後、アドバイスだけど自分の闇を縛ったりしたらダメ。
闇だって貴方の一部なんだから。
闇だったら縛り付けていいなんて、そんなことないよ」
心がざわめく。
あの光に応えろと、全身の細胞が叫んでいる。
頼む、光と闇よ。
今だけでいい。
どうか、力を貸してくれないか?
僕のためじゃない。
これから消えゆく彼女のために、花を贈りたいんだ。
この素晴らしい彼女の旅立ちに、葬送の花を。
短い人生を走り抜けて、死んでも、死んだ後も友のために立ち上がれる彼女。
心の底から『鹿目まどか』という存在に敬意を払う。
想いに呼応するように、光と闇が両手に灯った。
「ありがとう」
二つを編み込み重ね合わせ、花束を贈る。
どうか、天高く。
どこまでも届きますように。
きれいな青空の下、黒と白が入り混じった花吹雪が舞う。
それは、ずっと二人を祝福するように舞い続けた。
ずっと、ずっと……。
「きれい……こんなに綺麗なの、初めて見た……」
何か一つでも彼女に添えれたなら、此処に来た意味はあった。
「ありがとう。大地くん」
「ありがとう。まどか」
きっと、もう会うことはないけれど、会えてよかった。
まどかの体が消えていく。
「ありがとうありがとうありがとう!
私と出会ってくれてありがとう……!
私を助けてくれてありがとう……!
あの時、貴女が助けてくれたから私の人生は続いた!まどかとも、大くんとも出会う事ができた!
貴女がいなければ、私は此処まで歩いてこれなかった!」
「違うよ。
ほむらちゃんが頑張り続けたから、みんなと出会う事ができた。
ほむらちゃんが頑張り続けたから、また出会うことができた。
私のやったことは、きっかけに過ぎないんだよ」
それでもと、首を振る。
まどかのお陰で、今の私がいる。
「ずっと、友達だから!
死が私達を引き裂いても、何があっても、ずっと友達だから……
貴女と出会えてよかった……
貴女と出会えたことが、私の人生の誇りよ……」
「うん。
ずっと、友達だよ。
忘れないで。貴女は一人じゃない」
最後にぎゅっと抱き締め、別れる。
二人の道は別れていく。
金輪際会うことはない。
もう、会えることなどありえない。
でも、きっと、いつの日か。
また会える日まで。
死んだ後に、沢山話そう。
「じゃあね、ほむらちゃん」
「またね、まどか」
最後は笑顔で。
涙でぐしゃぐしゃだけど、この人とは笑顔で別れたいから。
それに最後にはしたくないから。
だから、またね。
『円大地。
闇に堕ちた貴方。
スパークレンスがあるから、貴方はウルトラマンなの?
ウルトラマンだから、スパークレンスが必要なの?
違うはずよ。
貴方はいつだって立ち上がった。
力が有ろうと無かろうと、その在り方は変わらない。
貴方の心が光だったから、スパークレンスがあっただけ。
スパークレンスそのものはきっかけに過ぎない』
そうだ。
僕が間違っていた。
闇を愛の鎖で縛り付ける。
そんなの、誰だって反発する。抵抗する。
そんな存在で勝てるわけがない。
光に対して縛り付けるようなことをしたか?
『まどか』が教えてくれた。
闇を縛るんじゃなくて、抱きしめることが大事だったんだ。
『どうか、見せてほしい。
貴方自身の光を』
見せてやる、僕の、僕達の光を。
「……ねぇ、あんまりほむちゃんの手を触らないでよ」
「何だぁ?嫉妬か?男の嫉妬は見苦しいぜー」
「ふふふ、嫉妬してくれるの?嬉しいわ」
円陣を組み、互いの手を握り合う。
これが、『僕』が考えた作戦だった。
『本当にできるの?こんなことで』
「誰かと繋がるのに、大仰な事なんて必要ないのさ。
手を繋ぐ。
それだけのことでも、心は繋がる」
簡単なことだった。
みんな、考えることはバラバラだ。
誰一人同じ考えの人間はいないし、同じ顔をした人間はいない。
僕達はインキュベーターとは違う。
だから、争うし、憎しみ合うし、喧嘩もする。
人の愚かさを知っている。
だから、助け合う、人と手を取り合う。
人と繋がる尊さを知っている。
きっと『愛』があってのことなんだ。
『愛』が人々を繋ぎとめているんだ。
「ほむちゃん」
だから、僕も彼女と繋がろう。
「君の未来を、僕が守って行くよ」
「ふふふ、何それ。まるでプロポーズね」
「まるでじゃないからね」
「えっ?」
これから一生涯、一緒に歩いていこう。
『彼女』に託された大切な女の子と。
あの子との約束に恥じない自分でいよう。
「おーい、二人とも。そこで世界を作らないでもらえる?」
茶化すような声音で、『僕』が笑う。
「ごめんごめん。さ、世界を救いにいこうか!」
「「「『ウルトラタッチ!!!!』」」」
手が重なりあう。
たったそれだけのことで一つになれた。
産まれはバラバラで、考えることもバラバラで。
それでも、未来を想う心が一つになる。
ティガとはマレーシア語で三を意味する。
なぜ、
僕は三人による変身が前提なのではないか、と仮定した。
あっているかどうかは知らない。
でも、僕はそう思う事にした。
『
『
ウルトラマンと魔法少女と魔女。
これで
「「「『ティガァァァァア!!!!』」」」
スパークレンスはいらない。
ティガは知っている。
人は、自分自身の力で光になれることを。
光と闇の柱が天を貫く。
誰よりも、何よりも尊い光と闇が、世界を照らしていた。
クリームヒルトはあまりの眩しさに目を閉じてしまった。
あの光はダメだ。
だって、救われてしまったと思えてしまった。
あの光こそが正しいと思ってしまった。
私の救済を否定されてしまう。
雲の切れ間から、光と闇を纏った巨人が現れる。
紫の体皮に黒のラインが走り、胸元のカラータイマーがソウルジェムへと変化している。
光と闇、両方を兼ね備えた、今までのティガとはまったく違う姿。
それでも、知る人が見ればあれはティガだと口を揃えて言うだろう。
触れた心が暖かかったから。
その在り方が、みんなを助けようと立ち上がる姿は、どんな形になっても変わらない唯一不変だったから。
導く光と寄り添う影が、光を持って闇を抱き締める。
『僕達はティガ』
『闇を照らして、悪を討つ』
ウルトラマンティガ・トリニティ
ウルトラマン、魔法少女、魔女が高度に融合している。
3000万年、ガタノゾーアを圧倒したティガに限りなく近い姿。
この姿にタイプチェンジの機能は備わっていない。
それでも構わない。
ありのままの姿で、その不器用な愛を抱き締める。
最古の地球に飛来した『光』と、最新の地球に齎された『技術』、現在を生きる人の心の『闇』の結晶体。
インキュベーターの策謀を、インキュベーターの技術を持ってして打ち破る皮肉を込めた姿でもある。