君のココロを守るため 作:一般魔法少女
「ティガァァァァアァァァァア!」
天高くスパークレンスを掲げ、全身が光に包まれる。
光の柱が地から天へと伸びる。
目を焼くほどの輝き。
命の輝き。
その光に当てられ、使い魔達がたじろぐ。
徐々に光が収まり、中から腕が伸びる。
光を纏った巨大な手が使い魔を消し飛ばし、まどかのみを優しく包み込んだ。
(温かい手……大地くん……)
巨大な手に包まれたまどかは、今度は恐怖していなかった。
触れた光が優しかったから。
いつも、優しくしてくれる君だったから。
『大丈夫?まどか』
「ありがとう、大地くん。でもその姿は一体……?」
銀の頭、赤と紫が混ざり合った体色。
胸に輝くカラータイマー。
元の面影はどこにもなく、明らかに人間ではない。
『わからない。けど、まだ終わってない』
ふと、脚にゾワゾワとした感覚。
視線を向けると、蟻が這い上がってくるように、使い魔の群れが登ってきていた。
多様な使い魔を手で叩き落とし、踏みつける。
足の裏に嫌な感触が広がるが、背に腹は変えられない。
使い魔の集団を排除し、変身から30秒経過。
その時、背中に悪寒が走る。
ウルトラマンになったことにより、研ぎ澄まされた感覚が警鐘を鳴らしている。
『……来る』
天から吊り下げられる一本の糸。
使い魔達が次々とその糸を編み、綿を入れ、縫い合わせて、一体の熊を作り上げ。
フランケンシュタインのようにツギハギだらけの全身に、鋭い爪。
片目はボタンの瞳なのに、反対に人間の目が嵌っている異形。
【Puppeteer】
ファンシーな見た目と裏腹に、呪いや恐怖といった邪なる気配を漂わせている。
なんとか手に光を集中させ、まどかを包み込んだ。
『まどかはその中に居て』
まどかを地面に下ろし、魔女と一人対峙する。
緊張で喉が渇く。
戦いなんてやったことがない、恐怖で足がすくみそうになる。
怖くて、怖くて、逃げ出したくなって、そして。
まどかの顔を見て、腹をくくった。
あの子の未来を開くために。
戦う恐怖よりも、あの子を失うことのほうがよっぽど怖いから。
覚悟を決め、どちらからともなく駆け出した。
『おおおおおおおッ!』
右ストレート、左フック、知ってる限りの知識を活用し、格闘術らしき技でひたすらに殴り続ける。
しかし、どれだけ殴ってもボスボスと鈍い感触が伝わるばかりだ。
ぬいぐるみをいくら殴りつけても壊すことはできないように、ダメージが伝わらない。
なのに。
『ぐふっ』
腹にボディブローが刺さる。
鋭く伸びた爪が振るわれる。
何とか躱すが、完全には躱しきれず、切られた箇所から光が漏れ出す。
『殴る蹴るじゃいくらやっても無駄か。
それならッ!!!』
右手首に手を添え、光を剣状に収束させ、切り掛かる。
『おりゃあっ!』
だが、収束が甘かったため、敵に当たる前に霧散してしまう。
(全部の技の練度が低い!もっと時間をかけないと光が収束できない!)
咄嗟に切り掛かった勢いを利用、脚を払い、転倒させる。
巨体に見合わず重量が軽いため、容易に転倒させることができた。
その隙を逃さず、頭と胴体を踏みつけ腕を掴む。
『千、切、れ、ろぉぉおおおお!』
ブチブチと、根本から繊維が切れる音。
中の綿が露出し、血のように漏れ出す。
腕をそのまま千切ろうと、力を込めた瞬間。
「きゃあっ!」
『ッ!まどかッ!』
まどかを覆っていた光の壁に、何匹もの使い魔が噛み付き出す。
生半可な攻撃では通らない筈の壁が、徐々に削られていく。
意識をまどかに持っていかれた隙を見逃さない。
千切ったはずの腕が繊維状に解け、首を絞めて上げてきた。
『しまっ…た』
マウントポジションの逆転。
先程の意趣返しのように両腕を踏みつけられる。
絶対絶命、カラータイマーの音に呼応するように、思考が焦り出す。
『(どうするっ!?まどかの救出が優先、でも手段が、ないっ!)』
思い通りにいかない状況に、焦燥感ばかりが増す。
光を操るための集中力さえ、徐々に削られていた。
ダメ、なのか。巨人になったって大切な人、一人守れやしないのか?
心を、絶望が支配し始める。
諦める気はない。
しかし、どうしようもない現実が襲いかかる。
そして、絶望に心が包まれそうになった時。
一発の銃弾が空を切り裂いた。
マシンガンの連射。
空から降り注いだ銃弾が、周りの使い魔のみを撃ち抜く。
「まどか!無事!?」
「ほ、ほむらちゃん!?」
普段の格好とは違う。
白を基調に、薄い紫が入ったデザイン。
左手に円形の盾を付けた暁美ほむらが降り立つ。
「あれは、何?」
初めて見る光の巨人に困惑する。
最初は魔女かと思ったが、魔女特有の悍ましい気配がない。
「あの巨人は大地くんなんだ。光ったと思ったら大きくなっちゃって」
まどかの簡易的な説明ではあるが、何とか状況を把握する。
(なら、私がすることは────)
「マドカダイチ!身構えなさい!」
そう言って、どこからともなく現れた
なんでそんな物持ってるの?
「人形相手には、こうするのよッ!」
咄嗟に、拘束していた脚を掴み、逆に逃がさないようにする。
ほむらがロケットランチャーを構えたと思ったら、
着弾。
爆炎と共に人形が燃える。
「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️ッ!!!!!」
今までどれだけ殴ろうとも平然としていた魔女が苦しみ出す。
その隙に拘束から出し、距離を取る。
残り10秒。
体内に残された光をかき集め、集中。
本能の中にある、これだ、と思える技を放とうとする。
先程試した光剣みたいに光が霧散しないよう丁寧に掻き集め、束ねる。
脇を締め腰の当たりで拳を握る。
しかし、ここに来て命の危機を感じた魔女が死に物狂いで向かってきた。
(間に合うか?いや、間に合わせてみせる!)
極限まで集中力を高める。
敵がたどり着くのが早いか、僕が撃つのが早いかの一騎打ち。
手の平を交差し、光を全て腕に集中させる。胸の前で左右に開き、L字型に腕を組む。
が、一手遅かった。
ダメだ!間に合わ────
「間に合わないと言うのなら、私が時間を作るわ」
ぶつかるその瞬間、目の前で魔女が停止する。
目と鼻の先で必死の形相を浮かべながら空中に固定される魔女。
一手足りないのであれば、足りるまでの時間を作り出せる少女が助け舟を出す。
(何だ?いや、何でもいいッ!!!)
光を全て、放つ。
『ゼペリオン光線!』
L字に組まれた腕から放たれた紫の光線は、魔女の全てを飲み込み、消滅させた。
結界の主が居なくなったことにより、魔女結界が消滅する。
一瞬だけ三滝原の住宅街に光の巨人が出現。
直後、カラータイマーが鳴り止み、膝から崩れ落ちるように姿を消し去った。
「大地くん!無事!?」
「間一髪、てところかしら」
慌てた様子のまどかと、髪をかきあげながら歩いてくる暁美さん。
対照的な二人に思わず顔が緩む。
「暁美さん。どうしてここに?」
先程の格好とは違い、黒のワンピースへと着替えたほむら。
早着替えの妙技を見た気がする、訳でもなく。
きっと彼女がキュウべぇの言っていた魔法少女なのだろう。
(キュウべぇ…)
命を落としてしまった一匹の生物に心が痛む。
出会って短い時間ではあったが、何とか助けてあげたかった。
無力感を振り払うように、考えを切り替える。
まずは、助けてくれた彼女にお礼を言わなくては。
「たまたま通りがかったら、魔女結界があったから壊しに来たのよ」
「そっか。たまたまでも、ありがとう。助かっ────」
話してる最中に吐き気を覚え、側溝に駆け寄る。
「オェエエエエエッ!」
1リットルほどの血が口から吐き出される。
そういえば、腹、切られてるんだった────
「大地くん!お腹見せて!」
駆け寄ったまどかが、無理やりシャツを捲る。
そこには、血まみれの腹と、
「あれ?
傷が、ない?」
ペタペタと小さな手がお腹を探る。
「少し見せて、まどか」
横からそっと、皮膚を暁美さんの細い指がなぞる。擦られるように撫でられ、ゾワゾワとした感覚に体が縮こまる。
「本当にないわね。でも、内部が傷付いているわ」
触診して確かめるように、二度三度、腹をくすぐられる。
あの、恥ずいんだけど。
「というかこんなに腹筋割れてたっけ?もう少しプニプニしてなかった?」
「確かに、すごい割れてるわ」
夜中の路上で同級生の女の二人にお腹を見せてる男がいた。
というか僕だった。
「ほむらちゃんって魔法少女、なんだよね?」
「……その事を含めて色々説明したいから、どこか落ち着ける場所に移動しましょう」
辺りを見渡し、場所を把握する。
「ここからなら、僕の、家が近いよ。今、家に、誰もいないし」
「え、パパさんは?」
「出張で、一ヶ月くらい、家、空けてるんだ」
「もー、そういうことは早く言ってね」
「まどか、先導して、くれる?」
「いいよ、わかった」
まどかが前を向いた時を見計らって、顔面を歪める。
内臓をグチャグチャにされた後遺症が、まだ、痛みを引いている。
ふぅと一息つく。
すると、暁美さんが腕を取って肩を貸してくれた。
「暁美さん?」
「歩くのすら辛いのなら、変な意地を張ることは止めることね」
つい、5分前まで出血多量で死にかけていたのだ。
シャツに染み込んだ血が乾いてる訳もなく、暁美さんの服に血が滲んでいく。
「服に、血が、付いちゃうよ」
「構わないわ。服なんて洗えばいいもの」
他人の血なんて不快感しかないだろうに、その綺麗な黒髪にも血が付いているのに、まるで気にした素振りを見せない。
「暁美さんって、かっこいいね」
クール、という言葉がこれほど似合う人もそうはいないだろう。
最初に会った時に感じた悪い人ではないという印象は、やはり間違いではなかった。
当然の事だが、そんな話を近くでしていたものだから、まどかにも聞こえていた。
「そうだよね……ほむらちゃんはかっこいいな」
ま、まどかが落ち込んでる。
昔から大地が怪我をした時、まどかが気づけた事は少なかった。
これに関しては、まどかが鈍い、ということではなく。
まあ、なんというか、好きな子にかっこ悪い所を見せたくない男心というやつだ。
そっと、暁美さんとアイコンタクトを交わす。
何とかしなさい、幼馴染なんでしょ?
えぇ、無茶振りじゃない?
やりなさい。
「まどか。
な、内臓が、ないぞ〜う」
「大地くん、私、怒るよ」
「馬鹿なこと言ってないで行くわよ」
「…………はい」
ビルの高所。
地上から遥か高所で、三人を見下ろす一匹の姿があった。
「やれやれ、厄介な来訪者だ」
「そうは思わないかい?」
赤い瞳を輝かせながら。
人形の魔女 パペッティア
その性質は収集。
魔女結界に取り込んだ生物を人形にして家に飾りつける。
可愛くない物から狙い、可愛い物をもっと可愛くしようとする。
結界内では人形が完成するまでは何人たりとも死ぬことはない。
死なない。
死ねない。