君のココロを守るため 作:一般魔法少女
暁美さんに肩を貸してもらいながら何とか、家にたどり着く。
幸か、不幸か。
今の大地の体重はまどかよりも軽かったため、ほむら一人でも運ぶことができたのだ。
「ありがとう、暁美さん」
「構わないわ」
家にたどり着いた安心感から、思わず玄関で座り込んでしまう。
その間に家に上がったまどかが、衣服やタオルを準備してくれる。
「じゃあほむらちゃん。大地くんお風呂に入れてくるから、先、部屋に行ってて。二階上がってすぐ左の部屋だから」
「……お風呂に……入れるの?」
衝撃。
あまりにも平然と言う少女を呆然と見てしまう。
「?うん。大地くん血まみれだし、一人で入るのも大変そうだもん。このままだと部屋中に血が付いちゃうしね」
唖然とする私を他所に、マドカダイチの腕を引っ張って脱衣場へ入っていってしまった。
────ちょ、まどか!自分で脱げるって!
────ダメだよ!怪我してるんだよ!
────は、離せぇー!
お風呂場から響く声から逃げるように、二階へ上がる。
言われた部屋を開ける。
勉強机とベッドが置かれており、衣装棚が隅の方にある部屋。
趣味らしき痕跡があまり見えない。
申し訳ないとは思いつつ、ベッドに腰掛けさせてもらう。
一息つく。
間一髪だった。
今回のまどかは、まだ魔法少女にもなっていないのに、魔女に襲われるなんて。
下手すれば、死んでしまっていたかもしれない。
(それに、彼)
あの光の巨人は一体なんだ。
今まで幾千の時を繰り返し、歩み続けていた。
だが、彼のような存在はついぞ見たことがない。
思えば、今回の世界は最初から可笑しかったのだ。
いつも通り転校生として登校した日。
まどかを陰から見ていた。
いつものまどか、さやか、つくしの三人組と歩く
隣にいるあの男は誰だ?
親しげにまどかと話しながら。登校している。
だから、
予想通り、拾って渡しに来た。
善良な人間らしい。
学校に着き、転校生と紹介される。
いつもの光景。
思わずまどかと、彼を見てしまう。
当たり前のようにいるが、彼は一体誰なのだろう?
朝のHRが終わると同時に席に群がってくる同級生。
いつもの光景。
「みんな、暁美さんに保健室の案内してきたいから少し借りていい?」
保健委員として、だろう。
まどかが、周りの人混みから割り込むように話しかける。
「そっか、心臓が悪かったって言ってたもんね」
「ごめんね、暁美さん」
「……構わないわ」
いつもと違う光景。
二人で学園の廊下を歩く。
「ごめんね、みんね転校生が来たから、はしゃいじゃってて。体は平気?」
「えぇ、ありがとう。鹿目さん」
「まどかでいいよ〜。私もほむらちゃんって呼んでいい?」
「ッ!……ええ」
どうしてだろう。時間の巻き戻しを繰り返すたび、どんどん気弱になっていた彼女とは違い、一番最初のまどかを思わせる。
あの時は既に魔法少女になっていた。
まさか、もう────
「ほむらちゃんって、かっこいい名前だよね!燃え上がれ〜って感じで」
「……そう、かしら。名前負けしてるわ」
「そんなことないよ〜。クールでかっこいいよ!」
最初の『まどか』の声がリフレインする。
────かっこよくなっちゃえばいいんだよ!
「そう、慣れてるなら、嬉しいわ……」
「ちょっといいかしら?」
朝のお礼をする、と言って彼を連れ出す。
周りがザワついているが、どうでもいい。
「ってまどかはいいの!?大地、転校生に連れていかれてるよ!?」
「そうですわ。私達の読みだと一目惚れの線が濃厚ですのよ」
「大丈夫だよ〜、きっと、ほむらちゃんいい子だもん。
それに」
「「それに?」」
「最後には私のところにいるから。だから大丈夫だよ」
「……あたし、まどかに恋愛面で勝てる気がせんわ」
「豪胆、と言いますか。何というか」
話を聞くに、どうもあの子の幼馴染らしい。
妬ましい
お礼の名目で連れ出しているので、飲料を買う。
学生らしい、炭酸飲料だ。
これで目的は果たした。
教室に戻ろう。
「ちょっと待って」
何かしら?こちらの用事は終わったのだけれど。
何を飲むかと聞かれたので、缶コーヒーと答えると買って渡してくる。
「これは、お礼のお礼ね」
……変な、人。
電柱の上から見下ろす。
家族団欒、楽しげな声が聞こえてくる。
どうやら、彼は家族絡みで付き合いがあるようだ。
タツヤくんとまどかと遊ぶ姿は、本当の家族のように見えた。
羨ましい。
わかっている。
これはただの嫉妬だ。
まどかはまだ、魔法少女になっていないようだ。
その証拠に、魔法少女特有の指輪をしていない。
ならば、私がやることはひとつ。
家の周りにいるインキュベーターを撃ち殺す。
コイツらを放置していたら、あの子にどんな手を使ってでも契約を持ちかけるのだろう。
あの笑顔を守るために私は戦う。
殺しても、殺しても、無尽蔵に湧いてくるインキュベーターに苛立ちを覚える。
よほど、まどかを魔法少女にしたいのだろう。
いつもの事だ。
追っていた一匹の姿が突如、見えなくなる。
目の前の景色が少し歪んでいる。
「魔女結界に逃げ込んだわね」
躊躇わず、結界に踏み込む。
ふざけた使い魔共を撃ち殺しながら、進む。
「どこにいる。インキュベーター」
しばらく探索するが、あの忌々しい白い獣は見つからない。
その時、天を突く光の柱が立ち上る。
眩しい光。
温かい光。
重ねた時間で傷ついた心を癒してくれる。
君を助けたい。
君は頑張っている。
光がそう言ってくれた気がした。
一筋の涙が頬を伝う。
そして現れる巨人と、魔女。
少し戦いを眺めていたが、戦い慣れてないようだ。
劣勢に陥る。
「きゃあっ!」
聞き慣れた声で、悲鳴が上がる。
「まどかっ!」
時間を止めて光の玉に向けて走り出す。
そこからの戦いは、言うまでもないだろう。
風呂上がり、男物の服を着たまどかが湯上がりの格好で部屋に入ってくる。
「ほむらちゃん、お風呂上がったよ。ほむらちゃんも入っちゃって。服に血が付いちゃってるし」
「ええ、頂くわ。ありがとう」
ゴソゴソと慣れたように、彼の箪笥棚を漁るまどか。
底の方から、そこそこ使い込まれた一枚の寝巻きを取り出す。
「服は私のパジャマでごめんね」
「いいえ、助かるわ」
何であるの?とは、聞かない。
脳が破壊されるから。
シャワーを頭から浴びる。
瞼を閉じると、あの輝かしい光が頭にこびり付いてる。
不思議な人。
きっと、私達魔法少女と同じで、人間ではないのだろう。
でも、
────クールでかっこいいよ!
────暁美さんは、かっこいいね。
────ほむらちゃんもかっこよくなっちゃえばいいんだよ!
「全部、話してみよう」
きっと彼らなら信じてくれる。
胸に宿った光が、私の背中を押してくれた。
風呂から上がり、まどかのパジャマを着る。
彼女らしいピンクのフリフリがついたネグリジェ。
普段着る系統の服ではないので、新鮮だ。
部屋に入る。
彼はやはり体調が悪いのだろう。
ベッドに横になっている側で、まどかが彼の手を握っている。
「ほむらちゃん」
「……暁美さん」
「少し、いいかしら」
指輪が変化し、綺麗な宝石卵が現れる。
その輝きは美しく、まどかも、彼も思わず目を奪われている様子だ。
「それは?」
「これはソウルジェム。私たち魔法少女の命の源」
そっと彼の胸の上に置き、光を放つ。
「少しの傷なら、癒すことができるわ」
魔力を消費し、彼の傷を少しずつ癒す。
見た目に反して、余程酷い傷なのだろう。
思った以上に魔力を持っていかれ、ソウルジェムが暗く濁る。
「そして、これがグリーフシード。彼が倒した魔女が落とした核よ。これをソウルジェムに当てることにより、穢れを落とすことができる」
暁美さんのおかげで、体に残っていた痛みが引いていく。
代わりに先程まで美しかった宝石が、汚れ切ってしまう。
だが、暁美さんいわく、グリーフシードを当てることにより元の色に戻るらしい。
確かに、あの魔女は悲しみを生み出しそうだし、暁美さんの魂は輝いてて綺麗だ。
「私達魔法少女は、奇跡を祈り、願いを求めた者。その代価として、終わらない戦場に駆り出され、戦いを強いられる者達」
「そして、魔女は運命を呪い、世界を恨んだ者達」
「戦いを強いられる?」
「魔法少女はただ生きるだけで、少しずつ魔力を消費する。戦わずにいると、いずれソウルジェムは黒く濁り切ってしまう」
濁り切ってしまうと、どうなるのだろう。あまり良い予感はしない。
「……今から話すことは全部、本当のことだと思って聞いて欲しい。どんなありえないことだったとしても、受け入れてくれないかしら?」
膝に置いた手が強く握りしめられている。
きっと、話すのにとても勇気がいることなのだろう。
僕達は、全てを聞いた。
彼女が語ることは衝撃的なことだった。
魔法少女とは、命をソウルジェムに変換された者。
そして、いずれ魔女になる者達。
キュウべぇは全てを話さない手口を用いて、数多の少女達を魔法少女に変える。
そして魔女に変換される時のエネルギー回収が目的であること。
まどかが持つ因果を狙い、契約をどうにか取ろうとしてくること。
キュウべぇ、種族名インキュベーターとは個にして、群。
僕達の目の前で死んだ個体も端末に過ぎず、他の個体と常に情報の共有を行うことにより、種族全体で同一の意思を持つと言う。
彼女は、暁美さんは、ワルプルギスの夜と呼ばれる魔女を乗り越え、まどかを魔法少女にしないために、終わらない日常を繰り返し続けていること。
あまりの衝撃に、僕も、まどかも、口を開くことができなかった。
「ごめんなさい。
いきなりこんな事言われても信じきれないよね……
でも、私にとっては紛れもない真実で、どうか信じて欲しいの」
涙が手の甲に落ちる。
きっと、今まで繰り返した時の中で信じられたことは少なかったのだろう。
何度話しても信じてもらえず、魔女になっていくかつての友人達を何人も見送り、殺してしまった。
それがどんなに辛いことか。
僕には想像もできない。
「それは……とっても辛いことだね」
そっと、まどかが暁美さんを背中から抱きしめる。
まどかは、昔からそうだった。
誰かが泣いているのなら、手を引いてあげたい。
一緒にいてあげたい。
肩を震わせて泣く彼女を放っておけない。
そんな彼女の優しさに救われた僕だから、僕も暁美さんの涙を止めてあげたい。
膝の上に置かれてた手を取り、包む。
「確かに、暁美さんが言ったことは信じられない事ばっかりだよ」
「でもね、僕なんて今日1日で変な棒はあるわ、腹を切られるわ、巨人になって魔女と戦うわ、昨日まではありえなかったことばっかり」
ありえないと言うのなら、僕の方も中々ありえないことの連続だった。
自身の常識なんか、既に粉々に砕け散っている。
「それに比べたら暁美さんの話を信じるなんて、ありえないことじゃないでしょ?」
限界まで瞳が開かれ、溜まっていた涙が決壊する。
何粒もの大粒の涙が頬を伝った。
「ありがとう……ありがとうぅ」
思い出を暁美さんから、聞く。
数多のまどかと出会い、助けられ、友情を育んでいたらしい。
「じゃあほむらちゃんは、今まで未来の私と友達だったんだね」
「そう……なるわ」
少し、罰が悪そうになる暁美さん。
目の前のまどかじゃなくて、未来のまどかを見てたなんて気まずいよね。
でも、
「じゃあさ、今の私達とちゃんと友達になろうよ」
「そうだね。これから始めたらいいよ」
僕達は二人、顔を見合わせて手を差し出す。
「私、
「僕は、
「わ、私は、暁美 ほむら、です」
「よろしくね!ほむらちゃん!」
差し出された手は、硬い握手で結ばれた。
暁美 ほむら
一人の少女の救済を願った者。
出会いのやり直しを願い、終わらない一ヶ月を繰り返す。
時間遡行の奇跡を行使する。
だが、状況が変わる巻き戻りは、時間遡行と言えるだろうか?