君のココロを守るため 作:一般魔法少女
手の中でグリーフシードを転がす。
「闇を操るってどうやるんだ?」
暗闇の中、指先に光を浮かばせ、体の周りを周回させる。
「光を操るのはできるんだけどな」
「そもそも、光と闇の違いってなんだ?」
二日ぶりの登校。
少ししか空いてないのに、随分と久しぶりな気がする。
色々あったからなぁ。
鞄を置き、席に着くと中沢くんが駆け寄って来る。
「おいおい、大丈夫か?いきなり休むなんて、体調は平気か?」
中沢くんが体調を心配してくれてる。
彼は、細かい所によく気づくというので女の子にモテる。
きっと、こういう所がモテる秘訣なんだろう。
でも、不思議と彼女を作る気はないらしい。
年上が好みなんだとか。
「うん、もう大丈夫。まどかに看病してもらってたから」
「はー!お前は可愛い幼馴染に看病してもらえていいよなぁ!俺なんて、昨日の小テストボロボロだったんだぜ」
「小テスト?あったの?」
「ああ、お前と鹿目さん、後、暁美さんは補習だってよ」
「えー」
まどかとほむちゃんには、申し訳ないことをした。
僕の看病なんかで、補習になるなんて。
でも、僕を優先してもらえたみたいで、少し嬉しい。
「ああ、そういえばコレ知ってるか?最近噂の光の巨人」
「ゲホッ!ゲホッ!」
画面を見て、思わず咽せる。
中沢くんが見せてきたスマホの画面には、紫と赤が混じった体色、銀の頭の謎の巨人が映っていた。
というか、僕だった。
「……何コレ?」
「最近、SNSでバズってんだけどさ、一昨日くらいに三滝原の街中に巨人が現れたーってやつ。一瞬だけだったんだけど、たまたま写真撮ってた人がいるんだぜ」
たまたま、撮れた?
現れた時間は1秒も無かったのに?
見られることはあるだろう。
街中の住宅街での出現だったから、きっと目撃者も居たはずだ。
でも、その一瞬で写真まで撮れるか?
誰が、いったい、何のために?
嫌な予感がする……。
「……大地?」
「ん、ごめん。これって誰の発信かわかる?」
「いや、もういろんな人が拡散してるからわかんねーわ。悪いな」
「大丈夫。少し気になっただけだから」
うーむ。
考え込んでいると、視界の端に綺麗な黒髪が見えた。
「おはよう、大くん」
「おはよう、ほむちゃん」
「身体は平気?」
「うん、もうすっかり。ありがとね」
「それなら、よかったわ。……またね」
翻り、机に向かうほむちゃんの後ろ姿に手を振る。
すると、中沢くんに肩を掴まれた。
「……お前ら、そんな仲良かったっけ?」
「まどかが仲良くなって、そのついでにね」
「そんな距離感に見えなかったけど」
「たまたまです」
「何で敬語?」
昼休憩。
ほむちゃんに連れ出され、屋上で二人昼食を摂る。
二人で歩いていると教室がザワついていたが、何だろう?
屋上に設置された席につき、僕は弁当を広げ、ほむちゃんはゼリー飲料を飲み干す。
それでいいのか女子中学生。
「それで今日はどうしたの?」
たっぷり30秒チャージを終えた開口一番、衝撃の事実を言われる。
「まずい事になってるわ。
美樹さやか、もう魔法少女になってしまっている」
思わず飲んでいたお茶を吹き出しかける。
あまりの急展開に、心の準備ができていなかった。
「な、何で?早すぎない?」
「わからない。キュウべぇの動きが、あまりにも早いわ。
こんなこと、今までにないの……ごめんなさい」
頭を下げるほむちゃん。
自身の経験則が外れ、予想外のできごとに責任を感じているようだ。
「謝らないで。さやかの選択は、さやかの責任だ。
でもどうしよっか」
さやかが魔法少女になったことには驚きだが、今後の方針に変更はないと思う。
「やることは変わらないわ。魔女を狩って、巴マミ達に協力を取り付けるの」
「僕は、レベルアップして闇も操れるようになること、だね」
昨晩から何度か試してみたが、どうにも闇を操る感覚というのが掴めない。
光と闇の境目がわからないというか、光から闇へ変わる変化がどうにも掴めないのだ。
しかし、さやかが魔法少女になったからには、急がないといけない。
ほむちゃん曰く、さやかは魔女になりやすいらしい。
何でも仁美が上条くんに告白して、三角関係のドロドロが始まる。
結果、ストレスが溜まり魔女化が起こりやすくなるのだ。
「そうね、あなたの姿は時間制限があるもの。その検証も必要だわ」
「じゃあ僕は、放課後にさやかに事情を聞いてみるよ」
「お願い。私は巴マミの方に話を通してみるわ。その後、魔女狩りに行きましょう」
「それと、ほむちゃん。これ見てくれる?」
ほむちゃんにスマホの画面を見せる。
朝、中沢くんから見せてもらった一枚の画像。
「これは……あなたね。SNSに載っているの?」
「そうなんだ。ほむちゃんは、あの一瞬で写真まで撮れる人がいると思う?僕は難しいんじゃないかなって」
「確かに怪しいわね……。私の方でも調べておくわ」
「お願い」
「じゃあ放課後、行動開始よ」
「ごめんまどか!僕とほむちゃん、補習サボる!先生には上手いこと言っといて!」
「もー。後でちゃんと埋め合わせしてね?」
「ごめん!行こう、ほむちゃん」
二人で廊下を駆け抜ける。
道の途中で巴先輩とさやかの説得のため、それぞれ別れた。
「ところで、その三つ編みと眼鏡は何?」
「擬態よ。人畜無害そうに見えるでしょう?」
「うん。とっても可愛い」
「…………そう」
「さやか」
「ん……アンタ、補習は?」
「サボった。さやかと大事な話があるんだ」
「サボる?真面目なアンタが?」
「いいから、来てくれない?」
帰宅途中のさやかを捕まえ、人目につかない場所に連れ込む。
「イヤ〜ン。こんな所に連れ込まれるなんて、まどかに言いつけないとなー」
ふざけた事を言いながら、体をクネらせる。
そんなことではないと、さやか自身が理解してる癖に。
「そんな事より、さやか、魔法少女になったんだよね」
「……どうして、そう思うの?魔法少女って?」
クネっていた体を止め、無言の圧を感じる。
指輪を撫で、警戒するようにこちらを見てくる。
「その指輪、この前までしてなかったよね。
それが、魔法少女の証なんでしょ?ソウルジェムが変化しているんだ」
「はぁ……やっぱり、キュウべぇの言った通りなんだ」
さやかが浮かべる表情は、諦めと……覚悟?
一体何を────
瞬間、光り輝くさやか。
嫌な予感がし、咄嗟に光の壁を正面に出す。
刀身が半分ほど壁を貫通した所で、止まる。
「な、何!?」
青の戦闘ドレスへ変身した、さやか。
ドレスであり、マントを着けたその姿は、女の子らしさとヒーローらしさを兼ね備えたさやかの本質を現している。
頭にフォルテッシモの髪飾りを着けたのは、恐らく上条くん絡みの願いだったからだろう。
振るわれる刀を二度、三度、紙一重で躱す。
ウルトラマンになった事により、変身前でも運動能力が向上し、並の魔法少女と同等程度になっていた。
「くッ!」
「大人しく、切られろッ!」
魔法少女になってまだ日が浅いさやかだから、なんとか避けれてる。
しかし、振るわれる度、加速度的に上手くなっている。
このままではそのうち切られてしまうだろう。
説得は────
「さやか!話を聞いてくれ!」
「うるさい!」
攻撃する?いや、駄目だ。
さやかはきっと、キュウべぇに何か吹き込まれてる。
ここで攻撃してしまっては、信頼を得ることができなくなってしまう。
刀を光を纏わせた手刀で逸らすが、徐々に服を切り裂き頬を掠める。
クソッ!本当に上手いな!
防戦一方。
脚を払われ、体勢を崩される。
だが、バック転することで距離を────離せてない!?
そして遂に、刀の突きが肩を捉えた。
「これで、決める!」
やられる────
咄嗟に光弾を破裂させ、一時的な目眩しにし、腹を蹴り飛ばす。
やってしまった。
だが、やらねば確実に殺されていた。
蹴り飛ばされたさやか。
だが、ダメージなど負った様子もなく、再度切り掛かってくる。
「さやか!」
「名前を、呼ぶなぁ!」
この世界での私は、巴マミとはまだ接触していない。
だからこそ、話ぐらいは聞いてもらえる物だと思っていた。
「貴女がキュウべぇに攻撃をしていたことは知ってるわ。
これ以上、あの子に手出しさせない」
「今日は見逃してあげるから、引きなさい。学校で戦う気はないわ。
ただし、外で会った場合は別よ」
攻撃ができない。
防御も抜かれ始めてる。
どうしようもなくなった僕が取った行動は、逃走することだった。
路地裏を駆け抜ける。
引き離すことはできず、されど追いつかれない速度で足を回す。
「待て!」
「待てないよ!」
追いながら刀を投擲される。
しかし、慣れていないため大きく外れ、100回やっても当たらなそうだ。
撒くための思考を全力で回す。
変身するか? 目立つから駄目だ。
さやかを倒す? 論外。
さやかの説得? できたら、こうはなってない!
その時、スマホから着信音がなりだす。
この着信音は────
『ごめんなさい。失敗したわ』
「僕も、今、絶賛失敗中!」
『どうしたの?』
「魔法少女であること聞いたら、襲われてるの!」
『わかったわ。助けに行く』
そして、視界が止まる。
空中で止まるさやか。
目の前に突如現れたほむちゃんが、手を繋いでくれた。
「ありがとう、ほむちゃん。助かったよ」
「私も想定外だったわ。まさか、ここまで根回しが早いなんて」
「この調子だと、佐倉杏子さんも……」
「……期待できないわ」
二人の間に沈黙が流れる。
さっそく一つの目標が達成できない状況に陥ってしまった。
情報を共有しながら、ひたすら足を動かす。
話を聞くに、ほむちゃんは僕達と出会う前にキュウべぇ狩りをしていたらしい。
キュウべぇは、嘘はつかない。
だからこそ、その事実を巴マミを伝えられ、敵対したのではないか。
さやかとの距離を大きく離し、時間停止を解除する。
ほむちゃんの手が震えてる。
「ごめんなさい。私がまた、間違えたの。もっと早く行動しておけば、こんな事にはなってない筈だったのに」
ごめんなさい、と繰り返す彼女。
その小さな身体が、今にも消えてしまいそうなくらい小さく見える。
きっと、これから起こるかもしれない未来に恐怖しているんだ。
そんな彼女とおでこをくっつけ、手を絡める。
昔、泣き虫だった僕に、まどかがよくやってくれた。
お互いの体温が伝わり、不思議と安心するのだ。
「ほむちゃん。君が全部の責任を感じる必要はないよ。さやかを説得出来なかったのは、僕の責任。巴先輩が敵対しているのは、キュウべぇの策略だ。君は悪くないんだよ」
「それでも、私は。
私は、多くの未来を知ってて、対策だって人より取れる筈なのに、いつも失敗してしまうの。それで、多くの人を死なせてしまった」
「今回は、まだ誰も死んでない。やり直せる。
僕が絶対なんとかしてみせる。
だから────
そんなに泣かないで」
「……うん」
涙をハンカチで拭いてあげる。
お互いの体温が、ひとりぼっちじゃない事を伝えてくれる。
顔は未だ暗いけれど、少しだけ晴れやかな顔をしてくれた。
ノートをパラパラと捲るように、世界のテクストが変わっていく。
学校のような物が生え始め、辺り一面を別の姿に変えた。
「魔女結界……」
「もう少し、空気読んでほしいよね」
お互いに苦笑し合う。
涙はもう、流れていなかった。
「さぁ、行こう。ほむちゃん。
みんなを守ろう」
握った手を、ぎゅっと握り返される。
二人なら、きっと何でもできる。
魔女に立ち向かう恐怖心も、手の体温が和らげてくれた。
『取り逃したのかい?さやか』
「うるさい!黙ってて!」
『三年の巴マミを訪ねるといい。きっと力になってくれるよ』