君のココロを守るため 作:一般魔法少女
『やぁ、佐倉杏子』
『キミに頼みたいことがあるんだ』
『とある相手を倒してほしくてね』
文字がひたすら書かれてた廊下を二人で歩く。
読めるのに理解できない文字列が延々と続いている。
「不思議な所だ」
「魔女結界が変なのはいつものことよ」
それにしては、妙に統一感があるような…。
理解しようとすると、頭が割れるように痛くなる。
きっと、理解してはいけない類なのだろう。
角を曲がったところで、使い魔と出交わす。
有無を言わさず、四肢を光で拘束し居合のように光を抜き放つ。
ゴムのような見た目をした使い魔は、呆気なく両断された。
「あなた、変身しなくても戦えるのね」
「昨日の夜、少し練習してね。変身しなくてもちょっとくらいなら戦えるよ。多分、ウルトラマンとしての感覚が鋭くなってるんだと思う」
「頼もしいわ」
二人で使い魔を倒しながら進む。
前回も種類が多いと思ったが、今回も負けず劣らず数が多い。
「今回の魔女、なんだと思う?」
「本に机、それに文房具のような使い魔達。恐らく学校に関する物じゃないかしら」
「この魔女は何を願ったんだろうね」
しばらくすると、木目調だった地面がブヨブヨとした物に変わっている。
ピンクよりは白く、だが白よりは赤みがかっている。
正体はわからないが生理的嫌悪があった。
「なんだこれ?」
「とにかく進みましょう」
「うええ、気色悪い感触」
一歩、二歩、歩くごとに足の裏に嫌な感触が伝わってくる。
ぐちゃり、ぐちゃりと音を立てて歩くが、果てしない道のりにゲンナリとしてしまう。
「あまり気分のいい物ではないわ」
「だね。なんだろコレ?」
足先で突いてみる。
ブヨブヨとした感触が伝わってくるばかりで、特にアクションはない。
どこか生物然としているのに、反応がないのが不気味だ。
「脳味噌よ」
「脳味噌!?」
「見たことあるもの。もう少し赤みがかっていたけれど」
見たことあるって、もしかして、昔────
「気づかれたわ」
皮膚が裂けるように、何層もの扉が破れていく。
光が徐々に強くなり、一つの部屋が現れた。
use one's brain
脳味噌で囲まれた空間に一人の女性が立っている。
一見すると普通の女性のように見えるが、後頭部が大きく欠け人間ではないことがわかる。
突如壁を指差す。
すると、壁面の脳味噌が蠢く。
何か来る!
「躱して!」
壁から赤い管が、勢いよく飛び出してきた。
左右に転がることで、血管を躱す。
だが、垂れた血液が服の端に当たってしまい、溶け始めた。
「ほむちゃん!溶解液だ!当たらないで!」
液がついた部分を光で燃やし、対処する。
まだ、服の端だったから対処は容易だったが、全身に付いたら溶けるのに10秒はかからない。
手を擦り合わせ、ハンドスラッシュを放つ。
だが、分厚い血管に阻まれ魔女まで届かない。
ほむちゃんも同様にハンドガンによる銃撃を試みるが、容易く対処されてしまう。
「それなら!」
腕の時計盤が動きを止め、世界を止めた。
暁美ほむらが持つ、固有魔法の時間停止。
今まで何度となく、窮地を救ってくれた頼みの綱。
止められた時の中を動けるのは、ほむらただ一人しかいない────
「なッ!」
止められた世界を、管が動き回る。
鞭のようになった管の束をなんとか躱すが、その内の一本がほむらの腹を打ちつけた。
あまりの勢いに、壁まで吹き飛ばされる。
「どう……して……。
時が…止まって……ない」
違う。
確かに時止めは発動している。
止まった時の中では、ほむら以外動けるはずがない。
ならば、なぜ?
少なくとも、ほむらが触っている者以外は────
(触っている……者?)
そう。
触っている者というならば、今のほむら達は常に脳味噌を踏んでいるのだ。
「これも、魔女の一部……ってことね」
止まった時を血管が蠢く。
攻撃を躱すため飛び上がってしまい、空中で停止した大くんに狙いを定めていた。
慌てて、時間停止を解除するが、間に合わない。
目の前に突如現れた血管を腕で防ぐ。
腕から骨が折れる音がしたが、咄嗟に後ろに跳ぶことにより衝撃を柔げる。
「いっ…つぅ」
折れた腕に光を集中させ、添木のように固定する。
これでなんとか動かせる。
追撃に備え体勢を整えるが、いつまで経っても追撃が来ない。
何故だ?圧倒的チャンスだったはず。
ウルトラマンの強化された視力を集中させ、相手を観察する。
魔女の手に、
なんだ?
その隙に、壁から抜け出したほむちゃんが駆け寄ってくる。
「脳味噌も魔女の一部になっていて、時止めの効果がない。私と跳んで!」
「わかった!」
腰に手を回し、脳味噌の壁を抉りながら駆け上がる。
30メートルほど登ったところで、空中に身を投げ出した。
「今よ!」
腕の時計盤が世界を止める。
スパークレンスを胸から取り出して、天へ掲げた。
「ティ────」
そして、
グチャグチャと肉が潰れる音。
およそ、人体からは発せされない音だけが空間に響き、しばらくすると静寂だけが辺りを包み込んだ。
ようやく侵入者を排除した魔女は背を向ける。
そして、光が世界を包んだ。
「ティガァァァァア!」
血管群をぶち抜きながら現れるは、光の巨人。
溶解液を物ともせず、全てを光で弾き飛ばす。
『ほむちゃん…ありがとう』
手の中でぐったりと気絶するほむらを光で包み、床に降ろす。
あの瞬間、血管群に取り囲まられた時。
ほむちゃんが咄嗟に取り出した複数のロケットランチャーを盾にすることで、一瞬だけ余裕を作り出せた。
あの隙が無ければ光で防ぐことも出来ず、死んでいた。
『(時止めが効かなかったんじゃない。
恐らく、魔女が手に握っていた時計が原因だ。
つまり相手は模倣か、対策がとれるってこと)』
魔女と向き合う。
サイズ差としては蟻と人ほどあるが、決して油断しない。
どんな魔女であっても、人を容易く殺す力を持っているのだから。
『つまり、初見の技で吹き飛ばす!』
大きくなった手を振り下ろす。
ぐちゃりと肉が潰れる感触がするが、恐らく当たっていない。
潰されるとわかっていたのに、避ける素振りすら見せなかったからだ。
その証拠に、壁に魔女が立っていた。
『(時止めか?)』
回し蹴りを叩き込み、壁ごと吹き飛ばす。
そして、床に魔女が立っていた。
『(違う、時止めじゃない。ほむちゃんの時止めを模倣したなら、脳味噌に触れている僕が認知できない訳がない)』
そして編み込まれた血管群が巨大な腕になる。
一撃一撃が、ウルトラマンの腕力を再現した攻撃。
その全てをウルトラシールドで受け止める。
あまりの衝撃に、徐々に押し込まれる。
この攻撃のいやらしい所は、僕じゃなく気絶しているほむちゃんを狙っている所だ。
こうすれば僕が動けないことを知っている。
とてつもなく、頭がいい。
変身から30秒、カラータイマーが鳴り出す。
その音を聞いた瞬間、どこからともなく現れた使い魔が壁のように積み重なり、魔女本体が全力で後退しだした。
『ああ、クソッ!的確な対応だよッ!』
この星でのウルトラマンの変身可能時間は1分30秒しかない。
相手はカラータイマーの音を聞いて、残り時間を悟った。
ならば、無理に戦わず逃げ回ってしまえば終わりだ。
敵が問うている。
さあ、どうするウルトラマン?
恐ろしいほどの解析能力と、適応能力。
多分、同じ技が効くことは二度とないだろう。
それを承知の上で、脇を締め腰に腕を構える。
シールドが解いたことにより、血管腕の連打が全身を打ち付けるが、歯を食い縛り、全ての力を解き放つ。
『ゼペリオン光線ッ!』
数多の使い魔を薙ぎ払い、魔女の一部を消し飛ばす。
止めには至らなかったが、動きを制限させる事ができた。
『ここで終わらせるッ!』
遺伝子に刻まれている基本技。
全てのウルトラマンが最初に教わり、使えない者はいないと言われる技。
左手を縦に、右手を横にして十字を組む。
溜めの要らない、基本にして最初の光線技。
その名を────
『スペシウム光線ッ!』
当たった────
否。
当たる直前に巨大な反射板が形成され、吸収、反射。
撃ち返された光線が胸のプロテクターに当たる。
『グハッ!』
あまりの早技。
想定を上回るほどの解析能力。
今のはウルトラシールドの模倣ではない。
ウルトラシールドを、より最適な形に変化させている。
模倣というよりかは適応だ。
最早、一度引くという選択肢は無くなっていた。
ここで倒さねば、二度と倒すことはできない。
そして血管群が砲台に変化し始める。
その数、20。
その全てが紫のエフェクトを放ち、ゼペリオン光線にて吹き飛ばそうとしていた。
ふらつきながら、なんとか立ち上がる。
発射まで残り3秒。
防ぐ?無理だ。
逃げる?ほむちゃんは死ぬだろう。
ならば、より強い自分に進化するしかない。
額のクリスタルの前で手を交差する。
理性は知らなかったが、生きるために本能が叫んでいた。
光り輝くクリスタルが全身を染め上げる。
紫の体皮から青紫の体皮へ。
マルチタイプからスカイタイプへと、変化した。
優しい風が吹き荒れる。
風がほむらの顔を優しく撫でた。
「ん…」
ティガがタイプチェンジに掛かる時間は0.5秒。
つまり、残り2.5秒でなんとかしなくてはならない。
遠くで魔女がせせら笑っているのが見える。
どうしようもない、お前たちはここで終わりだ、と。
怒りに呑まれそうになるが、あえてクールに。
怒りは自分を見失わせる。
そうなれば、相手の思う壺だ。
カラータイマーの前で腕を構え、片手を突き出す。
『ティガフリーザ』
────脳味噌も魔女の一部なの。
ずっと、この言葉が引っかかっていた。
もしも、一部ではなく本体だとしたら?
あの魔女が壁や床に突如現れたのが、瞬間移動や高速移動ではなく、生えていたのだとしたら?
氷の光線が、部屋中の脳みそを凍らせていく。
すると、今まで何をしても平然としていた魔女が苦しみ出した。
なんとか血管群を操作し阻止しようとするが、部屋全体を凍らせるのに1秒と掛からない。
より出力を上げ、血管群すらも全て凍らせきる。
「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️ッ!」
絶叫を上げ、凍りついた魔女。
それを横目に、地面に腕を突き刺す。
コイツはまだ死んでいない。
時間経過で対応してくるだろう。
その前に全てを吹き飛ばす。
赤熱化する腕。
残されたエネルギーを全て送り込み、部屋ごと深紅に輝く。
『ウルトラァッ!ヒートハッグ!』
轟音、衝撃。
限界まで送り込まれたエネルギーが、全ての脳味噌を吹き飛ばしていった。
「あー、しんど」
思わずドカリと地面に座り込んでしまう。
強敵だった。
僕とほむちゃん、どちらかが欠けていても勝てなかっただろう。
「そうだ、ほむちゃん」
あの一瞬で全ての脳を破壊するためには、ヒートハッグしかなかった。
脳は床や壁にも侵食していたため、範囲を広げるしかなく、当然ほむちゃんも巻き込むしかなかった。
なるべく近くの威力は抑えたが、無事だろうか。
ズリズリと這いずりながら、なんとか近づく。
「よかった。無事だ」
顔にかかっている髪を払う。
穏やかな寝息にホッと息を吐く。
僕が貼っていた光のシールドは、無事その役目を果たしてくれたみたいだ。
そして気づく。
魔女結界が解除されていない。
「どうして────」
その時、首に巻きつく感触。
残された脳の一部から生えた血管が、首を締め上げていた。
ギリギリと締め上げられ、宙にぶら下げられる。
「な、んだと」
バカな、確かに全て吹き飛ばしたはず。
違う。
ほむちゃんの近くは少し威力を弱めていた。
もしも、ほむちゃんを盾にして爆風から逃れていたとしたら?
「自切…したのか…」
恐らく重要な箇所のみを切り離し、他の部分を捨て去ったのだ。
それも、ティガフリーザによって凍らされる前に。
恐ろしいまでの執念と、判断能力。
スカイタイプに変化して撃つまでの1秒の間に判断している。
普通の人間では、こうはいかない。
これが、魔女。
人間で無くなった者の末路。
「光…を…」
手を合わせ、ハンドスラッシュを放とうとする。
しかし、変身解除直後では、僅かな光さえも出ることはなかった。
徐々に強くなっていく締め付けに、視界が赤く染まる。
コイツがほむちゃんを後回ししているのは、いつでも殺せるからだ。
気絶した人間と、していない人間。
どちらから狙うかなど、小学生でもわかる。
「助け…て…ほむ…ちゃん」
起きる筈がない、無駄な努力だ。
そう笑い声をあげる魔女。
首ごと頭を千切ってやろうか、それとも締め殺してしまおうか。
これからの未来に想いを馳せる。
魔女の誤算は、一つ。
暁美ほむらを、侮ったことだ。
手を伸ばした瞬間、声が届いた時。
全ての血管が撃ち抜かれ、脳を一片たりとも残さず破壊した。
「ゲホッ!ゲホッ!」
魔女結界が解除され、今度こそ普段の日常が帰ってくる。
締め付けられた身体は、肺に空気を取り入れようと必死に息を吸い込む。
「ごめんなさい…助けるのが遅くなったわ…」
「い、いや、ありがとう。助かったよ」
後1秒でも遅かったら死んでいた。
ギリギリのタイミングだったが、なんとか間に合ってくれた。
ほむちゃんが背中を摩ってくれる。
「わたしの────」
「ん?」
「私の魔法が時を止めるもので、よかった。いつも間に合わないことばっかりだったけれど、今度こそ間に合って本当に良かった」
そう言って微笑む彼女に思わず見惚れてしまう。
その笑顔がとても素敵で、なんだか照れてしまった。
「ありがとう、ほむちゃん。帰ろっか」
あの後、力尽きて立てなくなったほむちゃんを背負いながら、まどかを迎えに行った。
あまりにも精悍尽き果てていた僕達に驚いていたが、何も聞かず家まで連れ帰ってくれた。
湯船に浸かりながら、ボーっと天井の光を見上げる。
「……疲れた」
精神的にも、肉体的にも疲れ果ててしまった。
さやかに襲われ、魔女と戦い、波瀾万丈な一日だった。
特に、さやかに襲われたのが一番ショックだった。
まどか程ではないにせよ、長年の友人に襲われたのだ。
なんて事はない、と思ってもどうにも気持ちが下がってしまう。
その時、脱衣場に人影が見える。
「入るね〜」
「まどか」
入ってきたまどかは何も聞かず、身体を洗う。
「先生、怒ってたよ。大地くんとほむらちゃん、明日こそ補習だって」
「……だろうね」
その光景を眺める。
小ぶりな胸や、可愛らしいお尻が泡に包まれていく。
洗う姿はとても官能的だが、不思議とそういった気は起こらない。
「さやかが……魔法少女になってた」
「……なっちゃったんだね」
一瞬だけ、髪を洗う手が止まる。
でも何事もなかったかのように髪を洗い流す。
「驚かないんだね」
「なんとなく、ね。さやかちゃんはきっと願うんだろうなって」
ザバリ、と頭からお湯を被り、全身の泡を落とした。
「脚、広げて」
体を洗い終わったまどかが、広げた脚の間に腰下ろす。
後ろから抱きしめ、しばらく体温を感じる。
「まだ、あるんでしょ?」
「さやかに、襲われた」
「何で?」
頭を上に上げたまどかと視線が合う。
「多分、キュウべぇに何か吹き込まれたんだと思う。偽物とか言ってたし」
「それで、そんな傷ついてるんだね」
「傷ついて、なんか……」
「傷ついてるよ。だからこんなに落ち込んでるんでしょ」
昔から体の傷には鈍いくせに、精神的な傷には鋭い。
僕が気づく前に、とっくに気づいてるんだから。
敵わないな……。
頭に柔らかな感触。
頭を胸に抱えられ、抱きしめられる。
「大地くんは頑張ってるよ。
大丈夫。さやかちゃんとも、仲直りできるよ」
「……そうかな?」
「そうだよ。私が保証してあげる。信じられない?」
我ながら単純で笑える。
まどかに言われると、どんなことでもできるって気分になるんだから。
疑ったことなんか、一度たりともない。
「だからこれは、おまじない」
まどかと目が合う。
大きな桜色の瞳に、長い睫毛。
普段は可愛らしさが押し出されているのに、こういう場面では美人に見えるんだからズルい。
互いに瞳を閉じて、どちらからともなく唇が近づく。
そして────
リップ音と共に、おでこに柔らかい感触。
「えへへ、お口はまた今度ね」
そう言って、呆気に取られている僕を他所に、先に風呂場から出ていった。
「……小悪魔め」
落ち込んでた心はもう、上を向いていた。
知恵の魔女 ユーズ・ワンズ・ブレイン
その性質は諦観。
かつて、馬鹿にされていた者はキュウべぇに願った。
誰よりも賢くなりたい、と。
そのありふれた願いは、確かに叶えられた。
そしてこの世の全てを理解し、絶望してしまった。
知らなくていいことは、知らないほうが良い。