君のココロを守るため 作:一般魔法少女
あたしは一体何をしているんだろう。
友達の見た目をした奴を殺そうとして、でもできなくて、キュウべぇの後を追いながら歩いている。
『着いたよ。ここだ』
「その巴さんって人も、魔法少女なんだよね」
『そうだよ。キミよりも熟練された魔法少女だ。教わるにはちょうどいい』
緊張で喉が渇く。
初めて出会う魔法少女。
一体どんな人が出てくるのやら……。
意を決して、ドアベルを鳴らす。
『はーい』
「あ、あの、あたし美樹さやかって言います。巴マミさんに用があって……」
『キュウべぇから聞いてるわ。入って』
玄関のドアを回す。
来るのが分かっていたのか鍵を閉めておらず、すんなりと入ることができた。
見慣れた学校指定のローファーが置いてあり、恐る恐る進む。
リビングを開けると、金髪縦ロールの女性が紅茶を飲んで待っていた。
「いらっしゃい、美樹さん。
私は巴マミ。よろしくね」
「よ、よろしくお願いします」
「とりあえず座って。お茶菓子くらいなら出せるわ」
そう言うと、テキパキとあたしの分の紅茶とケーキを用意してくれる。
ひえ〜、お嬢様だぁ。
仁美もお嬢様だけど、マミさんもベクトルが違うお嬢様って感じ。
思わず見惚れてしまう。
「それで、美樹さん。キュウべぇからは、魔法少女のいろはについて教えてあげて欲しいと言われてるけれど、あってるかしら?」
「は、はい!あたし、戦い方とかよくわかってなくて。というより魔法少女が何をするのかってのもよくわかってないんです……」
「キュウべぇ、そういうのはあまり感心しないわ。ちゃんと説明した上で契約をすべきではないかしら?」
『僕も説明しようと思ったんだけどね。さやかの熱量に押されて説明するのを忘れてしまっていたよ。ごめんね、さやか』
ペコリと頭を下げるキュウべぇ。
そういえば、あたしも勢いで契約しちゃっててキュウべぇの話をよく聞いていなかった。
「あたしもゴメン。ちゃんと聞いておくべきだった」
『そう言って貰えると助かるよ。じゃあ説明はマミに任せるとするよ』
「もう、そういうのは自分で言わないといけないのよ。美樹さん、魔法少女のやることというのはね────」
「────ということよ」
「はえ〜」
どうやら魔法少女が戦う相手は魔女と呼ばれる怪物らしい。
魔女は人々の生気を吸い上げて殺してしまう恐るべき化け物。
原因不明の死因や事件の多くは、こいつらの仕業らしい。
「じゃあ大地に化けてる奴も魔女なの?」
『いや、それは違うよ。彼は光の巨人、通称ウルトラマンと呼ばれる存在だ』
「ウルトラマン?」
『それについてはまた今度。もう一人合流した時に詳しく話すよ。二度手間だしね』
スカされた気分だ。
詳しく聞けないことにモヤモヤする。
キュウべぇ曰く、奴らは人間に憑依して活動するらしい。
殺す寸前まで痛めつければ憑依された人間は解放されるらしいが、失敗してしまった。
「私も触り程度しか聞いてないけれど、そんな存在が居るだなんて知らなかったわ」
『僕もこの星に居ると思ってなかったからね。説明する必要がなかったのさ。でも、突如として現れてしまった。なら、対処しなくてはいけない』
「……まあいいわ。今は魔法少女のことが優先よね」
視線が絡む。
鋭い視線に思わず怯みそうになるが、頭を下げてお願いする。
「マミさん!あたしに戦い方を教えて下さい!」
「あたしは、友達を乗っ取った奴を許せない!まどかの、親友の想い人を取り戻してあげたいんです!」
わかってる。
こんなのマミさんには何の関係もない話だ。
断られる可能性の方が高いのも承知だ。
それでも、あたしにとっても大切な友達を取り戻したい。
今日の戦いでわかった。
あたしは、戦い方が全然なっていない。
だから、大地の姿をしたやつにも逃げられてしまったのだ。
「あたしはどんな事でも耐えてみせます!だから!」
少しの沈黙。
あたしに出来るのは頭を下げることだけ。
それでも、諦めたく無い!
「……私、厳しいわよ。それでもいい?」
仕方ないなぁ、と呆れと後輩を心配する声音が入り混じった返答をもらえた。
「はい!お願いします!」
「それじゃあ美樹さん。ここの使い魔倒してきなさい。バックアップはしてあげるから安心して」
「はい!」
「次はここよ。よく観察して動きを見極めなさい」
「はい!」
「刀の使い方、甘いわよ。もっと刃が通りやすい角度を意識しなさい」
「はい!」
「魔女がいたわ。行くわよ」
「は、はい!」
「人が落ちるわ!受け止めなさい!但し、体に負担を掛けないように!」
「はい!」
「使い魔が逃げるわ!追いかけて!」
「はい!」
多い。
厳しいとは言われていたが、修行初日に十体も使い魔と魔女も倒してしまった。
要所要所でフォローを入れてくれてたため、なんとか倒せたが本当に危ないラインまで手出ししてこなかった。
魔法少女二日目で大分ハードじゃない?
でも、あたし強くなってる。
一回目より二回目、回数を重ねるごとに強くなっている実感が湧く。
「次が最後よ。頑張って」
「は、はい」
二人で魔女結界に足を踏み入れる。
使い魔共を払いながら進み続ける。
「マミさんは、魔法少女になって長いんですか?」
「そうね。もう3年になるかしら」
「3年も……。辛くないんですか?」
あたしには想像できない。
だって、2日しか経ってないのに、こんなに大変なのだ。
一人で3年間も戦うなんて、あたしにはできない。
「それは、辛かったわよ。普通の人には話せないし、夜中は魔女を探して探索する日々。普通の女の子らしく遊べる日なんて、数えたくらいしかないわ」
「でもね、誰に感謝される訳でもないけれど、命を助けることができた時はやってて良かったなって思うわ」
「美樹さんがどういう願いで魔法少女になったのかは詮索しないけど、こんな可愛い後輩が出来て、今、とっても嬉しいのよ」
「マミさん……」
思わずうるっときてしまう。
私でも、マミさんの助けになれるのかな。
「私も、短い間ですけどマミさんが先輩でよかったです!厳しいけどちゃんと優しさも感じてます!厳しいけど!」
「厳しいは余計よ。あなたが望んだことじゃない」
うげっ、藪蛇突いた。
「あ、あー!あれ魔女の部屋じゃないですかね!あたし、見てきます!」
「まったく、しょうがない後輩ね」
【shut in】
「最後だ……。頑張れあたし!」
四角い箱のような魔女。
黒い箱から無数の手が伸びて、辺りにある物を投げ始めた。
「ハァッ!」
投擲された物を、一太刀、また一太刀と足を進めながら次々と切り伏せていく。
百を超える数を切りながら、それでも前へと進み続ける。
肺が空気を求めてる。
体が悲鳴をあげている。
それでも、もう一歩────!
「ちょっと、多くない!?」
あまりの多さに、文句の一つも出てしまう。
もう三百以上切ったのに、終わりが見えない。
果てしなさに注意力が徐々に削がれる。
だから、足に巻きつく腕に気づかなかった。
「しまっ……!」
足を引っ張られ、バランスを崩してしまう。
体勢を整えようとするが時既に遅く、放り投げられた物が雨のように降り注いできた。
当たる────!
思わず目を閉じてしまう。
しかし、いくら待っても衝撃が届くことはなかった。
「足元がお留守よ。それに、全て切る必要はないわ。避けれるものは避けなさい」
目を開けると、視界一杯に黄色いリボンが広がっている。
どうやらマミさんが間一髪の所で受け止めてくれたらしい。
「ありがとうございます!」
姿勢を低く、クラウチングスタートの形をとる。
魔力を燃やし、身体能力を上げていく。
「行きます!」
そして、さやかは風になった。
あまりの速さに魔女の知覚から消え去る。
視界から消えたさやかを探すように縦横無尽に物を投げ始めた。
さやかは次々と投げられる物を切るのではなく、紙一重で見切り躱し続ける。
確かに切るよりこっちのほうが圧倒的に速い!
「ここだぁぁぁぁあああ!」
体重×速さ×力の、あたしの破壊力を喰らええええ!
全ての力を乗せた刺突。
一条の流星が全てを貫き────。
魔女の外壁によって呆気なく弾かれた。
「かったーい!」
あまりの硬さに刃が通らず、手が痺れてしまう。
間違いなく今の自分に出せる最高の一撃だった。
こうなると、あたしに決め切ることはできない。
一度マミさんの所まで撤退し、体勢を整える。
「マミさん。どうしたらいいですかね?」
「大抵の魔女ならさっきの一撃で仕留めれたのだけど、今回は防御力が高いようね」
うーむ、隙間でも探して無理矢理刺すか?
いや、ぱっと見たけれど隙間なんてなさそうだな……。
「まあ、初日にしては上出来よ。後は私に任せて」
リボンが部屋を覆い、箱型の魔女をギチギチに縛り上げる。
魔女も必死に腕を動かそうとするが、拘束されていて動けそうにない。
「見てて。魔法は鍛え上げるとこんなこともできるんだから」
胸元のリボンが解かれる。
リボンからマスケット銃へ。
銃から大砲へと変化する。
「ティロ・フィナーレッ!!」
放たれる砲弾。
あれほどの硬度を誇った魔女を貫き、そのまま全てを燃やし尽くしてしまった。
「すごい……」
あたしが、あんなに苦戦した魔女を一瞬で倒してしまった。
そりゃあ一日で追いつける訳がないと思っていたが、ここまでレベルに差があるとへこむわぁ。
「お疲れ様、美樹さん。初日の魔法少女修行は終了よ。どうだった?」
「あ、ありがとうございました!マミさんのお陰で、あたしも何とかやっていけると思います!」
「そう、それは良かったわ」
余裕で優雅。
先程の戦いの後とは思えない佇まいに、憧れてしまう。
あたしも、他人のピンチに颯爽と駆けつけてカッコつけてみたいものだ。
「すっかり遅くなっちゃったわね」
携帯で時間を確認すると、もう夜の8時を回っていた。
修行に夢中になりすぎてて、時間を確認し忘れていた。
時間を認識したとたん、お腹の虫がぐるぐると鳴いている。
そういえばずっと動いてたんだったわ。
「もし良かったらご飯でも食べて帰らない?奢るわよ」
「えっ!?いいんですか!?」
「ええ。修行を頑張ってくれた可愛い後輩だもの。それくらいはさせて?」
「ご馳走様です!ありがとうございます!」
帰り道で見つけたファミレスに立ち寄る。
テーブル席で二人向かい合いそれぞれ注文する。
あたしはハンバーグプレートを、マミさんはサラダとスパゲッティを頼む。
女子力に差を感じる……。
でも、あんなに動いたんだ。
ガッツリ食べてもいいだろう。
マミさんも同じくらい動いていたことから目を逸らしながら、ハンバーグを味わう。
「美味しい……」
「本当にお疲れ様」
「いや〜勝利の味がして一層美味しいです!」
「今日はどうだった?辛くて辞めたくなったかしら?」
今日か……。
確かに魔女は怖かった。
戦いも痛いしキツいし辛いことばっかりだった。
それでも、確かに救えた人達はいた。
感謝されることはないのかもしれないけれど、あの人達の生活を守ることができた。
それで、十分だった。
「大変でしたけど、マミさんが居てくれたお陰で安心して戦えました。魔女は確かに怖かったけれど、あたしが戦わない所為で死ぬ人が出るほうがもっと怖いです。だから、これからも続けようと思います」
「そう……。本当に辛くなったら言いなさい。先輩として力になるわ」
「はい!」
「いや〜食べた食べた。ご馳走様でした!」
「それじゃあ、帰り道気をつけてね。変な寄り道しないように」
お互いの家への三叉路で別れる。
背中を向けて歩いていくマミ。
これから、あの一人ぼっちの家に帰っていくのだろう。
「あのっ!」
「?」
思わず声を掛けてしまった。
ええい、迷わず言ってしまえ!
「マミさんさえ良ければなんですけど、修行が終わっても一緒に戦いませんか!?」
「えっ?」
「あたし、思い込みが激しくって意地っ張りだって親友によく言われるんですけど、一人でやってたらきっとどっかで暴走しちゃうと思うんです!でも、マミさんと一緒ならそんな自分を変えられるじゃないかって思うんです!だから!」
────辛くないんですか?
────それは、辛かったわよ。
「あたしと一緒に、魔法少女やりませんか!?」
お節介かもしれない。
恭介みたいに余計なお世話だって言われるかもしれない。
それでも一人ぼっちは寂しいから、あたしは一人にしたくない!
「……酷いなぁ」
「え?」
あたしマズイこと言っちゃったかな!?
「私、先輩なのに泣かされちゃったな。格好悪いわよね」
「そ、そんなことないですよ!優雅でカッコよくて!あたしの憧れです!」
そっと涙を拭うマミさん。
拭った後の瞳は、先程までの不安の色を消し去り、力強さが輝いていた。
「こちらこそお願いするわ、美樹さん。これからもよろしくね」
「はい!お願いします!」
巴マミ
たった一人で三滝原を守ってきたベテラン魔法少女。
後悔も苦しみも独りで抱え込んできた。
ある日、キュウべぇの紹介で一人の後輩と出会う。
彼女とこれから歩む道のりを想うと心が弾む。
こんな気持ち初めて。
もう何も恐くない。