勇者と女神と聖剣開発部 作:ハーレム撲滅委員会
1000年前、人類は危機に瀕していた。
強力な力をもつ魔王が突如として現れ、魔物を率いて人類へ侵攻したからだ。
大陸の半分が奪われ、エルフやドワーフを含めた人類の7割は魔物によって食われた。
追い詰められ後がなくなった人類は2つの存在をこの世界に呼んだ。
一人は女神ルテナ。このポンコ……彼女は地上からの呼びかけに応え、人類に魔物と戦う力を授けた。
もう一人が勇者。理由はわからないが、他の世界で死んだばかり存在を当時の世界は必要とした。そして呼ばれたのが、前世の俺──
親は幼少期の頃に死んで、親戚にはわずかな遺産を使い込まれた。兄弟姉妹もない天涯孤独の幼い身に福利厚生は機能せず、青春のせの時すらなかった。教育を受ける権利は機能しないまま勤労の義務を課せられた。疲労を無視して日銭を稼ぐ毎日。そして気づけば勇者として召喚されていた。
ルテナが言うには、あの時死ぬ思いで……いや、死んでまで倒した魔王が復活する。
しかも今度は聖剣がない。
「なら頑張って造ってくれ」
問題解決。さて、それでは死と無縁の素晴らしい青春を。
「手伝いなさいって言ってんでしょ」
背を向けて歩き出そうとしたところを、襟首を掴まれる。確か1000年前も、召喚直後にこうやって掴まれた覚えがある。この女神、どうやら何も変わってないらしい。
「魔王に対抗できる聖剣が全然できないの。女神力も残り少ないし、このままだと、復活した魔王を止められない」
「できないって……用意しろよ。女神なんだろ」
後者は知らないが。女神力ってなんだ。そんなもの欠片も感じたことないんだが。
「それができないから困ってるんでしょ……! 女神として、勇者に新たな使命を命じるわ」
「そんなもん死んで辞めたわ!」
ルテナの手をつかみ、襟首からひっぺがす。そして振り返り、ルテナを睨みつけた。
「また中途半端なところで死んでたまるか! 二度目の人生だ。今度こそ俺は悔いのない人生を送る! いいか、俺はな――」
今度こそ、いじめのない健全な幼少期を過ごし。
甘酸っぱい思春期を送り。
欲を言えば複数の女性から好意を寄せられるような青年期を過ごし。
そして最後にはひ孫にまで囲まれて老衰で終わる。
「――そういう高尚な人生プランがあるんだよ!」
シンとして、3歳の誓ったのだ。舌足らずな口で宣言したことをよく覚えている。
ちなみに聞いていた妹は大層感銘を受けたようできゃっきゃと笑ってくれた。今? 言ったら多分(鼻で)
「……ハーレムを目指してる時点でだいぶ低俗だと思うんだけど」
「魔王倒したんだから望んでいいだろ。王様も約束してくれてたしな」
勝利の凱旋の先にはあったはずだった。英雄にふさわしいピンク色の生活が。
「絶対、エルフのあの子が許してくれなかったと思うけどねえ」
「エルフ? ……ああ、ティナか。なんでだよ」
ティナは、1000年前一緒に魔王を倒した俺の仲間だ。魔王に対する苛烈な復讐心を持っていた。意見が頻繁にすれ違って、よく喧嘩をした。
俺が死ぬ直前、ボロボロ涙を流して泣いていたな。正直、嫌われていると思ってたから意外だった。
いくらエルフとはいえ1000年も経っているから当然、もう死んでいる。この世界のエルフの寿命は、長くても500年程度だ。
「あいつ関係ないだろ。まあ邪魔はしそうだったけど」
「オッケー。アラタ君、やっぱり恋愛の才能ないわ。ハーレム無理だって……待って。振り上げたそれをおろしなさい」
「ああ、力いっぱい振り下ろしてやる」
「ちがうそうじゃな――いったあああああああ! アラタ君さっきから乙女の顔面何だと思ってんの!?」
「
両手で構えて振り下ろしたのは聖剣(発泡スチロール)だ。柔らかそうだが痛いものは痛いらしい。勉強になった。今後は非暴力的制圧方法として活用しよう。
「……ん?」
ふと、手に持った聖剣レプリカに違和感を感じた。
この剣の材料はスライムだ。ダンジョンにたくさんいる、前世のファンタジー作品でもおなじみのあれ。それを乾燥させ細かい粒にしたスライムビーズが、このレプリカの材料だ。
前世の発泡スチロールと同様もろい素材なのに、折れないどころか凹みが全く付いていない。
「なあ、これってスライムビーズじゃないのか?」
「見ての通りスライムビーズよ。……あ、もしかして気づいた?」
ルテナは目に涙を浮かべながら、しかし何故か得意げな顔をした。
「言ったでしょ。『聖剣を抜きなさい』って」
「……まさか」
そういえば、なぜかよく手に馴染む。
これ、聖剣レプリカではなく――。
「聖剣はね、ただ材料がいいだけじゃダメなの。人の願いと女神の力が込められて初めて、魔を打ち払うことができる」
翡翠の目がきらりと輝いた。風が一筋吹き、金色の髪を揺らした。
「幼年学校の子たちが造り、私がなけなしの力を込めた──聖剣ヴァルカルド301世よ!」
「造りすぎだろ」
前言撤回。話を聞いたほうが良さそうだ。
評価とお気に入りが増えると続くかもしれない