囮の実力者になりたくて!Return15   作:ボルメテウスさん

25 / 46
デルタとの日常

扉が勢いよく開いた。

 

「エロゲ! 食べ物持ってきた!」

 

デルタだ。両手に包みを抱えている。入ってくるなり床を蹴って急停止した。停止の勢いで枕元の花瓶が揺れる。

 

「ノックは」

 

「した」

 

「してない」

 

「足で」

 

「足でノックするな」

 

デルタが包みを寝台の端に置いた。干し肉とパン、それから果物がいくつか。包みの結び目が荒い。中身はこぼれていないが、運搬中に何度か落とした跡がある。

 

「エロゲ。助けたぞ!」

 

デルタが胸を張った。尻尾が立派に立っている。自慢のポーズだ。

 

「・・・お前がか」

 

「デルタが先に壁を壊した」

 

「壊したのが功績か」

 

「中に入れた」

 

「確かにな。だがその後俺は瓦礫の下敷きになったぞ」

 

「でも出てきた」

 

「出てきたっていうか出られたっていうか。埋まった側の話をしてるんだよ」

 

デルタが寝台の端に座り込んだ。俺の顔を覗き込んでくる。近い。獣の目が俺の包帯を順番に見ていく。額、肩、腕。確認する目だ。

 

「血は止まってる」

 

「止まってる。ゼータが治した」

 

「デルタも治した」

 

「お前は治す前に埋めた」

 

「埋めた後、心配した」

 

「心配したなら掘り出せよ」

 

「掘るよりエロゲが出てくるのが速かった」

 

「速くない。三時間かかった」

 

「三時間は速い」

 

「遅い。普通の人間は埋まったら三時間で出てこられない」

 

「エロゲは出てきた。すごい」

 

褒められた。褒められたが褒められていない。埋めた側の責任が全部俺の頑丈さに転嫁されている。

 

「そもそも俺を運び出したのはゼータだろ」

 

「デルタも運んだ」

 

「どこをだよ」

 

「入り口まで」

 

「入り口から先が瓦礫だっただろ」

 

「そこはエロゲが歩いた」

 

「歩けたのは運ばれたからだよ」

 

デルタが包みを開けて干し肉を俺の手元に置いた。一本。食べろという合図だ。

 

「食え」

 

「食うけどさ。話の途中だろ」

 

「話より食え」

 

デルタが俺の横から動かない。干し肉を食べるまで離れる気配がない。仕方なく一口食べた。塩気が効いている。美味い。誰が用意したのか知らないが、美味い。

 

「美味いか」

 

「美味い」

 

「よし」

 

デルタが満足そうに尻尾を振った。振りすぎて寝台の脚に当たる。花瓶がまた揺れる。

 

「おい、尻尾振ると物が落ちる」

 

「落ちてない」

 

「落ちそうになってる」

 

「なってない」

 

なっている。だが確認している時間がない。確認する暇もない。この女の周囲では常に何かが揺れている。

 

「で、もう元気?」

 

「元気って程じゃない」

 

「包帯、少なくなってる」

 

デルタが俺の腕の包帯を指差した。指先が包帯の端を軽く引っ張る。確かめる動作だ。

 

「減ってない。巻き直しただけだ」

 

「じゃあ治ってる」

 

「治ってない。まだ療養中だ」

 

「療養中って何するの」

 

「寝る。休む。安静にする」

 

「寝すぎると弱くなる」

 

「弱くていいんだよ。俺は9部だぞ」

 

「9部、弱くない」

 

「弱いんだよ。公式設定だ」

 

「エロゲは硬い。硬いのは強い」

 

「硬いのは頑丈なだけだ。強さとは別だ」

 

「同じ」

 

「違う」

 

「同じなのです」

 

いきなり丁寧語になった。主張が通じないと感じると語尾が変わる。交渉の癖だ。

 

「違うって。硬いのは殴られても折れないだけで、殴り返せないんだよ」

 

「殴られなくていい。デルタが殴る」

 

「殴らなくていい。ていうか誰を」

 

「エロゲの敵」

 

「敵はお前が作ってるだろ。壁壊したり天井落としたり」

 

「壁は敵じゃない」

 

「壁の敵対心は俺が一番感じてるよ」

 

デルタが果物を一つ取って、皮を剥き始めた。爪で剥いている。器用だ。剥いた実を俺の方へ差し出した。

 

「食え」

 

「・・・ありがとう」

 

受け取って食べた。甘い。つい礼を言ってしまった。言った後で気づいたが、まあいい。差し入れの礼くらいは言っていい。

 

「甘いか」

 

「甘い」

 

「狩りの途中で見つけた」

 

「狩りの途中で果物探すな」

 

「狩りの合間に食べる」

 

「猪と果物を同時に追うな」

 

「別々に追う」

 

「・・・もういい」

 

デルタが剥いた果物の皮を机に積み上げた。積み上げ方に計画性がない。だが崩れない。不思議なバランスだ。

 

「エロゲ」

 

「何だ」

 

「埋まった時、痛かった?」

 

不意の質問だった。声の調子が少し変わった。尻尾の動きが止まっている。

 

「・・・痛かったぞ。頭に石が当たって肩にも当たって」

 

「そっか」

 

「そっかって何だよ」

 

「デルタ、埋めないように気をつける」

 

「気をつけるなら埋めないだろ」

 

「埋めないようにする」

 

「埋めるなよ絶対」

 

「うん」

 

短い返事だ。だが尻尾が再び動き始めた。何かを決めた時の尻尾の振り方だ。埋めないと決めたのか、埋め方を工夫すると決めたのか、判断がつかない。後者だったら困る。

 

「で、次」

 

「次って何だよ」

 

「狩り」

 

「来たか」

 

「もう元気?」

 

「元気じゃない。療養中だろ」

 

「じゃあ、歩く練習。狩りに行く」

 

「歩く練習と狩りを組み合わせるな」

 

「歩きながら狩る」

 

「療養中の人間を狩りに連れて行くな」

 

「歩かなくていい」

 

「歩かないでどうやって狩りに」

 

「デルタが運ぶ」

 

最悪の答えだった。

 

肩に担がれたことがある。脇に抱えられたことがある。襟首を掴まれて引きずられたことがある。全部危なかった。特に担がれた時は枝に額を強打した。

 

「その運び方が一番危ないんだよ」

 

「危なくない。やわらかく運ぶ」

 

「やわらかくって何だよ。荷物じゃないんだぞ」

 

「エロゲは大事な荷物」

 

「荷物扱いするな」

 

デルタの手が寝台の端を掴んだ。

 

掴んだ。

 

持ち上げようとしている。

 

「待て待て待て」

 

「歩く練習」

 

「これは歩く練習じゃない。運搬だ」

 

「運んで、森に着いたら歩く練習」

 

「森に着いた時点で狩りだろ」

 

「狩りの後、歩く練習」

 

「狩りが先にあるんかい」

 

寝台が浮いた。俺ごと浮いた。包帯が巻かれたまま天井が近づいていく。

 

「デルタ! 療養中! 療養中!」

 

「療養は森でもできる」

 

「できない! 寝台で安静にするもんだぞ!」

 

「寝台、持ってるから大丈夫」

 

寝台ごと持ち上がった。論理が破綻している。破綻しているのに説得力がある。寝台があるから療養ができるという理屈だ。間違っている。間違っているが反論の隙間が狭い。

 

「降ろせ! せめて窓から出るな! 扉があるだろ!」

 

「扉、狭い」

 

「寝台の幅なんだよ狭いってのは! 無理に通すな!」

 

デルタは扉の方へ向かった。一応聞いてはいる。聞いているが速度が落ちない。

 

包帯が風にはためいた。

 

俺の療養は、本日をもって終了となりました。

バレンタインで会うヒロインは

  • アルファ
  • ベータ
  • ガンマ
  • デルタ
  • イプシロン
  • ゼータ
  • イータ
  • ニュー
  • ウィクトーリア
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。