囮の実力者になりたくて!Return15 作:ボルメテウスさん
さて、問題です。
本日、俺は学校から帰っております。
そこで、日課のある事をしております。
なんでしょう。
そう、その答えは。
「我らはシャドウガーデン」
「なんじゃこりゃぁぁぁ!!」
我らはシャドウガーデンと名乗る変な奴らに追われている。
変な奴らだ。
黒い衣。顔を隠した覆面。腰には短剣。人数は四人。多すぎず少なすぎず。誘枴犯の適正人数としては平均的だ。俺の誘枠経験から言えば、三人は少なく五人は多い。四人は手頃だ。手頃なのが逆に怪しい。
「我らはシャドウガーデン。目撃者は消してもらう」
先頭の男が低い声で言った。声を低くしているが、中身が高い。若い。俺と同じくらいか。若い奴が変な衣を着て路地裏に立っている。同人誌即売会の会場と間違えているのか。
「目撃者って何を」
「お前が見たものを言うな。今ここで」
見たもの。俺が見たもの。何を見たんだ俺。学園からの帰り道。路地裏。理由は近道だから。近道をしたら黒衣の集団に出くばした。以上だ。
「何も見てないけど」
「嘘をつくな。我々の動きを見た」
動き。路地裏で四人が立っている動きを見た。確かに見た。だがそれを消す理由になるか。路地裏で立っているだけの人間を何人も消していたら王都の人口が減るぞ。
「お前の血についても知っている。大人しくしろ」
血。
来た。この単位だ。俺の誘枠は十割中七割がこの単位に関わっている。残り三割はデルタの狩りの巻き添えだが、今は関係ない。
「血について何を知ってるんだ」
「分析すれば全てが分かる。お前の力の源も」
力の源。源があるなら俺が一番知りたい。魔力はあるが出せない。蛇口の壊れた貯水槽。この例えを何人に言ったか覚えていない。
「正式な逮捕状はあるのか」
「・・・何?」
男が詰まった。詰まったのが見えた。
「連れていくなら逮捕状が必要だろ。それとも誘枴か」
「誘枴ではない。保護だ」
「保護なら本人の同意が必要だろ。同意してないぞ」
「目撃者は同意できない」
「じゃあ誘枴だろ」
男の言い分が破綻している。破綻しているが短剣は本物だ。本物の短剣を持った破綻した論理。誘枠の定番だ。
「移送先くらい教えろよ」
「教えられるわけがない」
「じゃあ乗らない」
「選択権はない」
「あるだろ。俺が歩かなきゃお前らは俺を運ぶことになる。運ぶのは大変だぞ。俺、重いし」
「・・・運べばいい」
「四人がかりで? 見っともないな」
男が短剣を構えた。構えたのが早い。だが踏み込みが遅い。遅い踏み込み。俺は半歩横へずれた。短剣が空を切る。
「逃げるな」
「逃げてない。避けただけだ。逃げるなら最初から路地裏に入ってない」
男がもう一度踏み込んだ。今度は二刀だ。もう一人が側面から来ている。挟み撃ち。教科書通りの動きだ。教科書通りすぎて読める。俺は壁際へ背を付けた。壁を背にすれば背面は取られない。
「壁を盾にするな」
「壁に文句言えよ。壁がそこにあるんだから俺が使うのは自然だろ」
短剣が壁を掠めた。石が一つ欠ける。欠けた石が俺の肩に当たった。痛い。だが当たっただけだ。切れていない。頑丈さだけは取り柄だ。
「お前、打たれても倒れないな」
男の声に少し焦りが混じった。焦りが聞こえて少し愉快だ。愉快ではないが、誘枠犯が焦るのは珍しい。俺の誘枠犯は大体冷静だ。冷静に俺を縛り冷静に運び冷静に監禁する。焦るのは素人だ。
「誘枠犯にしては段取りが悪いぞ」
「誘枴ではないと言っている」
「じゃあ何だ」
「保護だ」
「保護なら壁に短剣を当てるな。保護対象に石が飛ぶだろ」
男の歯が軋んだ。軋んだ音が聞こえた。俺は壁を背にしたまま荷車の方へ横歩きした。路地裏に放置された荷車。木製。古い。だが盾になる。
「荷車の裏に隠れるな」
「隠れてない。移動してるだけだ」
「移動と隠れの区別がないのか」
「ある。お前が見えない位置にいれば隠れ、見える位置にいれば移動だ。今は見えてるから移動だろ」
「見えてるが追えない」
「それお前の問題だろ」
三人目が荷車の反対側から回り込んできた。回り込みながら短剣を振る。俺は荷車の上に身を乗り上げて回避した。荷車の板が割れる。割れた板の破片が飛ぶ。俺の頬に木片が当たった。痛い。だが切れていない。
「荷車壊したな」
「壊してない。お前が壊した」
「お前が隠れたから壊れた」
「隠れてない。移動してるだけだろ」
同じ言い合いを繰り返している。繰り返している間に、四人目の男が背後に回ろうとしている。背後。壁がある。壁の裏には行けない。だが壁の横、路地の出口付近に見張りが立っている。見張りは動かない。動かない見張りは何のためにいる。逃走経路を塞ぐためだ。塞がれている。だが塞いでいるのは一人だ。一人なら隙がある。
四人目の足音が変わった。変わったのは気配だ。気配が変わった瞬間、俺は視線をそちらへ向けた。
暗がりから手が伸びた。
速い。短剣を持った手首を弾く音がした。乾いた音だ。短剣が石畳に落ちる。見張りの男が膝から崩れる。崩れる前に口を塞がれている。声が出ない。声が出ないまま倒れる。
ゼータだ。
白銀の髪が闇の中で一瞬だけ光った。光っただけで次はもう影の中にいる。見張りの男が壁に寄りかかった形で止まっている。気絶している。
ゼータの目が俺を捉えた。短く顎をしゃくった。
「こっち」
腕を引かれた。引かれるままに路地の脇道へ入る。脇道は狭い。二人並べない。ゼータが前、俺が後ろ。ゼータの足音がしない。俺の足音だけが響く。不公平だ。
背後で男の声が上がった。
「逃げた! 追え!」
追う声。だが足音がバラバラだ。バラバラな足音は追えない。連携が切れている。ゼータが連携を一つずつ断っていた。派手に戦わず、静かに一つずつ。
「右」
ゼータの声が前から来た。俺は右へ曲がった。曲がった先は建物の陰だ。陰を抜けて別の路地へ入る。追手の声が遠ざかる。
「左」
左へ曲がる。曲がって壁に張り付く。ゼータが俺の前に立つ。聞いていない。気配がない。俺の呼吸音だけが路地に響く。
追手の足音が遠い。遠いがまだ聞こえる。聞こえるが近づいていない。近づいていないなら逃げられた。逃げられたが。
「はぁ…はぁ…」
「走ると呼吸が荒れるね」
「走ってない。歩いてるだけだ」
「走ってた」
「お前に引っ張られてただけだよ」
ゼータが俺の腕を離した。離した後に、腕を見た。俺の腕だ。擦り傷がある。荷車の破片でついたやつだ。だが浅い。問題ない。
「攫われるよりいいでしょ」
ゼータが短く言った。
「攫われるのと走るの、どっちがマシかは時と場合によるだろ」
「時と場合」
「ああ。今回は走る方がマシだった。前回は攫われたまま壁を三枚抜いた方がマシだったかもしれない」
「前回はデルタだったね」
「デルタの時は比較対象が悪いんだよ」
ゼータが少しだけ口元を緩めた。緩んだだけで笑っていない。だが緩んだだけで分かる。分かるから腹が立つ。救出のたびに俺は腕を引かれて走る。ゼータに引かれて、デルタに担がれて、アルファに促されて。救出される側の移動手段は常に他人の腕だ。俺の足は飾りか。
「ゼータ」
「何」
「次は俺の足で歩いて帰りたい」
「歩いて帰れるなら攫われてない」
「・・・論理は正しいが悔しい」
「正しいならいい」
「よくない。正しいことと悔しくないことは別だ」
「同じ」
「違う」
「同じなの」
ゼータが俺の前に立ったまま動かない。動かないが目は周囲を確認している。耳が動いている。猫の耳だ。音を拾っている。拾っている間は俺の話を聞いていない。
「もう大丈夫か」
「大丈夫って何が」
「追手」
「いないだろ。さっきから声も足音も聞こえない」
「いないなら帰る」
「待て。もう少し息を整えさせてくれ」
俺は壁に背を預けた。冷たい石だ。石畳の冷たさが背中を通る。脈が戻ってきた。戻ってきた脈が早い。早いが落ち着き始めている。
「ゼータ。あいつら何だったんだ」
「偽者」
「偽者」
「本物のシャドウガーデンはあんな動きをしない」
本物のシャドウガーデン。本物がいるのか。シドの設定のはずの組織が本物なのか。いや、ゼータの言う「本物」はゼータたちのことだ。ゼータたちがシャドウガーデンだ。あいつらは偽者。偽者が「我らはシャドウガーデン」と名乗った。偽者が名乗った名前が、本物の名前と同じ。
「・・・名乗ってたな。あいつら」
「名乗ってた」
「俺たちの組織の名前を偽者が使ってた」
「使ってた。腹立つ」
腹立つ。ゼータが腹立つと言った。初めて聞く。ゼータは腹立つと言わない。言わない人間が言ったということは、腹立つ度合いが深い。深いが、俺にはそれ以上分からない。
「で、あいつらの目的は」
「エロゲの血」
「またか」
「また」
「俺の血、何がいいんだろな」
「分からない。でも知ってる奴がいる」
「誰」
「調べてる」
調べてる。調べている。だが教えてくれない。いつもそうだ。ゼータは調べているが、結果は出るまで言わない。
「ゼータ」
「何」
「次に来たら、もうちょっと派手にやってくれ」
「派手に」
「ああ。俺を腕引いて走るより、あいつらを腕引いて倒してくれ」
「・・・次は考える」
「考えるじゃなくてやってくれ」
「善処する」
善処。また善処だ。善処する奴は絶対に善処しない。シドで学んだ。ゼータでも学んだ。この組織の人間は善処の概念が破綻している。
「はぁはぁ、死にかけた」
「本当に毎回飽きないねぇエロゲは」
俺はなんとか息を整えながらも、ゼータに対してなんとか返答しながらも言う。
「というよりも、あいつらなんか言ってなかった?確か?」
「『我らはシャドウガーデン』だっけ?」
「・・・なんというかさ、言っても良い?」
「何?」
「ゾンビっぽいと思った」
「まぁ、なんとなく分かるけどさ」
そうしながらも、俺達はふと、路地裏を見る。
「そう言えば、結局、誘枴犯達は」
俺が疑問に思って、見つめた先で、悲鳴が聞こえる。
一体何が?
そんな答えの疑問に答えるように、ヒタリヒタリと水の音が聞こえる。
「・・・あのぉ、ゼータさん、一応聞くけど、敵?それとも味方?」
「・・・一応は味方」
そうして、現れたのは、まるで血染めの花嫁。
黒いスライムスーツに、血に染まった身体。
その手には、剣が持っており、何よりも見えたのは
「あぁ、エロゲさまぁ♡」
満面の笑みだった。
「・・・ゼータ」
「なんだい?」
「俺誘枴犯よりも怖いと思っているのは俺が馬鹿なのかな?」
「安心して、私も怖い」