囮の実力者になりたくて!Return15 作:ボルメテウスさん
縄で縛られたまま、俺は待っていた。
待つことには慣れている。誘枠されると待つ時間が一番長い。縛られて、運ばれて、監禁されて、待つ。待つことに関しては俺はプロだ。プロと言っても褒められないが。
誘枠犯たちは三人在室していた。目が合うたびに睨まれる。睨むことに関しても彼らはプロだ。誘枠して縛って、さらに睨む。サービス精神が旺盛すぎる。
「おい。あんた、本当に何もしないつもりか」
一人が声をかけてきた。短剣を腰に刺した男だ。
「何もしないよ。縛られてるし」
「縛られてても魔力は使えるだろ。お前の魔力は」
「使えないよ。蛇口が壊れてて」
「蛇口?」
「比喩だ。出せないんだよ」
「出せないのに攫われる側がのん気にしてるのは何だ」
「のん気じゃない。慣れてるだけだ」
「慣れてる? 誘枴に?」
「誘枴にな。月三回だ」
男の顔が引きつった。引きつり方が面白い。誘枴犯が誘枴被害者の経験値に引くとかっこいい話じゃない。
「月三回って…あんた何なんだ」
「何でもないよ。ただの体質だ」
「体質って誘枴されるのが体質か」
「そう。アレルギーみたいなもんだ」
「アレルギーはもっと深刻だろ」
「誘枴も深刻だよ。十分に」
男がもう一人の男と顔を見合わせた。見合わせた顔に「こいつ変だ」と書いてある。変なのは分かってる。だが変なのは俺じゃなくて俺の体質だ。体質のせいにするのは卑怯だが、こういう時は仕方ない。
「とりあえず大人しくしてろよ」
「してるよ。縛られてるし」
「縛られてても何かやりかねないからな。お前のその魔力は」
「やらないよ。出せないし」
「出せる時は出すんだろ」
「出す時は出すけど今は出さない」
「なんで」
「出せないから」
男がため息を吐いた。誘枴犯ため息。被害者のため息より誘枴犯のため息の方が珍しい。珍しいものを見た気がする。
三人の男が壁際で話し始めた。俺の方を見ながら小声で話している。声は聞こえないが、顔は見える。三人とも俺を睨んでいる。睨むことに関しては三人とも一級品だ。
(さて、どうするか)
縄は解けない。魔力は使えない。叫べば誰か来るかもしれないが、来た人間が助けるとは限らない。誘枴犯が来るだけかもしれない。誘枴犯が誘枴犯を呼んでどうする。
(待つか)
待つ。待つのが一番安全だ。安全だが退屈だ。退屈だが仕方ない。
俺は天井を見た。天井には亀裂がある。古い建物だ。亀裂が蜘蛛の巣のように広がっている。蜘蛛の巣を見ていると時間が潰れる。潰れるが、蜘蛛はいない。
(蜘蛛いたら怖いけどな)
蜘蛛のことを考えていた時だ。
床が揺れた。
揺れは小さくない。一揺れ二揺れ三揺れ。規則的だ。地震じゃない。地震は規則的じゃない。規則的な揺れは足音だ。
足音? いや、足音にしては揺れすぎている。建物ごと揺らす足音。人間の足音じゃない。だが人間だ。人間が歩いている。歩き方が重いだけで人間だ。
(来た)
俺の中で何かが察した。察したが頭で察したんじゃない。体が察した。体が「来た」と言っている。体が誰かを知っている。知っている人の足音だ。いや、足音じゃない。気配だ。
揺れが近づいてくる。近づいてくる気配がでかい。でかすぎる。建物が軋む音がする。壁に亀裂が広がる。天井の蜘蛛の巣が伸びる。
誘枴犯三人が同時に立ち上がった。立ち上がって入り口を見ている。入り口から何かが来る。何かが来るのが分かる。分かるから立ち上がった。
(誰だ)
体が察している。体は知っている。だが頭が追いついていない。追いつく前に扉が開いた。
開いたというより吹き飛んだ。
扉が蝶番から外れて廊下に滑り込む。木の粉が舞う。舞った木の粉の中を一人の人物が入ってきた。
金髪。青い瞳。背筋が伸びている。伸びているが目が冷たい。冷たいというか凍っている。凍っているというか絶対零度だ。
(アルファ)
来た。アルファが来た。来たが目が怖い。怖い目で俺を見ている。見ているというか睨んでいる。睨んでいるというか殺している。視線で殺している。
「・・・エロゲ。また誘枴されたの。こんな日に」
声が平らだ。平らすぎる。平らな声は怒りを乗せている。怒りを乗せているが怒鳴っていない。怒鳴らない怒りは怒鳴る怒りより怖い。
「・・・あ、ああ。またされた」
「また。またね。今月何回目?」
「・・・三回目」
「三回目。三回目か。そう。三回目」
三回言った。三回繰り返した。繰り返す時に目の温度が下がる。下がるたびに俺の背筋が凍る。
「アルファ。俺は」
「言わないで。言い訳は聞かない。今日は聞かない」
「聞いてくれないのか」
「聞かない。今日は聞かない。今日は特別に聞かない」
「特別って」
「特別に怒ってるから」
特別に怒っている。特別に怒っているアルファの目は絶対零度だ。絶対零度の目で俺を見ている。見られている俺は凍っている。凍っているが生きている。生きているのが不思議だ。
誘枴犯三人が動いた。動いたのは早い。短剣を抜く手が速い。三人が同時に抜いて同時に俺へ向かってきた。
俺は縛られている。縛られているので避けられない。避けられないがアルファがいる。アルファがいるから大丈夫だ。大丈夫だがアルファの目が怖い。怖いが大丈夫だ。
「邪魔」
一言。
一言で三人が吹き飛んだ。
吹き飛んだというか壁を突き破って外に出た。壁に穴が開く。三つ。人の形の穴が三つ。三人分の穴が開いて三人分の人間が外に出た。
静かになった。
部屋には俺とアルファだけだ。アルファはまだ俺を見ている。見ている目はまだ絶対零度だ。温度が上がっていない。
「エロゲ」
「・・・何だ」
「縄、解くわよ」
「・・・頼む」
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