囮の実力者になりたくて!Return15 作:ボルメテウスさん
生徒会選挙の為の演説を聴きながら俺の正直な感想としては早く寝たいというのが一番である。
アルファの1件以来色々と忙しい事もあったがそれ以上にトラブルには巻き込まれたくないというのが本音だからだ。
「んっ」
そんな俺の考えを余所にシドも演説を余所に暇潰しとトレーニングを兼ねてか手元にあるスライムの形を自在に変えていた。
正直、魔力があっても、魔力を使えない俺は羨ましい限りなんだが。
「どうしたんだシドまた変な事を思いついたのかよ」
「エロゲは僕の事をなんだと思っているんだい」
「厨二病」
「よし、その喧嘩、買ったっと言いたい所だけど、見てよこれ」
そうしながら、シドが見せたのはスライムではあったが、形がなかなか不安定な状態に見える。
けれど、それが何かと首を傾げる。
「それがなんだ?」
「いやぁ、さっきから魔力のコントロールがしにくいなぁっと思っていたんだ。一瞬だけ」
「なんじゃそりゃ」
「なんだろうねぇ」
そうやって、会話をしていると、校舎の方から爆発音が響いた。
「な、何が」
「何が起きたんだろうね」
そういって、シドはスライムをポケットに隠しながら、窓の方へと視線を向ける。
だが、俺も同じだ。何が起きたのか。
それはすぐに分かった。
校舎の方から、黒い覆面を被った男たちが溢れ出てきたのだ。
「テロリストかよ!」
「ふーん、テロリストか。ねぇエロゲ、僕、ドキドキしてる」
「何言ってるんだお前は。逃げるぞ」
そう言って、俺はシドの腕を引っ張ろうとしたが、その瞬間だった。
「皆さん、落ち着いてください」
その声が響いた瞬間、騒がしくなっていた講堂が一瞬で静まり返った。
生徒会長のローズだ。
何だあいつ、そんな静かに出来るのか。
そう思っていると、ローズはテロリスト達に向かって歩き出した。
「あなた達、学園に何の用でしょうか」
「ふん、生徒会長が来たか。丁度良い。我々は、この学園を乗っ取る」
「そうですか。それでは、お引き取り願えますか?」
「なっ、何だと! この余裕は!」
テロリストの一人が叫ぶ。
だが、ローズは表情一つ変えずに続ける。
「あなた達が来るのは分かっていました。だから、こうして待っていたのです」
そう言って、ローズが指を鳴らした瞬間、テロリスト達の足元から何かが這い上がってきた。
それは、見覚えのあるスライムだった。
「えっ」
俺の隣でシドが小さな声を上げた。
「スライム? いや、違う。これは…」
シドが何か呟くが、それ以上聞く暇もなかった。
スライムがテロリスト達を飲み込み、あっという間に彼らは動けなくなったのだ。
「終わりです」
ローズのその一言で、テロリスト達は全員気絶した。
「はっ、早くない?」
俺は思わず声を漏らした。
それもそうだ。テロリストが現れてから、倒されるまで十秒も掛かっていないのだ。
「…え、もう終わり?」
隣のシドが、がっかりしたような声を上げた。
「何だその反応。お前、テロリストが来てドキドキしてたのか」
「まぁね。だって、学園にテロリストが来るなんて、普通ないでしょ? ラブコメ漫画とかでも、こういう展開ってあるじゃん」
「あるかよ。ていうか、お前、テロリストにラブコメ展開を求めるな」
「でも、ローズ先輩かっこよかったよね」
「まぁ、それは否定しないが」
「ねぇエロゲ、あのスライム、あれ僕のと同じ種類かな?」
「知らん。お前が聞け」
「聞いたら目立つでしょ。モブは目立たないのが基本だからね」
「モブの基本とか知らんよ」
「知らないんだ。教えてあげようか?」
「いらん」
「遠慮しないで」
「いらんと言ってるだろ」
俺とシドがそんな会話をしていると、講堂がざわつき始めた。
テロリストが倒されたからだ。
「…あっという間だったな」
「うん。ちょっと、拍子抜けした」
シドが、頬杖をつきながら残念そうに呟く。
「何だその顔。期待してたのか」
「してないよ。ただ、もう少しドキドキしたかったなぁって」
「お前は何なんだ。テロリストに何を期待してるんだ」
「平和な日常を壊す何かを」
「壊すなよ」
「壊さないよ。壊れるのを眺めるだけ」
「壊れるのを眺めるのは、壊すのと同じだろ」
「同じじゃないよ。眺める側と壊す側は違うから」
「どこがだ」
「責任の所在が違うよ」
シドが、ニヤリと笑った。
「お前、それ、分かってて言ってるだろ」
「分かってないよ。ただの感想だよ」
「感想にしては、計算が見えすぎだ」
「見えてるなら、僕の意図通りだね」
「意図通りじゃない。俺のツッコミが増えるだけだ」
「それが良いんじゃない」
「良くない」
俺はため息を吐いた。
結局、テロリストもローズ先輩の力で一瞬で制圧され、学園は何事もなかったかのように静けさを取り戻した。
だが、俺の隣では、シドがまだ何かを考えているようだった。
「なぁシド」
「何」
「あのスライム、お前のやつと同じ種類なのか?」
「さぁね。でも、多分、同じだと思う」
「同じだとしたら、どうする」
「どうもしないよ。ただ、面白いと思っただけ」
「面白いって」
「だって、僕の手元で遊んでたスライムが、学園の防衛システムだったら、面白いでしょ?」
「面白くない」
「面白いよ」
「面白くない」
「面白いよ」
「面白くない」
俺とシドの言葉が、完全に噛み合わなかった。
だが、一つだけ分かったことがある。
学園には、俺が知らない何かが隠されている。
そして、シドはそれを知っている。
そう思った瞬間、俺はまた一つ、面倒なことに巻き込まれる予感がした。
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