囮の実力者になりたくて!Return15   作:ボルメテウスさん

42 / 42
ホラー再現

廊下を歩くこと、すでに十分程度。

 

正確には、歩いているのではなく、逃げているのだが。追っ手の足音が遠のいたところで、俺とニューは速度を落とした。

 

「…とりあえず、一旦どこか安全なところで状況を整理したいんですが」

 

「同意です。ですが、この区画は東棟の三階。テロリストの配置を考えると、西側非常階段が最短経路です」

 

「お前、この学園の見取り図、頭に入ってるのか」

 

「当然です。配属前に全棟の図面を暗記いたしました」

 

…こいつ、凄いな。配属初日で図面暗備済みとは。

 

俺なんか入学して三ヶ月経っても、未だに東棟と西棟を間違えるのに。

 

「…あぁ、うん。じゃあ西側非常階段に向かおう。ついでに、そこから出るまでの間、一応教室を回って避難遅れた生徒がいないか確認する」

 

「了解しました」

 

ニューが小さく頷く。俺たちは廊下を西へ向かって歩き出した。

 

静まり返った廊下。非常灯の薄緑色の光が、床に長く伸びている。俺たちの足音だけが、コツコツと響いた。

 

「…しかしまぁ、学園襲撃ってなぁ」

 

「はい」

 

「入学して三ヶ月でこれかよ。魔剣士学園って、こんなに危険なところだったのか」

 

「魔剣士を養成する機関ですので、相応の危険はつきものかと」

 

「いや、それにしてもだな。避難訓練一回もしてないだろ、この学園」

 

「しておりませんね」

 

「即答かよ」

 

即答だった。しかも少しも疑問に思っていない顔をしている。

 

(この子、本当に何も感じないのか)

 

俺たちは最初の教室の前に立った。扉は半開きになっている。

 

「…俺が見る。お前は廊下の警戒を」

 

「はい」

 

俺は扉に手をかけ、中を覗き込んだ。

 

教室は空だった。机と椅子が整然と並んでいる。特に異常はない。

 

「クリアだ。次」

 

「はい」

 

二教室目。空っぽ。三教室目も空っぽ。

 

(避難指示は機能してたってことか。まぁ、当たり前か。あれだけ騒いでりゃ誰だって逃げる)

 

四教室目。扉は閉まっている。

 

俺は扉に手をかけた。

 

押す。

 

重い。何かが、扉の向こう側で引っかかっている。

 

「…開かないな。鍵がかかってるか?」

 

「いいえ。物理的に何かが邪魔をしています」

 

ニューが、俺の横から手を伸ばして扉を少し押した。僅かに隙間が開く。

 

「…覗ける隙間はあります。エロゲ様、お気をつけて」

 

「あぁ」

 

俺は、その隙間から中を覗き込んだ。

 

……そして。

 

目が、教室の天井に行き止まった。

 

一瞬、何が見えているのか分からなかった。

 

ぶら下がっている。

 

天井から。

 

何かが、ぶら下がっている。

 

いや、何かじゃない。

 

男たちが、天井からつり上がっている。

 

血塗れで。

 

「!!??」

 

俺の喉から、言葉にならない音が飛び出した。

 

叫ぼうとした瞬間、ニューの手が俺の口を塞いだ。

 

「むぐっ!!」

 

「声を出さないでください。敵に位置がバレます」

 

「んぐ、んぐぐ!!」

 

俺は必死に顔を振った。ニューの手が離れる。

 

「あ、あ、あ、あ……」

 

「エロゲ様。呼吸を。落ち着いて」

 

「無理だろ!! あれ! 天井! 男たちが! ぶら下がってる!!」

 

「はい。確認しております」

 

「確認してんのかよ!! あれ普通にホラーだろ!! 心臓止まるかと思ったわ!!」

 

俺は扉から飛び退いた。背中が冷たい壁に当たる。心臓がバクバク言っている。

 

(何だあれ! 何だよあれ!! 天井から吊るされてるって何!! 人間ドーナツかよ!!)

 

「いや、待て。あれ、死んでるのか」

 

「おそらく気絶していますが、死んでいないかと」

 

「気絶してるだけかよ! じゃあなんで天井に吊るされてんだよ!」

 

「誰かが制圧したのでしょう」

 

ニューは、涼しい顔で言った。

 

「誰かって、誰が」

 

「分かりません。ですが、制圧の手法が洗練されています。素人ではない」

 

「洗練って、あの状況で洗練とか言うなよ。血だらけだぞあれ」

 

「血は多くありません。見た目より軽傷です」

 

「お前、あれを見て『見た目より軽傷』とか言えるのか」

 

「はい。実戦経験があれば判断できます」

 

俺は、改めてニューを見た。

 

眼鏡の奥の瞳が、静かに光っている。

 

(…こいつ、平気なんだ)

 

俺が腰を抜かしかけているのを、こいつは冷静に観察している。

 

「…お前、強いよな」

 

「護衛ですので」

 

「いや、護衛以前にお前、普通に怖くないのか」

 

「怖いです。ですが、今は状況把握が優先です」

 

ニューは、そう言ってから、ほんの少しだけ視線を落とした。

 

「…それに、エロゲ様が叫ばなかったら、私も叫んでいたかもしれません」

 

「…は」

 

俺は乾いた笑いを出した。

 

(なんだよそれ。お前だって怖いんかい)

 

でも、不思議と少しだけ、心臓の音が落ち着いた。

 

俺が叫びそうになった瞬間。

 

天井から、影が降ってきた。

 

「わぁっ!?」

 

ビクッと身体が跳ねる。ニューの手が反射的に俺の前に出る。

 

黒い影。スライムボディスーツに、長いコート。顔はフードで隠れている。

 

(…あぁ、この組み合わせ。見覚えがありすぎる)

 

「シャドウ様!」

 

ニューが驚愕に目を見開いた。

 

「もしかして、これはシャドウ様が!」

 

「おや、お気づきになりましたか」

 

低く、芝居がかった声。シドだ。いや、シャドウだ。ややこしい。

 

「やはり、貴方のお手並みだったのですね。完璧な制圧でした」

 

「ふふ、陰に潛み、陰を狩る者。敵の気配を感じ取り、このような場を用意するのも我の務め」

 

(用意するのも務めって何だよ。務めじゃねぇだろ。ていうか天井に男をぶら下げるのが務めなのか?)

 

シドが、天井を指差した。男たちが、ぐらぐらと揺れている。

 

「我が影の手により、敵は制圧済み。ご安心を」

 

「流石でございます。天井に吊るすとは、敵に恐怖を刻みつけるための演出でしょうか」

 

「その通り。恐怖こそが、敵を縛る最強の鎖なのだ」

 

ニューが、感心したように頷く。

 

(やめろ。信じるな。あいつの言うことを真に受けるな。あいつの言動に深い意味なんてない。あるわけがない)

 

俺は、こめかみを押さえた。

 

「…おい、シド」

 

「何かな?」

 

フードの奥から、笑いを含んだ声が返ってくる。

 

「なんでこんなことしてるんだよ」

 

俺はできるだけ小さな声で言った。ニューに聞こえないように。

 

「…ホラー映画を再現したくて、つい」

 

「…は?」

 

「天井に吊るされた死体。定番だろう? 前に君が話していた、あの作品の」

 

「あの作品ってお前、俺が暇つぶしに話しただけだろ! それを実践するなよ!」

 

「でも、なかなか迫力があったよ。天井に吊るすだけでも、結構映えるんだね」

 

「映えるとか言ってる場合か! 人が気絶してるんだぞ!」

 

「気絶してるだけだし。死んでないし」

 

「死んでないからいいって問題じゃねぇ!」

 

俺は床に額を擦りつけた。

 

「お前なぁ…」

 

(なんでだよ。何で俺の話を真に受けて実践するんだよ。お前のそういうところが一番怖いんだよ)

 

「エロゲ様?」

 

背中から、ニューの声が降ってくる。

 

「どうなさいました? 床に伏して」

 

「…いや、ちょっと色々とあってな」

 

「何か問題でも?」

 

「問題の塊が、目の前に立ってるよ」

 

俺は顔を上げた。シドが、心底楽しそうにこちらを見下ろしている。

 

「君もやりたかったら、次は君の番だよ」

 

「やらねぇよ! 絶対やらねぇ!」

 

「残念。君の演技力なら、もっと迫力のあるシーンが作れたのに」

 

「演技力じゃねぇ! 人間扱いしてやれ!」

 

ニューが、きょとんとした顔で首を傾げた。

 

「…お二人とも、仲がよろしいのですね」

 

「よくない」

 

「よくないね」

 

俺とシドが同時に否定した。

 

「えっ、そうでしたか? てっきり、深い信頼関係で結ばれておられると」

 

「誤解だ。こいつはただの変人だ」

 

「僕も、エロゲとは趣味が合わないんだ」

 

「趣味が合わなくてよかったわ…」

 

俺は立ち上がった。膝についた埃を払う。

 

天井の男たちは、まだ揺れている。

 

(ホラー映画を再現したくて、つい。つい、じゃねぇよ。ついで天井に人を吊るすな)

 

「…で、この後どうするんだ」

 

「とりあえず、ここを離れよう。敵の増援が来るかもしれない」

 

「じゃあ、さっさと移動するぞ」

 

俺は教室を出た。

 

背後で、シドの声がする。

 

「あ、エロゲ」

 

「何だよ」

 

「次は、床に埋めるシーンもやってみたいんだけど」

 

「やめろ!」

 

俺は全力で廊下を走り出した。

 

(こいつ、本当にいつか本気で怖いことしそうだ)

 

背後で、ニューの声が聞こえる。

 

「シャドウ様、床に埋めるというのは、具体的にどのような手法で…」

 

「あぁ、それはね」

 

「やめろぉぉぉ!!」

 

俺の絶叫が、廊下に響き渡った。

バレンタインで会うヒロインは

  • アルファ
  • ベータ
  • ガンマ
  • デルタ
  • イプシロン
  • ゼータ
  • イータ
  • ニュー
  • ウィクトーリア
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

絶対的な強者になりたくて!(作者:稲荷狐心)(原作:陰の実力者になりたくて!)

『天上天下唯我独尊』▼何にも縛られることなく、何人も敵うことのない▼そんな絶対的な強者に憧れた少年がいた。▼死して尚目指し続けたその先で▼陰の実力者を目指す少年と出会う。▼教団の存在を知って保護者枠になるオリ主ばかりだったので、シド並みに気楽なオリ主ぶち込みました。▼※オリ主はシドと同レベルのおバカなので教団とか信じてません▼★四章完結しました▼☆お気に入り…


総合評価:1964/評価:8.53/連載:48話/更新日時:2026年07月07日(火) 20:00 小説情報

色んな人の脳を焼きすぎて重い感情を向けられてる余命僅かなホロウレイダーの終活(作者:如月トッポ)(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

ただただカッコいい技、カッコいい武器に脳を焼かれ、それらを求め戦闘をしまくっていた厨二病の一般ホロウレイダーピーポーのオリ主君。▼だが武器の代償故に寿命が尽きそうになり……▼「そろそろ寿命尽きるんよな~」▼「………は?」▼てな感じでどこぞのプロキシのおかげもあり色んな人との繋がりがあるので終活を……、▼と思っていたが、カッコいい技で助けられたり、なんらかで脳…


総合評価:1487/評価:7.18/連載:10話/更新日時:2026年10月24日(土) 21:46 小説情報

夢のエージェントとなって(作者:RE・RIDE)(原作:陰の実力者になりたくて!)

無敵のエージェント:ゼッツに憧れる少年は陰の実力者とともに異世界で夢を叶える⋯▼Become your dream agent "ZEZTZ’’▼I'm on it⋯


総合評価:329/評価:8.67/連載:19話/更新日時:2026年10月25日(日) 00:00 小説情報

サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(作者:ボルメテウスさん)(原作:ハイスクールD×D)

駒王学園中等部に転校してきた宮本武蔵の子孫の宮本絶花には幼馴染みがいた。▼幼い頃から、王様になる事を目指しており、悪魔の駒の原型と言われた神器『王国の駒』の所有者であり、太郎。▼彼ら2人が、駒王学園に転校してきた事によって、様々な波乱が起きるかもしれない。▼こちらの活動報告にて、様々な事を募集しています。▼皆様の応募、お待ちしています。▼https://sy…


総合評価:587/評価:6.22/連載:866話/更新日時:2026年10月25日(日) 00:00 小説情報

絶対防壁の転生者は平穏に暮らしたい(作者:雨風 時雨)(原作:魔法科高校の劣等生)

「――お兄様、ごめんなさい。私はこの方をお守りします」▼攻撃力最低の二科生(ウィード)として入学した転生者・御守漣。彼の目的はただ一つ、原作に関わらず平穏に卒業すること。▼しかし、過去に偶然『深雪の命を救ってしまった』せいで、氷の美姫から狂おしいほどの愛と庇護を向けられ、結果的にシスコンの極みである『司波達也』からガチの殺意を向けられるハメに!?▼最強の矛(…


総合評価:3718/評価:7.16/連載:18話/更新日時:2026年10月05日(月) 02:30 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>