囮の実力者になりたくて!Return15   作:ボルメテウスさん

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魔力爆発

「ってわけで、まぁ、あの辺りは僕が適当に撒いておくから」

 

シドが、窓の縁に腰掛けながら、どこまでも軽い調子で言った。

 

俺はといえば、ベッドに寝転がったまま、天井を眺めている。

 

適当にって。適当にどうするんだよ。

 

だが、今の俺には、その言葉に反論する気力も残っていなかった。

 

「……なぁ」

 

「ん?」

 

シドが、こちらに顔を向ける。窓から差し込む夕日が、やけに橙っぽい影を落としている。

 

「強欲の瞳ってさ、吸収すると爆発するんだよな」

 

「まぁ、聞いた話だとそうなるね」

 

シドは、窓の外をちらりと見ながら、当然のように答えた。

 

聞いた話って何だよ。お前、いつ聞いたんだよ。

 

だが、そこを突っ込む気力もない。

 

「……それに、今、俺の魔力が吸収された訳だよね」

 

「そうだね。一度発動すると止められないかもしれないね」

 

シドの視線が、窓の外に戻る。その横顔に、表情らしい表情はない。

 

俺は、天井から視線を外さずに言った。

 

「……つまりさ、今って、結構ヤバくない」

 

「ヤバいね」

 

即答だった。

 

間が一切ない。

 

こいつ、本当に分かって言ってるのか。

 

俺は、ゆっくりと上体を起こした。

 

「……そんでさ」

 

「うん」

 

「今更気付いたんだけどさ」

 

俺は、窓の外を指差した。

 

シドの視線が、俺の指先を追う。

 

「あそこに体育館、赤く光ってない」

 

「」

 

シドが、窓から身を乗り出した。

 

「うわぁ、凄い光だねぇ」

 

「感心してんじゃねぇよ」

 

俺は、窓の縁に手をついて、外を覗き込んだ。

 

学園の敷地の向こう側。体育館の屋根が、まるで炉の中のように赤く発光している。

 

あれ、間違いなく爆発するやつだ。

 

「……爆発しそうじゃない」

 

「するねぇ」

 

シドが、にこりと笑った。

 

「お前、笑ってる場合か」

 

「笑ってないよ。光が綺麗だなと思っただけ」

 

「綺麗って、お前」

 

俺は、こめかみを押さえた。

 

頭の中で、何かがチクチクと音を立てている。

 

(あの体育館、爆発したら学園、半分飛ぶだろ)

 

「……なぁ」

 

「何かな」

 

「あれ、止められないのか」

 

「止められないね。僕の手には負えないかな」

 

「お前、手、負えないのな」

 

「うん。魔力吸引の暴走は、専門外なんだ」

 

「専門外って。お前、何が専門なんだよ」

 

「陰の実力者だよ」

 

「それ、何でもありじゃねぇか」

 

シドが、窓から離れて、両手を広げた。

 

「何でもありじゃないよ。陰に潛むことだけだよ」

 

「じゃあ、今、潛めよ」

 

「潛んでるよ。君の隣に」

 

「それ、潛むって言わない」

 

俺は、ベッドに倒れ込んだ。

 

天井が、やけに近い。

 

「……死ぬのかな、俺たち」

 

「どうかな。爆発まで、あとどれくらいだと思う」

 

「訊くなよ。答えろよ」

 

「十分……いや、五分くらいかな」

 

「短っ」

 

五分って何だよ。五分で何ができるってんだ。

 

「……逃げるか」

 

「逃げるね。それが一番だね」

 

シドが、窓枠に足をかけた。

 

「……お前、いつの間に窓に」

 

「さっきからずっと」

 

こいつ、いつもそうだ。

 

いつの間にか窓にいて、いつの間にか消えていて、いつの間にか何かをやらかしている。

 

俺も、ベッドから這い出した。

 

「……で、どっちに逃げる」

 

「裏山の方がいいかな。遮蔽物が多いし」

 

「遮蔽物って、木だろ。あそこ」

 

「木も立派な遮蔽物だよ」

 

「立派じゃねぇよ。爆発したら木なんて紙切れだ」

 

「じゃあ、岩陰は」

 

「岩陰か。まぁ、木よりはマシか」

 

「木よりはマシ、か。切ないねぇ」

 

「切ない場合か」

 

俺たちは、窓から身を乗り出した。

 

体育館の赤い光が、少しずつ強くなっている。

 

(……あと五分か)

 

五分で、学園が消える。

 

俺の魔力が原因で、学園が消える。

 

何もしてないのに。

 

ただ、そこにいただけで。

 

「……なぁ、シド」

 

「何かな」

 

「これって、俺のせいかな」

 

「君のせいじゃないよ。強欲の瞳のせいだよ」

 

「でも、俺の魔力が吸収されたからだろ」

 

「吸収した側の問題だよ。君は吸収されただけだ」

 

「吸収されただけって。被害者だろ俺」

 

「そうだね。被害者だね」

 

シドが、窓から飛び降りた。

 

二階だ。普通なら怪我をする。

 

だが、こいつは着地音もさせずに、草の上に降り立った。

 

(化け物か)

 

俺も、窓から顔を出して、下を覗き込んだ。

 

「……降りるのか」

 

「降りるよ」

 

「足、折れないか」

 

「折れないよ。デルタの狩りに付き合わされたから」

 

「お前、それを俺のせいにしてないか」

 

「君のせいじゃないよ。デルタのせいだよ」

 

「デルタのせいにするな。あいつに何されるか分からんぞ」

 

「大丈夫だよ。あの子、僕のことは襲わないから」

 

「何でだよ」

 

「可愛がってるからかな」

 

「……お前、それ、言ってる意味分かってるか」

 

「分かってるよ。可愛がられてるんだよ」

 

「いや、そういう意味じゃ」

 

「さ、行こうか。五分はあっという間だよ」

 

シドが、手を振った。

 

俺は、ため息と共に、窓から飛び降りた。

バレンタインで会うヒロインは

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