囮の実力者になりたくて!Return15 作:ボルメテウスさん
学園の裏手。木漏れ日が揺れる小道を、俺たちは歩いていた。
今日は入学式前の日。明日からは魔剣士学園の生徒だ。
…正直言うと、まだ実感がない。
「はぁ…」
深いため息が口から漏れる。
「どうしたの? エロゲ。入学前からもう気落ちしてるの?」
隣を歩くシドが、相変わらず気の抜けた声で訊いてきた。
「違うよ。ただ、明日から忙しくなるなぁと思ってさ」
「ふーん」
シドは興味なさそうに鼻歌交じりで返した。
(こいつ、本当に俺のこと何とも思ってないな…)
「それでさ、これからどうする?」
「どうするって…」
俺は眉をひそめた。
「どうするって言われてもな。俺たちはただの入学予定の生徒だぞ。できることは限られてる」
「まぁそうだね」
シドは、どこまでも他人事のように頷いた。
「でも、まずは状況把握だよね。学園の中を少し見て回るか」
「そうだな。あいつら、どこまで手を伸ばしてるか分からんし」
「うんうん。分からないことがあると落ち着かないよねぇ」
「分かってるくせに、他人事みたいな言い方すんなよ」
「僕はただの一般人だし」
「お前が一番黒いんだよ」
俺たちは、のんきに会話しながら歩いていた。
すると。
「おやおや、珍しい。お前たち、ここで何をしているんだ?」
小道の先に、一人の男が立っていた。
全身を分厚い鎧で包んだ、大柄な男。兜の奥から低い声が響く。
「えっと、散歩ですかね」
俺はとりあえず答えた。
(誰だ、この人。どこかで見たような…いや、見てないか)
鎧の男は、俺を見下ろした。兜の奥の目は見えないが、何かを確かめるようにじっと見つめている気がした。
「ふむ。明日からこの学園の生徒か」
「はい、そうですが…」
「貴殿は…」
男は、俺の横にいるシドに目を向けた。
「カゲノー家の次男坊か。相変わらず鎧の似合わぬ顔をしているな」
「あはは、お久しぶりです」
シドが、軽く頭を下げた。
(おい、この人知ってるのか?)
俺は横目でシドを見た。
シドは、何でもないことのように微笑んでいる。
「貴様も、明日から生徒か。期待しておるぞ」
「はい、よろしくお願いします」
鎧の男が、満足そうに頷いた。
「ふむ、良い目だ。苦労せぬと良いがな」
「苦労した方が面白いんですけどね」
「ふふ、そうか。では、楽しみにしておる」
男は、大股で去っていった。
「…なぁ、シド」
「何かな」
「今の人、誰だよ」
「学園長だよ」
「は?」
俺は素で固まった。
「学園長って、あの鎧の人?」
「うん」
「何で鎧着てんだよ」
「それが彼のスタイルらしいよ」
シドは、当然のように答えた。
「スタイルって…」
「色々あるんだよ、この世界は」
「いや、学園長が鎧着てる世界って何だよ」
「強いんだよ、あの人。剣の腕も半端ないし」
「へぇ、すげぇな」
「まぁね。でも僕よりは弱いかな」
「は?」
俺は思わず聞き返した。
「今、何て言った」
「何かな」
シドは、けろっとした顔で首を傾げた。
(こいつ、本当に言ったのか? 学園長より強いとか)
「おいシド、今の言葉、撤回しろ」
「撤回しないよ。事実だから」
「事実だとしても言っちゃダメだろ。壁に耳あり障子に目ありって知らないのか」
「この世界に障子ないよ」
「例えだよ! …まったく、お前は本当に」
俺はため息をついた。
「で、副学園長は何をしに来てたんだろうな」
「さぁね。多分、鍛錬かな」
「鍛錬か。道理で鎧着てるわけだ」
「まぁ、あの人鎧がないと不安みたいだし」
「それ、副学園長としてどうなんだ」
「個性だよ、個性」
シドが、軽く笑った。
「色々な人がいる方が楽しいでしょ」
「楽しいって言うか、理解不能って言うか…」
俺は頭を抱えた。
(明日から、こんな学園に通うのか…)
不安と期待が入り混じった気持ちで、俺は空を見上げた。
「ま、頑張るしかないか」
「うん、頑張ろう」
シドが、いつもの調子で頷いた。
その横顔を見ながら、俺はこっそりため息をついた。
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