囮の実力者になりたくて!Return15   作:ボルメテウスさん

46 / 46
説教タイム

「……というわけで、戻ってまいりました」

 

正座の上、両手を膝に置いて、俺は目の前に立つ金髪のエルフを見上げた。

アルファだ。

腕を組み、青い瞳が俺をじっと見下ろしている。

その表情は、静かだ。静かすぎる。

(やばい。これ、説教モードだ)

 

「……」

 

「……」

 

沈黙が流れる。

シャドウガーデンの基地の一室。壁面の魔力灯が淡い光を投げかけている。

俺の膝が、硬い床の上で痛くなり始めていた。

 

「……エロゲ」

 

「はい」

 

「何があったか、正確に聞かせて」

 

アルファが口を開いた。声は落ち着いている。落ち着きすぎている。

(来た。説教の入口だ)

 

「いや、だから、報告書は——」

 

「報告書は読んだわ。要点だけ言いなさい」

「要点だけ」

「要点だけ」

隣から、眠そうな声が割り込んだ。イータだ。

椅子に座り込み、手元で何かをいじっている。茶色の髪の下の半開きの瞳が、ぼんやりと俺を見ていた。

 

「要点って、えっと、テロリストが襲撃してきて、逃げて、体育館が赤く光って、爆発しそうで、でもなんか止まって、で、今ここにいる、です」

「……端的すぎる」

アルファが、こめかみを押さえた。

「ちょっと詳しく」

「テロリストが学園を襲撃して、強欲の瞳で魔力を吸おうとしたけど、俺の魔力が規格外で機能が停止して、だから俺を排除しようとして追いかけてきて、逃げてたらシドに助けられて、ここに戻りました」

「……それは報告書と同じ内容ね」

「あれ、頑張って要約したんだけど」

「要約になってないわ」

 

アルファが、ため息をついた。

長い、深いため息だ。

 

「エロゲ。一つ聞くわ」

「はい」

「なぜ、避難指示に従って、指定の避難場所に行かなかったの」

「あ、それは——」

「あれはだな」

言い淀む俺の横から、イータが手元の物を持ち上げた。

「……これ」

「ん?」

俺の視線が、イータの手元に向いた。

金属の枠に、宝石のような中央核が嵌め込まれた、掌大の遺物。

強欲の瞳。

「……回収した。学園長室の隠し扉から」

「お前、いつの間に」

「ゼータと。……隙間に」

イータは、あくびをした。

「で、見て。……内部に残留魔力」

強欲の瞳を、俺の目の前にかざす。

中央の核が、薄く発光していた。

青白い光が、脈打つように明滅している。

「これ……俺の魔力か?」

「はい。……エロゲの魔力、大量。……規格外、だから全部吸えなかった。残った分が内部に残留」

イータが、指で核を軽く叩いた。

光が、ぶるっと震える。

「面白い。……通常は吸収完了後、残留ゼロ。でもエロゲのは、許容量超過で逆流。……逆流した魔力が核に凝結して、残留している」

「凝結って、爆発とかしないのかよ」

「しない。……今は。でも、外部からの魔力供給で臨界超えると……爆発」

イータが、眼鏡の奥で目を細めた。

「つまり、まだ爆発する」

「……可能性はある。だから回収した。……安全な場所で管理する必要」

「管理ってお前がするのか」

「私がする。……研究対象でもある」

「やっぱりそうくるか」

 

俺はため息をついた。

(あの体育館の赤い光、これが原因か)

 

「で、エロゲ」

アルファが、再び俺を見た。

「強欲の瞳が停止したのは、あなたの魔力が原因。つまり、あなたが学園にいたから、襲撃の本懐は失敗した。それは分かったわ」

「はい」

「でも」

アルファの声が、半音低くなった。

「なぜ、窓を突き破って逃げたの」

「……え?」

「避難指示が出た後、建物内に留まるのが基本よ。なのに、あなたは窓を突き破って離脱した」

「いや、テロリストが襲ってきたから——」

「避難指示が出る前でしょう。あなたが窓を割ったのは」

「あ……」

言い返せなかった。

確かに、避難指示が出る前に窓を割った。テロリストが襲ってきたから逃げたのだが、時系列で言えば避難指示が先だった。

 

「窓の修理費用、学園に請求されてるわ」

「請求!?」

「あなたが割った窓。当然でしょ」

「いや、でもあれは緊急避難で——」

「緊急避難の定義に、窓の破壊は含まれてないわ」

「厳しい……」

「当然よ。風紀委員長に報告されてるから」

「シェリー先輩!? あの人まで!?」

「ええ。窓を割った生徒の名前を、既に提出してあるわ」

「マジかよ」

俺は顔を覆った。

明日の入学式、その前に説教と窓の修理請求。

(何の入学式だよもう)

 

「で、体育館の件」

「ああ、あれは……止まったんだよな? 爆発」

「今のところ、残留魔力の凝結は安定してる。外部からの供給がなければ、爆発しないわ」

「ほっ」

「でも、強欲の瞳を回収したから、再起動される可能性はある」

「はぁ!?」

「本体がなくても、残留魔力だけで周囲から再吸収を始めるかもしれない。……だから、管理が必要なの」

イータが、強欲の瞳を丁寧に箱に納めた。

「この箱は魔力遮断。……中の残留魔力は漏れない。……安全」

「お前、そういうの用意いいんだな」

「いつでも回収できるように。……教団のアーティファクトは、全て回収対象」

イータが、眠そうな目で箱を撫でた。

(この子、やっぱり普通じゃないな)

 

「……で、エロゲ」

アルファが、再び俺を見た。

「また言いたいことがあるの」

「何ですか」

「反省してる?」

「……してます」

「してないわね」

「してます」

 

「目が泳いでる」

「泳いでない」

 

「泳いでる。……エロゲ、正直に言いなさい。自分が原因で学園が襲撃されたこと、どう思ってる」

「……正直に?」

「正直に」

俺は一瞬、口をつぐんだ。

アルファの青い瞳が、真っ直ぐに俺を見据えている。

(正直に、か)

正直に言えば。

「……俺のせいじゃない」

「は?」

アルファが眉を上げた。

「強欲の瞳が俺の魔力を吸おうとしたのが悪いのであって、俺がそこにいたのが悪いわけじゃない。被害者だろ俺」

「……え」

「だってそうだろ。俺はただ走ってただけで、何もしてない。魔力を持ってるだけで何もしてないのに、吸収されて機能停止して追っかけられて。完全に巻き込まれただけの被害者」

「……」

 

アルファが、絶句した。

隣でイータが、ふにふに頷いている。

 

「……エロゲの言い分、一定の理屈はある。……論理的には被害者」

「イータ。あなたは黙ってて」

「はい」

「でも! 論理的に被害者でも、現実的にあなたの存在が原因で事態が起きたのは事実よ。最低限の自覚は持ちなさい」

「自覚……」

「あなたの魔力が規格外なのは分かってる。でも、それを理由に無茶をするのは——」

「無茶って何もしてないんだけど」

「窓を割ったでしょ」

「あれは緊急避難で——」

「さっきも言ったわね。緊急避難の定義に窓の破壊は含まれてない」

「厳密すぎないかその定義」

「厳密よ。ルールは守るためにあるの」

「はぁ……」

 

俺はがっくりと肩を落とした。

(何もしてないのに説教されるって、どういうことだよ)

 

「……あと一つ」

「まだあるんですか」

「報告書に、あなたが天井に吊るされた男たちを見て叫んだ、と書いてあるわ」

「あれは……まぁ、叫んだというか、驚いたというか」

「叫んでるわよ。報告書には『絶叫』って書いてある」

「絶叫って。大げさすぎないか」

「事実でしょ」

「事実だけどさ……あれはシドがやったことであって——」

「シドが? シャドウがやったの?」

アルファの目が細くなった。

(まずい。シドのこと話しちゃったか)

 

「あ、いや、その、天井に吊るすのは、えっと、シャドウガーデンの戦術の一つで——」

「戦術」

「はい。敵に恐怖を刻みつけるための、心理的——」

「誰が考えたの、そんな戦術」

「えっと……」

 

俺は視線を逸らした。

アルファの視線が、俺の逃げ道を塞いでいる。

(助け舟出せよシド……あれ、いないし)

「エロゲ」

「はい」

「正直に言いなさい。天井に男を吊るしたのは、何のため」

「……ホラー映画を再現したくて」

 

俺は、小さな声で言った。

沈黙。

アルファが、こめかみを押さえている。

イータが、寝そうな目を擦っている。

 

「……ホラー映画」

「はい」

「再現したくて」

「はい」

「天井に男を吊るした」

「……はい」

「あなた、頭大丈夫?」

「大丈夫です。正常です。たぶん」

「たぶんって何」

「たぶん正常です」

「……」

 

アルファが、深いため息をついた。

長い沈黙の後、ゆっくりと口を開く。

「エロゲ。あなたは今日一日で、窓を割り、学園を襲撃され、天井に男を吊るし、体育館を爆発寸前に追い込み、報告書を雑に書いた」

「待ってください、報告書は頑張って書いたんです」

「要約だったわよ。あれは」

「要約じゃなくて——」

「要約。……ねえエロゲ、あなた本当に自分が何をしたか分かってる?」

「分かってます。被害者です」

「……もういいわ」

 

アルファが、手を振った。

「今日はもう下がっていい。明日の入学式に遅刻しないように」

「はい」

「あと、窓の修理費。今月中に払いなさい」

「えぇ……」

「文句なし」

「……はい」

 

俺は、正座から立ち上がった。膝がジンジリと痛い。

(何もしてないのに、説教と修理費。堪ったもんじゃない)

 

「エロゲ」

「はい」

「一つだけ」

「何ですか」

「無事でよかった」

 

「……」

 

アルファが、背を向けた。

金髪が揺れる。

「何があっても、生きて帰ってきなさい。それだけは、忘れないで」

 

「……あぁ。ありがとう」

 

俺は、部屋を出た。

廊下に立つと、息を吐き出した。

(生きて帰ってきなさい、か)

何もしてないのに説教されて、修理費を請求されて、でも最後にあの言葉。

あいつ、やっぱり——

「……エロゲ」

 

後ろから、眠そうな声が追いかけてきた。

イータだ。

「何」

「強欲の瞳……見せてあげたかった」

「見せてくれたよ。爆発するって」

「うん。……でも、あの中のエロゲの魔力、綺麗だった」

「綺麗?」

「青白い光。……脈打つ感じ。生きてるみたいだった」

「……俺の魔力が生きてる」

「うん。……研究、楽しみ」

イータが、にへらりと笑った。

眠そうな顔の、初めて見る笑みだった。

 

「……お前、変な奴だな」

「寝る。……おやすみ」

イータが、ふらりと廊下の奥へ消えていった。

(変な奴)

 

俺は、一人残された廊下で、天井を見上げた。

(何もしてないのに、疲れた)

バレンタインで会うヒロインは

  • アルファ
  • ベータ
  • ガンマ
  • デルタ
  • イプシロン
  • ゼータ
  • イータ
  • ニュー
  • ウィクトーリア
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

絶対的な強者になりたくて!(作者:稲荷狐心)(原作:陰の実力者になりたくて!)

『天上天下唯我独尊』▼何にも縛られることなく、何人も敵うことのない▼そんな絶対的な強者に憧れた少年がいた。▼死して尚目指し続けたその先で▼陰の実力者を目指す少年と出会う。▼教団の存在を知って保護者枠になるオリ主ばかりだったので、シド並みに気楽なオリ主ぶち込みました。▼※オリ主はシドと同レベルのおバカなので教団とか信じてません▼★四章完結しました▼☆お気に入り…


総合評価:1963/評価:8.53/連載:48話/更新日時:2026年07月07日(火) 20:00 小説情報

少年転生~異世界来たので戦います~(作者:異界に夢馳せる影見石)(原作:無職転生)

ルーデウス・グレイラットの双子の弟「アルヴィス・グレイラット」のお話。▼※オリジナル要素および他作品要素が多分に含まれています▼※現実世界に対する独自解釈が含まれると思われます▼※タグは順次追加する予定です。▼◆タグに書ききれなかった分↓▼転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます▼ワンピース ワンピ ONEPIECE▼ゼルダの伝説ブレスオブザワイ…


総合評価:679/評価:7.5/連載:35話/更新日時:2026年10月26日(月) 18:00 小説情報

色んな人の脳を焼きすぎて重い感情を向けられてる余命僅かなホロウレイダーの終活(作者:如月トッポ)(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

ただただカッコいい技、カッコいい武器に脳を焼かれ、それらを求め戦闘をしまくっていた厨二病の一般ホロウレイダーピーポーのオリ主君。▼だが武器の代償故に寿命が尽きそうになり……▼「そろそろ寿命尽きるんよな~」▼「………は?」▼てな感じでどこぞのプロキシのおかげもあり色んな人との繋がりがあるので終活を……、▼と思っていたが、カッコいい技で助けられたり、なんらかで脳…


総合評価:1493/評価:7.11/連載:10話/更新日時:2026年10月24日(土) 21:46 小説情報

夢のエージェントとなって(作者:RE・RIDE)(原作:陰の実力者になりたくて!)

無敵のエージェント:ゼッツに憧れる少年は陰の実力者とともに異世界で夢を叶える⋯▼Become your dream agent "ZEZTZ’’▼I'm on it⋯


総合評価:333/評価:8.67/連載:19話/更新日時:2026年10月25日(日) 00:00 小説情報

能力だけのコミュ障なんです(ガチ)(作者:枕オバケ)(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

転生してアニメのキャラの能力を使えたため強かったけど、メンタルは貧弱でコミュ障な主人公が勘違いされたりする話。▼「本当にコミュ障なだけなのに……能力が強いだけなのに……絶大な期待をされてる…」▼「はぁ……辛い。嫌われてたらどうしよう……あぁ、辛い」▼↑こんな感じです▼


総合評価:843/評価:7.19/連載:9話/更新日時:2026年10月25日(日) 21:46 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>