囮の実力者になりたくて!Return15 作:ボルメテウスさん
午後の日差しが、カーテンの隙間から差し込んでいた。
シャドウガーデンの客室。
一人用の部屋だが、家具は揃っている。机、ベッド、小さな棚。
俺はベッドに横たわり、天井を見上げていた。
何もする気力がない。
さっきまでアルファに説教されていたせいだ。
(窓の修理費…。どう工面しよう)
そう考えながら、ぼんやりしていると。
コンコン。
ノックの音が響いた。
「はい」
「失礼いたします」
静かな声と共に、扉が開いた。
銀髪のエルフ。
ベータだ。
手には、トレイ。
飲み物と軽食が乗っている。
「エロゲ様、お疲れではありませんか」
「ああ、まぁな」
俺は上体を起こした。
ベータが、部屋に入ってくる。
足音は静かだ。
「お茶をご用意いたしました。よろしければ」
「ありがとう」
トレイを受け取ると、湯気がふわりと上がった。
香りが鼻をくすぐる。
(いい匂いだな)
「最近、あまりご自分を労わっていらっしゃいませんので」
「いや、そんなことないけど」
「アルファ様から伺いました。学園の襲撃で、無茶をなさったと」
「無茶ってほどじゃ——」
「窓を割ったそうです」
「…」
(どこまで筒抜けなんだよこの組織)
「窓の修理費は、学園から請求されております。お支払いのご予定は」
「ちょっと考えさせてくれ」
「はい。お支払いの目処が立ちましたら、報告書をお願いします」
「報告書まで必要かよ」
「当然です。経費精算の流れになりますので」
ベータが、すっと椅子に座った。
机越しに、俺を見る。
青い瞳が、真っ直ぐだ。
(この子も、真面目だな)
「エロゲ様」
「何だ」
「本日は、ご用件が二つございます」
「二つ?」
「一つ目は、お茶と軽食の差し入れ。二つ目は——」
ベータが、小さな紙袋を取り出した。
「私からの贈り物です」
「贈り物?」
「はい。学園入学のお祝いに」
「お祝いか。ありがとう」
俺は紙袋を受け取った。
中には、ハンカチが入っていた。
白地に、青い刺繍が施されている。
「可愛くないかもしれないですが」
「いや、充分可愛いよ。ありがと」
「よかった」
ベータが、ほっとしたように微笑んだ。
その表情を見て、俺はふと疑問に思った。
「なぁ、ベータ」
「はい」
「俺に、そこまでしてくれる理由は何だ」
「理由、ですか」
「ああ。俺はただの後始末係だろ。組織の宝とか、そんな大層なものじゃない」
「……」
ベータが、視線を落とした。
長い沈黙。
やがて、彼女は顔を上げた。
「エロゲ様は、自覚がないのですね」
「自覚?」
「はい。あなたがどれだけの方か」
「どれだけ、って」
「シャドウガーデンの皆が、エロゲ様に救われたこと。それを、あなたは知らない」
「知ってるよ。俺はただ魔力を分けただけで——」
「魔力を分けただけ、ではありません」
ベータの声が、少しだけ強くなった。
「あなたは、私たちに居場所をくれました。生きる理由をくれました。それを、ただの後始末係、などと言わないでください」
「…」
(居場所、か)
「俺は、ただ話を聞いただけだよ」
「それが、私たちにとっては救いだったのです」
「…」
俺は、黙ってお茶を啜った。
温かい液体が喉を通り抜ける。
「ありがとう」
「はい」
「このハンカチ、大事にするよ」
「はい。学園で、お役に立てば」
ベータが、にっこりと笑った。
その笑顔を見て、俺はふと思う。
「えっと、それでだ」
「はい」
「本日のご用件、本当は贈り物だけじゃないんだろ」
「お気づきでしたか」
「お前がそこまで真面目な顔でハンカチを差し出す時は、十中八九頼み事がある」
「まぁ。鋭いですねエロゲ様」
「鋭くない。分かりやすすぎるだけだ」
ベータは膝に置いた手を、わずかに握りしめた。
視線が揺れる。
いつもの冷静な報告役の顔じゃない。
「…聖地リンドブルムへ行くことになりました」
「リンドブルム?」
「はい。王都郊外にある聖地です。七陰の任務の一環として、向かうことになりました」
「へぇ。大変だな」
「ええ。ですが、一人で行くのは心細くて」
ベータが、上目遣いに俺を見た。
(あ、これ頼み事の顔だ)
「で、俺に何か?」
「同行していただけませんか」
「は?」
「エロゲ様。聖地リンドブルムへ、一緒に行ってください」
「ちょっと待て。俺が行く理由あるのか」
「あります」
「あるの?」
「はい。私の護衛として」
「いや、俺戦えないんだけど」
「戦わなくて大丈夫です。ただそばにいてください」
「それ護衛って言わなくないか」
「私の心の支えになります」
「精神的な意味か」
「はい。エロゲ様がいるだけで、心強いのです」
ベータが、じっと俺を見つめる。
青い瞳が真剣だ。
(お前、本気で言ってるよな)
「リンドブルムって、確か宗教の聖地だろ。面倒なことにならないか」
「大丈夫です。私は観光に行くわけではありませんので」
「任務だよな」
「はい。情報収集が主目的です」
「情報収集か。それなら俺が行く理由は」
「ありません」
「即答かよ」
「ですが、エロゲ様が一緒だと、心強いのです」
「だから、精神的な意味って言っただろ」
「はい。それで充分です」
ベータがにっこりと笑った。
その笑顔を見て、俺はため息をついた。
(断れないな。この顔で頼まれると)
「…分かった。行くよ」
「本当ですか」
「ああ。ただし、一つ条件がある」
「条件?」
「任務中に俺を危険な目に遭わせないこと」
「もちろんです」
「それと、任務が終わったら、ちゃんと休ませること」
「はい。全力でおもてなしいたします」
「おもてなしって」
「はい。聖地リンドブルムには美味しい名物もありますし」
「名物か。楽しみだな」
「はい。エロゲ様のために、最高の旅にしてみせます」
ベータが、嬉しそうに頷いた。
その顔を見て、俺はふと思う。
(この子、本当に嬉しそうだな)
「ありがとう。エロゲ様」
「あぁ」
「では、出発の日程は追ってご連絡します」
「分かった」
ベータが、立ち上がった。
部屋を出ていく直前、彼女は振り返った。
「エロゲ様」
「何だ」
「私のこと、信じていただけますか」
「当たり前だろ」
「…はい」
ベータは、静かに微笑んでから、部屋を出ていった。
残された俺は、湯気の上がるお茶を見つめながら呟いた。
「聖地リンドブルム、か」
(何が待ってるか分からないけど、まぁ、行ってみるか)
そう思いながら、俺はお茶を啜った。
温かい液体が喉を通る。
(平和だといいな)
窓の外では、午後の日差しが穏やかに揺れていた。「えっと、それでだ」
「はい」
「本日のご用件、本当は贈り物だけじゃないんだろ」
「お気づきでしたか」
「お前がそこまで真面目な顔でハンカチを差し出す時は、十中八九頼み事がある」
「まぁ。鋭いですねエロゲ様」
「鋭くない。分かりやすすぎるだけだ」
ベータは膝に置いた手を、わずかに握りしめた。
視線が揺れる。
いつもの冷静な報告役の顔じゃない。
「…聖地リンドブルムへ行くことになりました」
「リンドブルム?」
「はい。王都郊外にある聖地です。七陰の任務の一環として、向かうことになりました」
「へぇ。大変だな」
「ええ。ですが、一人で行くのは心細くて」
ベータが、上目遣いに俺を見た。
(あ、これ頼み事の顔だ)
「で、俺に何か?」
「同行していただけませんか」
「は?」
「エロゲ様。聖地リンドブルムへ、一緒に行ってください」
「ちょっと待て。俺が行く理由あるのか」
「あります」
「あるの?」
「はい。私の護衛として」
「いや、俺戦えないんだけど」
「戦わなくて大丈夫です。ただそばにいてください」
「それ護衛って言わなくないか」
「私の心の支えになります」
「精神的な意味か」
「はい。エロゲ様がいるだけで、心強いのです」
ベータが、じっと俺を見つめる。
青い瞳が真剣だ。
(お前、本気で言ってるよな)
「リンドブルムって、確か宗教の聖地だろ。面倒なことにならないか」
「大丈夫です。私は観光に行くわけではありませんので」
「任務だよな」
「はい。情報収集が主目的です」
「情報収集か。それなら俺が行く理由は」
「ありません」
「即答かよ」
「ですが、エロゲ様が一緒だと、心強いのです」
「だから、精神的な意味って言っただろ」
「はい。それで充分です」
ベータがにっこりと笑った。
その笑顔を見て、俺はため息をついた。
(断れないな。この顔で頼まれると)
「…分かった。行くよ」
「本当ですか」
「ああ。ただし、一つ条件がある」
「条件?」
「任務中に俺を危険な目に遭わせないこと」
「もちろんです」
「それと、任務が終わったら、ちゃんと休ませること」
「はい。全力でおもてなしいたします」
「おもてなしって」
「はい。聖地リンドブルムには美味しい名物もありますし」
「名物か。楽しみだな」
「はい。エロゲ様のために、最高の旅にしてみせます」
ベータが、嬉しそうに頷いた。
その顔を見て、俺はふと思う。
(この子、本当に嬉しそうだな)
「ありがとう。エロゲ様」
「あぁ」
「では、出発の日程は追ってご連絡します」
「分かった」
ベータが、立ち上がった。
部屋を出ていく直前、彼女は振り返った。
「エロゲ様」
「何だ」
「私のこと、信じていただけますか」
「当たり前だろ」
「…はい」
ベータは、静かに微笑んでから、部屋を出ていった。
残された俺は、湯気の上がるお茶を見つめながら呟いた。
「聖地リンドブルム、か」
(何が待ってるか分からないけど、まぁ、行ってみるか)
そう思いながら、俺はお茶を啜った。
温かい液体が喉を通る。
(平和だといいな)
窓の外では、午後の日差しが穏やかに揺れていた。
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