囮の実力者になりたくて!Return15   作:ボルメテウスさん

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犬に置いて行かれる

「来たです!!」

 

真っ白い空間にも関わらず、デルタの雄叫びと共に周囲が震えた。

 

デルタを中心に、地面に亀裂が入ると共に、そのまま瓦礫が浮かび上がっている。

 

黒髪をなびかせて両腕を広げたデルタは、鋭い牙を覗かせ、口元を大きく吊り上げた。

 

見開いた瞳が青白く輝き、両手を覆う黒い装甲からは、獣を思わせる巨大な爪が伸びている。

 

その爪に絡みつく蒼い魔力が炎のように噴き上がり、宙を舞う瓦礫を照らしていた。

 

「・・・これは、凄いわね」

 

それを隣で見ていたアウロラは思わず呟いてしまう。

 

「凄いのか?」

 

「えぇ、さっきも言ったと思うけど、この聖域では常に魔力が吸われているわ。故に、本来ならば魔力はほとんど使えないはずなのに、あなたとキスした瞬間にわんちゃんの魔力がとんでもない事になっているわね」

 

そうしていると、アウロラがそっと俺に近づくと、デルタは殺気を込めた目で睨んでいた。

 

「魔女、エロゲに近づくな。デルタは、まだ信じていないのですよ」

 

「あら、酷いわ、私は別に嘘は言っていないのに」

 

「エロゲは魔力を沢山持っているから。だから、お前がエロゲを狙っているはず!」

 

「エロゲ、アルファ様の匂いがするのです!」

 

 背後の殺気を一身に受けていたというのに、デルタの耳がぴくりと跳ねた。牙を剥いていた口元が、ぱっと笑顔に変わる。その切り替えの早さに、俺とアウロラは同時に瞬きをした。

 

「え、どこ?」

 

 問いかけるよりも速く、黒い尻尾がしなやかに空気を裂いた。

 

「あっちなのです! 行くです、エロゲ!」

 

 「待て」と言う間もなく、デルタの手が俺の腕を掴む。指先の力は鉄鎖のように強固で、抗う余地は最初からなかった。地面を蹴った衝撃で足元の白い床が波打ち、視界がぐらりと傾ぐ。

 

「ちょ、待てデルタ、遅すぎ──」

 

 一歩、二歩。デルタの身体能力は常識の範疇を完全に踏み外している。世界が白い残像として背後へ流れ、言葉が喉の奥で砕け散った。

 

「……あら」 

 

 置いていかれたアウロラの声が、遠い井戸の底から響くように小さくなる。

 

 気づいた時には、俺の視界には伸びる一本の白い通路と、その先に跳ねる黒い尻尾しか映っていなかった。

 

「……速いわねぇ、本当に」

 

 取り残されたアウロラは、宙に浮く瓦礫を指先で弾いた。蒼い魔力の欠片がぱちりと音を立てて砕け散る。

 

 彼女は小さく首を傾げ、視線を横へ滑らせた。デルタが連れ去った方向には、何の痕跡も残っていない。完全に気配を消して疾走したのだ。さすがは七陰第四席、といったところか。

 

 指先の魔力が消え、静寂が戻ってくる。

 

「さて」アウロラは肩をすくめた。「置いて行かれちゃったわね、私たち」

 

 彼女の口元には、困ったような、それでいてどこか楽しそうな笑みが浮かんでいた。白い空間に、彼女の赤い瞳だけが鮮やかに彩りを添えている。

 

「……追いかけますか? それとも」彼女は踵を返し、通路の逆方向へ視線を向けた。「先に出口を探してみましょうか。彼なら、きっと無事に合流してくれるでしょうし」

 

 そう言って、彼女は歩き出す。長い黒髪が、白い空間に一筋の影を引いた。

 

 アルファたちの匂いを追うデルタの背中と、出口を探ろうとする魔女の背中。

 

 二つの背中が、白い空間の中で逆方向へ遠ざかっていく。

 

「……さて、どうしましょうか」

 

 アウロラの声だけが、空っぽの通路に涼やかに響いた。

バレンタインで会うヒロインは

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