囮の実力者になりたくて!Return15 作:ボルメテウスさん
白い空間に、無数の影が並んでいた。
「──三十六体。さっきの三十体から増えたわね」
アルファは冷静に数を確認しながら、金色の髪を白い気流に揺らしていた。黒いスライムスーツに包まれた身体は微かな魔力の光を纏っているが、その光は本来の輝きに比べれば蝋燭の火ほどにも満たない。この聖域が常に魔力を吸い上げ続けているせいだ。
七陰第五席イプシロンが、細いスライムソードを構えたまま阿爾ファの背中へ視線を送る。水色のツインテールが苛立ちを含んで揺れた。
「アルファ様、このままではジリ貧でございます。この空間の魔力吸収機能を破壊しない限り、分身は減りませんわ」
「ええ、わかっているわ」
相手はネルソン。ディアボロス教団の研究者であり、戦士ではない。本来なら七陰の一人であれば造作もなく制圧できる相手だ。だがこの聖域はネルソンにとっての庭であり、侵入者から魔力を吸い上げ、自身の力へと変換する機能を掌握していた。
七人のネルソンが一斉に手を掲げた。白い光の筋がアルファたちを襲う。
「散開!」
アルファの号令に応じ、シャドウガーデンのメンバーが左右へ飛び散る。アルファ自身も床を蹴り、光の軌道を紙一重で掠めた。吸い込まれる魔力の感覚が肌を刺す。減っていく。また減っていく。
──これでは、いつまで経ってもジリ貧だわ。
「アルファ様!」
イプシロンの声が響く。見れば、彼女のスライムソードがネルソンの分体一体を切り裂いていた。だが切り裂かれた身体は白い光の粒子となって霧散し、すぐさま新たな分体が空間の裂け目から湧き出してくる。
「再生まで十九秒。前より四秒も短くなっています」
イプシロンの報告に、アルファは舌を鳴らした。
ネルソンは研究者だ。戦士ではない。それゆえに、自らの手で戦うことを最初から放棄している。聖域の機能に頼り切り、分身を量産し、その数で押し潰す。最も賢く、最も卑怯なやり方。
「クックック……どうです? 私の新しい力の仕組みは。あなた方がどれほど腕に覚えがあろうと、ここでは私が絶対的なのですよ!」
白い法衣を纏ったネルソンが高笑いを上げた。それと同じ顔が三十以上、空間のあちこちで不気味に微笑んでいる。その光景は異様としか言いようがなかった。
──彼は、今どこにいるのかしら。
アルファの思考に一瞬だけエロゲの顔がよぎった。デルタと共に走り去った彼と、あの魔女アウロラ。無事であることを祈るしかない。
ネルソンたちがアルファの停滞を見て取ったのか、再び手を掲げた。
ふいに「──来たです!!」
白い空間が、揺れた。
遠くから叩きつけてきた衝撃に、ネルソンの分体が一斉によろめく。アルファは脚を止め、音の来た方向へ振り向いた。
黒い残像が白い通路を駆け抜けてくる。長い黒髪を風のように振り乱し、両手を覆う黒い装甲から蒼い魔力の炎を噴き上げながら、デルタが一直線にこちらへ向かってきている。その瞳は青白く輝き、牙を覗かせた口元には戦意の笑みが張り付いている。
「デルタ!?」
アルファが思わず声を上げた。だが即座に気づいた。いつものデルタではない。纏っている魔力の質が、次元が違う。あれは──
「エロゲの魔力…?」
ネルソンたちが迎撃しようと手を掲げる。しかし遅い。デルタの一撃は、既に音速を超えていた。
黒い爪が空間を裂くように振り抜かれ、ネルソンの分体三体が横並びになったまま光の粒子となって爆散した。残った衝撃が白い床を波打たせ、アルファの金髪を激しく煽る。
「な──馬鹿な! 聖域の魔力吸収が追いついていないだと!?」
ネルソンの本体──恐らく最も後方に控えていた一体──が驚愕に目を見開いた。
「何だお前は! その魔力は──」
「デルタは、魔力をもらったのです!」
デルタが吠えた。その声は喜びに満ちている。ネルソンが何かを叫ぼうとした瞬間、デルタの巨大な爪がもう一度振り抜かれた。
白い空間そのものが裂けたような一撃だった。
ネルソンたちの視点からは、理解すら追いつかなかっただろう。アルファにせよイプシロンにせよ、あの速度であの出力を完全に制御できる者は七陰の中でもデルタただ一人だ。
ネルソンの本体ごと吹き飛ばされた衝撃が白い空間を縦横に駆け抜け、ネルソンの分体たちが一斉に砕け散った。光の粒子が嵐のように舞い上がり、白い空間に雪のように降り注ぐ。
「……やった?」
イプシロンが剣を下ろし、目を丸くした。
アルファは目を細めたまま、舞い上がる光の粒子の向こう側を凝視する。デルタは着地の勢いのまま床を削り、そのままの勢いでこちらへ振り返った。牙を覗かせた笑顔が、満足げに緩んでいる。
「デルタ!」
アルファが声を上げた。デルタがばっと顔を輝かせて駆け寄ってくる。その勢いに、アルファは思わず半歩退いた。
「アルファ様!彼も一緒なのです!」
「彼も? あの魔女と一緒にいるの?」
「魔女は違うのです!でも、無事なのです!」
デルタは胸を張った。アルファは小さく息を吐く。
──無事なら、それでいい。
白い空間に、デルタが降り立った。
ネルソンたちが生み出した分体たちの残骸が、まだ光の粒子となって漂っている。その中心に、黒いスライムスーツを纏った小柄な影が、膝を深く曲げて着地した。
床が亀裂を走らせ、蜘蛛の巣状に白い破片が浮き上がる。デルタの瞳は青白く燃え、両手を覆う黒い装甲から蒼い魔力が炎のように噴き上がっていた。
アルファは瞬時に理解した。あの体勢、あの魔力の収束の仕方。見覚えがあった。いつだったか、と記憶を探る暇もなく、背筋が凍りつく。
「──アイ!」
デルタの口から、低く力強い声が漏れた。周囲の空気が震え、浮いていた瓦礫が一斉に静止する。
アルファの瞳孔が、一気に収縮した。
「──下がりなさい!」
鋭い号令が響くより早く、イプシロンがアルファの腕を掴んで跳躍した。シャドウガーデンのメンバーたちも反射的に距離を取る。ネルソンたちの分体が何事かと混乱し、動きが鈍った。その判断の遅さが致命的だった。
「──アム!!」
デルタの身体が沈み込み、足元の床がさらに深く陥没した。魔力の奔流が、彼女の全身から噴き出す。聖域の魔力吸収機能がそれを捕えようと蠢いたが、到底追いつく速度ではない。規格外の魔力が、一気に圧縮されていく。
「──アトミック!!」
雄叫びと共に、デルタが跳躍した。
次の瞬間、白い世界が反転した。
閃光が視界を焼き尽くし、衝撃が世界そのものを内側から叩き割った。音が消えた。
バレンタインで会うヒロインは
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アルファ
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ベータ
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ガンマ
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デルタ
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イータ
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ニュー
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ウィクトーリア