キュゥべえから「契約した記録のない魔法少女」の調査を依頼され、見滝原市を訪れる。
そこでココが出会ったのは、謎の魔法少女「暁美ほむら」と、途方もない因果を秘めた少女「鹿目まどか」だった。
映画を見てまどマギが書きたくなって書きました。
続きは考えてないですが、好評だったら続くかもしれません。
この世界には、魔法少女と呼ばれる存在がいる。
それは少女の願いと引き換えにこの世に生まれ落ち、この世に呪いをまき散らす魔女を倒す希望の存在。
呪いは人が多いほどよく生まれる。
国の首都―――ここ東京も例にもれない。
国内最大の人口が集まるこの大都市では、その煌びやかさと忙しなさの裏側におびただしい呪いを内包している。
日が西に沈みかけて、真っ赤に染まった空の下。
路地裏の暗闇を少し進めば、異空間へ繋がる扉がある。そこでは、決して明るみにはならない希望と絶望の戦いが巻き起こっていた。
「そっち行ったぞー!!」
「分かっている!」
四人の魔法少女が魔女と戦っていた。
格好も武器もそれぞれ違う四人だが、見据える敵は一体。
『鉄路の魔女』
数多のレールと駅が折り重なったような空間の中を、超高速で移動するムカデのような魔女だ。
身体は列車でできているように見えるが、窓や扉から人間の腕が生えている。
しかもいたるところに目や口のようなペイントがあり、それらは生きているかのようにギョロギョロと蠢いていた。
ランスを持った一人の魔法少女が標的になったようだ。
雄たけびを上げた鉄路の魔女は、電車のブレーキ音のような不愉快な音を鳴らしながら身体についた無数の腕を動かして魔法少女に突進する。
だが、その隙を残りの三人は見逃さない。
大きな斧を携えた魔法少女が、その長い身体を分断するべくその斧を振り下ろす。
だが、それは失敗に終わってしまう。身体に無数の目を持つ鉄路の魔女には、死角などないのだ。
大きな腕を振り回すと、斧持ちの魔法少女を吹き飛ばしてしまう。
「ぐぅッ!!」
双剣と銃を持つ残り二人も果敢に攻めようとするも、空気が抜けるような音と共に魔女の体から人間のような形をした使い魔が飛び出してくる。
「このッ!」
「どいて!」
二人が使い魔に足止めされているのを尻目に、鉄路の魔女は最初の標的に向かって真っ直ぐ突き進む。
おとりになった魔法少女は、逃げ切るのは無理だと判断して手に持つ大きなランスを魔女に向けて構えた。
逃げられないのなら、捕まる前に相手の速度も利用してこちらから貫く。
経験豊富だからこそ出来る咄嗟の判断だ。彼女の固有魔法は『突破』の性質を持ち、魔女の結界だろうと魔法で出来た障壁だろうとなんでも突破できる。自分ごと魔女に突貫するのはリスクを伴うが、今回はやるしかないと判断したのだ。
ランスの魔法少女が振り返り、突進してくる魔女に向けて同じく突進を行う。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
二人の距離が近づいていく。
魔女の先頭車両とランスの穂先。その二つがぶつかるかと思われたとき―――
魔女の先頭車両が四つに裂けた。
「えっ?」
ランスの魔法少女が呆気にとられる。それが彼女の、最期の言葉となった。
花のように開いたそれは、真っ赤でびっしりと鋭い牙を携えた口であった。
魔法少女の体が射程圏内に収まった瞬間、魔女の口が金属質な音を立てて元のように閉じる。
と同時に、肉が潰れ骨が砕けるような音が結界内に響く。ガラスが砕けるような音も遅れて聞こえ、魔女の体にある煙突からはブシュッと血が噴き出した。
「そんな・・・」
残された魔法少女の一人、双剣を持つ魔法少女が呆然として呟く。
そのつぶやきに反応したのか、新たな標的を定めた魔女がその体を鉄でできているとは思えないほど柔軟に反転させて双剣の魔法少女に突進を始めた。
「いやぁぁぁぁぁぁッ!?」
腰を抜かしてへたり込む双剣の魔法少女。彼女はこのチームで最も経験が浅く、いつもフォローされてばかりだった。
魔女に対して矢面に立った経験が少ないことと、頼りにしていたチームメイトが死んだことでパニックを起こしたのだ。
「ねぇッちょっと!?クソッ」
銃を持つ魔法少女は手に持った拳銃から魔力で出来た弾丸を乱射するも、魔女の鉄の体に弾かれる。
銃の魔法少女は自分だけ避けるか、一か八か腰を抜かした双剣の魔法少女を抱えて逃げるか迷い、そして後者を選んだ。
仲間の死を経験したことも一度や二度ではないベテランの魔法少女だったが、自分を慕う少女を見捨てることができるほど非情にはなりきれなかった。
それが命運を分けてしまった。
腰を抜かした少女を抱え、ギリギリで回避しようとした銃の魔法少女。だが、魔女の体はグルンと回転し、その腕で二人を捕まえてしまう。
銃の魔法少女はなんとか双剣の魔法少女を腕から逃すが、代わりに自分は複数の腕で押さえつけられて魔女の体のドアに押し込められる。
何とか出ようと藻掻く魔法少女だったが、体が少しだけ出た状態でドアが閉まる。
ドアの縁はギロチンの刃のように鋭かった。
バチンと閉じられたドアから外に出ていた両腕と武器である銃だけが落ちていき、残りの体は魔女の体内にいる使い魔たちに襲われることになった。
瞬く間に閉じられたドアの窓から見える車内は真っ赤に染まり、窓も真っ赤に塗られたことで遂には何も見えなくなった。
「あ・・・あ・・・」
恐怖でへたり込み、口をパクパクとさせることしかできない双剣の少女に魔女が向き直る。
そこに駆け付けたのは先ほど吹き飛ばされた斧の魔法少女だ。
「春奈立ちな!死ぬよ!」
「みどりさん・・・でも私・・・」
みどりと呼ばれた斧の魔法少女は、仲間を失ったことに対する怒りと悲しみで顔を歪めながらも、残った後輩だけでも守ろうと奮起する。
死んだ二人はほとんど同時期に契約し、二年近く一緒に戦ってきた仲間だった。
本当なら自分もへたり込んで泣きたかった。だが、長年の経験と後輩の存在が彼女を未だ気高い魔法少女たらしめる。
「私たちは魔法少女!こういうことだってあるの!でも戦い続けないといけない!それが使命だから!・・・でも、春奈にこいつの相手は早すぎた・・・!私が囮になるから逃げなさい!他の魔法少女に頼って、必ず私たちの仇を取って・・・!」
「うぅ・・・いやっ・・・だぁ」
後輩魔法少女―――春奈は、涙を流しながらへたり込んだままだ。ずっと頼りになると思っていた先輩が、呆気なく死んでしまった。その恐怖を乗り越えるには、こんな短時間では足りないだろう。
だが。
「立て!あんたは生き残る!絶対に!」
みどりは喝と同時に春奈を掴んで結界の出口へとぶん投げた。
結界は広大なため出口にはつかなかったが、魔女からは少し離れた場所に着地する。
春奈は何とか立ち上がると、ひたすらに結界内を走り続けた。
そのとき春奈の体を動かしていたのは死への恐怖か、それとも先輩の喝故か。
どちらもという方が正しいだろう。
「うおおおおお!」
「ああッ!?」
「クッ!?」
「いやッ待ってッ・・・!」
「あぁぁぁぁ―――!」
後ろから聞こえてくる戦闘音と、先輩の悲鳴に聞こえぬふりをしながら春奈は一心不乱に走り続ける。
一駅。
二駅。
三駅。
そして出口があるはずのそこには―――
『終点』の看板。
「・・・え?」
そして、出口も何もない大広間だった。
甲高いブレーキ音が迫ってくる。
恐る恐る振り返った春奈の前には、鉄路の魔女が停止していた。
その口をグニャァと歪め、魔女が春奈を殺そうとして―――
「おお?一人生き残ってたか」
そこには、新たな少女が現れたのだ。
その少女は、魔法少女なのだろうか。
首に巻かれた金色の襟巻きに縫い付けられた無数のグリーフシードは、彼女が魔法少女の関係者であることを示唆していた。
中学3年生である春奈よりもずいぶんと小柄で、おそらく中学生くらいに見えるが、小学生と言われてもギリギリ信じられるだろう。
タンポポの綿毛を思わせるようなふっくらとして透き通った白髪に、大きな赤色の瞳。
服装は白を基調としたゆったり目のつなぎのようだ。小さな宝石がボタンのように散りばめられている。つなぎは肘と膝上の部分で絞ってあり、一見すると活発に見える。
足首の部分に金属製のアンクレットをつけているが、裸足だった。それも活発な印象を強めていた。
総じて、魔法少女には見えない。
だが。
鉄路の魔女が春奈に襲い掛かるついでに、無数に生える腕の一本を使いその新たな少女を薙ぎ払おうとした時。
「俺をついでみたいに扱うんじゃねーよ」
その少女は危なげなく腕を避け、その胴体に尋常でない威力の蹴りを叩き込んで見せたのだ。
魔女の巨大な体が数メートル横にずれるほどの威力だった。
魔女が初めて、悲鳴めいた声を上げる。
執着の性質を持つ魔女だったが、死の危険を感じたのか標的を春奈からその新たな少女に変更したようだ。
唸り声をあげて、新たな少女に突進を開始する魔女。
それに対して、少女は特に気負うこともなくタッと駆け出した。
「本日三体目・・・まあパッと終わらせる!」
数十秒間轟音が響いた後、結界が崩壊し始める。
そこにあったのは、全身がボコボコに破壊され体が崩れ始めている鉄路の魔女と、その上で呑気に伸びをしている少女の姿だった。
「あ、そうだ。おーい、大丈夫か?」
その戦いを眺めていることしかできなかった春奈に対して、少女は声をかける。
「どうして・・・」
「あん?」
「どうして、そんなに強いのにもっと早くに来てくれなかったの・・・!?」
春奈には、少女が仲間を救えたのではないかと思わずにはいられなかった。
実際、春奈たち四人でかかっても目の前の少女に返り討ちにされるほどに力の差はある。
一度は心が限界を迎え、急に安全地帯に戻された春奈にとって、もしこうだったら、を考えて現実逃避することしか平静を保つ手段がなかったのだ。
「そりゃ夕飯食ってたからだなぁ。勘違いするなよ。お前が助かったのは運が良かっただけ。俺が助けたわけじゃねぇ。たまたま、お前が魔女に殺される前に俺が魔女を狩ったってだけだ」
だが少女にとって、そんな事情は知ったことではなかった。いつもの魔女退治をして、たまたまそこに助けられた人がいただけなのだ。
「そんな・・・!あなたが皆に協力してくれれば、もっと多くの人が助かるんじゃないの!?私の先輩たちも、きっと・・・!」
「それは知らん。弱いから死んだってだけだろ。死ぬ覚悟がないなら、最初から魔法少女なんてやるべきじゃない。それよりお前、ソウルジェムが濁ってるぞ。一回だけグリーフシード使わせてやろうか」
少女の物言いに春奈は傷ついたような表情をすると、キッと少女を睨んで言った。
「いらない。私の仲間をそんな風に言うやつの施しなんて受けないから」
「あっそ」
少女は興味を無くしたように踵を返すと、限界を迎えたかのように崩れ落ちて嗚咽を漏らす春奈を背に数歩だけ歩いて―――
背後から突如としてあふれ出した呪いと魔力に少しだけ笑いながら振り返る。
「四体目か。なんか今日調子いいじゃん」
新たに現れた魔女が自分に襲い掛かるのを眺めながら、少女は何でもないかのように呟いた。
「やあココ。グリーフシード集めの調子がいいようだね」
深夜。ひときわ高い塔の上から、眠らぬ都のガラスとコンクリートの摩天楼からあふれ出る無数の光を眺めていた少女に、声をかける者がいた。
「うげー」
「何もそんなに嫌そうにしなくたっていいじゃないか」
すべての魔法少女の生みの親、キュゥべえである。
ココと呼ばれた少女もまた、多少特殊ではあるがキュゥべえが関与することで生誕することになったのだ。
「まあ、グリーフシード集めの調子はいいけどな。ここはいい縄張りだ!一日に三回はグリーフシードを落とす魔女と出会える。今日の収穫は10個!魔女は多少強いが、まあ俺が気にするようなことじゃないし」
「それは良かった。ここは契約する魔法少女の母数は多いけど、魔女も強いせいで魔女になる前に殺されてしまう方が多かったからね。強くなり過ぎた魔女を君が間引いてくれるのはこちらとしても助かっているよ」
そう、ココにこの縄張りを提案したのはキュゥべえだった。
人口が多いため、魔法少女の素質を持つ少女も多い。故に魔法少女は多いが、それはつまり魔女も多くなるということ。そして人口が多いため、魔女の餌も膨大だ。魔女の成長速度が早すぎて、ベテランと呼ばれる領域に到達する魔法少女が少ないのだ。
その辺の都市にいるような通常の魔女とは比べ物にならない強さと数。
魔女が活発化する夕暮れ時から夜にかけては、一瞬の油断が死を招くようなまさしく魔境と呼ぶべき惨状になっていた。
そんな中、その状況を重く見てキュゥべえが連れてきたのが彼女───ココだ。
実力ある魔法少女が死に、主人がいなくなった良い狩場を自分の縄張りにしていたココ。
普通ならいくら強くても一人の魔法少女がカバーできる範囲に限界があるが、ココに関してはそれが当てはまらないのだ。
着実に縄張りを増やしていくココに対し、キュゥべえはバランスをとるためにこの場所を紹介した。
君が今持っている縄張りを他の魔法少女に返す代わりに、東京の縄張りの主になって欲しい、と。
強い魔女が犇めく東京で、なかなか死なないココが死んで欲しいという意図もないわけではなかったが、それはキュゥべえにとってココのある特殊な事情によりそこまで重要視するべき事案ではなかった。
結果的にキュゥべえの提案は上手くいき、互いにWIN-WINな関係に落ち着いている。
魔法少女と魔女の真実。
それら全てを知った上で、ココとキュゥべえは利害によるビジネスライクな関係を築けていた。
今回キュゥべえがココの元を訪れたのも、キュゥべえからそうした依頼があったからだ。
「んで、何の用?大したことなかったら食っちまうぞ」
数メートル離れた塔の頂上に座っていたキュゥべえを、まるでスライムのように伸びた腕で捕まえて顔の前で凄むココ。
キュゥべえは当然恐れるようなことはなく、ただ淡々と返事を返すだけだ。
「やめてくれよ。代わりは幾らでもあるけれど、無限ではないんだ。勿体無いじゃないか。君なら分かるだろ?」
「まあな・・・それよりほら、さっさと用件を言え」
ココはつまらなそうに手を離すと、キュゥべえから目を離し夜の街を眺めながら発言の続きを促した。
「わかった。見滝原市という場所を知っているかい?」
「いや知らん。ちょっと待て、調べるから」
おもむろにスマホを取り出すと、ココは見滝原について調べ始める。
「『近年になって近代的な都市開発が進められており、最先端技術も数多く導入されている相当な規模の近未来型都市』。そこまで遠くはないな。で、この見滝原市がどうしたんだ?」
「そこには僕が契約していない謎の魔法少女がいる。君にお願いしたいのは、彼女の調査だ。場合によっては、その活動を停止させてほしい」
ココは少しだけ興味が湧いたかのようにキュゥべえを見る。どちらかといえば、その魔法少女ではなくそれを言ったキュゥべえに興味が湧いた、といったところだろう。
「・・・キュゥべえにしてはずいぶん直接的に干渉するじゃねーか。契約時の願い事が契約自体を忘れさせるとか、そんな感じだったんじゃねーの?」
「その可能性はあるけど・・・それにしては不可解な部分が多すぎる。単なる契約時の願いによる派生事象とするより、もっと大きな世界規模の異変と捉えたほうが自然だよ」
「世界ぃ・・・?話が大きくなりすぎだろ。不可解な部分ってなんだ?」
「通常では説明できないほど強力な魔力係数を持った少女が現れた。歴代最高というのもおこがましい、現れるはずのない存在さ。ココ、君という存在の魔力総量でも足元にも及ばないだろうね」
「は!?俺より・・・人間どころか魔法少女ですらねーだろ、それ」
「その通り。人間を超えて神にだってなれそうな因果の量を抱え込んでいる。なんでもない一般家庭の少女がだよ?そしてその異変は、正体不明の魔法少女『暁美ほむら』が現れた時から始まっている。・・・どうだい?この話、受けてくれるかな」
ココは少し考える素振りを見せたが、すぐに顔を上げ舌なめずりをして言う。
「・・・いいぜ。そっちのが最高に楽しそうだ」
善は急げと言わんばかりに、ココは飛び上がった。
月の光を一身に受けながら遠くなっていくココの姿を見ながら、キュゥべえは呟く。
「最強の魔法少女である彼女なら、見滝原市にさらなる混乱をもたらしてくれるだろう。その混乱に乗じて、僕は鹿目まどかと契約することにしよう。さて、暁美ほむら・・・君はココをどう凌ぐのかな」
―――――――――
夕暮れ時の見滝原市の病院近く、ココはぶらぶらと歩きながら何かを探していた。
「契約していない魔法少女って奴は何処にいんのかねぇ。ま、俺はそれよりキュゥべえが言ってた少女・・・『鹿目まどか』つったか?そっちの方が興味あるんだけど」
キュゥべえは鹿目まどかについて、キュゥべえは塔の上で話していたココには直接話してはいなかったが、ココは自分がいなくなったあとにキュゥべえが呟いたセリフの中にあった名前を把握していた。
彼女が単に強いだけでなく、情報にも敏感なことが伺える。
ココはキュゥべえと協力関係にあるが、信頼しているわけではない。
むしろ都合が悪いことは隠すキュゥべえの性質をよく知っているため、むしろその裏を読むことに注力している。
聞けば答えるが、煙に巻かれることの方が多いのだ。
なら最初から裏を読み取ったほうがいい。
「ま、どうせ例の目的のためにそいつと契約するって腹積もりなんだろーけど・・・」
自分の脅威になるなら契約されるより先に潰す。
いや、例え鹿目まどかという少女がどんな人格であろうとも、自分より強大な魔法少女から生まれる魔女の強力さは計り知れない。
気楽に最高の人生を歩むことを目的としているココにとって、それは看過できない事態なのだ。
キュゥべえにそうした心の深い部分を見せていないココは、キュゥべえにとっても予測できない事態を引き起こしうるだろう。
ココとはそういう存在だ。
「お、結界見っけ。結界の中にいるのは・・・四人?結構多いな・・・けど、二人は魔法少女じゃねぇな。巻き込まれた一般人か・・・?」
ココは、病院の壁に結界の入口があるのを見つけた。
もともとこの結界を目指して歩いてきたのだ。
魔法少女と出会いたいなら、まず魔女結界の中が候補地として有力だろう。
魔法少女は魔女を狩らないと生きてはいけないからだ。
命の危険がある場所に入るとは思えないほどの気軽さで、ココは結界の扉をくぐった。
そして―――
「お前何してんの?」
何故か、結界の入り口付近で縛られている黒髪の魔法少女に遭遇したのだった。
「っ!?誰!?」
警戒心をむき出しにしているその少女に、ココは返事を返した。
「俺はココ。ちょーっと遠くから出張してきた魔法少女だよ。というか、人に名前を聞くときはまず自分から、っていうだろ?お前の名前はなんだ?」
「くっ・・・暁美ほむらよ。こんなことをしている場合ではないの!貴方、この拘束を解いてちょうだい!」
もぞもぞとリボンによる拘束を解こうとするも、それが不可能であると分かると黒髪の魔法少女―――暁美ほむらはココに拘束を解くように頼んだ。
暁美ほむらにとってイレギュラーな事態は好ましくなかったが、それはそれとしてこの状況もよくはなかったからだ。
この結界の主である『お菓子の魔女』に、この見滝原市の魔法少女である巴マミが殺される可能性が高く、何より暁美ほむらにとって大切な少女、鹿目まどかも結界の奥にいるのだ。
鹿目まどかの死もしくは契約は、暁美ほむらにとって何よりも避けなければならない事態だった。
「(コイツが例の、ねぇ?特段変わったところは見られねぇが・・・)うーんどうしようかねぇ?見たとこその拘束をしたのも魔法少女だろ?お前はよそ者で、この地域の魔法少女と揉めてるんじゃねぇのか?」
「そうだけど・・・!巴マミはお菓子の魔女を侮っている!このままでは殺されてしまう可能性が高いの!お願い!」
「・・・なんで殺される可能性が高いなんてわかるんだ?奥にいる魔法少女はそこそこやり手みたいだが」
「・・・統計よ」
「は?」
ココは半眼になって呆れたように暁美ほむらを見つめる。
お菓子の魔女がそれだけ強いのだろうか。暁美ほむらはお菓子の魔女を追っていて、お菓子の魔女に殺された魔法少女を記録しているとでもいうのか。
「(考えてもわからんねーな・・・確かに妙な魔法少女ではあるが・・・)」
ココにはキュゥべえの言うような異変の原因というより、不思議な電波ちゃんに見えた。
「まあ分かった。じゃあ」「俺が代わりに助けに行ってやる。俺はここでコイツ見とけ」
「え!?」
暁美ほむらは驚く。
無理もない。突如として、ココと名乗る魔法少女の肉体が蠢いたかと思えば、新たなココが生えてきたからだ。
一瞬で二人に分かれたココは、目線で示し合わせると片方が結界の奥に駆け出した。
残ったココは、周囲を気にしながら暁美ほむらをじっと見つめる。
「・・・今のが貴方の固有魔法なの?分身、といったところかしら」
「んーまあそんなもんかな」
暁美ほむらの質問に対し、ココははぐらかすように答えると沈黙した。
詳しく教える気はない、というように。
暁美ほむらは改めて、今までのループにないイレギュラーに対し不安を募らせるのだった。
結界を進んでいけば、お菓子が散乱しメルヘンチックな・・・しかしところどころに病院を感じさせるモチーフが象られている。
その光景になんとなくこの結界の主の過去を察しながらも、ココは気にすることなく一直線に魔女のもとへと向かった。
そこにいたのは、黄色い縦ロールの魔法少女と、学校の制服を着ているピンク髪と青髪の二人の少女。
ちょうど、巨大なマスケット銃を生み出した魔法少女が人形のような魔女に弾丸を撃ち込むところだった。
「ティロ・フィナーレ!!」
澄んだ声が響くとともに、魔女は倒されたかに思えた。
観戦していた二人の少女も歓声を上げる。
「(お、巴マミ・・・技名叫ぶタイプの魔法少女じゃん。こう、厨二な感じの・・・でもその割にコイツ結構技巧派だな?リボンで銃と弾丸作ってたように見えたし、結構工夫を凝らすタイプだ・・・)」
ココは巴マミの技名を聞いてどんな魔法少女かを察しつつ、その卓越した観察眼でその技を実現するための工夫を見抜き感心した。
スカートから紅茶を取り出し優雅に決着をつけた巴マミは、やってきたココへ警戒の混じった視線を向けた。
「あら?貴方も魔法少女かしら―――「そこあぶねぇぞ」キャッ!?」
突如として、ココが巴マミを弾き飛ばす。
もともと巴マミが居た場所・・・つまり今ココがいる場所には、先ほど倒したと思われる人形から巨大な蛇のような魔女が姿を現し頭を突っ込んでいた。
魔女が顔を上げると、そこには頭を丸かじりにされたココがいた。
ぶちん、という音と共に身体が地面に落ち、それすらお菓子の魔女に齧られる。
一見可愛さすら感じるお菓子の魔女が美味しそうに食べるそれが、人間だという事実。
その光景を見ていた二人の少女はもちろん、ある程度そういった世界に身を置いていたはずの巴マミですら恐怖で身が固まった。
わずか数秒で、地面には肉片が散乱するだけになってしまった。
お菓子の魔女が顔を上げると次はお前だと言わんばかりに巴マミに狙いを定める。
「ヒッ―――」
「マミさん!」
怯えるピンク髪の少女と、巴マミの身を案ずる青髪の少女。
二人の声を聴いて、ようやく正気に戻った巴マミは、慌ててリボンから銃を作り出し構える。
その顔に浮かぶのは恐怖と、自分を庇ってくれた魔法少女を救えなかった後悔。
だが―――キュゥべえに最強とまで称された魔法少女が、この程度の魔女にやられる道理はなかった。
「はい余所見厳禁~」
突如として巨大な手が現れたかと思えば、お菓子の魔女の身体を鷲掴みにしてしまったのだ。
手の元を見ると、そこには一人のココが肘から先を巨大化させているのが分かった。
だが、不可解なことにその周りにも複数のココがいたのだ。
「なんで生きて・・・」
「ハイ終わり」
巴マミが唖然とするのを横目に、ココは魔女の胴体をぎゅっと握りつぶすと、パッと離し手を元の大きさに戻した。
魔女の生命力はそれぞれ違うが、身体を握りつぶされて生きているものはなかなかいない。
普通なら、これで決着だった。
「おい」「まだだぞ」「脱皮・・・」「て感じか?」
だが、握りつぶされたはずのお菓子の魔女の頭から、ずるりとはい出てきたのは無傷のお菓子の魔女。
敵をココと見るや、高速で食いつきに行く。
五人のココたちは機敏な動きでそれを避けると、一人が顔面に蹴りを入れて注意を引いた後残りのココが巨大化させた腕を叩きつける。
結界の地面に叩きつけられた魔女の身体は先ほどより大きくへしゃげていたが、それでもお菓子の魔女の口からは新たなお菓子の魔女が這い出てくる。
ムッとした顔になったお菓子の魔女は、地面を抉りながら五人のココを叩き潰さんと暴れまわる。
「おおお!?」「結構強いぞ」「打撃が効かねぇとなると」「どーするんだ俺」「知らね」
ぎりぎりで魔女の攻撃を避けながらも、ココ達は魔女の討伐法を模索する。
くるくると回りながらふざけているココもいたが、それでも攻撃はしっかり避けているあたりに熟練した身体捌きを感じさせる。
一人のココが、顔をゆがめて仕方ないと言わんばかりに舌打ちすると、自身の体を更に分離させてうちの一人がお菓子の魔女の眼前に立った。
「チッ、しゃーねぇ。俺がやる」
他のココの反応は様々だ。
「マジ?」「ありがとサンクス」「南無~」「そこまでやるか?」「やっちまえ!」
眼前に現れたココを嬉々として食らおうとしたお菓子の魔女。
対するココからは、パリンッと何かが砕ける音がしたと同時にその体から赤く輝くレーザーが飛び出した。
鈍い音と共に閃光が煌めく。
それは結界を縦に横断し、お菓子の魔女もレーザーの通り道に合わせて縦に寸断された。
だが、止めを刺したココもまた、目から光を失ったように倒れた。
結界が崩壊していく。
それを見届けたココたちは、手をつないだかと思えば真ん中の一人に吸収された。倒れたココはそのままに、一人に戻るとココはため息をつく。
「まさか一体の魔女にここまでやるとか。アイツの言ってた通り、厄介な魔女だったな・・・」
周囲の景色がもとの病院付近に戻ると、そこには6人の少女がいた。
巴マミ、ピンク髪の少女、青髪の少女、暁美ほむらに、二人のココ。
「え、一人減ったのか?何やってんだよ」「うるせ」
二人のココは軽口を叩き合った後、暁美ほむらについていた方がお菓子の魔女と戦ったほうに吸い込まれるように消えていった。
暁美ほむらが受けていたリボンによる拘束は、巴マミが魔女から庇われた際に消えたようだ。
精神が不安定になると魔法は維持しにくい。
高度な操作を必要とするものなら特にそうだ。
だが、今はそんな事情などどうでもよかった。
「あなた・・・何者なの?」
ココの異常な振る舞いに恐怖を感じざるを得ない四人だったが、比較的冷静で尚且つ戦いを直接目撃しなかった暁美ほむらが問う。
「俺は―――」
「それについては僕から説明しよう。彼女はココ。僕が呼んだ魔法少女さ。この町で暗躍する、謎の魔法少女・・・つまり暁美ほむら、君に対抗する戦力としてね」
「おい俺が話そうと―――」
「あなたが!?」
ココは答えようとするが、どこからともなく現れたキュゥべえに先を越される。
それに文句を言おうとしたココのセリフを、さらに巴マミの驚いた声が遮った。
「おい・・・」
「あっ、ごめんなさい。けど本当に驚いたの。噂だけは知ってたから」
「マミさん、この子のこと知ってたんですか?」
青髪の少女が巴マミに問う。
ココは見た目だけなら小学生であり、背もこの場で最も低い。
やたらふっくらとした髪が上にも立っているおかげでピンク髪の少女と同じくらいに見えるが、実際の身長は負けているだろう。
だから青髪の少女が年下のような扱いをするのも無理はないのだ。
実際は巴マミと同年齢なのだが・・・。
「ええ、最強の魔法少女だって噂なの。なんでも、いくつも縄張りを持っているとか、グリーフシードを乱獲してるとか・・・」
「俺がなんか悪者っぽく言われんのは心外だな。俺はただ自分が戦って勝った魔女のグリーフシードを貰ってるだけだし。ほら、マミだっけ?お前もそこそこ戦ってたみたいだしコイツはお前にやるよ」
いつの間にかお菓子の魔女のグリーフシードを拾っていたココは、巴マミにそれを投げ渡した。
「え・・・いいのかしら?」
「俺は一個くらい平気だっつの。それよりなんで一般人が結界の中にいたんだ?キュゥべえが見えてるみたいだが・・・」
自身の襟巻に縫い付けられたグリーフシードをグイっと見せながら、ココの目線は一般人二人に向く。
だが、実際にココが注目しているのはピンク髪の少女の方だけだった。
一目でわかる、圧倒的な魔法少女の素質。
確証はないながらも、ココは既に確信していた。
「(なんだコイツ。素質があるってレベルじゃねぇ・・・間違いなくコイツが―――)」
「この二人は魔法少女候補なの。ピンクの髪の子が鹿目まどかさん。青の髪の子が美樹さやかさんよ。二人には魔法少女の体験として、私の魔女退治についてきてもらって魔法少女になるかを決めてもらおうと思ってたんだけど・・・ごめんなさい。怖い思いをさせてしまったわよね・・・」
「(やっぱそうか。コイツが鹿目まどか。俺を超える魔法少女ってのもあながち間違いなさそうだ、が・・・)」
「そんなことないです!マミさんが無事でよかった・・・」
「そうそう!確かにちょっと怖かったけど、結果的に無事だったんだから!」
落ち込む巴マミを慰める様子からは、少なくとも魔法少女としてココの脅威になりそうな要素は感じ取れなかった。
魔法少女になって他者を傷つけようとするタイプでも、願いで誰かの不都合を願うタイプでもない・・・いたって普通の、ちょっと珍しいレベルのお人好し。
ココが鹿目まどかという少女に対して受けた印象はそれだった。
「今後こんなことがないようにするためにも、君たちには魔法少女になることを勧めるよ」
「オイ。そりゃ魔法少女になる理由として薄いだろ」
隙あらば勧誘しようとするキュゥべえを摘まみ上げると、ココは鹿目まどかを見つめながら考える。
「(キュゥべえがここまで強引に勧誘するってのは珍しい。鹿目まどかとの契約が目的なのは間違いないが・・・契約なんて勝手にすればいいだけのこと。俺を呼んだのは・・・キュゥべえが簡単には出し抜けない邪魔者がいるってことだ。そしてそれが・・・)」
ココは暁美ほむらに目線を向ける。
「(この暁美ほむらってわけだ。巴マミにグルグル巻きにされてたこいつが・・・お菓子の魔女と戦ってる間も特に動きは見せなかったこいつがか・・・とは思うが、それだけの固有魔法を持ってるってことか?)」
ココが内心で考えを巡らせている一方で、暁美ほむらは混乱の最中にあった。
「(私の知らない魔法少女・・・けど巴マミは知ってるみたいね。今までのループにもいて、なんらかの行動が原因でこの町に呼び寄せられたのかしら?キュゥべえは私に対する戦力だと言った。つまりは私の敵・・・けど、今契約を止めてたわね・・・そこまでキュゥべえと協力しているわけじゃない?けど実力はお菓子の魔女を倒したと思われる手腕からも明らかだし、最強と言われるほどの存在・・・警戒するべきよ・・・)」
思い出すのは何周目かのループだ。
イレギュラーであった白い魔法少女を軽視し過ぎた結果、まどかの命を失う羽目になった。
イレギュラーはできるだけ起こしたくない。
暁美ほむらはループの経験を元に計画を立てている。それが大幅に変わるとなると、また一から計画を立てねばならず・・・計画が上手くいかなければ、再び鹿目まどかを失ってしまう。
だが、同時に暁美ほむらには考えてしまうことがあった。
「(最強・・・そんな魔法少女をワルプルギスの夜にぶつけられたら)」
それは何度やっても最悪の魔女を倒せない暁美ほむらにとって、降って湧いたような一筋の光明でもあったのだ。
「とりあえず・・・ここでの立ち話もなんだし、私の家でお茶会でもどうかしら?ケーキも出せるわよ」
「へぇ。折角だしいただくか。おいほむら、お前も来いよ」
「いえ、私は遠慮させてもらうわ」
暁美ほむらには一旦心の整理をする時間が必要だった。巴マミが死ななかったことは喜ばしいが、未だに敵視されている状況。
そんな状態でお茶会なんていけない。
そう考えた暁美ほむらは、時間を停止して逃げ出そうとした。
「おい待て、逃げんなよ」
だが、時間停止の魔法を発動させる直前で左手を掴まれる。
「なんかしようとしたな~お前」
危うくココを停止した時間の中に連れ込みそうになった暁美ほむらは、冷や汗をかきながら魔法の発動を止めた。
ココの反応速度は異常だった。
暁美ほむらは大して何か動いたわけでもないのに、魔法を発動すると確信して的確に止めに来た。
どんな魔法かまではわかっていないだろうが、魔法発動を止めるのに最適な手段を、一瞬で判断して実行したのだ。
にらみ合う二人だったが、そこに巴マミが声をかける。
「暁美さんも、本当にごめんなさい。あなたの言う通り、あの魔女は異常だった・・・ココさんが助けてくれなければ、きっと私は死んでしまっていたわ。あなたの忠告を、もっと真剣に聞くべきだったの。私からの謝意として、紅茶とケーキを食べて行ってくれないかしら。もちろん、無理にとは言わないけれど」
巴マミのその言葉を聞き、暁美ほむらは胸が湧きたつような気持ちになった。
巴マミと軋轢なく話せる。
いったい何ループぶりだろうか。
もしかしたらこのループで終わらせられるかもしれない。
「わかった・・・私も参加させてもらうわ」
「よかった・・・」
「最初からそう言っとけ」
ようやく場が穏やかになったかに思えたが、そこに一石を投じる者がいた。
「あの・・・ココさん、ちょっと聞いていいですか?」
鹿目まどか。この場で最も大人しそうな彼女から、ココへと質問があったのだ。
「あ?いいけど、なんだ?」
「さっき結界の中で倒れてたココさん・・・大丈夫なんですか?おいてきちゃったけど・・・」
魔法少女ではない鹿目まどかからの素朴な疑問。巴マミが安心させようと声をかける。
「鹿目さん、きっとあれは固有魔法で作った分身よ。今ココさんがここにいるんだから、心配いらないわ」
だが、ココはなんでもないかのように残酷な事実を告げた。
「いや、あの俺は死んだから置いてきた。ソウルジェムの力を使い果たしたからだ。肉体の方も死んじまったら再吸収できないしな。もったいないとは思うけど、死体だけ残られても処理に困るし・・・ん?どした?」
ココの発言に場が凍った。
「肉体の方も食べてしまえばいいじゃないか。結界の崩壊に巻き込まれて消滅するより、よっぽど有意義だよ。君にとっても貴重なタンパク源だろう?」
キュゥべえの空気を読まない発言によってさらに空気が凍った。
「絵面を考えろ」
ココという異物を加えたこの世界線がどのような結末を迎えるのか、それはまだわからない。
だがただ一つ確かなのは、このループも一筋縄ではいかない、ということ。
暁美ほむらは、存在自体が若干キュゥべえに似ているココという魔法少女を見て、先ほどの期待感から一転、非常に陰鬱な気分になったのだった。
主人公の能力は、作者が好きなとあるキャラのものです。
書きたいシーンはあるんですが、そこまで続くかはわかりません。