五等分の花嫁とホスト   作:綾(あや)

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初めて五等分の花嫁を執筆しました


転生したらモヤシ男だった件

 

 

見上げても映る景色は丸型の蛍光灯と、少しばかり穴が空いたり汚れていたりする天井。

 

「……あ?」

 

俺はゆっくりと体を起こした。

 

頭が重い。まるで安物のタバスコ入りロシアフルーレットでも飲まされた後のような、最悪の二日酔いに似た鈍痛が脳の奥を締め付けている。

 

(俺は確か、歌舞伎町の店で締め日のラストソングを歌い終えて、泥酔した太客をタクシーに押し込んだ後、店舗の裏階段で足を滑らせたはずじゃ…?)

 

脳裏に浮かぶのは、眩いばかりのネオンライト、シャンパンタワーの泡、そして狂騒的な歓声。

 

前世の俺は、歌舞伎町の某有名店で大学生にしてナンバーワンを張っていた売れっ子ホストだった。女の顔色一つ、視線の動き一つでその日の感情を見抜き、狙った獲物の財布と心を同時に開かせる。それが俺の生業であり、誇りだった。

 

だが、目の前の視界に飛び込んできたのは、歌舞伎町の煌びやかな世界とは程遠い、あまりにも貧相な景色だった。

 

「……なんだ、この手?」

 

俺は自分の両手を目の前にかざした。

 

前世の俺の手は完璧な手入れが施された手だった。しかし、いま目の前にある手は違う。

 

細く、肌はかさつき、爪は伸び放題。一言で言えば男磨きを一切放棄したクソガキの手そのものだった。

 

慌てて周囲を見渡す。

 

畳の敷かれた六畳一間のボロ部屋。壁紙は黄ばみ、角が少し剥がれてい

る。机の上には雑然と積み上げられた教科書と参考書。

 

部屋の隅にあった、100円ショップで買ったような小さな姿鏡に駆け寄り、自分の顔を覗き込んだ。

 

「……は?」

 

そこに映っていたのは、もっさりとしたボサボサの黒髪に、暗く沈んだ目元、パッとしないどころか根暗を絵に描いたような中学生らしき少年の姿だった。

 

机の上に転がっていた角が折れた生徒手帳を拾い上げ、ページをめくる。

 

『旭高校付属中学校 3年 上杉風太郎』

 

「上杉、風太郎?」

 

訳が分からない。異世界転生?

俺はあの階段から落ちて死んだのか? そして、この少年の体に入り込んでしまったというのか?

 

頭を抱えていたその時、部屋の襖が勢いよく開いた。

 

「お兄ちゃん、早く起きてよ! 朝ごはんできてるよ!」

 

入ってきたのは、ツインテールにした幼い少女。

 

 前世で無数の修羅場とメンヘラ客の相手をくぐり抜けてきた俺のホスト脳が、瞬時にフル回転する。ここで動揺を見せたら終わりだ。目の前の少女は、どうやらこの体の妹らしい。

 

「ああ、おはよう」

 

「……? なんかお兄ちゃん、今日雰囲気が違くない?いつもみたいにブツブツ呟いてないし」

 

「誰しも生まれ変わりたい朝ってのがあるだろ?」

 

俺は前世の営業用スマイルを浮かべて見せた。

 

らいはは一瞬ぽかんと口を開け、それから頬を少し赤くして

 

「な、なに気取ってるのさ! キモいよお兄ちゃん! 早く降りてきてよね!」

 

と捨て台詞を残してバタバタと階段を駆け下りて行った。

 

よし、第一関門突破。

 

朝食のために1階へ降りると、そこには信じられない光景が広がっていた。

 

食卓に並んでいるのは、薄い味噌汁と、小さなおかかご飯、そして申し訳程度のお漬物だけ。

 

「お兄ちゃん、残さず食べてね。今月もウチピンチなんだから」

 

隣でニコニコしながらご飯を食べるらいは。

 

そして、新聞を読みながら欠伸をしている父親。

 

(…借金まみれの貧乏家庭かよ!?)

 

前世で何百万、何千万という金が飛び交う夜の街にいた俺にとって、この極限状態の貧困は目眩がするほどの衝撃だった。

 

部屋に戻った俺は、速やかに身辺調査を開始した。

 

机の引き出し、押し入れ、カバンの中身。すべてを洗った結果判明したのは…

 

その一、風太郎本人はガリ勉である.。

 

その二、家庭は莫大な借金を抱えており、毎日の食事すら困窮している。

 

その三、髪型、姿勢、肌ツヤ、ファッションセンス、すべてが落第点。男としての魅力がゼロ。

 

「……冗談じゃないぞ」

 

俺はベッドに倒れ込み、天井を見つめた。

 

こんなボロ部屋で、根暗なガリ勉として貧乏に喘ぎながら生きていくなんて冗談じゃない。

 

「知識ゼロ、金ゼロ、見た目最悪…だがな、上杉風太郎」

 

俺は起き上がり、鏡の中の自分を睨みつけた。

 

「俺は歌舞伎町で、指名ゼロの冴えない新人からトップに上り詰めた男だ。ゼロから男を磨き上げる方法なら、痛いほど知ってる」

 

ターゲットは決まった。

 

この上杉風太郎という素材を徹底的に叩き直しリニューアルしてやる。

 

知識がないなら、作ればいい。筋肉がないなら、つければいい。

 

 

 

 

 

 

ーー

 

 

 

 

 

 

 

女性を魅了する…いや、人間を魅了するための第一条件は何だと思う?

 

トーク力? 知識? 優しさ?

 

違う。圧倒的な清潔感と雰囲気だ。

 

第一印象の9割は見た目で決まる。これは夜の世界の絶対法則だった。どんなに素晴らしい中身を持っていようが、パッケージが汚ければ誰も手に取らない。

 

「まずはこの冴えない見た目を叩き潰す」

 

俺は風太郎が貯めていたわずかなお小遣いと、部屋の隅に転がっていた小銭をかき集めた。総額約8,000円。

 

高校受験を控えた中学3年生の秋。俺が最初に向かったのは、学習塾でも図書館でもなく、隣町の少しハイセンスな美容室だった。

 

「いらっしゃいませー…あ、君、ごめんね。今日カット予約でいっぱいで…」

 

オシャレな内装の美容室で、美容師が気まずそうに俺を見る。俺のダサい服とボサボサの髪を見てお金が無さそうな中学生と判断したのだろう。

 

俺はフッと前世の笑みを浮かべ、腰を低くしながらも、相手の目をとらえて言った。

 

「指名じゃなくて構いません。手の空いているアシスタントさんでもいい。俺、今日どうしても自分を変えたいんです。この8,000円で、できる限りのプロデュースをお願いできませんか?」

 

美容師は一瞬目を見開き、苦笑いしながら俺の肩を叩いた。

 

「…面白いね、君。よし、俺がやってやるよ。どんな感じにしたい?」

 

「ベースは黒髪のままでいいです。ただ、動きが出るように全体を軽めにして、前髪は目にかからないギリギリで整えてください。そして細めに、ナチュラルな金髪メッシュを入れてほしい。それと、耳に穴を開けてもらえますか」

 

「中学生だよね?学校大丈夫?」

 

「受験までに自分を追い込むための覚悟です。校則のギリギリを攻めるラインで仕込んでもらえれば大丈夫です」

 

鏡の前に座り、ハサミの音が響く。

 

カラー剤の匂いと、耳たぶにピアッサーが貫通する痛みが心地よかった。

 

痛みが走るたび、俺の中で新しい俺が産み落とされていく感覚がした。

 

2時間後。

 

もはやもっさりとしたガリ勉少年ではなくなっていた。

 

黒髪の隙間からチラリと覗く繊細な金髪メッシュ。引き締まった顔立ちを引き立てるシャープな髪型。両耳に光るシンプルだが主張のあるシルバーピアス。

 

「…すご…君、めちゃくちゃ化けるね…」

 

美容師が感嘆の声を漏らしていた。

 

「ありがとうございます。最高の仕事でした」

 

店を出た俺は、次に地元のディスカウントストアに向かった。

 

購入したのは、安いダンベルセット、プロテイン、そして縄跳び。

 

「見た目の土台はできた。次は…」

 

ホスト時代、売れない奴ほど酒が飲めない、トークが苦手だ、と体を鍛えることを怠っていた。

 

だが、売れる奴は例外なく身体を絞っていた。スーツを美しく着こなすための胸筋、男らしい背中、引き締まったウエスト。肉体の強さはそのまま心の余裕に直結する。

 

その日から、俺の地獄のトレーニングが始まった。

 

毎朝5時起き。

 

プロテインを流し込み、10キロのランニング。

 

学校から帰ってきたら、腕立て伏せ100回、腹筋200回、背筋100回、スクワット100回。

 

最初の一週間は全身が痛くて階段の上り下りすら苦痛だった。夜、布団に入ると全身の筋肉が叫び声を上げていた。

 

「この体軟弱すぎるだろ!!」

 

だが、俺はやめなかった。

 

鏡を見るたび、少しずつ胸板が厚くなり、腹筋のラインが浮き出てくる。

耳元のピアスを揺らしながら汗を流す自分に、俺は酔いしれた。男磨きは自分を裏切らない最高の娯楽だ。

 

二ヶ月も経つ頃には、ブカブカだった中学校の制服が、肩幅と胸筋の成長によってジャストサイズに変わり、シルエットが見違えるほどスマートになっていた。

 

「お、お兄ちゃん…なんか最近、すっごく格好良くなってない…?」

 

夕食時、らいはがチラチラと俺の顔を見ながら呟いた。

 

「そうか? 普通だよ」

 

「嘘だ! 髪の毛にキンキンの入ってるし、お耳に穴開いてるし! お父さん、なんで怒らないの!?」

 

「ハハハ! いいじゃねえか、男は気合が入ってる方がモテるぞ〜」

 

呑気な父親は酒を飲みながら笑っている。

 

「らいは。見た目を整えるのはな、自分を大事にするってことなんだよ。汚い格好でいるのは、周囲に対して失礼だろ?」

 

「そ、それはそうだけど…なんかお兄ちゃんじゃないみたい…」

 

らいはの頬が少し赤い。身内の女性すら魅了できない男に、世の女性を魅了することなど不可能だからな。

 

 

 

 

 

 

ーー

 

 

 

 

 

 

 

 だが、俺には最大の壁が残されていた。

 

『勉強』である。

 

見た目がいくらイケメンになろうと、中身がスカスカのバカだったら意味がない。俺が目指すのは文武両道だ。

 

ギャップこそが最大の武器になる。金髪ピアスで筋トレをしていて、テストの点が壊滅的だったらただのイキリ不登校予備軍だ。だが、その見た目で学年トップを取ったらどうだ?

 

モテるに決まってる。

 

しかし、現実は甘くない。

 

風太郎の部屋にある過去のテスト用紙を引っ張り出してみたが、俺の頭では問1の計算問題すら怪しい。前世の俺は高校・大学とノリと感覚で乗り切ってきた男だ。因数分解?英語の文法?歴史の年号?知るかそんなもん!

 

「まずい…非常にまずい。このままだと高校受験どころか中学校卒業すらあやしいぞ…」

 

冷や汗が吹き出す。

 

風太郎の本来の記憶を探ってみるが、前世の俺の意識が強すぎるせいか、知識のデータは綺麗さっぱり消え去っていた。

 

残された時間は、高校入試まであとわずか数ヶ月。

 

普通に勉強していたら絶対に間に合わない。

 

「…やるしかない。歌舞伎町方式でいく」

 

前世で、俺はどうやって知識を身につけていたか?

 

ホストクラブには、様々な職業、様々な趣味を持つ客が来る。IT企業の社長、医者、弁護士、アニメオタク、クラシック音楽の愛好家。彼らと対等に話し指名を取るために、俺は毎晩仕事が終わった後、始発が動くまで図書館やネットで専門用語を丸暗記した。

 

 意味を理解する前に、まずパターンと丸暗記で叩き込むのだ。

 

俺は街の古本屋で、中学3年間の全教科の参考書と過去問集を買い漁った。

 

そして、部屋の壁という壁に暗記シートを貼り付けた。

 

「英語は言語だ。会話のパターンと同じ。文法規則を覚えようとするな。例文1000個をそのまま丸暗記しろ」

 

「数学は解法パターンの暗記ゲームだ。公式の証明などどうでもいい。この問題の形が来たら、この手順で数字をぶち込む。ただの作業だ」

 

「歴史はドラマのゴシップ誌と同じだ。誰が誰を裏切ったか、キャバクラの人間関係だと思って暗記しろ」

 

俺の勉強法は狂気的だった。

 

筋トレをしながら英語の例文を大声で唱える。

 

プロテインを飲む間に歴史の年号を100個暗記する。

 

風呂に入りながら数学の解法パターンを頭の中で反復する。

 

睡眠時間は毎日3時間。前世の締め日前の限界状態を、毎日自分に課した。

 

「知性がない男の言葉には重みがないんだ!!」

 

 最初はチンプンカンプンだった記号の羅列が、一ヶ月、二ヶ月と経つうちに、脳内で鮮やかなパターンとして繋がり始めた。

 

風太郎の潜在的な脳のスペックと、俺の努力が噛み合った瞬間だった。

 

冬の模擬試験。

 

掲示板に貼り出された順位表。

 

『1位:上杉 風太郎』

 

「…よっしゃあ!」

 

俺は校舎の裏で拳を握りしめた。

 

学年トップ。圧倒的な成績。

 

クラスメイトたちが俺を見る目が、完全に変わっていた。

 

「ねえ…上杉くん、最近すごくかっこよくなったよね…」

 

「金髪メッシュ入っててちょっと怖そうだけど、テスト学年1位なんだよ?」

 

「体育の時の着替え見た? ヤバいよ、細マッチョで腹筋割れてた…」

 

廊下を通るたび、女子中学生たちの囁き声が聞こえる。視線を感じる。

 

前世の歌舞伎町のフロアで感じていた、あの独特の熱気だ。

 

こうして、俺の目標は達成したのだった。

 

 

 

 

 

ーー

 

 

 

 

 

 

 

月日は流れるのは早いもので、怒涛の受験シーズンも終わりを告げた。

当然のごとく、俺は県内有数の進学校への合格を果たした。

 

合格発表の日、我が家では貧しいながらもささやかなお祝いが行われた。

食卓には、いつもより少しだけ豪華なものが並んでいた。

 

「お兄ちゃん、合格おめでとう!すごいよ、学年トップで合格なんて!」

 

らいはが目を輝かせてジュースのコップを掲げる。

 

「おーおー、流石俺の息子だ!これで将来は安泰だな!借金も返せるぞー!」

 

父親は相変わらずデリカシーのない発言をしながら缶ビールを煽っている。

 

「ありがとうな、らいは。…親父、借金のことは心配するな。俺が高校に入ったら、もっと効率的な方法を考える」

 

「お前何する気だ? まぁいいや、飲め飲めー!」

 

宴が終わり、自室に戻った俺は、静かに窓を開けた。

 

心地よい春の夜風が、金髪混じりの前髪を揺らし、耳元のピアスをチリンと鳴らす。

 

デスクの上には、明日から着る予定のの新しい制服が綺麗に畳まれて置いてあった。

 

「ふぅ…長かったな」

 

鏡に近づき、自分の顔をまじまじと見る。

 

半年前の、あの根暗で貧相で、いつ死んでもおかしくなかったようなガリ勉少年の面影はどこにもない。

 

「知識ゼロから始まった成り上がりだが…上出来すぎるくらいの仕上がりだな」

 

俺は満足げに笑った。

 

高校生になれば行動範囲も広がる。バイトも解禁だ。この圧倒的なスペックを使えば、家賃や借金の返済どころか、らいはに贅沢をさせてやることも容易いだろう。

 

「さて…明日から高校生か。どんな奴らがいるのか、楽しみだな」

 

俺は明かりを消し、ベッドに横たわった。

明日からの輝かしい高校生活に胸を躍らせながら、深い眠りについた。




こんな感じで主人公は基本堂々してるナルシスト気味です
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