バグ魂の不確かすぎる多世界周回 〜シャーマンキング編〜 【AI本文利用】 作:カミト6622
ふんばりヶ丘の河川敷。
オレンジ色の夕日が水面をキラキラと照らす中、俺は草むらの物陰から眼下の様子を見つめていた。
(始まったな……。シャーマンファイト予選、第一戦)
そこでは、ヘッドホンを首にかけた麻倉葉が、パッチ族のオフィシャルな試験官であるシルバと対峙していた。
シルバが操る五大精霊の圧倒的な神クラスのオーバーソウル。それを前にして、葉はボロボロになりながらも、阿弥陀丸の魂を刀に込めて「一撃」を叩き込み、見事にオラクルベルを勝ち取ってみせた。
「合格だ、麻倉葉。君のシャーマンファイトへの参加を認める」
シルバは満足そうに微笑むと、精霊たちと共に風のようにその場から去っていった。
オラクルベルを手に、まん太と手を取り合って大喜びしている葉たちの姿を見届け、俺は草むらの中でふぅと息を吐き出す。
(さすがは主人公、無事に合格か。……さて、あいつらが温泉に帰る前に、俺もさっさと隠れて帰るかね)
事なかれ主義の傍観者として、特等席での見物はこれで終了。
そう思って身を翻し、その場を離れようとした――その瞬間だった。
「――おっと、そこの君。せっかく特等席で見ていたんだ、そう急いで帰ることはないだろう?」
「……ッ!?」
頭上から降ってきた軽薄ながらも、芯の通った声。
ガサリと草むらをかき分けて現れたのは、先ほど葉の前から去ったはずのパッチ族の試験官――シルバだった。
(な、なんでここにいやがる……!? 葉の試験は終わったはずだろ!)
冷や汗が背中を伝う。
今の俺には気配を完全に偽装するような陰陽術の「隠形」なんて便利な技術はない。1万というバカ高い巫力を必死に身体の内側に抑え込んでいたが、これだけ近くに寄られれば、一線級のパッチ族の目を欺くことはできなかったらしい。
シルバは羽根飾りのついた帽子を指でクイと上げ、鋭い目で俺を凝視した。
「パッチ族の広域レーダーが、このふんばりヶ丘にしがない一般家庭の生まれでありながら、異常なほどの霊的質量を持つ少年を捉えていてね。まさか麻倉葉のすぐ近くの物陰で、息を潜めて見物しているとは思わなかったよ」
《主、囲まれております! あの男、ただ者ではありませぬ!》
サクヤの警戒の念話が脳内に響く。
シルバの周囲には、先ほど葉を翻弄した五大精霊たちが、いつでも動けるように不気味なプレッシャーを放ちながら浮遊していた。
シルバは懐から、もう一つの漆黒の端末――オラクルベルを取り出し、俺に向けて不敵に笑う。
「麻倉葉の試験は終わった。……というわけで、ついでだ。次はお前の番だよ、御門蓮夜。私に一撃でも入れることができれば、シャーマンファイトの本戦への切符(これ)をくれてやる」
そのセリフを聞いた瞬間、俺の脳裏を過ったのは、現代日本におけるあの理不尽な労働環境、そして何より『出張経費』という世知辛い現実だった。
俺は盛大に肩をすくめ、あからさまに哀れむような、皮肉混じりの視線をシルバへと向ける。
「……ハ、言うねえ試験官サマ。麻倉の試験の直後に、そのまま手当ても出ない連勤をご苦労なこった。パッチ族ってのはずいぶんとブラックな労働環境なんだな」
「ぶっ――労働環境……っ!? いや、これはパッチ族としての神聖な義務であって、残業手当とかそういう話では――」
元36歳社会人の生々しいツッコミに、それまで余裕綽々だったシルバの表情がガタガタに崩れる。
だが、俺の追い打ちはそこで終わらない。一歩前に出ながら、さらに現実的な経済事情を突きつけてやった。
「なあ、ついでに聞くけどさ。お前、わざわざアメリカから日本に来るまでの渡航費とか、こっちでの滞在費の工面はどうしたんだよ? 伝統あるパッチ族が全額経費で落としてくれるわけないよな? まさか……自腹の持ち出しとか、現地での物販(パッチの伝統工芸品売り)で賄ってんの?」
「う、ぐっ……!? お、お前……なぜそれを……っ!!」
図星だったらしい。シルバはまるで心臓を直接射抜かれたかのように顔を青ざめさせ、胸を押さえて苦痛に顔を歪めた。
五大精霊たちまで、主人の強烈な精神的ダメージに同調するように、かすかに霊体がブレている。中学生に「自腹出張と物販の苦労」を完璧に見抜かれたパッチ族の神官は、プライドをズタズタにされて完全に調子を狂わせていた。
「……う、うるさい! パッチの生活費の工面がどれだけ過酷か、君のような学生に分かられてたまるか……っ! と、とにかく、断る選択肢は用意していない! かかってきなさい!」
涙目で無理やり真剣な表情を作り直そうとするシルバ。
「チッ、事なかれ主義もここまでかよ……!」
ここで逃げ出せば、パッチ族の総力を挙げて追跡されるのは目に見えている。何より、自力での修行に限界を感じていた俺にとって、このシャーマンファイト本戦(パッチ族の里)への出場権は、ハオに近づくための絶対に必要なパスポートだった。
「サクヤ、荒仕事だ。術理も何もないが、あの自腹出張で火の車になってる社畜試験官に俺の全力を叩き込むぞ!」
《御意にございます、我が主! そのバカ高い巫力、存分に使いこなしてみせましょう!》
右手の白銀の指輪が、これまでにない眩い光を放ち、サクヤの光の弓が顕現する。
俺は魂の奥底から、限界値である【1万】の巫力を、力任せに周囲の空間へと爆発させた。
ドォン!!!
河川敷の地面が、俺から放たれた純粋な霊圧だけで激しく陥没する。
その桁外れの巫力出力に、シルバの顔から生活苦の青白さとはまた違う、本物の戦慄の血の気が引いた。
「なっ……なんだ、このデタラメな巫力の質量は……!? 術も理も素人のはずなのに……!」
「傍観者は終わりだ。いくぞ、試験官サマ!!」
術も理もない、ただの1万の巫力のゴリ押し。
不条理なバグを抱えた俺の、初めての公式戦が、夕暮れの河川敷で幕を開けた。