バグ魂の不確かすぎる多世界周回 〜シャーマンキング編〜 【AI本文利用】 作:カミト6622
✍️ 第13話:『傍観者の境界線と、神鳴の介入』
ピピピッ。
夕暮れの路地裏で、俺のオラクルベルが乾いた電子音を鳴らした。
画面に表示されたのは、燦然と輝く『3勝0敗』の文字。本戦(パッチ族の里)への完全なる出場確定通知だ。
(……よし、これで残り2戦もサクッと終わりだな。やっぱり初期巫力1万の『神鳴の一矢』は、予選レベルの有象無象相手ならただの暴力でしかないわ)
術理も何もないパワーゴリ押しの光の矢は、向かってきた対戦相手たちを文字通り一撃で粉砕し、俺に傷一つ負わせることなく予選を通過させた。
これでハオのいるアメリカへ向かう最低限のパスポートは確保したわけだ。
《主、実に見事な連勝にございます。これで我らの本戦行きは確実。……ですが、あちらの『お隣のシャーマン』は、少々不穏な泥沼に嵌まっているようでございますな》
左手の指輪から、サクヤの冷静な念話が脳内に響く。
彼女の視線の先――ふんばりヶ丘のうらぶれた雨の河川敷を、俺は高い土手の物陰からじっと見下ろしていた。
そこでは、麻倉葉の予選最終戦――ファウストVIII世との戦いが繰り起こされていた。
だが、ファウストが葉を精神的に揺さぶるためにその生気のないメスを向けたのは、あろうことか、ただの一般人である小山田まん太だった。
「さあ、実験を始めよう。人間の肉体がどれだけの痛みに耐えられるか、僕のメスが正確に証明してくれるさ」
ファウストの狂気に満ちた声と共に、冷たいメスがまん太の身体へと振り下ろされる。
次の瞬間、静かな河川敷に、まん太のこの世のものとは思えない絶発生が響き渡った。
「ぎゃああああああああーーーッ!? 痛い、痛いよ葉くん、お腹が、お腹がぁーーーッ!!」
冷たい雨の中、まん太の腹が物理的に開かれ、鮮血が地面を赤く染めていく。
それを見た葉が激昂し、我を忘れてファウストの骸骨の群れに突っ込んでいくが、それは完全に敵の罠だった。
土手の物陰からその光景を見た瞬間、俺の頭の中で、パチンと何かが弾け飛んだ。
(……ふざけんじゃねえぞ、あのイカレ野郎)
冷徹な傍観者を気取っていたはずの俺の心が、生まれて初めて、底からの激怒で燃え上がった。
シャーマン同士が命や資格を賭けて戦うなら、俺は特等席で黙って見物する。それがこの世界のルールだし、俺の事なかれ主義のスタンスだ。
だけどな――まん太はシャーマンファイトの参加者じゃない。霊が視えるだけの、ただの一般人の中学生だぞ。
それを自腹出張の費用にも困るような有象無象が、神聖なファイトに巻き込んで、生身のまま腹を開くなんて狂行が許されてたまるか。
元36歳現代日本の大人として、そして1万ものバグ巫力を持ちながら、これを見捨てるほど俺の魂は腐っちゃいねえ。
「サクヤ、付き合え。事なかれ主義は一時休業だ」
《御意ッ!! 我が主の怒りのままに!!》
俺は土手から一歩前に踏み出すと、左手の白銀の指輪から、これまでにない禍々しいほどの純白の霊気を爆発させた。
キィィィィン!!! と大気を圧殺するような高音が響き渡り、俺の左手に神聖な白銀の和弓がオーバーソウルとして実体化する。
「な、なんだあの凄まじい霊圧は……っ!?」
「御門、くん……!?」
激闘の最中だった葉も、メスを握っていたファウストも、突如として河川敷の空間そのものを自重で歪めるかのように現れた、圧倒的な質量に動きを止めた。
俺は表情を極限まで冷徹に研ぎ澄ましたまま、右手を弦にかけ、1万のバグ巫力を力任せに全パイルして引き絞る。
ギチギチギチと音を立て、弦の間に形成されたのは、暴風を纏った巨大な純白の光の矢。
狙うは葉でもまん太でもない。ファウストが操る巨大な骸骨の軍勢、そのすべてだ。
「一般人を巻き込んでヘラヘラしてんじゃねえよ、骨董品が。――『神鳴の一矢(かむなりのひとや)』ッ!!」
パァン!!!
放たれた閃光は、雨の河川敷を文字通り横一文字に消し飛ばした。
技術も術理もない、ただの1万の巫力による超質量の暴力。しかし、それはファウストが展開していたネクロマンシーの術式ごと、数百体の骸骨の軍勢を一瞬で、チリ一つ残さず完全に消滅させた。
ズドォォォォォンッ!!!
「なっ……僕の、僕のエリザ(骸骨)たちが、一撃で、跡形もなく……っ!?」
あまりのデタラメな破壊力に、ファウストがメスを落として戦慄する。
俺は煙を吹く白銀の弓を構えたまま、地面に倒れるまん太の元へ一瞬で駆け寄り、自分の上着を脱いでその傷口を強く押さえた。
「おい、しっかりしろまん太! 葉、呆然としてんじゃねえ、早くこいつを救急車に乗せて病院へ運べ! 一刻を争うんだ、予選の決着なんて後回しだ!」
「あ、ああ……! ありがとう、蓮夜……っ!!」
葉は涙を浮かべながら頷き、俺からまん太を抱き取ると、全速力で病院へと走り出した。
ファウストは愛するエリザの霊を失い、完全に戦意を喪失して雨の中に立ち尽くしている。
俺は左腕のオーバーソウルを解くと、ポケットの中で静かに佇むオラクルベルを見つめた。
(歴史は少し歪んだかもしれない。だけど、後悔はねえよ。……さあ、これでふんばりヶ丘での用事は全部終わりだ)
一般人を助け、傍観者の境界線を自ら踏み越えたその雨の夜。
俺は次なる舞台であるアメリカに向けて、己の1万の質量をさらに研ぎ澄ますことを、静かに決意するのだった。