バグ魂の不確かすぎる多世界周回 〜シャーマンキング編〜 【AI本文利用】 作:カミト6622
雨の河川敷での凄惨な一件から、数日後。
俺は自室の畳の上に大きな旅行カバンを広げ、黙々とアメリカ行きの荷物を詰め込んでいた。
(パスポート、着替え、オラクルベル……よし、忘れ物はないな。前世じゃ海外旅行なんて夢のまた夢だったが、まさかこんな形でアメリカへ飛ぶことになるとはな)
ファウストの狂行から一般人であるまん太を救うため、俺は初めて事なかれ主義の境界線を踏み越えて『神鳴の一矢』を放った。
あの圧倒的な質量によるゴリ押しでネクロマンシーの術式ごと骨の軍勢を消し飛ばしたため、幸いにもファウストは完全に戦意を喪失。まん太は無事に病院へ搬送され、一命を取り留めたとオラクルベルの通信で知った。
(あの後、麻倉のやつがどうやって予選を終えたのかは知らん。……まあ、あいつのことだ。どうせなんとかなったんだろ)
特等席の傍観者を気取っていたはずが、ずいぶんと派手な立ち回演じてしまったものだと自嘲気味に笑う。
《主、本当に一人で出発されるのですな? あの麻倉葉というシャーマンやその仲間たちと、空港で合流して行かれなくてもよろしいのですか?》
左手の白銀の指輪から、サクヤが粒子となって現れ、心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
数日経ったおかげで、彼女の顔の赤みは完全に引き、いつもの冷静な女武者のトーンに戻っている。
「当たり前だろ。何度も言ってるが、俺は事なかれ主義の傍観者なんだ。あいつらとつるんでアメリカ(パッチ族の里)に向かったら、移動中だけで何個のトラブルに巻き込まれるか分かったもんじゃない。一人でのんびりフライトを楽しんで、現地で美味い本場のハンバーガーでも食う方がよっぽど有意義だ」
カバンのジッパーをジリジリと閉めながら、俺は不敵に口元を歪める。
「それにさ、サクヤ。俺が一人で行く理由はもう一つある。お勉強(・・)しに行くんだよ」
《お勉強、にございますか?》
「ああ。今の俺は生まれ持った1万の巫力があるだけで、術理も理(ことわり)も何もない素人だ。今回の一件で、自力での修行の限界を嫌というほど思い知らされた。……だからこそ、シャーマンファイトの本戦という最高の環境を利用して、この世界の本物の英知ってやつを、このバグ魂に直接叩き込んでやる必要がある」
前世の知識が俺に告げている。
パッチ族の里、そこにはいずれ巫力125万という絶望の神となって現れる未来王――ハオがいる。
今の1万のゴリ押しパワーだけでは、あの怪物の足元にも及ばない。事なかれ主義を貫くにしても、美食を貪るにしても、ハオという不条理に干渉された時点で全てが水の泡になるのだ。
(正しい五行の理、そして魂を拡張する高位の術。……それを知っている奴のところへ、本戦のドサクサに紛れて自ら飛び込む。そのための単独行動だ)
俺の不穏な『決意』を察してか、サクヤは少し身震いした。しかし、すぐにその凛とした瞳に強い信頼の色を宿し、俺に向かって深く頭を垂れる。
《……分かりました。主がどこへ向かおうと、我ら最初の持霊。この光弦の導くまま、どこまでもその旅路にお供いたしましょう》
「ああ、頼りにしてるぜ、最高の相棒」
俺がニカッと笑って彼女の肩を軽く叩くと、サクヤは「あ、う……っ」と小さく声を漏らし、またしても耳の根元までみるみるうちに真っ赤に染まってしまった。
《主……! また、そうやって平然と……っ!》
「いや、今のはただの激励だろ!?」
《もう、主の意気地なしの癖に無自覚なタラシぶりが、某には一番の不条理にございます……っ!》
「タラシってなんだよタラシって!」
自室の静かな空間に、またしても気恥ずかしいコメディタッチの念話が響き渡る。
ハオの脅威、伸び悩む実力、そしてこれから始まる未知のアメリカの旅。
問題は山積みだが、この可愛い相棒が隣にいてくれるなら、やっぱりこの二度目の人生は退屈しない。
手に入れたオラクルベルをしっかりとポケットへ仕込み、俺は一人、静かにパッチ族の里への旅立ちの夜を迎えるのだった。