バグ魂の不確かすぎる多世界周回 〜シャーマンキング編〜 【AI本文利用】 作:カミト6622
数年が経ち、俺はふんばりヶ丘の中学校に通う、どこにでもいるただの男子中学生としての日々を送っていた。
もちろん、それは表向きの話だ。
学校の行き帰り、あるいは自室での深夜。俺は人知れず、魂の奥底から溢れ出る規格外の巫力を制御する訓練を重ねていた。
一般家庭の生まれでありながら、俺の初期巫力はすでに【1万】という狂った領域にある。
普通のシャーマンなら天才ともてはやされる数値だが、下手に目立てば平穏な傍観者ライフは終了だ。事なかれ主義を貫くなら、何よりもまず「隠形」と「力の秘匿」が最優先だった。
《主、今日も見事な隠形にございますな。周囲の浮遊霊ども、誰一人として主の莫大な霊気に気づいておりませぬ》
脳内に響くサクヤの凛とした声に、俺は退屈な授業を受けながら、心の中でそっと返す。
(当たり前だ、サクヤ。目立ったら面倒事に巻き込まれるからな。それにしても……今日のふんばりヶ丘は、朝からやけに騒がしいな)
《ええ。何やら、大きくてどこか呑気な、それでいて底の知れない『霊の気配』がこの学校に近づいてきているように感じます》
サクヤの言葉通り、俺の鋭敏すぎる霊感は、学校の校門をくぐる一人の少年の存在を捉えていた。
ヘッドホンを首にかけ、どこか飄々とした空気を纏った少年――麻倉葉。
この物語の、紛れもない主人公だ。
(ついに来たか。あいつは確か、隣のクラスだったはずだけど……)
俺がそんなことを考えていると、廊下の方からドタバタという騒がしい足音が近づいてきた。
次の瞬間、俺のクラスの前の廊下を通り過ぎる影と同時に、校舎全体を震わせるような大音量の叫び声が響き渡る。
「幽霊がいたんだってばーーっ!! 本当に墓場で見たんだよ、信じてよみんなーーっ!!」
それは、チビで有名なクラスメイト(隣のクラスだが)の小山田まん太の悲痛な叫びだった。
どうやら昨晩、西の森の墓場で葉と出会い、浮遊霊の宴会を目撃してパニックになっているらしい。
クラス中が「またまん太のオカルト妄想が始まったよ」とクスクス笑い声を上げる中、俺だけは窓の外を眺めながらそっとため息をついた。
(始まったな……。原作通りの大騒ぎだ。まあ、今の葉にはまだ持霊はいないし、静観一択だな)
この時はまだ、隣のクラスの葉も、ただの「霊が視えるだけののんびりした転校生」でしかなかった。
――それから、数日後のことだ。
木刀の竜とのいざこざを経て、あいつが西の森の至宝である伝説の侍――阿弥陀丸の心を動かし、正式に『持霊』として従えた日の朝。
学校の空気が、一変した。
(……おいおい、マジかよ。めちゃくちゃ濃いな)
授業中、俺の目にははっきりと視えていた。
隣のクラスの教室へ入っていく葉の背後に浮遊する、人魂を纏った一人の逞しい武士の霊体――阿弥陀丸の姿が。
《主、あのお隣のシャーマン主従、凄まじい霊気を放っております。ですが……それ以上に、周囲をかなり警戒しているご様子》
(ああ。阿弥陀丸を連れたことで、葉の霊的出力が跳ね上がってる。……おっと、あっちの侍が気づいたか?)
ふっと、隣のクラスの入り口付近にいた阿弥陀丸の霊体が、明確にカタカタと震え、驚愕の表情で俺のいる教室へと視線を向けた。
《お、お主……!? 葉殿、隣の教室にただならぬ人間がおるぞ! 今、一瞬だけ、徹底的に隠された底なしの霊気が――》
阿弥陀丸の焦った念話が、かすかに俺の耳にも届く。
葉もまた、阿弥陀丸の言葉に反応して、隣のクラスである俺の席の方向へと視線を鋭く巡らせた。
俺の徹底的な隠形の隙間から漏れ出た、1万という圧倒的な『魂の強度』を、持霊を得たことで一気に鋭敏になった彼らの感覚が本能的に察知したのだろう。
だが、俺は表情一つ変えず、窓の外を眺めるフリをしてあくびを噛み殺した。
(おっと、ちょっと漏れちまったか。まあ、阿弥陀丸を連れてるなら、いつかは気づかれると思ってたがな……)
《主、お隣のシャーマン、こちらをかなり意識している様子。いかがいたしますか?》
(放っておけ。クラスが違うんだ、こちらから仕掛けるつもりは毛頭ない。俺はただ、前世の未練を晴らすために美味しいものを食べて、この世界をのんびり見物したいだけなんだからな)
隣のクラスから冷や汗を流しながら俺の気配を探ろうとする葉と阿弥陀丸。
そんな二人をよそに、俺は早く売店の焼きそばパンが食べたいな、などと考えながら、机に頬杖をついた。
不条理なバグを抱えた俺の、ふんばりヶ丘での日常が、静かに狂い始めようとしていた。