バグ魂の不確かすぎる多世界周回 〜シャーマンキング編〜 【AI本文利用】 作:カミト6622
スピリット・オブ・ファイアが放つ紅蓮の火影が、深夜の集落を赤黒く染め上げていた。
立っているだけで魂が焼き尽くされそうな圧倒的な不条理(ハオ)を前に、俺の身体は本能的な恐怖でカタカタと震えていた。
「どうしたんだい? そんなに怯えながら、一体何をしにここへ戻ってきたのさ」
ハオは冷徹な、しかし実におかしそうな目で、俺の【左手の指輪】を見つめてくる。
俺は奥歯の震えを必死に噛み殺し、死に物狂いでハオの切れ長の瞳を真っ直ぐに見据えた。
「ハオ……。俺は、お前に交渉をしにきた」
「交渉? あはは、面白いことを言うね。巫力わずか1万の君が、この僕と対等に話ができるとでも思っているのかな?」
ハオの嘲笑と共に、背後の巨大な炎の精霊がゴォッ、と熱波を爆発させる。
だが、俺は一歩も引かずに言葉を続けた。
「お前の『霊視』は、どんな人間の心も魂の記憶もすべて読み取れる。……だけど、パッチジャンボの時から、俺の魂の最深部にある記憶だけは、モザイクがかかったみたいに何も読めなかったはずだ。そうだろ?」
その言葉に、ハオの瞳の奥の笑みがフッと消え、代わりに底知れない冷徹な光が宿った。
ハオにとって、霊視が通じない存在など世界に二人といてはならない。俺の言葉は、完璧にハオの興味の急所を撃ち抜いていた。
「……へえ。それが交渉の材料かい?」
「そうだ。俺の魂には、死ぬたびに記憶と培った知識、能力のすべてを内包して次の生へ進む【累積バグ】が刻まれている。俺は、この世界の人間じゃない。別の世界から転生を繰り返してきた、ただの『異世界の旅人』だ」
俺の口から放たれた、この世界のどんなシャーマンも知り得ない絶対的な不条理の真実。
ハオは驚いたように、数秒の間、完全に沈黙した。
そして――。
「――あははははははは!!! あははははははははははっ!!」
ハオは突然、お腹を抱えるようにして盛大に爆笑し始めた。
その笑い声は夜空を震わせ、スピリット・オブ・ファイアの炎すらも彼の愉悦に共鳴するように激しく乱舞する。
「異世界の旅人……! 世界のシステムのエラー、累積するバグ……っ! だから僕の霊視でも読み解けなかったわけだ! 面白い、面白いよ君は……! 千年を生きてきて、これほど僕をワクワクさせる不条理に出会ったのは初めてだ!」
ひとしきり笑った後、ハオは涙を指で拭いながら、昏い好奇の混じった笑みを俺に向けた。
「それで? その面白い秘密を僕に打ち明けて、君は何を望んだい?」
俺は左手の指輪をぎゅっと握りしめ、魂の底からの飢餓感を剥き出しにして言い放つ。
「俺は、独学の修行に限界を感じている。今の1万のゴリ押しパワーじゃ、お前の足元にも及ばない。だからハオ――その対価として、お前の持つ千年の英知、陰陽術のすべて、五行の理、そして泰山府君祭を、俺に直々に叩き込んでくれ……っ!!」
事なかれ主義の傍観者だった男が、神を前にして、その力を強奪するための弟子入りを懇願したのだ。
――だが、その瞬間。
ハオの顔から、すべての笑みが完全に消え失せた。
「……君、今なんと言った?」
その切れ長の瞳が冷酷な刃のように細められ、ハオから放たれたあまりの重圧に、集落の地面がピキピキと地割れを起こす。
それだけではない。主の急激な感情の高ぶりに完全に同調した背後のスピリット・オブ・ファイアが、ゴオォォォォォッ!!! と猛烈な咆哮を上げ、深夜の闇を真っ赤な業火で爆発的に焼き尽くさんばかりに激しく燃え盛った。
千年の時を回り、己の魂を転生させ続けてきたハオにとって、最高位の秘術である「泰山府君(たいざんふくん)」の名は、絶対に他人に知られてはならない絶対の聖域。
「なぜ、君がその名を知っている? 異世界の旅人だとしても、それは僕の魂の根幹だ。答えなよ。……内容次第では、君をここで灰にしなければならない」
初めてハオの口から漏れた、本物の『疑問』と、逃げ場のない明確な殺意。
死の炎が目の前に迫り、俺の心臓は破裂しそうなほど脈打つ。だが、俺は瞬き一つせずにその殺気を睨み返し、ハオのすべての余裕を打ち砕く最悪の真実を容赦なく暴露した。
「前世の知識で全部知ってるんだよ。俺のいた世界じゃ、この世界は『漫画やアニメの物語』としてすべてが描かれていて、俺はそのストーリーという、この世界の行く末を全部知ってるんだ。だから――お前の本名が、1000年前の大陰陽師『麻倉葉王(あさくら はおう)』、麻倉葉の双子の兄だってこともな」
「っ――――」
麻倉葉王。
その隠された真実の名前を突きつけられた瞬間、ハオの息が明確に止まった。
霊視で人の心を読み、すべてを見通していたはずの未来王が、逆に自分のすべてを「物語」として知られているという圧倒的な不条理。ハオは生まれて初めて、底知れない戦慄と未知への興奮に身を震わせた。
「……あはは、本当に最高だね、君は。僕のすべてを知っていて、なお僕に力を乞うか。僕という物語の結末を、その手でハッキングしにきたわけだ」
ハオはぬうっと静かに歩み寄ってくると、怪談の八尺様よろしく、至近距離からじっと俺の顔を覗き込んできた。
「いいよ、受け入れよう。君のそのあり得ない正体、パッチの里へ行くまでの間、僕の特別なおもちゃ(弟子)としてじっくりと味わわせてもらうさ。千年の英知がどれほど過酷か、その累積するバグの魂で、耐えられるなら耐えてごらん?」
ハオの冷たくも美しい手が、俺の髪にそっと触れる。
恐怖は消えない。だが、これで交渉は成立した。
滅ぼされたセミノア族の集落の真ん中で、俺は世界の最悪の絶望であるハオの手を取り、己の魂をさらに凶悪にアップデートするための『地獄の師弟関係』を結ぶのだった。