バグ魂の不確かすぎる多世界周回 〜シャーマンキング編〜 【AI本文利用】 作:カミト6622
第22話:【サイドストーリー】『火影の集う場所と、新参の弟子』
ハオから五行の理の基礎を叩き込まれ、ボロボロになった日の深夜。
俺はハオの後ろを歩き、アメリカの広大な荒野にひっそりと佇む、岩陰のキャンプ地へと足を踏み入れていた。
パチパチと静かに燃える焚き火の光。
そこには、前世の原作知識で嫌というほど見覚えのある、ハオを崇拝するシャーマンたちの姿があった。
カンナ、マリ、マッチの魔女三人に、ラキストやペヨーテ、ハン・ザンチン。
世界の理不尽に絶望し、ハオという絶対的な『救済』を信奉する、本戦編における最悪の軍団――ハオ組の面々だ。
「――お帰りなさいませ、ハオ様」
ラキストが恭しく頭を垂れ、他の面々も一斉に直立不動でハオを迎え入れる。
だが、その直後。彼らの鋭い視線が、ハオのすぐ後ろで旅行カバンを背負ったまま、死に体で歩いている俺へと一斉に向けられた。
「ハオ様。……そちらの、見慣れない少年は一体?」
カンナが紫煙を燻らせながら、不機嫌そうに尋ねる。
ハオ組の連中からすれば、ある日突然、ハオ様がどこからか連れてきた「霊視も通じない謎の一般家庭のガキ」だ。その巫力はわずか1万そこら。彼らからすれば、ハオ様の傍らにいること自体が不条理でしかない。
ハオはフッと美しい笑みを浮かべ、俺の肩にポンと手を置いた。
「紹介するよ。彼の名は御門蓮夜。僕の霊視すら狂わせる、異世界の面白いバグさ。パッチの里へ行くまでの間、僕の『弟子』として力を教えてあげることにしたんだ」
「で、弟子……っ!?」
「ハオ様が、直々に……!?」
その言葉が放たれた瞬間、キャンプ地の空気が文字通り爆発した。
カンナのタバコが指から落ち、マリやマッチは驚愕で目を見開き、ハン・ザンチンは「バカな……! 1万そこらの有象無象を、ハオ様が弟子に……!?」と取り乱している。
ハオは彼らの動揺を実におかしそうに眺めながら、「それじゃ、僕は少し休むからね」と言い残し、スピリット・オブ・ファイアと共に優雅に奥のテントへと消えていった。
残されたのは、燃え盛る焚き火と、俺を取り囲むハオ組の冷徹な視線だけ。
あまりにも気まずい沈黙の中、俺はハァとため息をつき、適当な丸太の上にどっこいしょと腰掛けた。
「……おい、ガキ」
カンナが再びタバコに火をつけ、凄まじい霊圧を乗せて俺を睨みつけてくる。
「ハオ様がお前を気に入っている理由は知らないけれど、勘違いしないで。私たちはハオ様が世界の王(キング)になるために集まった同志よ。お前みたいな素人が、ハオ様の『弟子』を名乗るなんて、私は認めないわ」
「カンナの言う通りだよ! ハオ様のおもちゃのくせに、調子に乗らないでよね!」
マリが大きな人形(マッチ)を抱えながら、明確な敵意の言葉を投げつけてくる。
まともに相手をすれば、ここでシャーマン同士の血みどろの私闘が始まりかねない。
だが、俺は彼女たちの背後――焚き火の脇に置かれた『夕飯の残骸』を見た瞬間、敵意よりも先に、元36歳現代人としての「絶望」が勝ってしまった。
(……おいおい、マジかよ。いくら荒野のサバイバルだからって、固くてパサパサの保存肉をただ火で炙っただけか? 調味料すらまともに使ってねえじゃねえか)
美食への未練が人一倍強い俺にとって、この劣悪すぎる飯事情はもはや犯罪に等しかった。思わず額を押さえて、盛大なため息を吐き出す。
「……認めるとか認めないとか言う前にさ、お前ら毎日こんな味気ないもん食ってんの? ハオ様への忠誠心は一人前なのに、胃袋のケアが壊滅的すぎるだろ。よくこれで暴動が起きないな」
「はぁ!? 何よ偉そうに! 文句があるなら食べなきゃいいでしょう!」
カンナが顔を真っ赤にして怒鳴るが、俺はカバンから道中で買い込んでおいた調味料のボトルと、肉の塊、そして手慣れた様子でキャンプ用のクッカー(鍋)を取り出した。
「どけ。事なかれ主義の傍観者として、このまま不味い飯の空気に付き合うのは御免だ。俺が即席で美味いもん作ってやるから大人しく待ってろ」
俺は1万の巫力を包丁代わりに指先に薄く纏わせ、持参したブロック肉を均等な厚さに素早くスライスしていく。
焚き火の強火を利用し、鍋で肉を一気に炒めて脂を出し、そこにアメリカのスーパーで買っておいた濃厚なBBQソース、ガーリックパウダー、そして隠し味にほんの少しの醤油(前世の知識)を投入した。
ジュワァァァァァッッッ!!!
次の瞬間、ダイナミックに弾けた肉の焼ける音と共に、ニンニクと甘辛いタレの、脳髄を直接ブン殴るような暴力的かつ最高に美味そうな香りがキャンプ地全体へと一気に広がった。
「な、何よこれ……すごい良い匂い……」
「お腹が……鳴っちゃう……」
さっきまでトゲトゲしていたカンナのタバコがまた落ち、マリとマッチがゴクリと唾を飲み込んで鍋を凝視する。ペヨーテやハン・ザンチンまでが、そわそわとこちらを盗み見始め、キャンプ地のパワーバランスが「匂い」だけで完全にハッキングされた。
「よし、できたぞ。アメリカン・スタミナ肉炒めだ。冷めないうちにさっさと食え」
俺が即席で作った山盛りの肉料理をテーブルに出すと、彼女たちは我先にとフォークを伸ばし、その肉を口へと放り込んだ。
「っ――! な、何これ、お肉がすごく柔らかくて……タレが濃厚で、止まらない……っ!」
カンナが目を見開いて肉を貪り、マリとマッチも「美味しい! 美味しすぎるよこれ!」と、子供のように頬張っている。
荒野のサバイバルで疲れ果てていた彼女たちの胃袋は、俺の作った圧倒的な美食の質量によって一瞬で完全に掴まれてしまった。
《ふふ、主。ハオ様の部下の方々、主の料理の前に完全に陥落いたしましたな》
白銀の指輪から、サクヤがクスクスと楽しげな念話を響かせる。
「……ハ、ハオ様の弟子だからって、少しは骨のある奴かと思ったけど……ただの天才料理人じゃないの。まあ、この飯を毎日作ってくれるなら、弟子として認めてあげなくもないわ」
カンナはすっかり機嫌を良くして、口の周りにソースをつけながらクッキーのパックにも手を伸ばした。
結局、深夜のキャンプ地での緊迫した話し合いは、俺の持ち込んだ即席料理の前に、ハオ組の女性陣が完全にポンコツ化する形で奇妙な和みへと着地したのだった。
ハオ組の面々を胃袋で完璧に懐柔しつつ、俺はテントの奥を見つめ、ポケットの中でオラクルベルをそっと弄る。
(ハオに与する、哀しきシャーマンたち。お前たちの運命の結末も、俺は全部知ってる。……飯のケアくらいはしてやるからさ、まずはこの弟子修行で、お前ら全員を黙らせるだけの最高の『バグ(規格外)』に成り上がってやるよ)
肉を美味そうに食べる彼女たちの賑やかな声を聞きながら、俺は次の地獄の特訓に向けて、静かに己の魂の飢餓感を研ぎ澄ますのだった。