バグ魂の不確かすぎる多世界周回 〜シャーマンキング編〜 【AI本文利用】 作:カミト6622
パッチ族の里への旅路が終盤に差し掛かった、ある日の夕暮れ。
ハオ組のキャンプ地には、スタミナ料理の匂いすら掻き消すほどの、凄まじくドス黒いオーラが漂っていた。
「……ハァ。もう限界。髪はパサパサだし、肌は乾燥して荒野の砂まみれ。最後にシャワーを浴びたの、一体何日前よ……」
カンナが焚き火の脇で、いつも以上に不機嫌そうに紫煙を燻らせている。
その隣では、マリとマッチの魔女コンビも「お風呂に入りたいよー」「服が汗臭くて死んじゃいそう……」と、完全に魂が抜けたような顔で愚痴をこぼしていた。
世界の理不尽に絶望した最強のシャーマン軍団とはいえ、彼女たちも年頃の女の子だ。
アメリカの広大な荒野を何週間もサバイバルしていれば、お風呂に入れないという精神的ストレスは、戦闘の疲労をも遥かに凌駕する致命的なダメージになっていた。
そんな女性陣の死に体っぷりを丸太の上でのんびり眺めながら、俺はフッと前世の原作知識を思い出し、口元を歪めた。
(あー、そういえばそうだったな。パッチ族の里の入り口付近には、あいつらが巫力で沸かしてる隠された温泉(露天風呂)があるんだよ。確か、この岩壁のすぐ裏手あたりだったはず……)
前世の現代日本において、36年間風呂好きとして生きてきた俺だ。
飯の不味さにも耐えられなかったが、この風呂に入れないという不衛生な環境も、事なかれ主義の美学としてはそろそろ限界だった。
俺はカバンからバスタオルを引っ張り出すと、立ち上がってカンナたちに声をかけた。
「おい、魔女三姉妹。そんなに風呂に入りてえなら、いい場所を教えてやるよ。この岩壁の裏に、パッチ族のオフィシャルな奴らが隠れて使ってる極上の露天風呂(天然温泉)がある」
「はぁ!? 露天風呂って……そんな都合のいいものがこの荒野にあるわけないでしょ!」
カンナがジト目で睨みつけてくるが、俺は構わずに歩き出す。
「嘘だと思うならついてきな。ただし、混浴にする趣味はねえから、俺が先に入って、その後でお前らが入れよ。あ、あと覗き対策はバッチリしてやるから安心しろ」
半信半疑のまま、藁にもすがる思いでついてくるカンナたち。
岩壁の細い隙間を通り抜け、開けた谷間へと出た瞬間、彼女たちの目が一斉に見開かれた。
そこには、パッチの術理によってこんこんと湧き出る、湯煙を豪快に立ち上らせた美しい天然の岩風呂があったのだ。
「う、嘘……本当に温泉がある……っ!?」
「すごーい! 湯気が生きてるみたい!」
「言ったろ。じゃ、俺はさっさと済ませるから、お前らはそこで待ってろよ」
俺は素早く服を脱ぎ、数週間ぶりの湯船へとダイブした。
ドボン、と心地よい音と共に、50万へと覚醒した俺の全身の細胞に、温泉の温かさと成分が染み渡っていく。
「かぁーーーーっ!! 生き返る……ッ!! やっぱりこれだな! 前世の未練その二、温泉を貪る! これ以上の極楽はねえわ……!」
《ふふ、主。実にお幸せそうで何よりです。このサクヤ、周囲に見張り(浮遊霊)を配しておりますので、ゆっくりとお浸かりくだされ》
サクヤの念話に感謝しつつ、極上の湯を堪能した俺は、わずか十分ほどでカラスの行水のごとく湯から上がった。事なかれ主義の男として、女性陣をこれ以上待たせて機嫌を損ねるメリットはないからな。
服を着直した俺は、湯船の前に立つカンナたちに向かって左手の指輪を突き出した。
「よし、交代だ。……一応、そのまま入るのも落ち着かないだろ。サクヤ、五行の『土(ど)』と『水(すい)』を変転させて、即席の目隠しを作るぞ」
《御意にございます、我が主!》
俺が50万の巫力をハオ直伝の五行の理で軽く駆動させると、温泉の周囲の土壌がズズズ……と生き物のように盛り上がり、湯船の周りを完璧に囲うような、高さ三メートルほどの頑丈な石壁の防壁を形成した。外からの視線はもちろん、海軍の見聞色すらシャットアウトできそうな完璧なプライベート空間(即席の脱衣所付き)の完成だ。
「よし、これで覗き対策もバッチリだ。ペヨーテやハン・ザンチンが覗こうとしたら、この壁が自動で迎撃するようになってるから、安心してゆっくり入ってこい」
俺が完璧な「お風呂環境」をハッキングして提供すると、カンナやマリ、マッチたちは、もはや驚きを通り越して、完璧に呆然と固まっていた。
「……お前、本当に1万そこらの有象無象(モブ)なの? 料理がプロ級なだけじゃなくて、お風呂の目隠しまで陰陽術で完璧に作るなんて……ずいぶんと気の利く、事なかれ主義の衛生兵じゃない」
カンナは呆れ顔の中に、隠しきれない感謝の笑みを浮かべると、嬉しそうにバスタオルを抱えて石壁の向こうへと消えていった。
その後、石壁の向こうからは「キャーッ! 気持ちいいーっ!」「肌がつるつるになるー!」という、ハオ組の魔女たちとは思えない、完全に普通の女の子に戻った歓声が響き渡る。
飯に続いて、お風呂環境まで完璧に提供してハオ組の女性陣を(ポンコツな意味で)陥落させた俺は、丸太の椅子に戻り、夜空を見上げてふぅと息を吐いた。
(ハオを救うための修行編の裏側で、まさかハオ組のお風呂担当大臣になるとはな。……まあ、事なかれ主義を貫くためにも、身内のケアは大事ってことだ)
湯上がりのポカポカとした身体で、俺はポケットの中のオラクルベルをそっと弄る。
胃袋とお風呂を完璧に掴まれたハオ組の面々と共に、俺たちの旅路はいよいよ、パッチ族の里の本当の入り口へと、静かに、しかし確実に到達しようとしていた。