バグ魂の不確かすぎる多世界周回 〜シャーマンキング編〜 【AI本文利用】 作:カミト6622
「ふはぁ……。やっぱり、遮光タープの影で飲む冷えた炭酸飲料と、特注のポータブルクッションは最高だな」
シャーマンファイト本戦1回戦の会場、砂埃が舞う荒涼としたメサ(岩山)。その最も見晴らしの良い崖の上に、俺は場違いなほどラグジュアリーな空間を出現させていた。
本来なら一般の観客や他のシャーマンが雑然と立ち見するはずの場所だが、ここは違う。パッチ族の十祭司にFXで稼いだ莫大な札束を叩きつけ、強引に買収して拵えさせた『ハオ組専用特等席』だ。ブラック企業気質なパッチ族も、圧倒的な資金の質量(マネーパワー)の前には極上の笑顔で平伏し、日よけのパラソルから最高級のリクライニングチェアまで完璧にセッティングしていった。
そんな至れり尽くせりのプライベートスペースで、俺は周囲のシャーマンたちが放つピリピリとした殺気などどこ吹く風で、贅沢なため息を漏らしていた。
俺自身の本戦1回戦は、先ほど『神鳴の一矢』のワンパンで文字通り一瞬で片付いた。相手の3人チームがどんな精霊を使っていたのかすら、もう思い出せない。
パッチ族のぼったくりオラクルベルが我が物顔で俺のソロ勝利を告げたのを確認し、そのまま札束の力で勝ち取った特等席で、他の連中の試合を高みの見物と洒落込んでいるのだ。
バリッ、サクッ、モグモグ。
俺は日本のスーパーで買い込んでおいた、濃厚なコンソメパンチ味のポテトチップスを容赦なく口へと放り込む。指先についた旨味パウダーをペロリと舐めながら、炭酸飲料をゴクゴクと喉に流し込んだ。過酷な戦場で食べるジャンクフードほど、背徳的で美味いものは無い。
「ちょっと蓮夜、それ美味しそうじゃない! 私にも頂戴よ!」
「あ、ずるいカンナ! マリも食べるーっ!」
「マッチの分も残しておいてよね!」
俺の横に並べられた高級ソファーでは、カンナ、マリ、マッチの魔女三人娘が、まるでリゾート地にでも来たかのように大騒ぎしながら俺のポテトチップスの袋に手を伸ばしてくる。
「蓮夜の坊主、今日の初陣は見事だったでヤンス。……で、その、俺たちの分の冷えたビールはまだクーラーボックスに残ってるでヤンスかね?」
タープの影でそわそわしていたハン・ザンチンや、他の男性陣も期待に満ちた熱い視線を送ってきている。戦場を完璧に私物化している俺の快適空間の前に、ハオ組の面々はすっかりただの「ラグジュアリーな野次馬」と化していた。
《ふふ、主。ご自身の試合が終わったというのに、パッチ族を札束で黙らせてハオ組の皆様専用の特等席を作るなど、相変わらずの事なかれ主義ですな。しかし、これほど過酷な戦場をリゾート化してしまうとは流石でございます》
白銀の指輪から、サクヤがクスクスと楽しげな念話を脳内に響かせる。道中の過酷な荒野サバイバルを経て、彼女もすっかり俺の現代風の不届きな観戦スタイルに馴染んできていた。
「いやいやサクヤ。俺は基本、事なかれ主義の傍観者だからね。自分が死なないための最強の力と、快適な環境さえあれば、他人の殺し合いなんてこうして身内と遠くからエンタメとして眺めるのが一番なんだよ。……ほら、始まったぞ。まずは主人公(葉)たちの初陣だ」
札束で拵えた特等席からは、里の各所に設置された複数の特設リングが実によく見渡せる。さらに手元には、パッチ族の通信回線をハッキングして強引に同期させた最新型の液晶モニター(特注品)も起動しており、マルチアングルでの死角はない。
最初のリングに映ったのは、麻倉葉、阿弥陀丸を擁する『ふんばり温泉チーム』。対するは、北部氷結地帯から来た実力派『ICEMEN(アイスメン)』。
「……なるほど。これが葉の新しいオーバーソウル、『スピリット・オブ・ソード』か」
肉眼とモニターの双方から伝わってくる、凄まじい巫力の質量。和弓の形をした俺の初期O.Sとは対照的な、巨大な大剣の姿。葉はそれを軽々と扱い、アイスメンの氷結攻撃を文字通り一刀両断にしてみせた。
「圧倒的じゃないか。さすがはハオ様の半身、原作知識で知ってはいたけど、実際にあの巫力の凝縮度を生で見るとゾクッとするね」
《ええ。あの葉という少年の霊魂の輝きは、確かに底知れないものを感じます。ですが主、あちらのリングも中々に不穏な空気を含んでおりますよ》
サクヤに促され、俺は少し離れた別のメサに視線を移す。
そこにいたのは、全身を白装束で包んだ謎の組織『X-LAWS(エックス・ロウズ)』の主力チーム『X-I』。対戦相手は、エジプトの神々を操る『ナイルズ』だ。
「あー……。ここか。リゼルグが脳を焼かれるきっかけになった、トラウマ試合」
アイアンメイデン・ジャンヌの冷酷な命令のもと、マルコたちが圧倒的な近代兵器(天使)の力でナイルズを蹂虙していく。正義という名の、あまりにも一方的な処刑劇。乾いた風に乗って、微かに血の匂いがここまで届くかのようだ。あまりの容赦のなさに、さっきまでポテトチップスを奪い合っていたカンナたちも、一瞬だけ真面目な顔をしてモニターを見つめている。
「相変わらず、あいつらの『正義』は極端すぎて胃が痛くなるな。関わりたくない度ナンバーワンだわ。ハオ様が『ちっぽけだね』って吐き捨てる気持ちもよく分かる」
バリッ、ボリボリ。
「おや、僕の悪口かな? 蓮夜。それに随分と香ばしくて美味しそうなものをみんなで食べているね」
サラリとマントが揺れ、いつの間にか俺のパラソルの影、ハオ組専用特等席の最も特等席である岩場に腰掛けていたハオ様が、クスクスと楽しげな笑みを浮かべてこちらを覗き込んできた。相変わらず気配が全く無い。神出鬼没にも程があるだろ。
「悪口じゃありませんよ、ハオ様。ただ、あそこまで極端な連中だと、事なかれ主義の俺としては『特等席でのんびり』が正解だなとしみじみ思っていただけです。ハオ様も、あんな退屈な処刑劇を見るより、俺のクーラーボックスから冷えたジュースでも持って行きますか? あ、ポテトチップスもどうぞ」
袋をハオ様の方へ差し出すと、ハオ様は実におかしそうに目を細め、俺たちの輪の中にふわりと着地した。そして綺麗な指先でポテトチップスを一枚つまみ、サクッと口にする。
「ふふ、手厳しいね。でも、君の用意するものは確かにあそこのパッチの泥水や干し肉より何倍も価値があるよ。この不思議な菓子も悪くない。パッチ族を札束で調教してこんな席を作らせるなんて、相変わらず君のやることは面白いね。……それにしても、葉は随分と楽しそうに戦うじゃないか」
ハオ様の視線が、ふんばり温泉チームが勝利を収めたリングへと向けられる。その瞳の奥には、深い愛憎と、千年の孤独が揺らめいていた。
「まぁ、あいつはあいつなりに、のんびり生きたいだけですからね。俺と似たようなものです」
「君と葉が同じ? まさか。葉はこんな過酷な戦場で、ポテトチップスを齧りながら僕の部下たちを完璧に調教(ハッキング)して勝手にリゾート化するような、悪魔じみた真似はしないさ」
ハオ様は冷えた缶を傾け、実におかしそうに声を上げて笑った。
視線の先では、次の試合――ペヨーテ率いる『土組』と、道蓮たちの『チーム・THE・蓮』が激突しようとしていた。
本戦1回戦の狂騒はまだ始まったばかり。俺はハオ様やハオ組の皆と共に、どこまでも快適に整えられた特等席からその様子を冷ややかに、転生者としての知識を胸に抱きながら、不敵に見下ろすのだった。