バグ魂の不確かすぎる多世界周回 〜シャーマンキング編〜 【AI本文利用】 作:カミト6622
「……やれやれ、とんだタイムロスだ」
麻倉幹久を置き去りにし、林道の奥へと足を進めながら、俺――御門蓮夜は小さく息を吐いた。
持霊のサクヤは、《お疲れ様でした、蓮夜。しかし、あの麻倉の男、最後までこちらの底が見えぬことに怯えていましたね》と、脳内でどこか愉快そうに声を弾ませる。
(まぁ、ただの一般家庭のガキが『ハオの弟子』を名乗って50万の巫力を振り回したんだ。シャーマンの歴史を背負う人間からすれば、最悪のバグ物件に見えただろうよ)
こちらの目的をのらりくりとはぐらかし、「どちらの味方もしない」と突き放しておいた。
事なかれ主義の防衛本能として、レバレッジ最大級の脅しをかけておいたお陰で、これ以上しつこく付きまとわれることはないだろう。……当面は。
「さて、と。ハオ様のところに戻るか。新参の弟子としての『任務』――ぶっちゃけ、ただの雑用とか買い出しだけど、それをこなさないとまたあの魔女たち(ハナ組)に胃袋の叫びをぶつけられるからな」
FXで稼いだ富豪のセーフティネット(軍資金)はある。だが、このパッチの里の奇妙な狂騒の中で、余計なヘイトを買うのは趣味じゃない。俺は特等席の野次馬、あるいは傍観者として、この千年の因縁が破滅へと向かう様を、ただ見届ける権利を手に入れたいだけなのだから。
◇
一方その頃。
蓮夜が去った林道には、いまだ半分に叩き割られた岩山から、凄まじい風圧の名残である砂埃が舞い散っていた。
麻倉幹久は、冷や汗で濡れた数珠を静かに握り直し、未だに微かに震える自身の持霊、イズナとイマチを見つめていた。
「……あれが、ただそこにあるだけの数字、か」
ハオの125万。そして、あの少年の50万。
桁外れの巫力を、ただの『質量』として扱い、五行の理すら強引に書き換えて見せたあの飄々とした態度。
あれはハオの狂信者などではない。だが、だからこそ『どちらの味方もしない』という言葉が、逆に不気味なまでの狂気を孕んで響く。
幹久は懐から通信機器を取り出すと、険しい表情のまま、実家である出雲の麻倉葉明へ、そしてふんばり温泉にいる恐山アンナへと連絡を入れた。
「……私だ。すまない、予選の動向を探る中で、とんでもないイレギュラーに遭遇した」
通信の向こうで、怪訝そうな沈黙が流れる。幹久は、乾いた喉を鳴らしながら言葉を続けた。
「御門蓮夜。ふんばりヶ丘の一般家庭の少年だ。……奴はハオの弟子を名乗っている。だが、ハオへの忠誠ではなく、まるで世界そのものを『傍観』するような目で戦いを見ておる。巫力は……少なくとも50万オーバー。術の理そのものを書き換える、不確かなバグのような怪物だ。葉たちには、絶対にあの少年とだけは接触させるな。あれは……近づけてはならない最大級の爆弾だ」
千年の因縁に突如として現れた、計算外のバグ。
その存在は、麻倉の歴史に、静かだが決定的な一石を投じようとしていた。
場所は葉達のいる恐山アンナへと移る。
「御門蓮夜……?」
幹久からのただならぬ緊迫感を孕んだ報告を通信機越しに聞いた恐山アンナは、少しだけ目元を険しくさせた。
しかし、その場に居合わせた麻倉葉は、頭の後ろで両手を組みながら「あー……」と気の抜けた声を漏らす。
「なんだ、親父、御門の奴と会ったんか。あいつ、相変わらず凄いことになってんだな」
「葉、お前あの少年を知っているのか!? 奴はハオの弟子を名乗っているんだぞ! 巫力50万オーバーの、いつ爆発するかも分からない最大級の爆弾だ!」
焦りを隠せない幹久の怒声がスピーカーから響くが、葉は「まあまあ、落ち着きなって」と苦笑いするだけだった。
「知ってるも何も、あいつ、ふんばりヶ丘の隣のクラスの御門だよ。中学の時からさ。確かに巫力はぶっ飛んでるし、何考えてるか分かんねえとこはあるけど……あいつはそういう『めんどくさいこと』が一番嫌いなタチだからな」
「そうよ。あの男の行動原理は、美味いものを食うことと、のんびり傍観すること、それから何やら怪しい先物取引とかで金を動かすことくらいだ。ハオの思想に染まるようなタマじゃないわ」
アンナもまた、108個の数珠を弄びながら冷淡に言い放つ。
ふんばり温泉にいた頃から、蓮夜という男の「事なかれ主義」と、その裏にある圧倒的な実力は嫌というほど見せつけられてきた。今さらハオの弟子になったと聞かされても、「また何か良からぬ企み(あるいはただの居心地の良さ)で居座っているのだろう」と、呆れこそすれ、特段の警戒を抱くには至らなかった。
「……お前たち、あのご来光のような理不尽を前にして、なぜそこまで平然としていられるんだ……」
通信の向こうで、幹久の困惑と疲弊が混ざったような声が漏れる。
千年の因縁だの、世界の救済だのという重い宿命を背負って戦っている幹久からすれば、葉たちのこの『いつも通り』の反応こそが、最大の計算違いだったのかもしれない。
「ま、親父もあまりあいつを刺激しなさんな。普通にしてりゃ、あいつから仕掛けてくることなんて絶対ねえからさ」
葉の言葉を最後に、通信は静かに切られた。
麻倉の歴史を揺るがすほどの怪物として報告された御門蓮夜は、当の葉たちにとっては、どこまで行っても「隣のクラスの、ちょっと変でめちゃくちゃ強い御門」のままなのであった。