バグ魂の不確かすぎる多世界周回 〜シャーマンキング編〜 【AI本文利用】 作:カミト6622
「……いや、待て」
一度は死体に背を向け、ハオ様の陣営へと帰路に着こうとした俺の足が、泥に囚われたようにピタリと止まる。
脳内でサクヤが《蓮夜? どうなさいました》と怪訝そうに首を傾げ、左手の指輪の奥でマタムネの霊体が静かにこちらの動向を窺う気配がした。
(……ダメだ。流石に後味が悪すぎる)
いくら事なかれ主義の傍観者を気取っていようが、前世はただの現代日本人だ。クラスメイトの友人が胸を撃ち抜かれて死んでいるのを、原作のイベントだからとポップコーン片手に見過ごすほど、俺の魂は摩耗しきっていなかった。
「ここで葉が大会を棄権する流れ、ぶっちゃけ見ていて面白くないんだよな。……こうなったら、原作なんて知るか。盛大にバグらせてやるよ」
俺はジャージのポケットから手を抜くと、躊躇いなく道蓮の遺体へと歩み寄った。
「蓮――っ!!」
「嘘……だろ……? なぁ、蓮! 目を開けろよ!!」
その瞬間、草むらを激しく掻き分けて、血相を変えたホロホロとチョコラブ・マクダネルが川辺へと飛び込んできた。
彼らは地面に横たわる蓮の惨状を目にした瞬間、一様に息を呑み、その場に凍りついた。主を失い泣き崩れる馬孫の霊体が、その死の絶対性を残酷に証明している。
「おい、お前、御門……っ!? なんでここに……!」
ホロホロが取り乱しながら、蓮の側にしゃがみ込もうとしていた俺を鋭く睨みつける。だが、今の俺に彼らの相手をしている時間はない。
「サクヤ、周囲の警戒を。誰も近づけるな」
《――御意!》
サクヤが即座に展開し、圧倒的な霊圧の壁でホロホロとチョコラブを強引に数歩下がらせる。
見上げれば、川に架かる橋の上には、事の顛末を監視していたパッチ族の十祭司たちの姿もあった。彼らもまた、突然現れたイレギュラーな俺の動向を険しい表情で見下ろしている。
全員の視線が集まる中、俺は蓮の凄惨な胸の傷口の前にしゃがみ込み、左手の【白銀の指輪】をかざした。
やることは決まっている。ハオ様から直々に叩き込まれ、己のバグ魂で独自の極みへと昇華・完成させた千年の秘術――『泰山府君祭』。
魂の結合、浄化、そして生と死の境界すら歪める、神の領域の陰陽術だ。
「ハオ様の12五万も、僕の50万も、ただそこにあるだけの数字……。だったら、その数字の暴力で、冥府の門を強引にこじ開けるまでだ」
カツン、と指輪の白銀のフレームが鳴る。
その瞬間、俺の身体から50万オーバーの規格外な巫力が、眩い白銀の輝きとなって爆発的に立ち上った。川辺の空間そのものが、その圧倒的な質量によってピキピキと凝固していく。
「お前も泣いてる暇があるなら手伝え、馬孫! 蓮の魂のピーキングを合わせろ!」
「は、はい、御門殿……! 蓮ちゃま、蓮ちゃまぁぁ!!」
主を失いかけて消えかかっていた馬孫が、俺の霊圧に震えながらも死に物狂いで蓮の霊体を繋ぎ止める。
橋の上のパッチ族が「なっ……バカな、あの巫力の質量は……!」「それにあの術式はまさか……!」と驚愕の声を上げるのが聞こえたが、完全に無視だ。
俺はハオ様との修行の日々を思い浮かべながら、両手で複雑な印を結んだ。脳裏に浮かぶのは、世界の理を司る五行の循環。
「――五行の理を以て、陰陽の転輪を逆行させる。泰山府君の名において命ずる。戻れ、道蓮」
キィィィィン――!!
白銀の光弦から放たれるような、理を凌駕する無音の閃光が、蓮の胸の傷口へと吸い込まれていく。
それは破壊 of の光ではない。壊れた魂の器を内側から優しく包み込み、肉体を修復し、離散しかけていた魂を強引に定着させる『魂の結合』の輝き。
ドクン。
静まり返った川辺に、力強い鼓動の音が一つ、響き渡った。
胸の風穴が白銀の巫力によって急速に塞がり、生気がその青白い頬へと戻っていく。
「……はっ、げほっ……!!」
激しく咳き込みながら、道蓮の目がカッと見開かれた。
死の淵から完全に引き戻された御曹司は、自身の胸を抑え、目の前にいる俺と、膨大な巫力の残滓を見て驚愕に目を見張る。後ろでは、ホロホロとチョコラブが「蓮が……生き返った……!?」と、開いた口が塞がらない様子で固まっていた。
「お前、は……御門、蓮夜……!? 俺は、確かにペヨーテに……」
「2度目の人生大事にしろよ。……さて、これで貸し一つだ、道くん」
俺は何事もなかったかのように立ち上がると、呆然とする蓮たちを置き去りにして、パッチの里の特産品が入った袋を片手に、今度こそ飄々と歩き出した。
原作を盛大にぶち壊してやったという妙な全能感と、それ以上に「これでハオ様に怒られたらどう言い訳しようか」という、事なかれ主義特有の頭の痛い問題が、早くも俺の脳裏を過り始めていた。