バグ魂の不確かすぎる多世界周回 〜シャーマンキング編〜 【AI本文利用】 作:カミト6622
焼肉の店からの帰り道。
夜のパッチの里を包む空気は、山特有の冷涼さと静寂を孕んでいた。
俺の前を歩く花組の魔女たちは、「美味しかったわね」「次はもっと高い店に連れて行きなさいよ」と、現金なもので、肉を奢っただけで完全に上機嫌になって賑やかに燥いでいる。
そんな彼女たちの背中を少し離れた位置から眺めながら、俺――御門蓮夜は、夜風にジャージの襟を揺らし、一人静かに歩を進めていた。
(……いや、待てよ)
満腹感と共に訪れるはずの気怠さを押し退けるようにして、ふと頭の片隅に浮かび上がった違和感。
それが、急速に冷たい確信へと変わっていくのを、俺のバグ魂が敏感に察知していた。
川辺で心臓を撃ち抜かれて転がっていた道蓮の死体を前にした時。
そして、その蓮をハオ様直伝の秘術『泰山府君祭』で強引に引き戻した、あの大立ち回りを思い返していた時のことだ。
俺は前世の記憶――すなわち、この世界の『原作の知識』を完璧に持っていた。
本来の歴史であれば、ここで葉がX-LAWSのアイアン・メイデン・ジャンヌに頼り、その蘇生の対価として葉がシャーマンファイトを『棄権』する。そんな、見ていてクソ面白くもない不条理の流れを知っていた。だからこそ、後味が悪くて、レバレッジ最大級の気まぐれで歴史をバグらせた。
だが、そこで思考が奇妙な空白にぶつかる。
俺は、この世界に転生してからの『御門蓮夜』としての1周目の人生の足跡を、静かに、最初から思い返していった。
――現代日本で不幸にも死亡した36歳男性独身童貞の俺が、御門蓮夜として、ふんばりヶ丘の一般家庭に産み落とされた時のこと。
――中学の時、何気ない日常の中で、隣のクラスの麻倉葉と出会い、ただのクラスメイトとして言葉を交わしたこと。
――パッチ族の十祭司であるシルバと出会い、自分の実力を見せつけてシャーマンファイトの参加資格を得たこと。
――そして、パッチ族の里を目指すアメリカの地で、彼我の力の差を思い知り、自身の周回仕様という秘密を対価に、覚醒前のハオに「力を、陰陽術のすべてを、泰山府君を教えてください」と懇願し、泥臭く弟子入りしたこと。
――そして今、ハオ様の陣営の一員として、本来なら馴れ合うはずのないハナ組の魔女たちとこうして仲良く卓を囲み、高級なあぶり肉を奢って笑い合っている、この奇妙な日常のこと。
そのすべての点と線が、今回の道蓮の蘇生という劇的な瞬間を経て、一つの巨大な、そして逃れようのない現実として脳内で繋がった。
(……違う。俺がここにいるせいで、最初から全部狂ってたんだ)
前世の俺が漫画やゲームでこよなく愛した、あの『シャーマンキングの世界』。
そこには、御門蓮夜という人間なんて元から存在していない。
俺は、この世界の正史における登場人物でもなければ、元から用意されていた隠しボスでもない。
何度も異世界を転生する体質を持ち、そこで得た能力や知識を内包したまま『強くてニューゲーム』を繰り返している、文字通りの完全な異物(バグ)。
俺はただの事なかれ主義を気取り、「基本傍観スタイル」を貫いて、安全な特等席で野次馬を決め込んでいるつもりだった。
だけど、それは傲慢な勘違いだったのだ。
産まれた瞬間から、葉と出会った時から、シルバと出会った時から。
アメリカの地でハオに教えを請うたあの瞬間から。
そして今、ペヨーテたちの仕事を台無しにし、ハナ組と笑いながら肉を食っているこの瞬間まで。
俺がただそこに存在し、生きて、動き、選択をしてきたその一歩一歩の全てが――すでにこの世界の『原作』を、その歴史の歯車を、根底から完全に崩壊させ続けていたのだ。
俺が介入しなければ、葉が棄権するはずだった。
俺が介入しなければ、花組がこんな風に一人の男に胃袋を掴まれて懐くはずもなかった。
俺という存在そのものが、この世界に落ちた最大のバグであり、不条理そのものだった。
だからこそ、麻倉幹久は俺のご来光のような理不尽を前に冷や汗を流し、パッチ族の十祭司たちは予測不能なイレギュラーとして恐怖を隠せない。
そしてハオ様ですら、本来であれば人類への憎悪と千年の孤独に染まるはずだったそのシナリオを、俺というバグによって徐々に狂わされ、気付けば俺に特別な執着を抱くほどに惹きつけられている。
「ハオ様の125万も、僕の50万も、ただそこにあるだけの数字……か」
自嘲気味に、夜空を見上げてその言葉を繰り返す。
存在しないはずの異物が、50万という圧倒的な質量を持って、この世界の真ん中に立っている。
事なかれ主義を気取り、美味いものを食べてのんびり過ごそうとしていたが、俺がただそこにいて、気まぐれに弓弦を引くだけで、世界の因縁(レバレッジ)はどこまでも歪み、崩壊していく。
「フッ……まぁ、いいさ。元から存在しない席なら、どこに座ろうが僕の勝手だ。こうなったら最後まで、僕のレバレッジ(気まぐれ)に付き合ってもらうよ、この世界にはね」
前を歩くマチルダが「レンヤ、何たそがれてんのよ! 置いてっちゃうわよ!」と振り返って声を張り上げる。マリオンも無言のまま、不満げにこちらをジロリと睨んできた。
「今行くよ」
俺はいつもの飄々とした笑みを顔に張り直すと、ジャージのポケットに手を突っ込み、魂に深く刻まれたバグの重みを感じながら、夜の闇へと力強く足を踏み出した。
自分が壊し、変え続けているこの不条理な世界の中心で、存在しないはずの傍観者がどこまで歴史を狂わせ、どんな結末(生命の答え)へ辿り着くのか。それを誰よりも近い特等席で見届けるために。