バグ魂の不確かすぎる多世界周回 〜シャーマンキング編〜 【AI本文利用】 作:カミト6622
花組の魔女たちと別れ、星が綺麗に見える夜のパッチの里を一人歩く。
ハオの待つホテル最上階へと戻った俺は、静かに灯る明かりの奥で、炎の精霊を傍らに佇ませるハオ様と再び対峙していた。
「おや、蓮夜。随分と賑やかな晩餐だったようだね。カンナたちも君にすっかり胃袋を掴まれてしまったようだ」
いつものように穏やかで、すべてを見透かすような笑み。
だが、ハオ様はその深い双眸を僅かに細めると、音もなく俺の目の前へと歩み寄ってきた。衣服の擦れる音すらしない、幽霊のような足取り。
「……どうしたんだい? 君の魂が、酷く歪に揺らいでいる」
ハオ様の白い指先が、俺の額にそっと触れる。
霊視(人の心を読み取る力)を持つこの千年の超越者の前で、嘘や誤魔化しは一切通用しない。ましてや、今の俺の魂は「自分がこの世界を崩壊させている」という冷たい確信に激しく震えていた。その微かな、だが決定的な精神の揺らぎを、ハオ様が聞き逃すはずがなかった。
「僕の秘術を勝手に使った時でさえ平然としていた君が、そんな目をしている。何を怯え、何を思い悩んでいるんだい? 僕の愛しい旅人」
逃げ場はなかった。
ここで「なんでもありません」とのらりくらりとはぐらかす事なかれ主義を通すには、相手のレバレッジが大きすぎる。
俺は小さく、自嘲気味な溜息を吐き出すと、観念してハオ様の目を真っ直ぐに見つめ返した。
「……ハオ様。観念しました。正直に言いますよ」
俺はジャージのポケットから手を抜くと、左手の白銀の指輪を見つめながら言葉を紡いだ。
「この世界は……もう、僕の知っている『シャーマンキングの世界』じゃないんです」
「君の、知っている世界?」
ハオ様が怪訝そうに眉を寄せる。俺が前世の記憶――この世界の未来や『原作の知識』を持っていることは、アメリカの地で弟子入りした際に対価として伝えてある。だが、俺が言いたいのはその先のことだ。
「僕がふんばりヶ丘の一般家庭に御門蓮夜として産まれた時から、中学で麻倉くんに出会った時から、シルバに出会った時から……。そして、アメリカの地であなたに力を乞い、今こうして花組と肉を食っているこの瞬間まで。……本来の歴史(シナリオ)には、僕なんていう人間はどこにも存在していないんですよ」
一気にまくし立てる俺の言葉を、ハオ様は遮ることなく、じっと静かに聞き続けている。
「今日の川辺だってそうだ。本来なら道蓮は死んで、葉くんたちはX-LAWSに頼り、シャーマンファイトを棄権するはずだった。それがこの世界の正史だ。なのに、僕がただそこにいて、気まぐれにあなたの泰山府君祭を使ったせいで、その歴史の歯車は木っ端微塵に砕け散った」
言葉にすることで、脳内の霧が完全に晴れていく。
傍観者を気取っていた自分が、どれほどこの世界を、この千年の因縁を滅茶苦茶にしてきたか。
「僕のせいで、本来の流れが完全に変わってしまった。僕がこの世界に立って、動き、選択をしてきたその一歩一歩の全てが、あなたの用意した舞台も、麻倉家の宿命も、最初から全部、根底から崩壊させていたんだ。僕は……この世界にとって、ただの最悪なバグなんですよ」
吐き出された告白は、空気を重く沈めさせた。
世界の理を、ハオ様の計画を、そして原作という絶対の聖域を、自身の50万という不条理な質量で強引に書き換え、破壊してしまったという事実。
ハオ様からすれば、自分の千年の大願や、葉を揺さぶるための極上のシナリオを台無しにされたのだ。激怒されても、ここで消去(殺)されても文句は言えない。
しかし――。
「……ククッ、ハハハハハハハ!」
沈黙を破ったのは、響き渡るハオ様の、心底愉快そうな高い笑い声だった。
「なっ……何が可笑しいんですか」
「可笑しいさ。本当に、君という存在は僕の想像をどこまでも超えていく」
ハオ様は笑い涙を指先で拭うと、その底知れない、だが狂おしいほどの親愛と執着に満ちた瞳で俺を強く見つめてきた。その細い両手が、俺の頬を優しく包み込む。
「流れが変わった? 世界のシナリオが崩壊した? ……それがどうしたというんだい、蓮夜。そんな退屈な既定路線、最初から壊れてしまえばいい」
「ハオ様……?」
「僕が退屈していた千年の因縁を、僕が用意した舞台を、君というたった一人の異物がその圧倒的な不条理で引っかき回し、僕の計算のすべてを狂わせていく。……これ以上の極上が、この世にあると思うかい?」
ハオ様の顔が、吐息が触れるほどの距離まで近づく。その瞳に映っているのは、世界への憎悪でも、全知全能の神としての冷徹さでもない。ただ一人の、御門蓮夜というバグに完全に魅了され、狂わされている一人の男の顔だった。
「君が女だったら良かったと、僕は以前温泉で零したね。けれど、今の君を見て確信したよ。男だろうが女だろうが、そんなものはどうでもいい。君のそのバグだらけの魂が、僕のすべてを狂わせ、僕の千年の孤独を内側から侵食していく。その事実こそが、僕にとって何よりも愛おしい」
ハオ様の冷たい指先が、俺の髪を優しく梳く。
「世界なんて、いくらでも君のレバレッジで壊すがいいさ。君が壊した世界の先にある結末を、僕は君のすぐ隣で、誰よりも特等席で見届けたい。……だから蓮夜、もう揺らぐ必要なんてない。君は君の我が儘のままに、この世界を最後までバグらせ続けるといい」
魂の最深部に刻まれた千年の秘術が、ハオ様の霊圧と共鳴するように、ドクンと熱く脈打った。
事なかれ主義の傍観者を気取っていたはずの俺は、この世界の破壊神であり救世主でもある絶対の存在から向けられる、あまりにも重すぎる全肯定の執着に、ただただ息を呑むしかなかった。