バグ魂の不確かすぎる多世界周回 〜シャーマンキング編〜 【AI本文利用】 作:カミト6622
ふんばりヶ丘に、本物の『地獄』が降臨した。
――恐山アンナ。
麻倉葉の許嫁にして、のちのシャーマンキングの妻となる予定の、文字通りの女王様だ。
彼女がふんばり温泉にやってきた瞬間から、葉の日常は「シャーマンファイト合格」を目指す過酷なシバき合いへと変貌していた。
(いやあ、原作で見た通りの地獄絵図だな。毎朝の長距離ランニングに、100本の素振り、さらにはアンナさんの容赦ないビンタ……。隣のクラスの出来事で本当に良かったぜ)
俺は学校の放課後、売店で買った大好物の焼きそばパンを頬張りながら、校舎の裏手でのんびりと息を吐いていた。
自力での修行が行き詰まっている現状、他人の地獄の特訓を眺めて「俺はあんな目に遭いたくないな」と現実逃避するくらいしか、今の俺にできる娯楽はなかったのだ。
《主、お口の周りにソースがついておりますぞ。……それと、大変申し上げにくいのですが、後方から凄まじい『助けを求める怨念』が近づいてきております》
サクヤの念話に、俺はビクリと身体を震わせた。
(……おい、まさか)
「おーーーい!! 蓮夜ァーーーッ!! 頼む、助けてくれえええーーーッ!!」
声のした方を振り向くと、そこには涙目になりながら全力疾走してくる麻倉葉の姿があった。
その後ろからは、阿弥陀丸が「葉殿ーっ! 走るのをやめてはアンナ様に殺されまするーっ!」と叫びながら並走している。
そしてさらにその後方――自転車をガタガタと猛スピードで漕ぎながら、般若のような形相で竹刀を振り回す恐山アンナが迫っていた。
「待ちなさい葉。今日のノルマが終わるまで、絶対に休ませないって言ったはずよ。……あら? 隣にいるのは、噂の『隣のクラスのシャーマン』かしら」
アンナの冷徹な視線が、焼きそばパンを持ったまま硬直している俺を捉えた。
その瞬間、俺の事なかれ主義のセンサーが、過去最大級の警報を鳴り響かせる。
(しまっ――巻き込まれるッ!!)
「好都合ね。葉、一人で走るより競い合う相手がいた方が効率がいいわ。そこのあなたも、今から葉と一緒に外周30周よ」
「はぁ!? いや、俺は隣のクラスの一般人で、ただの傍観――」
「問答無用。走らないなら、まとめて一万字の写経の刑よ」
アンナの瞳に宿る、逃亡を一切許さない絶対強者のオーラ。
今の俺には、気配を完全に消し去るような便利な「隠形」の陰陽術なんて高度な技術はない。あるのはただ一つ――。
(こうなったら、力技だ……!!)
俺は本能的に、魂の奥底から引き出した【1万】というバグじみた莫大な巫力を、両脚へとこれでもかと注ぎ込んだ。ただの身体強化。だが、1万の出力を全パイルしたそれは、凶悪なまでの暴風を巻き起こす。
「誰が走るかバカ野郎ーーーッ!!」
ドンッ!!! と地面を爆音と共に踏み砕き、俺は食べかけの焼きそばパンを死守したまま、陸上選手も真っ青な超スピードで校門へ向かってロケットスタートを切った。
術理もクソもない、ただの巫力のゴリ押しによる『決死の逃亡』である。
「ああっ! ずるいぞ蓮夜! 一人で逃げるなよーっ! 阿弥陀丸、俺たちも蓮夜を追いかけるぞ!」
「御意にござる、葉殿ーーーっ!!」
なぜかターゲットが俺に切り替わり、葉と阿弥陀丸が全力で俺の後を追いかけてくる。
違う、お前らが追いかけるべきは俺じゃない、己の運命だ!
「来るな麻倉! お前は大人しくアンナさんの特訓を受けてろ!!」
「嫌だあーっ! 蓮夜と一緒に走るーーっ! お前が一緒に走ってくれたら、アンナの小言が半分になる気がするんだ!」
「巻き込むんじゃねえ! 俺は事なかれ主義の傍観者なんだよーーっ!!」
ふんばりヶ丘の商店街を、猛スピードで駆け抜ける中学生三人(+霊体)。
後ろからはキコキコと不気味な自転車の音が変わらぬ距離で追ってきている。アンナさんのママチャリ、一体どういう駆動をしてるんだ。
《主! 我らにはまだ小細工できる術がございませぬ! ですが、そのバカ高い巫力の出力による純粋な脚力なら、決して負けてはおりませぬ! 次の角を強引に曲がって振り切るのです!》
(サクヤ、了解だ! おい麻倉、お前は真っ直ぐ走れよ! こっちに来るな!!)
「待ってくれよ蓮夜ぇーーーっ!!」
夕暮れの街に、事なかれ主義の男の悲痛な叫びと、呑気な主人公の泣き言が虚しく響き渡る。
修行の成果は出ないくせに、逃走のための巫力ゴリ押し身体強化だけが爆発的に馴染んでいく、そんな理屈抜きで理不尽な放課後のコメディ回だった。