バグ魂の不確かすぎる多世界周回 〜シャーマンキング編〜 【AI本文利用】 作:カミト6622
「ハァーーー、ハァーーー……死ぬかと思った、マジで……!」
自室のベッドに泥のように転がり込み、俺は盛大なため息を天井に吐き出した。
制服のシャツは汗で張り付き、足の筋肉が悲鳴を上げている。
あの後、1万の巫力をこれでもかと両脚に全パイルし、ふんばりヶ丘の路地裏を文字通り爆走して、なんとか葉の道連れ(とアンナさんのママチャリ)を振り切ることに成功した。
術理も何もない、ただの力任せのゴリ押し身体強化。おかげで逃げ切れはしたが、疲労感が半端じゃない。
《主、本当にお疲れ様にございました。まさかあのイタコの少女、ただの自転車であれほどの追跡劇を演じるとは……恐るべき執念ですな》
白銀の指輪から粒子となって現れたサクヤが、呆れたように、しかしどこかホッとした様子で俺の傍らに佇む。
(やっぱりあいつらに関わると平穏が死ぬな。事なかれ主義の傍観者を貫くためにも、明日からは本格的に葉の気配を察知したら即座に逆方向へ逃げるようにするわ……)
ぶつぶつと愚痴をこぼしながら、俺はベッドから這い起きると、冷蔵庫から冷えた炭酸飲料と、買っておいたちょっと高めの贅沢プリンを取り出した。
テレビの電源を入れ、前世でも大好きだったゲームのハードを起動する。
スプーンでプリンをすくい、口に運ぶ。
濃厚なカスタードの甘みとカラメルのほろ苦さが口いっぱいに広がり、脳の疲れが一気に吹き飛んでいく感覚がした。
「かぁーっ、美味い……! やっぱりこれだな。命がけの逃走の後に食う美味いもんとゲーム、これ以上の精神の癒やしはないぜ」
《ふふ、主は本当に美味しそうに物を召し上がりますな。前世でお金がなく、満足に食べられなかったという未練……今世では少しずつ形を変えて、主の心を支えているようで何よりです》
サクヤは嬉しそうに目を細め、ゲームの画面を興味深そうに眺めている。
戦国を生き抜いた武者である彼女にとって、現代のゲームや電子機器は未だに新鮮なものらしく、俺がコントローラーをガチャガチャと操作する手元をじっと見つめていた。
俺はゲームのキャラクターを動かしながら、ふと思ったことをそのまま口にする。
「なあ、サクヤ。ワンピースの世界、あ、いや、なんでもない。いつか俺がこの世界の限界をぶち破って、もっと広い世界に行けたらさ、お前にもっと美味いもの山ほど食わせて、綺麗な景色をたくさん見せてやりたいな」
《……え?》
「いや、サクヤは霊体だから味はわからないかもしれないけど。でも、お前は俺がこの世界で最初に手に入れた、唯一無二の最高の相棒だろ? 独学で行き詰まってる俺をいつも支えてくれてるしさ。だから、俺が手に入れる最高の経験も強さも、全部お前と半分こにしたいんだよ。お前が隣にいてくれるなら、どんな不条理な周回でも退屈しないしさ」
画面に集中したまま、何気なく、本当にただの感謝のつもりで放った言葉だった。
前世では童貞のまま死んだ俺だ。女性を口説くような高等テクニックなど持ち合わせているはずもない。だからこそ、魂の底からの本音だったのだが――。
静寂。
返事がないことを不思議に思い、俺はゲームの手を止めてサクヤの方を振り返った。
「サクヤ?」
見ると、サクヤは白銀の霊体であるにもかかわらず、その凛とした美しい顔を耳の根元まで真っ赤に染め上げ、両手で顔を覆うようにして身を震わせていた。
《ぬ、主……! 主、主主、主というお人は……っ!!》
「うおっ、どうしたんだよ急に」
《な、何を破廉恥なことを平然と口にされているのですか……っ! 最高の経験を半分こ、だなんて、それはいわば……その、生涯を共にする誓い(プロポーズ)のようなものではありませぬか……っ!!》
「いや、相棒への感謝というか、そういう意味で――」
《~っ! 某は武人でございます! そのような甘言を向けられては、どのように主を お支えすればよいか、分からなくなってしまいまする……っ!!》
いつもは冷静沈着な女武者が、完全にキャパオーバーを起こしてあわあわと手を泳がせている。そのギャップがあまりにも可愛らしくて、俺は思わずプリンのスプーンを咥えたまま固まってしまった。
(やべえ、無自覚に口説くような真似をしちまったか……? でも、赤くなってるサクヤ、めちゃくちゃ可愛いな)
前世では縁のなかった、ちょっとした甘い空気。
ゲームのBGMだけが流れる自室で、俺は気恥ずかしさに頭を掻きながら、残りのプリンを口に放り込んだ。
ハオの脅威、地獄の特訓、伸び悩む巫力。
問題は山積みだが、この可愛い相棒が隣にいてくれるなら、事なかれ主義の男の二度目の生も、案外悪くないかもしれない。