クソ過ぎクリエイター学校vs元最強のゴーストライター 作:匿名
001:鬼柳歩夢の忌むべき日常
楽器だけが置かれた狭い部屋。それが俺の全てだった。
与えられた命令に従って曲を作る。ジャンルも、曲調も、
指定された条件の中で、予想を上回る質を要求される。妥協は許されない。常に最高を超えなくてはいけない。
言われるがままに楽器を弾き、楽譜に書き込み、楽器を弾く。そうして創り上げたものに、" 俺 "の" 色 "はない。今日も誰かの曲として俺の曲は発表され、" 俺 "の" 名前 "はどこにも出ない。
ゴーストライター。
他人の創作物を、あたかも自分のものであるかのように発表すること。その" 他人の創作物 "を作るというのが、
成果物がノルマを満たしていれば合格。その日の食事が約束される。
満たしていなかった場合。俺という存在が不十分、" 役立たず "であったときには、食事がないことはもちろんのこと、指導という名目の" 罰 "は俺の身体へと振り下ろされた。時には命の危機を感じたこともある。普通に嫌だ。
――音楽とは、戦いだ。
――創作とは、戦場だ。
命を懸けた戦いだというのが、およそ10年間に及ぶ監禁生活で俺が過ごした時間だった。
自由もない、娯楽もない、希望もない。
窓もない部屋の中で、望むべき景色も見えない部屋の中で、それでも外に出ようという野望へ至ったのは、ほんの少しの思い出がきっかけだったりする。
――一度だけ、俺と同じように監禁されている人間と出会ったことがある。
機材環境の変更をする都合によって、おそらく不本意にも部屋から出される機会があった。目の下の
監視の目がない間に少しの話をした。
俺は音楽。そして、そのもう1人の人間は絵を描いているらしい。イラスト、あるいは漫画。俺と同じように、誰かが使うための作品を作っている同じゴーストライター。
互いに何をしているかを語り、いつか一緒に作品を作れたら――なんて話をした気がする。
まあ、そんなきっかけがあったというだけの話。
俺は監視の顔色を伺ったり、普段の様子を観察することが日課だったので、以前からここでどうすれば外界に出ることができそうだなぁと感じる場面があった。実行しなかったのは、実行後の目的がなかったからだ。
ただ、ほんの少し。
少しの思い出が、俺に好奇心を与えた。
俺のほんの少しの気まぐれによって、俺と関わる全てに警察の手が入り瞬く間に瓦解したのだとか。地位は地に落ち、名声はかき消えた。
とある一世を風靡していたアーティストが盗作疑惑で告発され、その他複数の売り出し中だった作曲家、シンガーソングライター、あるいはイラストレーターなんかが" クリエイター失格 "の烙印を押されたらしい。
詳細は俺の知るところではない話だ。
俺は言われるがままに曲を作っていただけ。それを放棄しただけなのだ。その程度で失われるものなど、知ったものか。
俺というゴーストライターの存在は、世間には伏せられた。
未成年であったし、監禁・強要・体罰と実情が実情であっただけに、今後も業界の闇として語り継がれるであろうこの記録に俺の存在を公表することは避けるのが良いのだと説明をされた。
それが良いというのならそれが良いのだろう。
俺は新たな保護者の下、一般的であるとされる何一つ不自由のない生活を送る権利を得た。苦痛であるのなら、もう二度と楽器に触らなくていいという資格を得た。
――なぜ俺がこうして外界に出たのか、その目的は自分でもよくわかっていないままだ。
*
「
新たな保護者――というにはもう1年近くが経過したため言うほど新たではないのかもしれないが、この新たな保護者からパンフレットを差し出された。
いわゆるところの、芸術高校。芸術の分野を専門職として教育する高等学校だ。
「なんでこんなところに?」
あまり意図がわからなかったので、聞いてみる。
「……せっかく保護してあげたというのに、君はあまり嬉しそうな顔をしないじゃないか。あの日、君の告発を受けて手を回したあの日から、もうじき1年が経つ。しかし君はどうだ。喜ぶどころか、どこか物足りない顔をしている」
「そんなことないですよ。俺は自由になりました。感謝してます」
「いいや違うね。君は求めているんだ、音楽を。戦いを。戦闘を。闘争を。
満たされていない。満足できていない。身体が、心が、あの戦場を求めている」
伏せられた表情、そこにあるのは後悔か。俺を保護したことへの後悔か、あるいは。
俺は感謝しているのだ。こんなにも、" 俺 "のことを考えてくれている人がいる。
「忌々しい記憶から遠ざけることが君のためだと思った、もう楽器に触れない方が君の幸せだと思った。でも違った」
俺が語ったことも含めて俺の全てを把握しているこの人が言うのだ、そうなのだろう。
「でも、こんな学校なんて行ったところで――」
言いかけた俺の口を塞いだのはこの人間の手。指。人差し指。新たな保護者であるこの女性の人差し指が、俺の唇に触れた。
「ここはそこらにある普通の学校なんてもんじゃない。次世代のクリエイターを育成するための教育機関、現代から未来までを視野に入れた、クリエイターが活躍していくための育成を目的とした機関だ」
だから何だ。それらしい言葉が並んでいるだけで内容がない。もっと具体的に言え。
「君の望む戦場がここにはあるよ。なぁに、青春をしろよ若者、そう言っているだけだ。
君と同年代の創作をする者が集まる場所。きっと楽しいものになる。年寄りの余計なお世話だよ」
「……まだ27ですよね」
「27なんてもうアラサーなんだよ。10も下の君と一緒にいる身にもなってみろ」
怪しく微笑む女性27歳。
「私もなんだかんだと家を空けることが多いからね。君を保護しておきながら、あたたかな家庭を用意することはできなかった。代わりにはならないが、3年間、ここで少し遊んでくるといい」
──『私立毒ヶ峰総合芸術高校』。
それが、俺の春から通う高校の名前だった。
■7時と19時の1日2回投稿努力! ストック無し! 行くぞ!!!