クソ過ぎクリエイター学園vs元最強のゴーストライター 作:匿名
入学式から1週間が経過した教室というのは、残酷にもそこにいる者を二分化する。
まず前者として、"
つまり次に挙げるべき後者というものは、自ずと導き出される。
"
ただし、勝負の場に乗ってもいないのに敗北したことにされるなど本意でないだろう。競うのならば、
だから。
教室の隅で独り佇む俺は負けていない。敗者などではないのだ。
――なぁに、青春をしろよ若者。
ふと、あの新しい保護者の言葉が蘇った。
あれれ。通告されて、いるのでは?
青春すなわち、友人作って学生生活エンジョイしろよということなのではと俺は解釈する。
……俺が、負けた?
敗北者……?
「今期のアニメ何見る?」「そのピアスかわいい! どこの!?」「また株価落ちてんな」「案件来た?」「金がねぇ!!!」「クソ過ぎ学園にぶち込まれた件ww」「なぁこの天然水1箱50000ペルリで買わないか? んで、お前も誰かに売るんだよ。そうすると――」
なるほど青春。割って入りたい話題がないぜ。
適正という、勝負以前の段階で俺は負けていたのかもしれない。
目を伏せて敢えて不敵に嗤ってみるも、俺が青春をエンジョイするような光景は見えてくることはなかった。早く自席に戻って来てくれ俺の唯一の友人
当の五条史華は友人の席に赴きガールズトークに興じているところ。俺と縁のない集まりだ。
そんな中ふと、教室の隅で大き目な声が上がった。
「お前、才神透流なんか聴いてんの!?」
「マジ? あの盗作事件のこと知らねーの!? ないわ……」
「きょ、曲に罪はないだろ!!」
――"
その名前は音楽界隈にとって極めて有名だった。
かつて一世を風靡したアーティスト。多種多様なジャンルの楽曲を多方面に提供するクリエイティビティを持ちその制作物のどれもが一級品、彼自身もシンガーソングライターとして活躍する新進気鋭にして最大風速で成り上がっていった天才鬼才。
ただし1年と少し前に、不祥事によって自滅というか、当然の報いを受けて業界から追放された名前だ。
「つか勝手に画面見るなよ。何聴いたっていいだろうが。曲は悪くねぇ。悪いのは才神、ゴーストライターなんか使ってたあいつだ!」
「そうだけどさ……え、お前すごいな。何曲持ってんの? アカウントごと動画も消えたし、配信も停止したんだろ?」
曲を憎まず人を憎め。
このクリエイター養成学校に、安易に創作物ごと蔑むものなどあまりいない。あまりいないかは知らないが、世間一般よりは他人の言葉に流されることなく作品自体を評価する" 心意気 "のようなものがあるはずだ。
音楽界隈という俺のとっつきやすい話題を見つけることはできたが、そこに嬉々として参加するような胆力も意思もなかった。残念ながら、教師がホームルームを始めるまで俺はひとりぼっちのままでいたのだ。
*
入学式から1週間。学校の空気も把握できただろうということで、俺を含む音楽科の生徒には課題を言い渡された。
専門学校を謳いながら座学をやらずにまず実習を設けるあたり、この学校がすでに一定のスキルを携えた人間を扱おうとしていることはよく伝わってきた。たぶんそういうこと。
課題の内容は、" 楽曲 "の制作と販売。
この
教師の評価はもちろんのこと。そして視聴ページと販売ページ、それらの再生数と販売数で競うというのが俺たちに課せられた題目。
――" 競う "と言うのならば、応じよう。
鬼柳歩夢に敗北は許されない。それが音楽の分野であるならばなおのこと、俺は俺を証明するために、俺の持ち得る全てで迎え撃とう。
と、ここまでは気合十分。
しかし俺は早速にして問題へと直面することになる。
「この課題では、" 肉声 "を含むオリジナル作品であることを条件とする。インストではない、ボーカルのある完成された楽曲だ。音楽と歌、その2点から審査した上で、再生数と販売数を集計する」
この教師の言葉に対して、名も知らぬそこらの生徒が反応を示した。
「待ってください! 僕は作曲できませんよ!」
「わ、私も! 歌うのは専門外で……」
動揺。騒めき。作曲と歌唱、両方を兼ね備えたオールラウンダーしかこの学校は求めていないのかという、焦燥。
「静かに!! ……最後まで聞け。当然、全てを1人でこなせという課題ではない。
歌う事しかできない? 弾くことしかできない? なら協力しろ!
これはチーム課題だ。歌手専門なら自分で曲を発注しろ! 作曲専門ならお前の声になる人間を見つけろ!
幸いこの学校は組むことのできる相手ならいくらでもいる。周りを見ろ。同級生に、上級生。ここはクリエイター養成学校なのだからな」
なるほどそれならば――と希望を持たされた生徒も、馬鹿でなければ即座に理解する。
そうだ。
俺たちは、金を持っていない。
『ペルリ』とかいうふざけた電子通貨が8万。8万ペルリ。日本円にしてたったの8000円しか支給されていないのだ。
発注。依頼。そのために必要な、" 対価 "がない――。
チーム課題。つまりは、生徒間、それもこの教室内。音楽科1年生の中で合作をすることが想定された課題なのだ。
「もちろん個人で挑んだっていい。ただし、生半可な実力では通用すると思うな。曲、歌唱、演奏。音楽再生ファイルに含まれる全てが審査基準だ」
教師が一瞬こちらを見た気がした。たぶんそれは気のせい、気がしただけだ。ただ俺に心当たりがあっただけのこと。
「製作期限は今月末! 4月30日終日だ! 5月1日0時から販売サイトで公開されるまでを設定するのが課題内容!
これは締め切りだ。1分1秒の遅れも許さない。プロの世界に遅刻はご法度、信用を損なう行為と知れ!」
*
で。
なにが俺にとって問題かというと、この課題に際して各生徒は学校の公式サイトにポートフォリオが公開された。このポートフォリオというのがつまりクライアントに提示される判断材料、この生徒に依頼を持ちかけるかの選考基準になるのだが、その公開された内容が問題。
入学試験の一環として事前に提出した、" 最低限の作品1つ "が掲載された。
そのクリエイターの名刺にすることのできるような、これまで生きてきた15年の中で最も力作と言えるものを提出し、ただ1つの作品で実力を示すというのが入学希望者に求められた提出物であった。
俺の場合は楽曲を1つ。
10年の時間をあの戦場で過ごした俺にとって、提出すべきものはいくらでもあるはずなのだが――
『ゴーストライターとして作ったものは提出できないぞ』
新しい保護者――これ語弊あるな。現保護者にしよう、現保護者からそう言われてしまっては、新しく作るしかない。
保護されてから1年間、ろくに楽器に触っていなかった俺は、提出期限まで2週間しかない中で新規の作品を求められた。
『歩夢にはこのくらいがちょうどいいだろう。君ならできると、私は考えているよ』
そう言われてしまっては略。2週間もあれば上等、かつての俺にとってそれだけの時間があれば楽勝、常勝、必勝――だったのだが、1年のブランクと、中学学業も平行した環境下ではそんな余裕などなかった。
特に、俺の専門といえば作曲。
歌唱は専門外。しかし、作詞も行ってきた俺の全てを注ぎ込んだ作品となるからには、オフボーカルは考えられない。
中学3年当時の俺に、歌唱を頼める相手など1人しかいなかった。
1週間かけて楽曲を製作した俺は、満足にインストと歌詞
『こんなもの、歌えるわけないだろ!!』
現保護者、
『馬鹿! 馬鹿! 君は私の想像以上の大馬鹿者だ! 死ね!』
殴られた。体罰としては生ぬるい、じゃれあいクソザコパンチに俺は和んだ。
こうして俺の現最高傑作となるはずだった、
『君と一緒にドリーミング♡ナイト
は闇に葬られた。
柚芽子さんのイメージからピッタリだと思ったのに……。
仕方がないので、俺は自分で歌うことにした。残された1週間、萌えキャラ柚芽子さんというインスピレーションを失った俺はまあ入学できなくても死なないしで手癖で作曲。それなりで歌唱。
その3分強の音楽ファイルが、俺の代名詞としてサイトに掲載されている。
教師の評価付きで。
・戦場.mp3
評価:C
随所に既視感を抱かせる作品。特定アーティストへの影響を強く想起させる。また、歌唱に関して極度の練度不足が見受けられる。
正直言って、この作品で俺に何かを依頼しようと思う人間はいないと思う。なにせブランクもある俺がゴーストライター時代に作ってきたような曲を手癖ででっちあげて、その上で専門外の歌唱も行った音源なのだから。
機材の質も収録環境も終わってたし。一般中学生にレコーディングスタジオを借りる金などない。
極めつけは、影響を受けていると聞けばわかってしまう『特定のアーティスト』というのも問題だった。
――"
この音楽業界の闇として名を刻む、大罪人。
ゴーストライターとして作った俺の楽曲が、最も多く使われていたアーティストの名前だ。