クソ過ぎクリエイター学園vs元最強のゴーストライター 作:匿名
「俺は五条史華の歌を信じている。俺と五条史華で、最高の曲を創る。
――お前を殺す」
……。
な、なんか巻き込まれたーー!?
*
始まって2週間、私の高校生活はまるでジェットコースターだ。
春の新生活、全寮制で親元を離れ、憧れの1人暮らしだーとるんるんだったのも束の間。生活費として学校から提示されたのは8万ペル――たったの8000円。先月まで中学生だった身としては多いお小遣いかもだけど、食費も込みとするなら無茶な金額。それ以上が欲しければ自分で稼げと突きつけられる。
最低保証の食堂の食パンをかじり、スープの塩味とあたたかみが癒しとなる日々。
休日はどこかに遊びに行くとかもうそういうことをしていられる話ではないので、少ないかもだけどできた友人とのお喋りが娯楽。あとはネットの動画とか、眺めるだけで時間は過ぎていく。
先週、初めての実習課題となる" 楽曲の作成 "が言い渡された。簡単に言うけれど、私は歌手志望。歌うことを目指してここへ来たはずなのに、オリジナル曲を歌った音源を課題に出される。
五条史華と言えば、この私立毒ヶ峰総合芸術高校においては最下層の落ちこぼれに位置する。だって周りは大なり小なりすでに何かしらの活動を経験している人ばかり。
私だって動画サイトにカバー曲を投稿したりしたことはあるけれど、そんなものやろうと思えばだれだってできる。ただ登録して投稿しただけの甘々なアマチュアなのだ。
この毒ヶ峰に進学しようという志す時点で、歌手を掲げるのならば入学時の提出課題にオリジナル曲を用意するのなど当然のこと。そしてそれを怠ったのが他ならぬ私! 歌声は自分の部屋で録音しました! カラオケは無料で配布されていた音源です!
そんな私に差し伸べられた手。ありがとう神様、仏様、鬼柳くん。神と仏と鬼を同居させるな。
鬼柳くんの方針で私自身も楽曲の作成に関わることに。主にリクエストを伝えるだけ、ただのアイデア出しなんだけど、私の好きな憧れの曲のような、オリジナルソングが私にもできちゃうって事で気分は最高。
数日で早速デモ音源だとイヤホンを渡される。食堂から拝借したのだろう備え付けのウェットティッシュを使って、イヤホンを目の前で拭いてから渡される。鬼柳くんにはこういう謎の配慮がある。
視聴して私の心は満たされる。これが、私の曲……!
感謝。感謝を。鬼柳くんもよく言う、感謝。感謝を。鬼柳くんに感謝を。いつかどこかで、なにかでお返ししなきゃ。
そして数時間後、なんか怖い人に絡まれて自分の現実を言い渡される。
真実だった。そうだ、そうなのだ。私は凡才。私は最底辺。ここにいるべきではない人間……。
鬼柳くんが反論しようとする。いいの、だって本当のことなのだから……。
「――お前を殺す」
なんか挑発みたいなことをされて、鬼柳くんがとんでもないことを言い出した。わ、私を庇ってくれた時よりも比べ物にないくらい感情が籠ってるんだけど。
しかも私も連名。
鬼柳歩夢と五条史華の最高の曲で、この人を殺すんだってさ。
どうして……。
「自己紹介がまだだったな。俺の名前は
唐突な自己紹介に私は戦慄する。
み、都城遊牙!?
なんかすごそうな名前だけど、その名のとおりすごい名前。『都城』と言えば近年で音楽機材のメーカーを立ち上げた代表。その長男である学生作曲家と言えば、天才少年コンポーザーとして雑誌の取材も受けていた、期待の新星なのだ。
組んでいるという、白石紅葉もまた、子役として業界に入った実力派。最近歌手になったとニュースで見たことがある。あどけない少年は成長して甘いマスクの好青年になろうとしているだとかなんとか言われていた。こんな学校に入学してたんだ……。
実績のある新入生として絵に描いたようなその2人がコンビだなんて、そんなのに喧嘩を売って大丈夫なの~!?
「より良い曲を作った方が勝ちだ。それでいいな?」
「ああ。俺は負けない。お前が誰だろうと、勝ってみせる」
もうやめて鬼柳くん~~!!
*
「あの、納豆です……」
「ありがとう」
あまり食欲のない夜の食堂。なんとなく同じタイミングで来た私は、鬼柳くんにせめてもの感謝として納豆を献上する。
「本当は五条史華に食べて欲しいんだけどな」
悪魔!? 鬼!?
「体調管理も仕事だからな。いざ収録になって元気が出ませんだけはやめて欲しい。栄養価のあるものはちゃんと自分で食べて備えるべきだ。気休めだけど、のど飴を買っておいたから気が向いたら食べてくれ」
天使だったかも……。
鞄から出てきた飴の袋を受け取る。8万ペ――8000円しか支給されてないのに、私のために……!
「あと夜道には気を付けてくれ。試験前の生徒が襲われるのは珍しくないらしい」
「えっ嘘!?」
「嘘だ。ここ1~2年はほとんど起こっていない。問題視されて管理が厳重になったからな。以前は演奏家の指を折ったり、食事に下剤を仕込んだりと妨害工作が盛んだったと聞いている。貯水タンクに仕掛けを施してパンデミックになりかけたのを境に厳重化した。らしい」
「その情報こそ嘘って言って欲しかった……」
「本当だ。聞いた話だけど」
どこで聞いた話なのかな一体それは。気になって聞いたことはあるけど、言えない、聞かない方がいいと返された。何それこわい。
「ただでさえ多くはない食事なんだ、俺に渡していては足りないはず。錠剤でもあればいいんだけど、あれどこで買うのかわからん……」
こわい……。
「課題完成までの間だ、多少の食費はこちらで持とう」
「いやいいって! ただでさえ曲作りっていう大変な部分を全部お願いしてるのに、そこまでされたら借りだらけ、借金まみれになっちゃうよ! どうやって返せばいいのさ……」
鬼柳くんの心遣いがむしろ痛い。痛いというか、こわい。
「……五条史華は勘違いしているかもしれないが、俺は俺のためにやっている。俺は俺の作品のために、俺が最高の作品を作るために五条史華を利用している。だから五条史華も俺を良いように使えばいいんだ。五条史華は俺の歌声になる。俺は五条史華の曲になる。そういう関係だろう」
都城くんと出会ってからの鬼柳くん、こわいよぉ……。
*
それから1週間、鬼柳くんは作曲に努めた。なんでも、ここの機材は質がいいらしくて喜んでいた。レコーディングスタジオの下見でも満足できたようで、狂気と歓喜で乱舞しているような目をしている。
私は喉を労わることと、ボイトレを並行した。
何を参考にした独学なのかと聞かれたので、普段参考にしているボイトレ動画を見せると鬼柳くんは疑いの顔から真剣な顔に変わっていった。
「驚いた。古い投稿日時、VTuberのサムネだからと侮っていたが、なにも問題ない。悔い改め反省しようと思った」
「そこまでしなくても……」
まずは鬼柳くんによる演奏の収録。見ておいても良いだろうということで、見学に参加。曲の収録が問題なければ次に使うのは私だ。空気感を知っておいて損はない。むしろ見ておくべき。
この学園の音楽科の生徒が全員使うのだから、レコーディングスタジオのブースはそれなりに用意されている。それでも余るほどはなく、しかも課題期間ともなれば使用できる時間は限られてくる。
手慣れた工程で進んでいく収録を「ほえー」と圧倒されながら眺めていくんだけど、そういえばなんで当たり前のように4種類の楽器を1人で弾いているんだろう。
ギター、ベース、キーボード、ドラム。驚くほどスムーズに、別々に録音していくんだけど、スタジオを使う他の人がもっと大人数で来ているのを目にしている。
今の鬼柳くんを見て、作曲家ってすごい、で済ませてはいけないような気がする。
「1人でバンドできそうだね……」
「バンドは無理。たぶんだけど、人に合わせられない。そのための経験がない」
私の呟きに、こちらを見ずに返事をする鬼柳くん。
横顔は真剣そのもの。鬼気迫るものがあって、本当に曲を作っている人なのかと疑問になるくらいの圧がある。
それこそ、誰かを殺そうとでもしているみたいな――。
「五条史華は――」
鬼柳くんが言う。顔をあげて、何でもなさそうに、こっちを見ないまま。
「五条史華は、普段通り歌ってくれればいいから。コンディションを整えて、リラックスして、気負わず。気持ちよく歌ってくれれば、それでいいから」
なんかいいこと言ってそうだけど、そんなの無理だよ。
毒ヶ峰に来て最初の課題。ポートフォリオと同じように、まずここから私の評価が始まる。そっけない情報ページの記載ではない、商品価値としての私が、この課題で決まる。
それに。
鬼柳くんがこんなにも、本気で曲を作っていると知ってしまっている。
私だって、それに答えたいと思ってしまう。
「鬼柳くん。私、がんばるから」
「ほどほどでいいよ」
*
4月も28日。課題作成期間の終了まであと丸2日。
私たちの課題、私と鬼柳くんの楽曲は完成し無事に販売登録を終えた。
「こういうのって、ギリギリまでクオリティアップに努めるんじゃないの?」
「いやいい。これ以上やっても蛇足と判断した。スタジオの予約はもう取れないし、編集作業でいじくるのもほどほどにしないと素材の味が壊れる。
教師も言っていたけど、期限が残っているからといつまでも納品しないままでいるのはプロ意識に欠ける。もっと不測の事態に備えて、ある程度の余裕は持っておくべきだ」
作曲作業が終わって、私の録音が終わって、楽曲の完成が決まったとたんに鬼柳くんから凄みのようなものが抜けていった。むしろ冷めきっているようにさえ感じるけど、2人で話す分にはこっちの方が安心する。
30日。放課後の教室では、アップロードした音源に変換ミスがあったとか、アップロード自体に不具合があったとかで阿鼻叫喚になっているチームがいくつかあった。
「上書きしてしまって、元に戻せなくなったんです! お願いですから、もう1日だけ、もう1日だけ猶予をください!!」
「それはできない」
「た、ただの課題ですよね!? 普通締め切りは前もって提示するものじゃないんですか!? 不測の事態に備えて、本当のデッドラインはもっと後に……」
「偉そうなことを言うな。勘違いしているようだが、これは課題。お前たちを試すためのもの。学校はお前に依頼をした覚えはない。音楽科全員に与えた課題であって、お前しかいない状態で依頼をしたわけではない。
お前の作品が期限に間に合わなかろうが、学校側は困らない」
「そんな、クソ過ぎる……!」
「無駄口をたたく暇があったら少しでもマシなものを作れるように残りの時間を使ったらどうだ? 未提出とはつまり、『たかが課題にすら締め切りを守れない』と自己紹介をするのと同義だぞ。そういった記録は外部からも参照できる情報として記録する」
同情してしまうような姿が教室で繰り広げられていた。今にも泣き出しそうな男子生徒と、心の底からうんざりとした様子の女性教師。
なんだか注目の的になっていて、帰りにくくなっていた。見ているのもつらい。
……本当に、ギリギリまでやらない方がいいんだね。
「――つまらねぇ見世物だったなぁ、鬼柳」
うわでた。都城遊牙。
「お前たちは余裕そうだな? あんなみっともねぇ真似はしない、そうだろ?」
「……」
鬼柳くんは特に何も言わない。その目だけが真っすぐに都城くんを見据えている。
「わかったよ、後は楽曲の勝負だ。教師の評価、そして、
どちらが多く視聴され、どちらが多く購入されるか。
俺たちクリエイターを評価するのは、目に見える数字という実績だけだ。そうだろう?」
「……」
「また会おう鬼柳。その時こそどちらが勝者か、はっきりする。アッハッハッハッハ!!!」
都城くんは、高笑いしながら遠ざかっていった。さっきまで悲愴の漂っていた教室には、どう見ても場違いな声だった。
「なんだあれ」「知らね」「都城だろ」「帰ろっか」「うん……」「気分わりー」「まあ、ご愁傷様」
教室が一気に帰宅ムードになっていく。帰る? と聞くように鬼柳くんを見ると、鬼柳くんも頷いた。今回の課題製作を通して、このくらいならば私たちは通じ合っている。
「販売期間もあるし、次会うのはこの教室だからまだ勝敗は決まってないのにな」
あの、鬼柳くん……?
私と鬼柳くんは、作品制作を通しても別に通じ合ったりはしていないみたい。