クソ過ぎクリエイター学園vs元最強のゴーストライター   作:匿名

7 / 8
007:都城遊牙の崩すべき牙城

『RED ELATION』

 作詞:都城 遊牙・ZIND

 作編曲:都城 遊牙

 歌:白石 紅葉

 ㅤGuitar:都城 遊牙

 ㅤBass,strings:MINORI・K

 ㅤDrums:鳩尾にヘッドバット喰らわすぞボケが

 ㅤKeyboards:ZIND

 

 軽快なバンドサウンドから始まるこの曲の注目すべき点といえば、なんと言っても歌唱を担当する白石紅葉にある。

 齢3歳にして芸能界にデビューしたその世間的知名度と声は、役者としての露出はほぼ皆無となった今でも無名の人間とは大きな差がある。彼こそがこの曲の主役と言ってもいいだろう。歌唱力も目立った欠点はない。

 

 極めつけはその参加人数。私立毒ヶ峰総合芸術高校に在籍する生徒5人による合作で、内3人は校内でも名の知れた2・3年生ということもあって学生作品でありながら高いクオリティを誇る。MINORI・Kはそのキャラクターによるタレント性が強く演奏中の顔が浮かんでくる。かわいい。そしてあの鳩尾ヘッドバットがドラムなのだから臨場感は保証されている。

 

 安定した曲構成を、実力派生徒で固めた1年生の課題に収まらない盤石な楽曲だ。

 

 

『彗星のゆくえ』

 作詞・作編曲:鬼柳 歩夢

 歌:Fumica⁵

 ㅤAll instruments:鬼柳 歩夢

 

 驚異。私立毒ヶ峰総合芸術高校の新1年生の中で全く無名のコンビによるこの楽曲の異質な点とは、まずその学生らしからぬ完成度の高さにあり、そして極端なまでの関係者の少なさにある。

 著者はまず上級生または外部の者によるゴーストライターの使用を疑った。演奏・作曲ともに、あまりにも熟(こな)れすぎていたのだ。問い合わせに対して学校側は不正無しと回答。ただあくまで共同名義の可能性は残っているので明記する。

 

 ピアノによるイントロはすぐに転調、他の楽器を交えて急激なテンポアップ見せる。往年のアダルトゲームにありがちな雰囲気が近い。3番Cメロの転調も中々面白く、安易に2番で転調させなかったことを評価したい。

 

 何より歌手もこれ以上なく曲にマッチしていた。音域やテクニックに特筆することはないが、気持ちよく歌っていることが伝わってくる。やはり女性ボーカルはいいぞ、元気になる。

 

 全くのノーマークだった、毒ヶ峰1年のダークホース2人による楽曲。

 

 

   *

 

 某メジャーブラウザにて曲名を検索したら出てきた、音楽を批評するサイト。

 

 そこは毒ヶ峰高校ファンによって運営されたものであるらしく、今年の音楽科1年の初課題が実施されたということで感想まとめの記事が公開されていた。

 

 課題として提出された中でも選りすぐりの楽曲としていくつかがピックアップされていて、内2曲が俺と五条史華の曲、そして都城遊牙の曲であった。

 なんか女性に傾倒した姿勢が透けている記事なのであまり参考にしたくないが、まあ間違ったことはあまり言っていない。視聴動画や楽曲の販売ページに書き込まれた感想も大体こんな感じだった。

 

 言ってしまえば、鬼柳歩夢も都城遊牙も、1年生らしくない、可愛げのない曲だというのが主張の目立つ感想だ。

 

 まあこれらは作り手という曲と関係のない部分を注視するような評論家気取りの声が大きい感想であって、純粋に楽曲を楽しむ層はここまで屈折してはいない。

 

 俺と都城遊牙、楽曲で勝敗を決めようとしている2曲はそれぞれ高いクオリティに好意的な評価を受けている。

 

 だからこそ、嫌でも目に入るのは感想の数。そして肝心の視聴数、販売数だ。

 

 私立毒ヶ峰総合芸術高校の方針とする、社会で活躍するクリエイターとは、商品を作ることのできるクリエイターのこと。商品とは、すなわち売れることこそがそのステータスとなる―― 

 

 ――5月3日。

 

『RED ELATION』

 総再生数:10,000回 DL販売数:1,100

 

『彗星のゆくえ』

 総再生数:   26回 DL販売数:1

 

 

 知名度という差は、あまりにも残酷な数字として現れる。

 

 

「き、鬼柳くん……これって」

 

「ああ。俺の負けだ」

 

「いや潔(いさぎよ)すぎだって。まだ3日だし、こ、ここからだよね。1人は買ってくれるし……」

 

「その1人がここにいる」

 

「じ、自演!? 鬼柳くん……??」

 

 

 ――5月7日。

 

『RED ELATION』

 総再生数:48,000回 DL販売数:2,700

 

『彗星のゆくえ』

 総再生数: 1,050回 DL販売数:  28

 

「増えてる! 増えてるよ!」

 

「批評サイトで紹介された影響だな。連休効果で広まったんだろう」

 

 世間はゴールデンウイークという大型連休である。観光地やアミューズメントスポットは大賑わいだろうが、敷地内からの外出が制限されている毒ヶ峰高校の生徒にとっては娯楽とは無縁。授業は休みでも、部屋で動画を見るか、学校で自主練をするかの2択がほとんどの生徒の姿だ。

 

 学校の特性上、連休だろうと食堂の光景は変わらない。今日も無料の食事を目的に数多の人数が足を運ぶ。俺と五条史華が合流したのも、昼食のついでだった。

 

 連休中に顔を合わせるのに理由がないわけがなく、今日で課題の提出から一週間、このタイミングで教師による評価が各々のメールアドレスに送信された。専用のwebページから、今回の提出課題は上位作品の評価を参照することができる。

 教師もゴールデンウィーク中に仕事をしているというのだろうか、どうやらこの学校は大人にも厳しい。

 

 俺と五条史華の楽曲に対する教師の評価は、『A』。

 

 今回の課題においてのA評価は3作品で、その中には都城遊牙の楽曲も当然のごとく含まれている。

 

「教員による審査は同格。ってことはつまり、あとは売上の勝負だなァ……?」

 

 わざわざ連休中に食堂まで言いに来た都城遊牙。無料の食事を受け取ることのできる時間は限定されているとはいえ、別々に行動しているわけでもないのだから、遭遇することになるのは珍しい。

 これを言うためだけに食堂で待っていた可能性まである。もしそうだったなら、この男はかなりの暇人だ。

 

 はっきり言って、もう勝負はついている。

 

「はっきり言って勝負はもうついてるんだ! この僕に勝負を挑んだこと自体が愚かだったんだよ!」

 

 うわ考えてることと同じこと言うな。

 

「てか誰だこいつ? 急に知らない奴出てきたんだけど」

 

「……。白石紅葉だ」

 

 思わず思ったことをそのまま言うと、都城遊牙が顔を顰めながら答えた。いやマジで誰。なんで今更当たり前のように話題に入ってくるんだよ。

 

「僕を知らない……? ハッ! そんなことを言っていられるのも今だけだ。僕たちに喧嘩を売ったことを後悔させてやる! 来週が楽しみだな!」

 

 それだけ言い残して、白石紅葉は食堂を去って行った。

 

「今のが白石紅葉くん……? なんか、アレだね。テレビで見たのとは大違い」

 

 販売数による勝敗は、販売開始から2週間後ということにしてある。これは学校側の関与しない、俺と都城遊牙、生徒間による勝手な決め事だ。

 

「勝っても負けても何もないのにな。ちなみに、こういった勝ち負けにペルリを賭けると学校に処罰される。架空の依頼を通した送金でも、結構バレるらしい。こんな学校でも賭博は許可されていない」

 

「へぇ……」

 

「だからこそ、物品でのやりとりがあるんだよ。なぁ鬼柳?」

 

「……ああ」

 

「え、待ってよ鬼柳くん。まさかこの勝負に賭けがあったの……? そんなことも知らずに私……」

 

「ない」

「ただの雑談だ」

 

「もしかして2人仲いいの……?」

 

 

 ――5月10日。

 

『RED ELATION』

 総再生数:195,000回 DL販売数:4,400

 

『彗星のゆくえ』

 総再生数: 14,500回 DL販売数: 330

 

「再生数もダウンロード数も驚くほど増えてる……。でも、向こうは」

 

 

 ――5月14日。

 

 鬼柳歩夢と都城遊牙、どちらが優れた作曲家かを問う勝負の、

 

 最終結果。

 

 

『RED ELATION』

 総再生数:250,000回 DL販売数:5,500

 

『彗星のゆくえ』

 総再生数: 46,000回 DL販売数:1,050

 

 双方に『A』という互角の教師評価があったとしても。

 

 これだけの数字の差は、

 

 

 

 埋まることがない。

 

 

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