クソ過ぎクリエイター学園vs元最強のゴーストライター 作:匿名
――5月14日。
『RED ELATION』
総再生数:250,000回 DL販売数:5,500
『彗星のゆくえ』
総再生数: 46,000回 DL販売数:1,050
元子役のデビュー済み歌手と、音楽機材メーカーの長男である天才コンポーザー。そして名の知れた先輩上級生というメンバーを相手に、『殺す』とまで言って始まった勝手に私を巻き込んだ謎の勝負は、圧倒的な大差で敗北を終わろうとしている。
え、これって大丈夫なの?
朝の教室。ホームルームよりもだいぶ前の時間に、私と鬼柳くんは合流した。そしてそこには、都城くんと白石くんもいる。
「どうだ鬼柳? 落ちこぼれ2人の楽曲で、俺をどうするんだって? もう1度言ってくれないか?」
「鬼柳くん……」
「……」
鬼柳くんは何も言わない。午前0時の日付が変わって勝負が確定して、心配になって通話をかけた時からずっとこうだ。この教室で顔を合わせてからも、特にノーコメントを貫いている。
「何か言えよ鬼柳!? まあそうだよなぁ、僕に喧嘩を売っておいてこのザマだ! 恥ずかしくて何も言えるわけないだろうなぁ!? いや笑いが止まらないね!!
はははははは!!
はっはっはっはっは!!!!!」
朝の教室に、元子役の高笑いが響いている。まだ人の集まり切っていない室内から視線が寄せられる。一体何事かと首をひねる生徒。状況を把握しようと耳をすませる生徒。迷惑そうに眉間に皴を寄せる生徒。恥ずかしいからやめて欲しい。
「ハァ……。ああそうだよ! こんなので勝ったとは思わねーよ。アッハッハッハッハ! アッハッハッハッハ!!」
「はっはっは――え?」
同じように高笑いを始めた都城くん。そして止まらないと言われた白石くんの笑いが止まった。
「視聴数に対してのDL率で言えばなぜかそっちのが上。俺は2.2%。2.38%。お前は知名度ゼロのたった2人が4.5万再生で1000DL。教師評価だって、同じ" A "ってだけであれは" A+ "と" A- "の差があるだろ」
もっとあるかもしれねぇ。そう言いながら、都城くんは近くの空いている席に大きく腰を下ろした。椅子じゃなくて机の上に。
そして鬼柳くんの机の上に、半分投げるようにしてスマホを雑に置く。
『上級生の中でも秀でた生徒を入学したての1年生の課題に参加させたという交渉力は、実動するクリエイターの評価として大きく加点される』
画面に表示されていたのは、教師から個々に送信された評価のフォーマット。他にも色々書かれているけど。都城くんが見せたいのはこの一文だと思う。
「俺だって作曲家として入学したんだ。作曲家の端くれ。聴けばわかる。俺と上級生の4人で演奏した曲よりも、お前1人の曲の方が明らかに完成度が高かった。各パートだってドラム以外はお前の方が上だ。
俺の曲は奏者4人と歌手、計5人の個性がぶつかっただけ。即席チームのデメリットがモロに出てやがる。『楽曲』を作る力はお前個人の方が、上。負けだ負けだ! アッハッハ!!」
「な、何言ってるんだよ都城。僕たちの勝ちじゃないか」
「ただな――。お前だってわかってるはずだ。鬼柳。このままじゃ限界がある。お前ならわかるんじゃないのか。お前1人じゃここより上には行けない。この学校の仕組みは、そう簡単にはできていない」
「おい都城」
なんか勝手に勝っていないと言い出したらと思ったら、今度は負け惜しみみたいなことを言い出した。負けていないのに。言い回しもよくわからない。
ここは当人である鬼柳くんに聞いてみることにする。
「そうなの?」
「……ああ。五条史華、この試験はあくまで『音楽ファイルの提出』に過ぎなかった」
「どういうこと……?」
「わかってるじゃねーか。説明してやれよ」
「おい都城!!」
「動画サイトに投稿した試聴用の動画、もしあれを、宣伝用に自分たちで
「言われたら……?」
「お前少しは自分で考えろよ」
「うるさいぞ都城遊牙。五条史華に文句を言うな。大事な俺の歌手だぞ」
「お前が甘やかしすぎなんじゃないのか?」
私がディスられている……? 私が悪いのかな。いや私が悪いよね、自分が入学できた理由もよくわかってないくらいなんだし。ここはおとなしく話を聞こう。
「都城!! おーい!!!」
「
「まだあるの……!?」
「そこまで行けば、より効果的な宣伝方法を考案する人間――『プロデューサー』や『プランナー』の役割が必要になってくる」
あまりにも飛躍した話に、私の頭はパンクしていく。歌手になりたい、それだけの憧れが、自分を取り巻くすべてを構築することに派生していくだなんて。
そんな大きなこと、考えたこともなかった。
鬼柳くんの説明を引き継ぐように、都城くんが悪人のような嗤いを浮かべて口を開いた。
「これを怠った者は、業界では喰い物にされる。甘言に乗って適当な業者にでも任せてみろ、運よく腕の良い会社やプロデューサーに当たれるならいいが、そうじゃなければ悲惨だ。
雑な売り込みと宣伝で成り上がる機会を失うだけならまだ良い方、あっという間に使い潰されるか、詐欺にでもあって負債を抱えさせられるぜ」
「……それを在学中から生徒だけでやらせようっていうのが、この学校が育成しようとしている" 社会に出てからもクリエイターとして活躍できる人間 "だ。フリーランスに偏っている気がするけど、会社所属でも適性のある人間に依頼することなんていくらでもある」
「さすがだ、鬼柳歩夢。やっと話が合うやつが見つかって俺は嬉しい。ここまで
「人から聞いた」
「……」
いつものように付け足された伝聞ソースに、都城くんは数秒黙ってからまるで聞かなかったことかのようにスルーした。
「だからだ。だからこそ。俺は――
――お前が欲しい」
言い放たれた言葉に、部屋の空気が揺らいだ気がした。鬼柳くんは特に動じていなかった。もうちょっとリアクションしてあげてよ……。
「おい都城!! 聞いてんのか!?」
こんどはしびれを切らした白石くんだ。都城くんも白石くんに対して反応してあげてよ。
「ああ白石紅葉、お前はもういい。今回の課題で契約は円満だ。約束通り報酬は純利益を等配される」
「もういいって……」
「お前はもう必要ない。この学校の現環境においてお前の知名度は優秀だ。だが今回のではっきりした、これ以上の伸びしろはねーよ。組んだのは、それを試したかっただけだ」
「は……? どういうことだよ……」
「子役時代のファンが購買に繋がっているが、逆にアンチも引き連れてる。動画のコメントを見ろ。褒めてるババアvs面白半分のアンチvsダークライだ。歌唱もカリスマも足りていない。俺にお前はいらないと結論付けた。白石紅葉、お前はつまらないんだよ」
白石くんはよろめくように教室後方のロッカーに持たれる。茫然とする彼を冷たく見下ろす都城くんと、話題に入っていけない私たち。とっても気まずい。
「で、鬼柳。俺はお前が欲しい。
最初はただお前の技術が欲しかった。あの粗末な音源からでも感じ取ることのできた演奏技術。実際こうしてお前に喧嘩を売ってみてどうだ、機材とやる気が出たら、こんなにも頭のおかしいほどの演奏技術、そして作曲技術が出てきやがった」
都城くんは先ほどまでとは打って変わって、心底面白そうに語る。
「その上クリエイターの何たるかを理解してやがる。欲しい。俺はお前が欲しい。鬼柳歩夢、俺の下に付け。俺の腕になれよ、鬼柳歩夢」
「で? 飽きたら捨てるのか?」
鬼柳くんが、そっけなく言う。『そいつみたいに?』と白石くんへ向けた言葉が、鬼柳くんの顔に書いてあるみたいだった。
「いや? お前は多分、つまらなくならないだろ?」
白石くんが何も言わずに教室から出ていく。私も一緒に出て行きたい。
「一家に一台鬼柳歩夢。俺専属に雇われないか? この学校の生活には不自由させないことを約束するぜ?」
なんだか傲慢すぎる物言いに、私の方がよくない気分になってきた。何もせず話を聞いているのにも疲れてきたし、ちょっと面倒そうになってきた表情の鬼柳くんの代わりに私が質問しよう。
「それって、鬼柳くんに演奏だけしてろってことだよね……?」
「いーや。やりたきゃ作曲でも演奏でも、好きなことをやっていいぞ」
「え……?」
私には何が言いたいのかもうよくわからない。きっと私が悪い。変なことはするもんじゃない、もう余計なことはせずに黙っていよう。
「ああすまん、まだ言ってないことだ。本当は俺は『作曲家』じゃない。作曲家は目指していない。『奏者』でもない。俺が目指しているのは――
――『プロデューサー』だ。
俺は卒業後、自分で会社を立てる。そこで働く人材を探すために、この毒ヶ峰高校に入学した」
急な自分語りに私は付いて行けない。都城くんは乙女ゲームの俺様系王子様がヒロインにするような、まるでプロポーズでもするかのような構図で、朝の教室に高らかに言い放つ。
「鬼柳歩夢。俺はお前が欲しい」