上位存在のクソデカ師匠に生まれ直しを迫られてる 作:上位存在って総じてエッチだよね
バチクソに恥の多い生涯を送って来た。
まだ十六歳だというのに、すでに数えきれないくらい生き恥を晒してきた。
例えば幼少の頃、裏山にカブトムシを採りに行った際、すっげえ高く売れそうな黄金のカブトムシに釣られて遭難した結果、三年間神隠しに遇ったり。
例えば神隠しフェーズの時、見るからに化け物な謎生物に喧嘩を売って普通に殺されかけたり。
例えば最近、ス〇ッチ2が欲しくて、山に来た人の金を奪うという予行大乱闘をしたり。
例えば例えば例えば……と、挙げればキリがない。
「——なら、私の胎《はら》で生まれ直しましょう。我が弟子」
青々とした草原に穏やかな風が流れていた時、ふと半月が澄み渡る青空を眺めていた俺の視界を埋め尽くす。
少し上からは、鈴を転がしたような涼やかな女性の声。
俺は青空が隠されたことに眉を竦めながらも、後頭部から背中の中ほどまで感じる柔らかな感触から離れ、半月に当たらぬよう注意しながら起き上がった。
「あっ」
残念そうな声が耳に入るが気にしない。
俺は数歩前進してから振り返って、それまで俺を膝枕していた女を見た。
まず第一印象として、でかい。デカい美女だ。
身長は目測で成人男性の平均値以上の身長を持つ俺の二倍くらい。
胸は彼女の身長に見合うくらい、すっげえでっかい。でっっっっっっっっっっか!
何を隠そう、先程俺の視界を完全に占拠した半月の正体がコレだ。
もっとも、でけえのは胸部だけに留まらず、臀部、脚……あらゆる要素が盛りに盛られている。
俺の心の友が『でっけえのだ!』と叫んでいた。
「でっか」
「?」
やべ。思考するよりもなお早く、俺は自分の頬を容赦なくビンタする。
第一声をミスった。しかしでけえ。
「……何度も言うけど、俺は別に人生やり直したいわけじゃないって何回も言ってるだろう、でっ――師匠?」
俺は普通では考えられないサイズのでけえ女を、師匠と呼んだ。
実際、彼女は俺の師匠である。
「でも、生まれ直せば全部楽になりますよ?辛くも、悲しくもなくなって、ただ楽しいだけの人生になるんですよ?」
「楽しいだけの人生は、逆につまらなくないか?」
「いいえ、楽しいですよ。ずっと、楽しいのです。つまらなくなることなんて、一度だってありません」
その瞬間、風が吹き、草花が揺れる。
木々は大きくしなって葉が何かを訴えるように鳴る。
これまでとは、まったく別の異質な風。
まるで、俺にこの女から今すぐ逃げるように忠告しているかのようだった。
「全部、全部、貴方が何よりも、誰よりも愛するお師匠様であるこの私が、貴方を幸せにするんです。俗世も、強さも、老いも、寿命も、何も考える必要は無いのですよ」
ゆっくりと、停止する俺の頬に彼女の手が触れる。
夏場の冷蔵庫のようにひんやりとする感触に、俺はたまらず身震いをした。
決して、身体が勝手に覚えた恐怖によるものではない。
「ええ、ええ。断言しましょう。幸せです。幸せだけが、ここにあります。ずっとずっと、不変なのです。私と同じ、ずっと一緒でずっと幸せ」
だから、と。
腕を俺の頭の後方まで抜かし、そのまま抱き着くようにして限りなく俺の顔に近づけてから、師匠は蠱惑的に微笑んだ。
「ねえ、我が弟子?私の胎で、生まれ直しましょう?ね?」
それは、どこまでも甘露な囁きだった。
彼女の言葉が意味することがどうであれ、無条件に頷いてしまうような心地の良い囁き。
禁断の果実を前にした俺はたまらず口を開いて、声に出した。
「いやだ」
「…………………生まれ直し」
「いやだ」
師匠の表情は変わらない。
眉も、細められた瞳孔も、赤く艶やかな唇も、なにもかも。
そうして、無言の見つめ合いが数十秒も経った後。
一人が決壊した。
「えー、やだやだやだ!生まれ直してぇー!私が、我が弟子を生みたいのー!大好きな我が弟子を、我が子にしたいのー!お母さんって言われたいのー!」
「駄々っ子かよ」
「弟子という言葉は、弟の文字取れば子になる!一文字減るだけだから、意固地にならないでよー!うわーん!」
師匠はワンワンとみっともなく泣き叫び、地団太を踏み始めた。
大体300センチ超、人間二人分にもなる長身が繰り出す駄々こねは、見てて苦しいものがある。
見てはいけないものをみたというか……なんというか。
誰からも尊敬されるダンディな社長が、裏では赤ちゃんプレイに興じていたような、そんな忌避感があった。
「やめてくれ、師匠。みっともない」
「この山には貴方と私しかいないのですから、良いじゃないですか!泣かせてくださいよおー!……あ」
「あ?」
先程まで泣き叫んでいた師匠だったが、突然何か思いついたようにピタリと動きを止める。
「止めて欲しいのなら、生まれ直してください」
「嫌だ」
「わーん、わーん!生まれ直すっていうまで、ずっと泣き叫びますもーん!……ちら?……ちらっ?ちらっ、ちらっ、ちらっ?」
「………………………」
「ちらちらちらちらちらちらちらちらちら?」
あああああああああ、うっぜえええええええええ!
「はあ、まったく」
「え、生まれ直しするんですか?我が子!」
「生まれ直さない。だから我が子じゃない。俺が言いたいのは、うるさい」
「うるさい!?酷い、酷いですよ我が弟子!」
今度は地団太を止めて俺に詰め寄って抗議してくる。
体格の違いもあり、圧迫感が凄い。
「ほら、あまりにうるさいから怒ったご近所さんが来るぞ」
俺は、師匠の後方を指差す。
そこには、化け物がいた。
無頭の異形。
胴体と呼べるものは無く、代わりに人間の手足を極限までやせ細らせ、長く伸ばしたものを数十本と、幾多もの仮面を手に持っている。
仮面は人間の悲痛な表情を象っており、悪趣味だ。
「■■■■■■■■■■■?!キャ■!?」
「ほら多分、怒ってそう。分からんけど」
見るだけで正気が削られるような見た目だが、俺の心臓は平静を保っていた。
きもいなー、くらいの感想である。
単純に異形に対し何の脅威にも感じていないからで、それは師匠も同じだった。
「うるさい」
師匠は特に何もせず。
強いて言うのならば、不快げにただ異形に一瞥をした。それだけだ。
ただそれだけの行為で、異形は断末魔を上げる暇も無く消滅した。
俺はその様子を見つめ、気付けば師匠に惜しみない賞賛を口にしていた。
「流石、一級クラスはあったアレを視線だけでか」
まあ、普通に考えて300センチを超す身長の女がいるわけもなく。
生まれ直し、なんて言葉が普通の人間に出てくるわけもなく。
師匠は、山の神。
俺が神隠しに遇った元凶であり、命を救った恩人であり――そしていわゆる上位存在と呼ばれる、災厄の怪物だ。
「見てください、我が弟子!私が!瞬殺しましたよ!まあ?私にかかれば?かかれば?雑魚ですけれどね?……うん、あれ?今、私を褒めました?」
「褒めてない」
「え、ええー!褒められた、褒められたー!私褒められたー!」
「褒めてない」
師匠がジャンプ。
ぴょんぴょんと跳ねる師匠を見て、俺の知覚は極限まで拡張される。
男ならば仕方の無い事だろう。
これは、抗えるものではない。
「えへへー、もっと褒めてください、我が弟子!」
揺れる。
何がとは言わないがそれはもう、バインバインに。
「でっ!」
「で?」
それにしてもでっっっっけえな。
上《パイ》と下《ケツ》に聳える双丘。もはや山脈級だ。
……いや山の神ってそう言うことじゃないだろ。
「うん、すごいすごい」
「適当!もっと、具体的に!私の素晴らしさと強さを盛大に褒めたたえて!そして生まれ直させて!」
「それは嫌」
「うわーん!ちらっ?うわーん!……ちらちらっ?うわーん!」
うぜえ。
―――
上位存在ってエッチだよね