上位存在のクソデカ師匠に生まれ直しを迫られてる 作:上位存在って総じてエッチだよね
「ごめんなさい、配慮が足りなかったわ」
「いや、そう言う系の話じゃなくて」
「本当に、ごめんなさい」
「話聞きなよ」
名前をあまり呼ばれないという俺の発言から、俺の境遇を誤解してしまった月城さんは、罪悪感を表情に張り付けながら頭を下げる。
謝罪においても変わらず綺麗な所作だが、誤解である。
俺は彼女の誤解を解こうと席を立ったところで……周囲を見回す。
朝方とは言え、教室内には十数人のやる気ある生徒たちがいた。
「え……ちょっと、あれ」
「月城さんが、頭を下げてる……?」
教室内の生徒、そのほとんどが俺たちを物珍し気に見ていた。理由は分かる。
月城さんは美少女であり、実力も学年で一、二を争うほど高く、ついでとばかりに良いところのお嬢様でもあるらしい。
つまりまあ、あれだ。
彼女はクラスどころか学校全体でも有数の有名生徒であり、滅茶苦茶目立つのだ。
そんな彼女が、パッとしない一生徒に向かって頭を下げる。
これはまずい。この構図は何かと論理が飛躍して、結果俺が体育館裏でリンチに遇うかもしれない。
そうなれば、可哀そうな加害者が数名現れることになってしまう。
「月城さん!」
「っ!……何?」
俺が意識して少し大きく強めに声を出すと月城さんはびくり、と肩を跳ねさせる。
怖がらせて申し訳ないが、話を聞いてもらうにはこうするしかない。
ようやく頭を上げてこちらを見た月城さんに、俺は微笑みを浮かべながら適当な場所を指差す。
「ほら、お友達が待ってるよ?」
俺が指を差す方には、数名の女子生徒がいた。
彼女の交友関係は分かんないけど多分友達だろう。
俺は知ってるんだ、美少女には美少女の友達が多いって。
「……!ごめんなさい」
月城さんはもう一度深く頭を下げてから、俺の元を離れていった。
そのまま、俺の方を一瞥してから談笑し始める。
一連の様子を見て、周囲の生徒も何事もなかったように振舞い始めた。
「あー、本当に友達だったんだ」
目についた美少女グループのところに指を差しただけだが、安心した。
これであまり交友が無かったのなら、微妙な空気になること間違い無しだった。
ともかくこれでリンチに遇う可能性は皆無となったわけである。
めでたしめでたし。
「……それはそれとして別に、悲しい家庭というわけではないんだけどなあ。確かに神隠しで悲しい思いはさせてしまったけど」
盛大に誤解され哀れまれたままの俺は、苦笑をこぼしつつも雑草の葉っぱを齧る。
葉っぱの見た目は雑草で、実際分類的には多分雑草ではあるものの、師匠の山で採れた霊草であり栄養満点なのだ。
今日は催眠をかけようとした師匠のせいで、いつものような食事は取れなかったから栄養補給をしておきたかった。
「「!?」」
「……なんだ?」
俺が葉っぱを齧ると同時、一瞬教室内が騒めいた気がした。
ぎょっとした顔で俺を見ているが、何か変な事はしていないはずだが。
首を傾げつつ、また一口齧る。
「「!?」」
やはり、気のせいではないようだ。
タイミングと見ている方向を見るに、どうやら俺が葉っぱを齧ったことに対しての反応らしい。
「あー……なるほど、なるほどね」
俺にとって霊草は栄養ドリンクのような認識だが、他の人にとっては雑草にしか見えない。
つまり、雑草を食わなくてはならないほど困窮していると、そう思っているのだろう。
『あ、こいつ草食ってるぜ!絵に描いたような貧乏やんけ!』ってことだ。
これはミスった。
霊草を食べるのはいつも山中であり人の目を気にする必要がなかった。人前で食うことは初めてだったせいで草を食い出すという特異性を失念してしまっていた。
それもこれも、全部師匠のせいだ。
「ははは……何でもないですようだー」
不本意ながら注目を集めてしまった俺は、小声で呟きながら霊草もとい雑草を鞄に入れる。
こういう時は、なんて事の無いように振舞うのだ。
堂々としていれば、きっと大丈夫。
腕を組んで、偉そうに脚も組んで余裕げに微笑む。
「え、ええ!?だって、そんなはしたない事、出来ないに決まって!」
「問答むよー!ほら、行きなって!」
騒がしい友人に背を押された月城さんが此方に歩いてきた。
視線が右往左往泳いでいて、足取りも少しおぼつかない。
「ええと、月城さん?まだ授業には早いはずだけど」
月城さんは席に座る俺を見下ろしたまま、棒立ちのまま。
彼女の後ろに見える友人たちは、彼女の事を見守りつつも何やら応援している様だった。
「月城さん?」
これが無言の圧というものだろうか。こわい。
師匠のクソデカ身長から成る圧とは異なる圧だった。
「……葵くん。もし、差し支えないのならばだけれど、その」
月城さんはくるくると髪を弄りつつ僅かに頬を染め、深呼吸を繰り返している。
一体、何をしようとしているのだろうか?
俺は彼女の行動を待った。
「私が弁当を用意しましょうか?」
「え?」
一瞬の間。
「いただきまぁす!」
飯の前では誤解が解ける解けないはどうだって良い。
憐みで飯が食えるのなら、こんなにも簡単な事はないからね。美味い飯、高級な飯が食えるぞやっほい!
人間、美味い飯を喰らうことが一番の欲求だからね!仕方ないね!
……ああ、そうそう。
こんな感じで基本的に普通の高校生の俺だが、変わっていると断言できるところがある。
それは学校。
退魔士学校と呼ばれる学校に、俺は通っていた。
簡単に言えば、人間とかをぶっ殺そうとする化け物を狩る方法を教える専門教育機関である。
◆◇
「……ということがあったんだよ。いやー、完全に誤解だけど、お優しいことだよなあ」
学校終わり。
師匠の家に戻った俺は、師匠と対戦ゲームをしながら今日の出来事を語る。
月城さんがお弁当を作ってくれるようになったことが主な話の内容だった。
「——————————は?は?は?」
「ん?あれ、師匠?キャラコンが止まってるぞー?舐めプかな?」
師匠のキャラが突然停止した事に、勝機を見出した俺は確殺コンボを決めにかかる。
師匠は完全に動きを停止させているのか、俺のコンボは見事なまでにきれいに決まった。
「よっしゃ勝った!完全試合ぃ!」
簡単に一戦を制した俺は、喜びながらも煽るために隣にいる師匠を向いた。
「あれ、ししょ」
「ねえ、我が弟子」
影が、伸びる。這いながら、ゆっくりと身体中に伸びてくる。
背筋が凍えるような感覚、今すぐにこの場から離れて逃げ出したくなる。
しかし一歩として、それどころか指一本すら動かせない。
息すらできず、唯一出来るのは身体を這いながら伸びてくる影の感触を感じる事だけだ。
まるで、己の全存在を其に掌握されたように。
「少し、聞きたいことがあるのですが、良いですか?」
俺は答えない。
いや、答えられない。イエスもノーも、何も言えない。
それは師匠が、俺の答えを必要としていないからなのだろう。
「その女に対して、情欲でも持っていますか?一緒になりたいなどと、思っていますか?……それが、生まれ直しを拒否する理由ですか?」
じい、と師匠が俺を見る。
彼女は言葉による虚構ではなく、魂による真実の言を聞いていた。
一秒、二秒、三秒……。
嫌になるほど長い沈黙の時間が続く。
「……そうですか」
そうしてどれだけの時間が経っただろうか。
師匠が力強く頷くと同時、俺の身体を縛っていた影が解かれる。
止まっていた呼吸が再開し、俺は空気を一気に吸い込み肺へと送る。
「っ、ぜはっ、はっ、はっ……はーっ」
「そうですか、そうですか」
何度も頷いてから、師匠は私の背中を優しく摩る。
別に吐き出すわけではないのだから、その対処は間違っている。
「そうですか!」
喜色に富んだ声。
感情が表に出された、いつもの師匠の声だった。
どうやら俺は許されたようだ。
「……まあ、分かっていたことですけれど?分かっていましたけど?ただでさえ我が弟子は格好良いので、一応、本当に一応ですけれど心配になりはするっていうか?どうしても心配しちゃうのが師匠の性というものですかね?」
師匠は頬を赤く染めつつ、ただでさえでっけえ胸を張る。
それはもう満面の笑みで、鼻を高くさせていた。
「やっぱり、弟子は師匠の事が大好きで一番に優先するべきものですよねえ!世界創世の時から変わらぬたった一つの原理ですよねえ!」
それは言い過ぎだと思う。
「まあ?所詮?人間の女なんて雑魚ですよ!寿命も、力も、美しさも、何もかも私が勝っていますので!完全勝利のびくとりー!ぶいぶい!ぶいっ!」
滅茶苦茶調子に乗っている。
だが、やはりいつもの様子に戻ったようだ。
「ああ、でも、言っておきたいことを忘れていました」
「……言っておきたいこと?」
「ええ、簡単な事です。本当にちょっとしたことですよ」
俺が胸を撫でおろしたその瞬間。
ほんの一瞬、また空気が冷えた。錯覚ではなく、確かに。
息が詰まるような、凍える冷たさを宿しながら師匠は目を細め、しかし満面の笑みのまま言った。
「私は別に貴方が人間と関係を持つことを禁止したいわけではありません。それ自体は我が弟子の自由なのですから。まあ、怒ったりはするかもしれませんが。我慢しましょう」
ただ、と師匠は付け加える。
「もしも、それが故で私の願いを――生まれ直しを拒否するつもりになったのなら」
ひた、と背中に手が添えられる。
「その時、私は私を制御できなくなってしまうかもしれません」
笑顔のまま、師匠は顔を俺の耳元まで近づけて囁いた。
「だからどうか、これからも変わらない貴方で居てくださいね?我が弟子」
俺は、乾いた笑みしか出なかった。