触れたら破滅しそうな見た目の闇属性うすほそにTSしたけど、破滅させてるのは性癖らしい 作:闇のうすほそ
気がつけば、ボクは異世界で触れたら破滅しそうな闇属性うすほそになっていた。
癖のある長い黒髪、儚い人形のような顔立ち、手足は細く触れた側から崩れていってしまいそう。
装飾の多い黒のローブは、さながら魔女のようにも生贄に捧げるための供物に着せる服にも見える。
その少女に関わったものは、一人の例外もなく破滅してしまいそうな、危うい雰囲気。
それが、ボク―多比良ムツキの今の姿だ。
覗き込んだ水面に移る自分の見て、それが自分であると理解できず息を呑んでしまったほどに、今のボクは闇の深いうすほそだった。
――まぁ、とはいえ外見はともかく中身はただの社畜オタクである。
コレと言って特筆するところのない凡人。
それがボクだ。
だから仮に誰かがボクに触れたとしても、その人を破滅させることはないだろう。
というかボクが嫌だよ、人を破滅させるだなんて。
とにかく、こんな見た目になってもボクの基本方針は変わらない。
生きるのだ、ボクが生きている限り。
幸いにも、闇属性うすほそにふさわしい力も持っている。
生きていく分には、そう苦労することもないだろう。
面倒でしかなかった仕事からも解放されて、自由に生きれると思えばプラスも大きい。
うん、なかなか悪くないんじゃないだろうか。
――まぁ、ボクがそう考えている裏で、ボクの行動によって破滅していく人がいるなんて、この時のボクは知るよしもなかったのだけど。
■
ボクは森の中を進んでいた。
この世界にやってきてから一ヶ月、冒険者としての生活もそこそこ慣れてきたと思う。
見た目のせいで怖がられたりするかと思ったけど、案外周囲の人は優しくて、日々の生活は安定している。
時折現代の娯楽が恋しくなることはあるけれど、それを差し引いてもそこそこ充実した生活を送れていた。
特に料理が結構美味しいのがいいね。
今日の昼食も、宿の女将さんが作ってくれたおいしいお弁当だ。
――で、そんなボクが今何をしているのかと言えば、討伐依頼を受けて山奥の村に向かっているのである。
曰く、先日から村の近くに大型の竜と思われる魔物が出現した。
これを討伐してほしい、とのこと。
依頼料が少なく、見向きもされていない依頼だ。
それをボクが、ある理由から引き受けたのである。
「つきました」
そこは、森の奥に切り開かれた小さな村だ。
ぽつぽつと石造り家々が点在し、人気は少ない。
不気味なくらい人の気配がしないのは、竜が原因だろう。
時折、家の向こう側からこちらを伺う気配がある。
やはり、ボクの見た目は彼らを怖がらせてしまうだろうか。
聞いた話だと村で一番大きな建物に村長がいるから、その人から詳しい依頼内容を確認すればいいとのことだった。
軽く周囲を見渡して、おそらくそれだろう家を見つけるとそこに向かう。
「あの、すみません。依頼を受けた冒険者のムツキと申します」
扉をノックすると、少ししてからギギギとそれが開く。
出てきたのは、意外にも若い女の子だった。
十代半ば、見た目だけなら今のボクと同年代である。
オレンジに近い長めの栗色の髪、如何にも村娘といった格好の少女だ。
「は、はひ……よ、ようこそおいでくらさいまひたっ!」
ずいぶん緊張しているご様子で、少女はあわあわしながらボクを中に迎え入れてくれる。
それから案内されるがままに席に座り、女の子はボクに水を出した後反対側に座った。
「い、依頼を受けてくれて、ありがとうございますです、はい」
「落ち着いてください。話しやすいようにしてくださっていいですよ。ボクが敬語なのは性分なだけですから」
「あ、う、うん……えへへ、ありがと……」
引っ込み思案な雰囲気の少女だ。
村長のお孫さんなんだろうか。
「あ、えと……アタシはミリィっていうの。こ、この家の村長の孫で……腰を痛めた祖父の変わりに、い、依頼内容についてお話……しにゃす!」
「な、なるほど……それはお大事に……」
それから、細かい依頼内容を聞いた。
事前に聞いていたのは、竜がおそらく竜の中でもそこそこ上位種なブラックドラゴンであるということくらい。
後はこの依頼が出されてから、既に一ヶ月が経過しているということ。
そこに加えて、ミリィさんからは他に幾つかのことを聞くことが出来た。
「じゃあ竜は、別に村へ被害を出しているということはないんだね」
「う、うん……時折空を飛んでるくらいで……目立ったことはしてない、かな? あ、でもでも、空を飛んでるってだけで村人も、村に来てくれる商人さんたちも怖がっちゃって……」
「色々と生活に影響は出ている、と」
特に商人がやってきてくれないのは、こんな山奥だと死活問題だろうな。
それでも時折やってきてくれる商人はいるけれど、竜を理由に物価が高騰しているのだとか。
仕方がないとも言えるし、足元を見ているとも言える。
「で、でも、ドラゴンさんが何もしてないのは、ほんとだよっ。あ、アタシも……おじいちゃんが腰を痛めたって聞いて、街からこっちに来てお世話してるから」
「ああ、ミリィさんはリブラの街で普段は暮らしているんですね」
「うん、え、えと……ムツキさんもそうなの?」
「はい、そこで冒険者になって、今も活動を続けています」
なんて話をしつつ、ボクは考える。
今回の依頼を受けた目的を、果たすことができそうだ。
そもそもボクがこの依頼を受けたのは、依頼が出されてから一ヶ月も経過しているというところに理由がある。
「――それにしても、ドラゴン。早く会ってみたいですね」
「え……ど、ドラゴンを触媒にして、あ、悪魔を召喚したりするの?」
「あ、ボクってやっぱりそういう風に思われてます? ち、違いますよ? ボクはただ単に――」
見た目のせいか、若干ミリィさんには怪しまれていたようだ。
とはいえ、別にそんな闇属性な感じのことをしようと思っているわけではない。
ようは、とても単純な理由――
「ドラゴンを、見てみたいだけなんです」
そう、それだけのこと。
だって異世界に来て、定番とも言えるドラゴンが現れたというのだ。
見てみたいというのがオタクの性ってものじゃないか?
ボクがこの依頼を受けたのは、そのドラゴンが村に被害を出しているわけじゃなさそうだと判断したからだ。
少なくとも、人的被害は出ていない。
物価の高騰は問題だけど、解決すればいずれ元通りにはなることだろう。
つまり、依頼人に気兼ね無くドラゴン見物ができる。
そういう依頼を、ボクは待ち望んでいたのだ。
「……っ」
「竜というのは、昔からおとぎ話にも登場する有名な魔物と聞きました。ボクはそういった未知の存在にあこがれて、冒険者になったんです」
「ぁ、ぅ……」
思わず笑みがこぼれてしまう。
異世界は、新鮮なことだらけな世界だ。
魔術も、冒険も、そしてドラゴンも。
あらゆるものがボクにとっては新鮮に映る。
そういう世界を、見てみたいと思っていた。
「え、えと……ムツキさんは、ド、ドラゴン……こわくない、の?」
「会ってみたら、怖いと思うかも知れません。でも今は、好奇心のほうがずっと強いです。だって、憧れに手を伸ばすほうが――」
そうして、ボクは――
「――生きてるって、気がしますから」
抑えきれない笑みとともに、そう言った。
■
――ミリィの前に現れた少女の黒い瞳は、深淵へ吸い込まれてしまいそうなくらい恐ろしかった。
それでいて妖艶で、触れたら壊れてしまいなのに、壊れるのは自分のようなきがしてならない。
しかし同時に、幼い少女でもあった。
自分と同じくらいの年頃だが、手足が細くどこか不健康なようにも見える。
――まるで死者のようだと、そう思ってしまうのも無理はない様相だった。
だが、口を開いて言葉を紡ぐ少女は、どこにでもいる普通の人のように思える。
世界を恨むような棘が言葉に潜むこともなく、受け答えはしっかりしていてミリィよりずっと大人だ。
聞けば、冒険者になって一ヶ月にもかかわらず等級はシルバーということで、実力は確かなのだろう。
純粋に、その強さが羨ましい……と、普通の少女でしかないミリィは思う。
だけど同時に、ムツキという少女もまた”普通の少女”なのだとも思う。
憧れから冒険者になるなんて、如何にもそれっぽい理由だ。
しかし、それ以上に――
竜をみたいと笑う少女は、どこまでも恐ろしく、そして自由だった。
その笑みは、笑みだけで王を堕落させ国を滅ぼさせることができるだろう。
ミリィにそういった考えを巡らせる知識はないが、本能的に同じようなことを考えた。
しかし同時に、その笑みにはムツキの生命力も感じ取れた。
全力で生きている人間の笑顔は眩しい。
だからまったく違う二つの感情が、ムツキの笑みから感じ取れてしまう。
あまりにも温度差があるのだ。
故に――
ミリィは、ととのってしまった。
「――生きてるって、気がしますから」
満面の笑みを浮かべて語るムツキの笑みに、思わずくらっとしてしまう。
触れたら破滅してしまいそうな少女がそこにいて、そして実際にミリィは(性癖が)破滅に向かってしまっているのだ――
タイトル通りのお話です。