触れたら破滅しそうな見た目の闇属性うすほそにTSしたけど、破滅させてるのは性癖らしい 作:闇のうすほそ
ミリィは平凡な少女だ。
凡人である、と言い換えてもいい。
何をするにも中途半端で、これといった特技なんてない。
一人ぼっちで山を歩いていたこともあるから、山歩きはそこそこ得意だ。
しかしそれも街に移り住んで数年、当時と比べて明らかに衰えている。
街での生活も、現在はギルドで職員見習いをしているが、仕事を覚えるので精一杯だ。
それにしたって、一ヶ月ほど前から祖父の世話をするため故郷に帰り休んでしまっている。
帰った時に、またちゃんと仕事ができるか不安になってしまう。
毎日に少しずつ不安を覚えながらも、何もできないまま生きている。
──そんな状況で、ミリィは破滅をもたらす存在と出会ってしまった。
ムツキ。
闇をそのまま少女の形にしたかのような、危うくも妖艶で儚い存在。
同じ十代半ばの少女とは思えないほどの色気を放ちながら、どこか楚々とした清純さすら感じさせる。
彼女自身は、ただ闇が深いだけのあどけない少女なのだ。
多くの人をただ惹きつけてしまうだけで。
とはいえそれは、見た目だけの話。
言葉を交わせば、ムツキがそういった類の少女でないことはすぐに分かる。
「──やはり魔物が出てきましたね。ここからは、失礼しますが安全のためにこうさせてください」
「え? あ、ひゃわ──!?」
そんなムツキの事を考えていたら、突然ミリィは持ち上げられた。
そのまま両手で抱えられた。
お姫様抱っこだ。
は? 死ぬか?
「すいません、安全上これが一番確実なので」
「あわわわわわわわわわわわ」
涼しい顔で、ムツキはこちらを安心させるように微笑みながら浮かび上がる。
ある意味破滅的な光景だった。
こんなん心が幾つあっても保たない──!
「背中で背負えればいいんですけどね」
「よふひゅなひゅひへひゅ!」
「なんて? えっと……これから行う移動方法の関係上、背中が使えないんですよ」
あまりにも慌てすぎて、背中は背中でまずいと言えなかった。
とはいえ、直後にどうしてムツキがこんなことをしたのかは理解できたが。
「”闇夜航路”」
──ムツキの体が黒くぼおっと光、その背中に翼が生まれた。
ふわり、とムツキとミリィが浮かび上がる。
そのまま、すっと浮くようにしてムツキは移動を始めたのだ。
「こちらの方が、足場が不安定な森の中を歩くよりも楽ですし、戦闘中の移動もスムーズなんです」
「わ、わぁ、わぁ……!」
「移動速度も本気を出せばすごいですから、この村まで一日でやってこれたんですよ?」
「わぁ! わぁああ!」
「……聞いてます?」
──聞いてなかった。
だってムツキのビジュアルがバチバチに決まりすぎているから。
先ほど中二に目覚めたばかりのミリィにとって、劇毒すぎるくらい決まってるから。
とにもかくにも、ムツキは凄まじい。
容姿はもちろん言うまでもなく。
言動だって、とても親切で実直だ。
そして力は──思わず行けない世界に惹き込まれてしまいそうになる。
「──では、行きましょう」
そんなムツキの背に乗って、ミリィは思う。
自分とは、あまりにも違う世界を生きすぎている。
才能も美貌もあって、冒険者としての実績も十分で。
こんな完璧な人、一体どうして生まれるのだろう。
特に、見た目に反して性格が善良なのも少し不思議だ。
こんな見た目なら、さぞかし幼い頃から色々な面倒事を経験していてもおかしくないのに。
確かに、ここまで善良に育った今なら、その善良さでやましい連中を正気に戻すことはできるだろう。
でもそうなる以前は、ムツキが今のムツキになるまでは、もっと苦労していてもおかしくない。
そしてそれだけ苦労していてもなお、今のムツキになれるなら。
果たしてムツキに、欠点なんてあるのか?
「……あ、あのあのあの」
「はい、なんでしょう?」
「む、ムツキしゃんは、どうしてそんなに、ま、まっしゅぐ生きようと……するの?」
思い出されるのは、憧れに手を伸ばしたいというムツキの言葉。
真っすぐで、そして光に満ちている。
多分そこが根底だと思ったから、ミリィは聞いた。
「なんで……と、言われましても。そうですねぇ」
少し考えるようにしながら、ムツキは周囲を見渡す。
魔物に警戒しながら、考えを巡らせているのだろう。
余計なことを聞いてしまっただろうか。
心配になりながらも、ミリィもまた道案内を続ける。
そうして、互いにちょっとだけ言葉少なになりながら、淡々と森の奥へ進みつつ。
ある時ぽつり、とムツキがこぼした。
「……ボクはただ、今できることを全力でやりたいだけなんですよ」
それは、これまでのムツキを見ていると信じられないほど、どこかか細い声音だった。
まるで不安を吐露するかのような、抱えてきた秘密をそっと紐解くような。
そんな声音。
思わず、ミリィの息が詰まってしまう。
この人は、こんな顔まで出来てしまうんだ。
「だって全力でやらないと、大抵の成功は手に届かないんです。簡単にすり抜けてしまって、二度と手に入らなくなる」
「それ、は……」
「……
それは──理解できてしまった。
「──なれなかったんです」
寂しそうに、悲しそうに、諦観に満ちた顔でこぼすムツキの言葉は──ミリィもよく知っている。
凡人の言葉だ。
ムツキのように容姿にも才能にも恵まれた存在から出てくる言葉とは、到底思えない。
しかし、同時にミリィはこれが真実であると理解できてしまう。
だってミリィがそうだから。
「ム、ムツキさんがそんな風には……み、見えない……よ?」
「あはは、全然何言ってるか分からないですよね。うん、それが普通なんです。急に変なこと言ってごめんなさい」
「あ、いえ、えと、そんな、えと!」
思わずあわてふためいてしまう。
自分はムツキに期待しすぎてしまったのだ。
そんなの、ムツキの負担になってしまうと分かりきっているのに。
だからそんな顔をしないでほしい。
純粋な気持ちだ。
しかしその中に、ふと良くない考えがよぎってしまう。
ああ、もしかして。
「こんなこと、誰にも言えませんね」
――この顔を知っているのは自分だけなんじゃないか、と。
昏い感情だった。
ムツキという特別な存在が、自分にだけ見せてくれた顔。
自分という平凡な存在が、ムツキと同じなんじゃないかという妄想。
それらが他人に知られていないという認識。
幾つもの”よくないもの”がミリィの中でむくむくと膨れ上がっていく。
そんな感情を抱いてはダメだ、と理性は言う。
しかしそれ以上に、あこがれの人の大事な考えを知ることが出来た優越感が大きすぎて、ミリィを麻痺させてしまうのだ。
だからぽつり、と言ってしまう。
「で、でも……あ、アタシは……ムツキさんの悩みを……聞いた、よ?」
浅ましい、と言った自分ですら思う。
自分を認知してほしい、なんて。
けれどもそんな自己嫌悪すら。
「あ、あはは……他の人には秘密にしてくださいね?」
――ムツキは、受け止めてしまうのだ。
きっと、本人は気付いていないだろう。
だけどどうしようもなく、ミリィはそれに魅入られてしまう。
かくしてここに、ミリィは破滅への道を突き進み始めた。
ムツキの容姿に心惹かれ、生き方にあこがれを抱き、強さに魅入られ、そしてムツキの特別になりたいと願うのだ。
これが普通の相手に抱いた執着ならば、いずれミリィはストーカー紛いの変態へと至ってしまうだろう。
幸いなことがあるとすれば、それはミリィが憧れたのがムツキであるということ。
ムツキに認知されたかったら、ドラゴンのようにムツキの興味を抱く存在になることが一番の近道。
結果として邪な感情を抱いた性癖破滅少女は、ムツキの善性に当てられて、いずれ変態という名の求道者に至るのだがそれはまた別の話だ。
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