いつもより少し長めになってしまいました。
「俺はディアベル。気持ち的に、ナイトやってます!」
青髪のイケメンはディアベルという名らしい。開口一番そんなことを言って会場を笑わせていた。しかし、次に口にした言葉に場がざわついた。
「今日、俺たちのパーティーがあの塔の最上階でボスの部屋を発見した」
マジかよ。俺はまだ最上階にすら辿り着けてなかったのに。
「俺たちはボスを倒し、第2層に到達して、このデスゲームをいつかきっとクリアできるってことを《はじまりの街》で待ってるみんなに伝えなくちゃならない。それが今この場所にいる俺たちの義務なんだ。そうだろ、みんな?」
再び場がざわつく。なんか葉山みたいなやつだな。自分が演じるべき役を理解して、それを実践している。つまりは、"いい人"というやつだ。正直、俺はこの手の人種が苦手だが、今はこういう存在はありがたい。集団を率いるリーダーシップとカリスマ性。その両方を持っていると見える。イケメンって得だな。
そんなことを考えていると、徐々に拍手が沸き起こる。口笛を吹くやつもいる。どうやら全員が賛同らしい。てか、誰だよ口笛吹いたやつ。そう言うことするやつに限って、普段は大人しかったりするんだよ。こういう時だけ調子乗んな。
「じゃあ早速だけど、攻略会議を始めたいと思う。まずは6人のパーティーを組んでみてくれ」
は?パーティーを組めですと?そういうのって決めてくれるもんだと思ってました。
「マジかよ」
ディアベルは、単一パーティーではボスに対抗できないから、パーティーを束ねたレイドを作らないといけないとかなんとか言っているが、そんなことは知っている。問題なのはそこじゃない。ひたすらソロプレイを貫いてきた俺に、パーティーを組めるような相手は存在しないのだ。
どうしようか、帰ろうかと、キョロキョロしていると、黒髪の少年と目が合った。と思ったら逸らされた。え、ちょっと君。いくらなんでも酷くないですか?確かに目は腐ってるけどさ。
俺から目を逸らした少年は、フェンサーの側に寄っていき何やら話していた。前のほうにいる連中はすでにパーティーが組終わっているらしく、それぞれに集まって談笑まで始めていた。
少年とフェンサーの方に視線を戻すと、どうやらパーティーが成立したようだ。流石はプロのぼっちたる俺だ。完全に1人取り残された。これはあれだ。いらない奴認定されたということだ。つまり、俺がこの場にいる必要はないということだ。よし、さっさとお暇しよう。こうなったら俺の行動は速い。5秒後には誰にも気づかれずにこの場から消えているはずだ。
ドンッ
そう思って立ち上がったところを後ろから突き飛ばされた。えっ、ちょっと誰ですかこんな危ないことする人は。
「なーに逃げようとしてるのカナ、ハッチー?」
アルゴさんでした。わかってた。この世界でこんなことを俺にしてくるのはお前しかいないもんな。
「いやだって、俺がパーティー組めるやつとかいねぇし。それなら俺はいらないだろ」
「ハァ~、しようがないナ。オイラがなんとかしてやるヨ」
別になんとかしていただかなくて結構ですよ?むしろ、なんとかならないで良いまである。
「キー坊、あいつもパーティーに入れてやってくレ」
俺がそんなことを考えている間に、アルゴは少年とフェンサーのところへ行って話を始めてしまった。
「あいつって?」
なに勝手に始めてんだよ。せめて本人の意志を確認してからにしろ。あと少年、お前も話に乗るな。
「あそこの腐った目の男だヨ」
ちょっとアルゴさん、その紹介はないんじゃないの?目が腐ってるのは事実だけどさ。
「はぁ」
とはいえ、ここまで来たら逃げるわけにもいかない。逃げたらあとが怖いし。仕方がないので、 覚悟を決めて少年とフェンサーの所へ言って話しかける。
「なあ、俺も入れてくれるか?」
少しだけ声が上ずってしまった。
「俺はいいけど…」
少年がそう言いながらフェンサーの様子をうかがう。俺もつられてフェンサーに視線を流す。
「私も構わないわ」
女性の声だった。抑揚は欠いているものの、きれいな声だと思った。にしても、攻略会議に参加するプレイヤーなんて男だけだと思っていたから驚いた。そもそも、SAOは女性プレイヤーが少ない。それも最前線で戦うプレイヤーなんて極わずかだ。しかも、見たところソロプレイヤーらしい。どんな人物なのか少し興味が沸いた。別に女性だったからじゃないよ?本当に。
なんてことを考えていると少年の方からパーティー申請が来たので受諾する。すると、視界の端にある自分のHPゲージのすぐ下に、新たに2本のHPゲージが出現する。
KiritoとAsunaか。
「これは貸しだからナ」
アルゴはそう言い残すと、会議場をあとにした。いや、何が貸しだよ。別に頼んでねぇよ。
「みんな組み終わったかな。オッケー。じゃあ」
「ちょお待ってんか!」
ディアベルが会議を進めようとした時、前方のパーティーの一角から1人の男が飛び出してきた。男はトゲトゲした頭をしたプレイヤーだった。
「ワイはキバオウってもんや。ボスと戦う前に言わせてもらいたいことがある」
トゲトゲ頭はキバオウというらしい。ハッ、随分と大胆な名前にしたものだ。ちょっと笑ってしまった。
「こん中に、今まで死んでいった2000人に詫び入れなあかん奴らがおるはずや!」
さっきまでの笑いは消し飛んだ。こいつ…。
「キバオウさん。あなたの言う奴らとはつまり、元βテスターの人たち、かな?」
ディアベルが慎重に尋ねる。
「当たり前や。β上がりどもは、こんクソゲームが始まったその日に《はじまりの街》から消えよった。右も左もわからん九千何百人のビギナーを見捨ててな。奴らはウマい狩場やらボロいクエストを独り占めして、自分らだけぽんぽん強なって、その後もずーっと知らんぷりや。」
確かにそういうプレイヤーがいるのは否定できない。なにせ、俺もβテストの時の知識を使って今日まで生き延びてきたのだから。
「こん中にも何人かはおるはずやで、β上がりっちゅうことを隠して、ボス攻略の仲間に入れてもらお考えとる奴らが。そいつらに土下座さして、ため込んだ金やアイテムを吐き出してもらわな、パーティーメンバーとして命は預かれんし、預けられん!」
なるほど、言いたいことはわからなくもない。だが、それで問題が解決するとは思えない。見れば、黒髪の少年—おそらくKirito—が苦しい表情をしていた。なるほど、こいつは俺と同じか。そして同感だ。きっと俺も似たような表情をしていることだろう。もう1人の方に目を向ける。こちらはフードを被っているために表情は読み取れない。
「発言いいか」
沈黙が支配しかけていた所に、よく通るバリトンが響いた。
「俺の名前はエギルだ。キバオウさん、あんたの言いたいことはつまり、βテスターが面倒を見なかったからビギナーがたくさん死んだ。その責任をとって謝罪・賠償しろと、そういうことだな?」
エギルと名乗った巨漢の男は、キバオウの前に立って話し始める。にしてもデカいな。それに、濃い褐色の肌は日本人ではないのかもしれない。
「そ、そうや」
エギルの巨漢に若干怯んだようすのキバオウだったが、すぐに勢いを取り戻した。
「あんアホテスター連中がちゃんと金やら情報やらの面倒見とったら、死なずに済んだ2000人なんやぞ!」
そのアホテスターも全員が生き残っているわけではない。むしろ、βテストの経験があることで油断して死んだものもいるのだ。反論したかったが、ここで反論しても紛糾するだけで、いいことはない。そもそも証拠がない。俺は押し黙った。
「あんたはそう言うが、金やアイテムはともかく、情報はあったと思うぞ」
エギルはそう言うと、一つのアイテムを取りだした。
「このガイドブック、あんたも貰ったろ。町の道具屋で無料配布してるからな」
あれは《アルゴの攻略本》だ。…無料配布だと?あの商売の鬼が?俺は500コル払って買ったんだけど。しかも全巻。どういうことなの、アルゴさん?
「もろたで。それが何や」
どうやら本当に貰えるらしい。信じられない。俺が払った500コルはなんだったんだ。
「このガイドブックに載っているマップデータやモンスター情報を提供したのは、元βテスターたちだ」
エギルのその言葉にプレイヤーたちがざわつく。まあ、これは少し考えればわかることだ。《攻略本》はかなり詳細なデータまで載せている。それこそ、数日かけて調査してもわからないことまで。
「いいか、情報はあったんだ。なのに多くのプレイヤーが死んだ。じゃあ、その失敗を踏まえて俺たちはどうすべきなのか。それがこの会議で話し合われると、俺は思っているんだがな」
エギルの言うことは至極真っ当な論だ。攻略会議の主旨も理解しているのだろう。こういう出来る大人がいるのは頼もしい。
「キバオウさん、君の言うことも理解できる。でも、今はエギルさんの言う通り、前を見るべき時だろ?元βテスターだからと言って、いや、元テスターだからこそ、今回のボス攻略には必要な戦力なんだ。彼らを排除して、攻略が失敗したら、何の意味もないじゃないか」
エギルの言葉に反論できないでいたキバオウに対し、ディアベルが爽やかな弁舌で説得にかかる。実にナイトを自称するこの男らしい。結局、キバオウは一応は納得したのか、もといた場所に下がっていった。エギルも、これ以上言うことはなかったようで、ディアベルに話を戻した。
「みんな、それぞれに思うところはあるだろうけど、まずは聞いてほしい。実は先ほど、《攻略本》の最新版が配布された。それによると、ボスの名前は《イルファング・ザ・コボルド・ロード》。取り巻きに《ルイン・コボルド・センチネル》というのがいるらしい」
そこからが、ようやく攻略会議らしいものとなった。ボスと取り巻きの特徴。各パーティーごとの役割分担。ちなみに、あぶれ組の俺たちは取り巻きの対処だった。戦闘によって手に入る金・アイテム・経験値の配分の仕方。
「《攻略本》の情報はあくまでβテスト時のものだそうだ。ボスの行動等が変わっている可能性は十分にある。みんな、注意してくれ。では、明日の朝10時に出発する。今日は以上だ。解散にしてくれ」
ディアベルがそう言うと、Asunaはさっさとその場を後にしてしまった。なんとなくそれを見送っていた俺とKiritoだったが、少しの間顔を見合わせると、慌てて彼女の後を追った。
「なあ、フェンサーさん。明日のことでいくつか確認しておきたいんだけど、いいか?」
Kiritoが尋ねる。
「…ええ、いいわ」
Asunaの了承を得られたので、道具屋で《攻略本》の最新版を貰い、Kiritoが間借りしているというNPCハウスの2階へと向かった。
第9話 彼は少年と少女に出会う。 終
今回もアルゴさんに登場していただきました。
いやーアルゴさんって便利ですねw
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