間違ってる青春ラブコメは鋼鉄の浮遊城で   作:デルタプラス

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第10話です。


第10話 少年の名はキリト。

「結構広いんだな」

 

どうやら、Kiritoは大きな農家の2階を丸々借りているらしい。しかも、ミルク飲み放題でお風呂まで付いているとか。これで町の宿屋と値段変わらないんだからかなりの良物件だ。俺もNPCハウスの一部を間借りしているが、広さはここの半分くらいだし、お風呂はあってもミルク飲み放題は付いていない。

 

Kiritoの借りている部屋にも驚いたが、それよりも驚いたのがAsunaの容姿だ。一言でいえば、超美少女。なんでこんな娘がSAOに?ってレベルじゃない。現実世界でも、ここまで可愛い娘は滅多にいないと思う。え?雪ノ下?確かにあいつも超がつく美少女だけど、Asunaはあんな氷の雰囲気は持ってない。ついでに言うと、由比ヶ浜のようなビッチ臭もしない。きっと、いい娘なのだろう。俺の目を罵倒してこなかったし。しかし、まだ幼さが残る顔をしているところをみると、中学生くらいだろうか。小町より年下であることは間違いない。良かった。流石に、小町より年下の女の子に告白することはありえない。仮に懐かれてしまっても、勘違いして告白して振られるというトラウマを増やさなくて済む。本当に良かった。

 

「お風呂」

 

Asunaがボソッと呟いていたが、女の子だからだろうか。いくら仮想の肉体とはいえ、やはり気になるものはあるのだろう。そして、3人が思い思いの場所に座ったのを確認して、Kiritoが口を開いた。

 

「俺たちの役割は、取り巻きの《ルイン・コボルド・センチネル》の排除だ。見たところ、このメンバーは全員がアタッカータイプだから、3人で順番にスイッチしながら戦闘していくことになると思う」

 

Kiritoが言う。ていうかKirito、同年代の超美少女を目の前にしてよく平気だな。お前あれか、ホモか?顔は女顔だし、受けとしては結構いい素材だと思う。…いつの間にか海老名さんの布教が成果を上げていたらしい。嬉しくねぇ。

 

「まあそうだな。それが妥当だろ」

 

俺が賛同する。この2人のステータスビルドの詳細はわからないが、タンクということはない。ならば、前衛と後衛を交代しながら攻撃を重ねていくのが最も無難である。そうすることで、誰か1人に負担が集中することもなく、戦闘中でも少しの休息が取れる。

 

「…スイッチ?って何?」

 

Asunaが可愛らしく小首を傾げている。

 

「「えっ」」

 

俺とKiritoの声が重なる。

 

「もしかして、パーティー組むのはじめて?」

 

Kiritoが尋ねると、Asunaは首を縦に振る。マジですか。めっちゃ初心者じゃん。それもこの手のゲーム自体初心者だろう。まあ、見た目からしてゲームとかやりそうな人種ではないし、仕方ないか。

 

「えーと、スイッチっていうのは、…」

 

そこから、俺とKiritoによる『スイッチとは何か』講座が始まった。俺とKiritoが補足し合いながら説明すると、

 

「なるほどね。だいたいわかったわ。つまり、1人が攻撃をブロックして敵の体勢を崩すから、その間にもう1人が攻撃をすればいいわけね」

 

どうやら理解力は高いらしい。あとは彼女自身の戦闘力がどのくらいなのか。

 

この話し合いで、俺とKiritoが《センチネル》の攻撃をブロックして、Asunaが攻撃するという方針が固まった。理由としては、《センチネル》の弱点箇所がのど元の1か所のみであり、Asunaのレイピアの方がその箇所を確実に攻撃できるからだ。

 

 

 

話し合いが終わって少し経った。俺は今、Kiritoと2人で建物の外にいる。話し合いが終わった後、Asunaがお風呂に入りたいと言ってきたことと、俺がKiritoに聞きたいことがあったからだ。

 

「なあ、キリト。で読み方あってるよな?」

 

「ああ、それであってる。えーっと、エイトマンでいいのか?」

 

俺のプレイヤー名は、e1gHtmanである。多少ネットゲームに心得があれば簡単に読めるが、初心者だと読めなかったりする。俺がそうだった。なんだよ"G1G4nticE"って。ギガンテス?"1"が"i"で"4"が"a"?なら後ろの"i"も"1"にしろよ。しかも語頭以外にも大文字あるし。まあ、今の俺もそうなんですけどね。てへっ。

 

「エイトでいいぞ」

 

「そうか。で、何のようだ?」

 

「…お前、元テスターだよな?」

 

しばしの沈黙。

 

「…ああ、そうだ。だとしたらどうする?やっぱりパーティーは組めないか?」

 

声に緊張と警戒の色がにじんでいる。

 

「いや、そんなことはない。俺も元テスターだしな。名前は変えてるけど」

 

「そうなのか。でも、じゃあ何で聞いてきたんだ?」

 

少し安堵したような、でも警戒した声。

 

「確認しておきたかったんだよ。そんだけだ」

 

そう、それだけだ。今日の会議でのように、ディアベルとエギルが鎮めてくれたが、キバオウのような考えを持つプレイヤーもいる。今はまだ元テスターに対してだけ嫌悪を向けているが、いつそれが元テスターと一緒にいるプレイヤーに向けられるかわからない。そうなれば、今回のパーティーは暫定だが、Asunaのようなプレイヤーが損をすることになる。それは許容できない。俺のポリシーとして。

 

「また明日な、キリト」

 

聞きたいことは聞いた。今日はもう用はない。

 

「ああ、明日な」

 

その応えを背中に聞きながら、俺はその場を去った。

 

 

第10話 少年の名はキリト。 終

 

 

どこかの町のはずれ。辺りには、夜の帳が降りていた。

 

2人のプレイヤーが、壁に寄りかかって話をしていた。

 

「ふーん、そっか。いよいよ攻略に」

 

「まあナ。今回のボス攻略が成功すれば、少しは希望が見えてくるだろうナ」

 

「そうだね。でも、上手くいくかな?人数足りてないんでしょ?」

 

真剣さと挑発的な含みを混ぜた声。

 

「オイラにはわからないヨ。上手くいけばいいと思ってるケド」

 

あくまで冷静な声音で応じる。

 

「そっか」

 

どこかつまらなそうに呟く。

 

「でもオイラは、生き延びてほしいカナ。あいつらには」

 

あいつら。その"あいつら"に彼は含まれているのだろうか。

 

「………」

 

お互いに言葉はなかった。

 

「じゃあ、今日はこれで失礼するヨ。またナ、ハルノ」

 

これ以上の会話は必要ないと判断したのだろう。そう言って、彼女は壁から背を離す。

 

「うん。またね。アルゴちゃん」

 

私は、壁に寄りかかったまま、返事をする。

 

彼女の足音が遠くなっていく。

 

完全に聞こえなくなっても、私はずっと同じ体勢だった。

 

 

「きっと君なんだよね、比企谷君。君も、この世界にいるんでしょ?」

 

 

彼がいるかもしれないとわかったのは、つい数日前だ。しかしまだ、自分の目で確かめてはいない。

 

 

「死なれたりしたら、お姉さんヤダな。だって、君ほど面白いおもちゃはいないんだもん」

 

 

蠱惑的な微笑を貼り付けた雪ノ下陽乃は、視線を遠くにそびえ立つアインクラッド第1層《迷宮区》タワーへ向けた。仮面のような表情からは、内心を窺うことは出来なかった。

 

 




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