間違ってる青春ラブコメは鋼鉄の浮遊城で   作:デルタプラス

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第12話です。
よろしくお願いします。


第12話 ディアベルは願いを託す。

ボス攻略は、ここまでのところ順調に進んでいた。

 

どのパーティーにもフォーメーションの乱れはないし、回復ローテーションもしっかり維持できている。プレイヤーの士気も高いので、変な欲を出さなければミスも起こらないはずだ。総指揮官であるディアベルは冷静だし、指揮能力も高い。問題はないはずだ。もちろん、ここからβテストにはなかった仕様が出てくるかもしれないので、油断は出来ない。しかし、このメンバーなら多少のイレギュラーには対処できると思う。

 

ギャンッ

 

金属同士が激しくぶつかる音がした。見れば、ボスの《イルファング・ザ・コボルド・ロード》の三段あるHPバーが最後の一本に突入したのと同時に出現した《ルイン・コボルド・センチネル》のポールアックスを、キリトが大きく跳ね上げさせたところだった。

 

「スイッチ!」

 

キリトのその言葉を合図にして、Asunaが飛び出す。彼女が繰り出す高速の突き《リニアー》が《センチネル》を捉える。その一突きが《センチネル》を吹き飛ばす。相変わらず凄い威力だ。

 

「あいつら本当に強いな」

 

Asunaも凄いのだが、キリトも強い。動作に無駄がないのだ。流石は元βテスターといったところだろうが、キリトの戦闘技術はその中でもトップクラスだと思う。おそらくかなりの廃人ゲーマーなのだろう。ナーヴギアの生みだす仮想世界での身体の動かし方をよくわかっている。俺も慣れている方だが、キリトほど最適化された動きをするにはまだ練習が必要だろう。

 

吹き飛ばされていた《センチネル》が起き上がって、攻撃態勢に入りかけていた。

 

「スイッチ!」

 

そう声掛けをして前に出る。そこから俺と《センチネル》は何度か獲物をぶつけ合う。そのたびに金属音が響き、火花が散る。

 

ガァンッ

 

一際大きな金属音が響き、俺と《センチネル》はお互いに体勢を崩した。

 

「三匹目!」

 

その隙に、Asunaが高速の突きをお見舞いする。今回はソードスキルではなく通常攻撃だったが、その一撃を受けた《センチネル》の体は空中で不自然に硬直し、やがて無数のポリゴン片となって四散した。

 

「ふぅ」

 

少し息をつく。これで、当初与えられていた仕事は完了だ。あとはほかの連中がどうなっているか。

 

「………」

 

「どうやら、残るはボスだけみたいだな」

 

エギルたちがまだ《センチネル》と戦っているが、その《センチネル》のHPは風前の灯火といったところだ。キバオウたちは俺たちとほぼ同時に倒したのだろう。もう一匹の《センチネル》の姿はなかった。

 

改めてボスを見ていると、三段あったHPバーは最後の一段が半分に少し届かない程度に残っているだけだった。最後のHPバーは通常の緑から黄色に色が変わっている。あれが赤になってからが、いよいよ大詰めだ。SAOに登場するボスモンスターは全て、最後のHPバーが赤くなると凶暴性が増すという特徴がある。

 

この状態になったボスは、動きが早くなったり、攻撃力が上がったりと厄介な性質を持つようになる。しかし、冷静さを欠いているという設定なのか、それまでには無かった大きな隙が出来たり、行動がワンパターンになったりと、動きの派手さに惑わされなければ攻略は難しくない。

 

では、今回のボス《イルファング・ザ・コボルド・ロード》はどうなのかというと、武器を持ち替える。斧とバックラーから曲刀カテゴリの《タルアール》に武器を変更するのだ。ただし、これはβテストの時の情報である。

 

「グオオオオオオォォォォォォ!!!」

 

突如、巨大な咆哮が轟いた。いよいよ、ボスのHPゲージの最後の一段が赤くなったのだ。ここからボスは一時的な無敵時間に入る。要は携帯ゲーム機とかだとムービーが流れてる状態。

 

持っていた斧とバックラーを盛大に投げ捨て、腰に装備している曲刀《タルアール》を手にする。いや、あれは《タルアール》じゃない。名前は忘れたが、βテストの時に二~三回だけ見たことがある。しかも第9層だったはずだ。そして、武器カテゴリは"カタナ"。全く、嫌なところで仕様を変更してくる。だが、それに気付けたのは大きい。あとはこの情報をディアベルに伝えれば…そう考えていた時、

 

「下がれ。俺が出る!」

 

突然、ディアベルが前へでたのだ。それも単身。

 

「なっ!?」

 

馬鹿な。それはいくら何でも無謀だ。仮にディアベルがボスの使う技を知っていたとしても、そうしたらなおのこと、単身で前に出るべきではない。それに、こういった変化のあとは確定行動で大技を放ってくるのは、ゲームの仕様としてよくあることなのだ。βテスト時にもそのようなボスはいた。なのに何故だ。ここは複数パーティーで包囲して、ボスの攻撃をしっかり防御する。その後に全員で一斉に攻撃した方がいいに決まっている。それがセオリーのはずだ。何を考えている?

 

頭の中を様々な思考が飛び交う内に、ディアベルの持っている片手剣が鮮やかなライトエフェクトに包まれる。同時にボスのギラついた双眸がディアベルを捉える。どうやらディアベルを最初のターゲットに選んだようだ。

 

「ダメだ!ディアベル下がれ!!」

 

「大きく後ろに飛べ!!」

 

無駄と知りながらも叫んだ。キリトも叫んでいた。すでにソードスキルの発動をしていまっているので、すぐに回避に移ることはできないのだ。

 

気付いたときには、駆けだしていた。ディアベル自身に回避能力がない以上、他のプレイヤーがディアベルを強制的に移動させるか、ボスの攻撃をキャンセルするしかない。

 

間にあえっ!

 

その祈りにも似た呟きは、果たして叶うことはなかった。

 

AGIを全開にして走る俺の視界の先で、ボスの放った一撃が、無慈悲にディアベルを斬り裂いたのだ。

ズバッ

 

という音と共に、ディアベルの体が宙に浮く。

 

追撃がくる。そう悟った。俺は以前、βテストの時に同じ技を受けたことがあるのだ。

 

カタナカテゴリ専用ソードスキル《浮舟》。この技にやられたら、体を宙に浮かされて、追撃のソードスキルを喰らうことが確定的になる。ゆえに、これを喰らったプレイヤーは体を丸めて防御を高めなければならない。

しかし、ディアベルは果敢にも反撃しようと剣を構えた。勇気は時に無謀になる。そんな言葉が脳裏をよぎった。

 

致死の光をまとった刃が、三度閃いた。

 

「「「ディアベル!」」」

 

吹き飛ばされたディアベルの所へ駆け寄る。ディアベルのHPは着実な勢いで減少している。俺より先にディアベルに駆け寄ったキリトが、アイテムポーチから回復ポーションを取り出して言った。

 

「なぜあんな無茶を」

 

ディアベルは差し出されたポーションを片手で制すと答えた。

 

「お前も、βテスターだったらわかるだろう」

 

この言葉でわかった。ディアベルが狙っていたのはボスのラストアタックボーナス、通称LA。ボスに最後のダメージを与えた者が獲得できるレアアイテムで、フロアボスのそれはユニークアイテムであり、強力な装備品であることが多い。手に入れられれば、他のプレイヤーから一歩先んじることが出来る。そして、LAを知っているということは…

 

「ラストアタックボーナス。お前も元βテスターだったのか」

 

キリトも同様の答えに行き着いたようだ。ディアベルはβテスターだった。そのディアベルは肯定するように頷き、続ける。まるで遺言でも残すように。いや、これは遺言、あるいは彼の願いだ。その願いは、きっと尊い本物だ。

 

「頼む。ボスを、ボスを倒してくれ」

 

ディアベルのHPゲージが0になった。まだ何か言おうとして、光となって散った。

 

 

 

ディアベルが死んだ。

 

 

第12話 ディアベルは願いを託す。 終




ディアベルさんが死にました。
さてさて八幡はこれからどう動くのでしょう?

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