間違ってる青春ラブコメは鋼鉄の浮遊城で   作:デルタプラス

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第14話です。
リアルの都合でちょっと更新ペースが落ちます。
その代わり、1話の分量増やそうと思ってます。


第14話 やはり、彼は独りになりたがる。

ボスが倒されてしばらくは、誰も何も言わなかった。

 

まだ何が起きたのかわかっていなかったのだろう。だがその沈黙も、Congratulationsの大きなウィンド表示とファンファーレ、次々に表示されるボス撃破による金や経験値の獲得ウィンドによって破られた。

 

叫び出す者、近くにいるやつと抱き合って喜ぶ者、変な踊りを披露する者。実に様々だが、プレイヤーたちは勝利の喜びに浸っていた。一部を除いて。

 

全く、なんでこういうのを発見しちまうんだろうな。俺がボッチだから?こういうみんなが揃って何かしている時に、少しでも違うことをしているやつがサッと目に入ってくる。そして、そういうやつは往々にして面倒くさい。ソースは俺。材木座とかそうだ。え、俺?まあ、材木座ほどではないが、そうかもな。

 

で、今回の面倒くさいやつってのは、ディアベルのパーティーメンバーとキバオウたち。最初は安堵感が大きかったのだろうが、徐々に複雑な表情に変わっていった。その変化を見ているのはなんだか面白かったが、状況は全然面白くない。

 

ディアベルのパーティーメンバーにしてみれば、目標は達成できたのにリーダーが死んでしまい、どうすればいいのかわからないのだ。おそらく、彼らの内面では感情の暴風が吹き荒れていることだろう。そのまま内側で理性と対立して葛藤になれば、こちらに害はない。しかし、一度溢れ出せば、治めるのは大変だ。

 

そして、キバオウ。こいつの場合は、ディアベルのパーティーメンバーの倍くらい面倒くさいと思う。このトゲトゲ頭は元βテスターに対する嫌悪感が強い。今回のボス攻略で、キリトと俺はほぼ確実に元テスターだとバレてしまった。何せ、ボスの情報にはなかったソードスキルに対処してしまったのだから。その元テスターの俺たちには色々と言いたいこともあるだろ。それだけで済めばいいんだけどね。実際はそうもいかないんだろうな。

 

「はぁ」

 

思わずため息が漏れる。

 

「おいおい、どうしたんだ?ため息なんか吐いて」

 

俺のため息を聞いたらしいエギルが気さくに話し掛けてくる。

 

「いや、まだ先は長いなと思ってな」

 

とりあえず誤魔化しておく。エギルのような真っ当な常識人に今俺が感じている懸念を伝えれば、必ず事態の収拾に乗り出す。おそらく、攻略会議の時のような正論を以て。だが、今回は攻略会議の時とは違う。それはディアベルの死。そして、ディアベルの死の原因を俺たち元テスターに求めようとするやつも必ず出てくる。そうなれば、エギルは元テスターを庇うプレイヤーだとされてしまう。最悪、エギルも元テスターだと言われかねない。結果、何も悪くないのに悪人にされてしまう。そんなことを許容出来るはずもない。

 

「そりゃあそうだが。今は一歩進めたことを喜ぼうぜ」

 

エギルは一瞬眉をひそめたが、すぐに明るい声に戻る。

 

「そうだな」

 

第1層を突破出来たのが嬉しいことであるのは確かだ。だからといって、諸手を挙げて喜ぶことは出来ないのが現状な訳だが。

 

「どうしたんだよ、エイト?」

 

きっと苦い笑いでもしていたんだろう。キリトが訝しむように尋ねてくる。まあ、まだ気付いてなくても無理はないな。長年ボッチとして人間観察に勤しんでいた俺だからわかったようなものだし。忠告くらいはしといてやろう。そう考えてキリトに歩み寄る。

 

「まだ終わってねぇぞ。俺たちは元テスターだからな」

 

他のプレイヤーには聞こえない音量でそう言った。キリトの体が強張るのがわかった。

 

「どういう意味だ?」

 

同じく他プレイヤーには聞こえない声で聞き返してくる。

 

「すぐにわかる」

 

アスナが何か言いたげな目でこちらを見ていたが、今はそれに答えている暇はない。奴らがどうぶつかって来るかはわからないので、奴らの出方をいくつも予想しておくべきだ。

 

「何でだよ!何でディアベルさんが死ななきゃいけないんだ!」

 

どうやら考える時間はくれないらしい。その言葉の発言者はディアベルのパーティーメンバーの曲刀使いの男だった。その発言でプレイヤーの間に沈黙が降りる。ここで、ディアベルがセオリー無視のLA取りに固執したからだと答えるのは容易い。しかし、それでは混乱を生むだけで意味はない。そもそもこんな問に対する答えなど存在しない。ならば新たな発言が出るまで待つべきだ。過程がどうなろうと、必ず俺たちに矛先は向けられるのだから。

 

「あんたらだ。あんたらは何でディアベルさんを見殺しにしたんだ!」

 

曲刀使いは俺とキリトを指差してそう言った。正直頭が痛くなる。見殺しときましたか。どうやら俺が思っていた以上に冷静でないようだ。こういう相手には論理的な話をしても通じない。それに、ディアベルへの信頼はかなり厚かったようだ。ここまででわかったのはそのくらいだな。

 

「見殺し…?」

 

キリトが呻くように聞き返す。

 

「そうだろ!?あんたらはボスの使うスキルを知ってたじゃないか!それを教えてさえいればディアベルさんは死ななかった!」

 

勝手なことを言ってくれる。こっちは三人でセンチネルの相手をしていたのだ。その上ボスの様子を観察して報告までしろときたもんだ。それに、教えていれば死ななかったという保証はないのだ。だから、仮定の話に意味はない。だが、この場ではそれなりに有効に作用する。

 

実際、「確かに」「何で知ってたんだ?」「そんな保証は…」などとあちこちから囁き声が聞こえる。さて、そろそろ発言すべきだろう。アスナとエギルが動き出しそうだし。

 

「俺知ってる!こいつら元βテスターだ!だからボスのスキルのことも知ってたんだ!知ってて隠してたんだ!」

 

俺が口を開きかけた時、キバオウのすぐ側にいた細身のダガー使いがキーキーと喚きだした。知っていたのは確かだが、隠していた訳ではなく、ボスがスキルを使う直前まで武装が変わっていたことに気付けなかっただけだ。そもそも何故元テスターだと確定できるんだ?俺はこのダガー使いを知らないし、アルゴが情報を売ったとも思えない。いくらアルゴが商売の鬼でも、誰が元テスターかという情報は絶対に取引しない。アルゴ自身がそういっていたから間違いない。

 

「お前たち少し落ち着け。攻略本にはあのスキルの情報はなかった。そして攻略本には『この情報はβテスト時のものです』と注意書きがあった。もしこいつらが元テスターだとしたら、攻略本以上のことは知らないはずじゃないのか?」

 

そういってこの場を収めようとしたのは、意外にもディアベルのパーティーメンバーの一人だった。冷静な奴もいたんだな。ちょっと感心した。その言葉でプレイヤーたちも冷静になっていく。しかし、その空気をあのキーキーとした喚き声が引き裂いた。

 

「じゃあ、情報屋もグルなんだ!情報屋だってβテスターなんだ!汚い元βテスターがタダで情報を教えてくれるわけないんだよ!」

 

再びざわめきが起きる。ダガー使いの言っていることは滅茶苦茶だ。自分の推測-もはや妄想と言っていいかもしれない-をあたかも本当のことであるかのように喚き散らす。行動が幼稚過ぎる。今のこいつは、自分の思う通りにいかなくて騒いでいる子供と一緒だ。こういう奴を黙らせるのは骨が折れるが、早く黙らせないと大変なことになる。今回の件で悪役になるのは俺とキリトだけのはずなのに、このままでは元βテスター全員になってしまう。

 

「お前らな…」

 

「ちょっとあなたたち…」

 

エギルもアスナも溜まりかねたのだろう。行動を開始してしまっていた。

 

このままだと色々と良くないことになる。元βテスターと通常プレイヤーとの対立。通常プレイヤー間での対立。どちらもゲーム攻略に大きな支障きたす要因になる。もっと悪いのは、PK-プレイヤーキル-が起こってしまうこと。

 

今ある問題を解決する為には、汚い元テスターが一部の情報を秘匿して自分たちだけが美味しい蜜を吸っているという事実が存在しないと理解してもらえばいい。一から順番に説明しても埒があかないので、多少暴論になっても、ここにいる全員を黙らせられるようなインパクトがあればいい。幸か不幸か、奴らは「元βテスターは俺たちの知らない情報を隠している」と思い込んでくれている。ならば、これを利用しない手はないだろう。

 

「はぁ~あ、さっきからキーキーうるせえな。ディアベルが死んだのは自業自得だろ。元βテスターの俺から言わせれば、ああいう時は全員で囲むのがセオリーなのに、それを無視して一人で突っ込むとかあり得ないね。ディアベルは確かに卓越した指揮官だったが、最後で判断ミスをしたんだよ」

 

大仰なため息に続けて、言い放つ。全員が唖然としてこちらを見ている。この発言で、元テスターというより俺個人に対する嫌悪が生まれ、同時に、ディアベルが元テスターだったという事実は絶対に露見しなくなる。

 

「そしてこのSAOでは、一瞬の判断ミスや油断が死を招くんだよ。そんなことはここまで辿り着いたプレイヤーなら当然わかってるだろ?それなのに、情報を教えなかった俺のせいだとか喚かれても迷惑なんだよ。大体、βテストで辿り着けてない層で死者が出たときも俺のせいにするつもりなのか?俺が情報を教えなかったせいだって」

 

唖然としていた顔に怒りや侮蔑の色が混じりはじめ、だが何かを言われる前に言葉を続ける。顔を紅潮させて睨みつけてくる者、明らかに困惑している者、唖然としっぱなしの者、実に様々な表情が見て取れる。正直、ここまで多種多様な表情を一度に見れることはそうないと思う。

 

「そもそも、俺をあんな雑魚連中と一緒にするんじゃねえ」

 

さて、ここからが本番だ。

 

「ざ、雑魚連中やと?」

 

これまで意外にも発言していなかったキバオウが口を開いた。いい質問です、トゲトゲ頭くん。その実にもやっとしている頭に教えて差し上げましょう。

 

「アホな元テスター連中のことだよ。決まってんだろ」

 

そんなの当然だと言わんばかりのふてぶてしい態度で答える。

 

「なっ…」

 

キバオウは開いた口が閉まらないようだ。なかなかに間抜けな面をさらしている。まだわかんないの?しょうがねえな。詳しく教えて差し上げよう。

 

「本当にその通りだ。元βテスターだって?俺をあんな連中と一緒にしないでほしいね」

 

俺がたたみかけようとしていたら、隣から低く冷たい声が聞こえてきた。キリトだ。

 

「βテストの抽選倍率を知っているか?凄まじい倍率だったんだぜ?その抽選で選ばれた人間の中に、本物のMMOゲーマーがどのくらいいたと思う?ほとんどのテスターはレベリングのやり方も知らないニュービーだったよ。今のあんたらの方がまだましさ」

 

見る人が見ればすぐに演技だとわかるが、多くの連中はわかっていないようだ。演技だとわかっているのは、俺の他にはアスナとエギルくらいのものだ。そんな中、キリトは続ける。

 

「βテストで、俺は他の誰も到達していない場所まで進んだ。ボスのカタナスキルを知っていたのは、ずっと上の層でカタナを使うモンスターと散々戦ったからだ。他にも色々知っているぜ。情報屋なんか、問題にならないくらいな」

 

なんだか、キリトに言いたいことを取られてしまった。結果として、言いたいことは伝わったが、キリトもアホテスターに分類出来れば理想だった。まあ、仕方ない。

 

「な、なんやそれ。もうそうなんβテスターどころやない。チートや、チーターやろそんなん!」

 

キバオウのその言葉に始まり、あちこちから「チートだ」「βテスターのチーターだ」と声があがる。それらはやがて、「ビーター」という奇妙な響きを持つ言葉に収束していった。

 

「ビーター。いい響きだな。そうだ。俺はビーターだ。これからは元テスター如きと一緒にしないでもらおう」

 

キリトはそう言うと、メニューウィンドを操作して、黒のロングコートを装備した。なるほど、あれが今回のボスのLAボーナスか。隠蔽率とか上がりそうでちょっと羨ましい。周囲はどうしていいのかわからず呆然としている。

 

「ビーターね。まあいいか」

 

さて、もうこの場に留まる理由はなくなった。さっさと去るとするか。踵を返して第2層へと続く螺旋階段に足を向ける。少し遅れて、足音が一つ聞こえてくる。確認するまでもなく、キリトだ。

 

螺旋階段の扉の前まで来た時、後ろから声が聞こえた。

 

「おい、自分ら!どこ行く気や!」

 

声と口調からキバオウとわかる。俺は後ろを見ずに答える。

 

「どこって、次の層に決まってんだろ。こんなとこで時間つぶすより、攻略進めた方が有意義だからな」

 

そのまま扉に手をかけて押し開ける。目の前には薄暗い螺旋階段が上に向かって伸びていた。俺は躊躇うこともなく階段を上り始める。

 

「第2層の転移門は俺たちがアクティベートしといてやる。この上の出口から主街区まで少しフィールドを歩くから、初見のMobに殺される覚悟があれば来るといい」

 

そう言って後ろからキリトも上ってくる気配がある。

 

階段を上っている間は終始無言だった。

 

テーブルのような山と牛のようなモンスターが浮き彫りにされたレリーフが施された扉を開けると、光が差し込み、次いで第1層とは異なった風景が目に入ってきた。

 

「お前の演技わかりやす過ぎだ」

 

あんまり会話がないのも変だし、少しくらいは今後について話しておくべきだろう。そう思って話かけてみる。

 

「えっ、そうだったか?」

 

良かった。返事があった。というか、あれで上手くできたと思ってたのかよ。

 

「ああ」

 

よくあれで通ったもんだ。

 

「そういうお前は犯罪者みたいだったぞ」

 

仕返しのつもりなのだろうが、甘いな。

 

「この目のことを言っているなら残念だったな。自覚はあるし、目に対する罵倒雑言は散々言われてきたから、その程度じゃ痛くも痒くもない」

 

「そ、そうなのか」

 

引かれた。おいおい引くなよ。悲しくなっちゃうだろ。

 

「いやでも、表情というか笑いが卑屈過ぎだった。あれは演技だったんだよな?」

 

恐る恐るといった感じにキリトが尋ねてくる。そこまで真に迫っていたのか。我ながら自分の才能に嫉妬しちゃうぜ。

 

「なんか普通の時とあんまり変わってなかったから」

 

うん、知ってた。犯罪者か死んだ魚のように腐った目。そして卑屈な笑み。普段の俺の特徴そのまんま。

 

「演技だから安心しろ」

 

しばし沈黙。

 

「なあ、これからどうするつもりなんだ?」

 

キリトが口を開いた。

 

「どうするも何も、ソロで攻略を続けるさ。お前と同じだ」

 

答える。

 

「そうだな。…一応フレンド登録しとかないか?何かあった時に、すぐに連絡取れた方がいいだろ?」

 

何かあった時、か。何もない方がいいに決まっているが、おそらく無事で攻略が進むとは思えない。

 

「それもそうだな。一応しとくか」

 

フレンドにKiritoが登録された。背後から足音が聞こえた。誰かが階段を上ってきたのだ。

 

「ついて来るなって、言わなかった?」

 

キリトが言う。

 

「殺される覚悟があるなら来いって言ったのよ。覚えてないの?」

 

上ってきたのはアスナだった。

 

「…そうだっけ。ゴメン」

 

キリトが謝る。

 

「で、どうしたんだ?」

 

俺が尋ねる。

 

「キバオウとエギルさんから伝言があるわ」

 

キバオウからの伝言とか、正直いらない。

「キバオウさんからは、『今回は助けてもろたけど、自分らのことは認められん。わいはわいのやり方でゲームクリアを目指す』だそうよ」

 

アスナが真剣な顔して下手な関西弁で再現しようとするものだからちょっと可笑しい。顔には出さないけど。

 

「エギルさんからは、『第2層のボス攻略も一緒にやろう』だって」

 

そうか。エギルって物好きなのかもな。なんて考えていると、アスナがそっぽを向いて続けた。

 

「二人とも、戦闘中にわたしの名前呼んだでしょ」

 

はて?とキリトと二人で首を傾げる。そういえば呼んだかもな。

 

「ごめん呼び捨てにして。それとも、読み方違った?」

 

とキリト。

 

「ちゃん付けの方が良かった?」

 

と俺。

 

「そうじゃなくて。わたし名前教えてないし、どうやって知ったのかと思って。あと、ちゃんは付けなくていいです」

 

睨まれた。冗談だってば。怖いから睨まないで。…というか、

 

「「はあ!?」」

 

俺とキリトの声が重なった。

 

「名前なんてずっと見えてるはずなんだけど…」

 

キリトが困ったように笑う。

 

「えっ、うそ!?」

 

アスナはそう言ってキョロキョロと首を動かす。おいおい、そんなんじゃ表情も一緒に動いちまうぞ。ひとしきりキョロキョロしたあと、ちょっと不機嫌そうな顔になって、

 

「どこにあるのよ」

 

と言った。まあ、その辺はキリトが説明してくれるだろう。キリトに視線でお前が説明しろと促す。

 

「…えーと、自分の視界の左上に自分のHPゲージとその下に二本HPゲージがあるだろう?その横に何か書いてないか?」

 

そう言われて、顔を左上に向けようとするアスナ。

 

「おいおい、顔ごと向けたら一緒にゲージも動いちまうぞ」

 

咄嗟に頬を押さえてしまった。柔らかいな。女性プレイヤーの肌などはじめて触ったが、こういう所まで再現しているのかと感心する。

 

「…キ…リ…ト…。………エイト…マン…?」

 

お、読めたのか。なかなかやるな。ちゃんと読めたようなので手を離す。

 

「これが二人の名前?」

 

俺もキリトも頷く。

 

「なぁんだ。こんなところにずっとあったのね」

 

アスナはクスクスと笑った。

 

「用事が終わったなら、俺はもう行くわ」

 

そう言って返事を待たずに歩き出す。

 

 

 

第14話 やはり、彼は独りになりたがる。 終




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