間違ってる青春ラブコメは鋼鉄の浮遊城で   作:デルタプラス

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遅くなってすみません。。。

今後もこれくらいのペースかもしれません。
ただ、最後までちゃんと書きますので、お付き合いいただけると嬉しいです。


第15話 まさに、青天の霹靂である。

第1層攻略から二ヶ月が過ぎた。

 

その間に年も越してしまったが、昨日の夜に新年初のボス攻略が行われ、死者を出さずにこれを成功させた。そして、今日から第10層の攻略が始まる。

 

第10層。βテストで辿り着けた最上層。ほんの一部のプレイヤーだけが迷宮区に辿り着いたが、ボス部屋はおろか、ほとんど上に進むことも出来なかった。β時代、最も苦戦したフロアだと言っていい。

 

 

 

フロアとフロアの間に覗く空は、遥か遠くまで青く澄んでいた。晴れやかな空であるはずなのに、俺はなんだか虚しい気持ちを覚えた。

 

 

 

今日は朝から10層初の攻略会議が行われる。指定された場所に行くと、すでに攻略組のメンバーがだいぶ集まっていた。

 

「よう。今回はちゃんと来たんだな」

 

そう言って気さくに挨拶してくるのはエギルだ。俺は自ら攻略組の嫌われ者になったので、挨拶してくるプレイヤーなどいなくても不思議ではないのだが、エギルは特に気にした風もなく話しかけてくる。正直言ってありがたい。周囲からの刺さるような視線には慣れているが、それでも精神的にくるものはある。そんな中で、エギルのような俺を認めてくれている存在は貴重だ。

 

「おう」

 

でもねエギルさん。その挨拶はちょっとばかり失礼じゃないですか?確かに全ての会議に出席してる訳じゃないですけど。まるで俺が会議をサボる常習犯みたいに言うのはやめてくれません?八幡ちょっと傷ついちゃう。

 

「お、キリトじゃねぇか。昨日のボス戦も大活躍だったな」

 

キリトがやってきた。キリトはエギルの言葉に若干苦笑しながら答える。

 

「エギル、それを言うならエイトもそうだろ?」

 

俺の名前が出てきたということは、キリトにも認知されていたらしい。

 

「今回もLA取ってった奴に言われたくねぇよ」

 

そう。キリトは今回もLAを攫っていったのだ。

 

「今回もって、前回はお前がLAだったろ?俺が毎回取ってるような言い方はやめてくれよ」

 

そう言えばそうだった。ていうか何で知ってんだよ。俺は誰にも教えてないのに。こいつエスパーだったりするの?いえ、わかってます。装備してるからバレバレなことくらい。

 

「それでも最多はお前だろ」

 

現在のLA最多獲得はキリトで間違いない。確実に半分以上がこいつだ。なんでそんなに取れちゃうんだよ。ほんとにチーターなの?

 

「おい、二人とも。それはLA取ったことのない俺たちへの自慢か?」

 

キリトとLA談義をしていたら、エギルが割り込んできた。ついでに俺たちの会話が聞こえていたらしい他のプレイヤー数名から睨まれた。視線が痛い。まさかエギルからもこの視線を向けられる日がこようとは。

 

「あぁいや。そう言うつもりじゃないぞ?俺がLA取れてるのはおっかないフェンサーのお陰だったりするし」

 

キリトは余計な言葉を混ぜて否定する。というかキリト、本当に余計な言葉を混ぜたな。それがお前の最後の言葉にならないことを祈る。

 

「誰がおっかないフェンサーですって?」

 

その声に、キリトがビクッとなる。そして首をギギーと声の主に向けた。

 

「や、やあ。アスナさん」

 

声の主はアスナだった。顔は笑っているが目は笑っていない。怖い。顔が整っているだけ余計に。

 

「おはようございます。エギルさん、エイトさん」

 

ナチュラルにキリトがスルーされていた。

 

「おはようさん」

 

「おう」

 

エギルと俺は挨拶を返す。

 

「あ、あのー…」

 

キリトが何か言いたげにこちらを見ている。

 

「そろそろ始まりますよ。行きましょう、エギルさん、エイトさん」

 

アスナは無視した。

 

「そうだな。さっさと行こう」

 

俺は即答する。

 

「ハハ、そうだな」

 

エギルは苦笑しながらも続く。キリト置いてけぼり。

 

「ちょ、ちょっと待ってください、アスナ様」

 

「何?」

 

「い、いや、出来ればお怒りを鎮めて頂きたいのですが」

 

「…ふーん。そんなに怒ってないけど、どうしようかなー」

 

「…何がお望みでしょうか?」

 

さてさて、これでキリトは何らかの罰ゲームを受けることになるだろう。アスナがどんな罰を用意するのか楽しみだ。というかこいつら仲いいよな。よくこんなやり取りをしている。

 

「行こうぜ、エイト」

 

「ああ」

 

 

 

会議は、この第10層がβテストで到達できた最上層であり、これまでよりも事前情報が少なくなるため

、慎重に攻略を進めるべきだというアルゴからの助言から始まった。アルゴ自身が会議に出てきたのは驚いたが、ここまでの会議の流れを見ていてなるほどと思う。

 

誰かの「それじゃあ情報屋の意味がないだろ」という発言に対して、

 

「この層の半分まではこれまでと同じように情報を提供できるんだけどナ。残り半分、特に迷宮区についてはオイラもほとんど情報を持っていないんダ。もちろん変更点もあるだろうし、これから情報収集もするんだが、βテストで最も苦戦したのがこの層ダ」

 

アルゴはこう答えた。ここから、会議が少し荒れる。

 

アルゴの意見に同調し、攻略速度が多少遅れてもいいから慎重に攻略を進めるべきだというプレイヤーと、それはあくまでβテストの時の話で、当時よりレベルも高いのだから今で通りでいいと言うプレイヤーが対立した。

 

前者の言い分はこうだ。

 

「これまでも大小の仕様変更があったが、それでもβテストの時の情報は有用だった。情報は攻略の重要な基盤だ。その情報が不足している状態で攻略を進めるのには不安がある。多少攻略速度が落ちても、情報が集まった状態で、地盤がしっかりした状態で攻略を進めるべきだ」

 

これに対して後者はこう言う。

 

「今まで、情報にないイレギュラーにも対応出来ていた。これはβテストの時よりも攻略組のレベルが高く、安全マージンがしっかり取れている証拠だ。βテストで苦戦したからといって、攻略速度を落とす必要はない」

 

どちらの言うこともわかる。無理をして死者を出すようなことになっては目も当てられないし、確かにβテストの時よりレベルは高くなっている。

 

「イレギュラーに対応出来ていたというのは結果論でしかない。実際、危ない橋を渡って壊滅しかけたこともある。その危機も、事前の情報収集をしっかりしていれば防げた事態だった。慎重になっても悪いことはない」

 

誰かが発言した。まあ、そうだな。

 

「攻略組の人数も増えてきている。情報屋に頼るのではなく、情報収集にも人数を割いて攻略にあたればいい。それで攻略速度を落とすこともなく、情報も得られる」

 

すぐに反論が飛び出す。それもそうだな。

 

「情報収集は攻略組でもやっている。だが、それでは十分でなかった。だから、補いきれないところを情報屋に頼ってきたんだろう?それに、大量の情報や珍しい情報を持っているからこそ、情報屋なんだ。わざわざ切り捨てる必要はない」

 

正論だ。それに先程の発言者とは別のプレイヤーが切り返す。

 

「なら、情報収集に割く人数を多くすればいい。人数を多くすればその分情報も集まる」

 

それには半分同意で半分否定だな。確かに人海戦術は多くの場面で有効だが、重複の可能性も高い。現状で最も効率的な手段とはいえない気がする。何より、人海戦術が使える程の人数はいない。

 

「いくら攻略組の人数が増えたからといって、そんなに多くのプレイヤーを割ける余裕はないと思う。それに、情報収集をするプレイヤーはどうやって決める?多くの人数を割くならしっかりと決めておかないといけない」

 

俺の懸念を言ってくるのはありがたいが、もう少しはっきり否定しにいっても罰は当たらないと思いますよ?

 

「情報収集なんだから、少数でもソロでも出来る。そういうプレイヤーにしもらうのがいいと思う」

 

あらあら、随分と直接的になったもんだ。だけど、もっと直接的になっても別にいい構わんぞ?初めから全然隠せてないから。

 

「そうかな?もしやるなら、攻略と情報収集でローテーションにした方がいい。完全に分業してしまうと攻略組なのに攻略に参加できなくなるプレイヤーが出てくるし、レベルやアイテムやコルに差がでてしまう」

 

だからもう少しはっきり否定してもいいって。別に悪いことじゃないから。まあ、冷静でいるのはいいことだけどね。ただ、ここまでくると裏にある意図に気付けていない可能性がある。

 

「だが、攻略を効率的に進めるなら多少の差には目をつむるべきだ」

 

あなたがそれを言いますか。実に笑えます。そりゃもう最高に卑屈に笑って差し上げましょう。

 

「それは偶発的に出来てしまった差だろう?差が出来てしまうことがわかっていながら、それを実行して不満が生じない訳がない。それで目をつむれは攻略組に余計な軋轢を生むだけだ」

 

そこで会議に沈黙が訪れる。わかってたっぽいな。そうじゃなかったら、ただのクソ真面目。

 

この会議は、表面上は活発に意見が出されていて、内容も決して的外れなものはない。感情的な口論はなく、論理的なやり取りが行われている。しかしそうではない。この会議の裏にあるのは、元βテスターに対する意見の対立だ。感情的なところはどうなのか知らないが、元βテスターを必要と考えるプレイヤーと、嫌悪感などから元βテスターを、というよりもビーターを、この機に攻略組から排除しようとするプレイヤーとの。これだから集団というのは煩わしい。基本的にボッチの俺はなんとも辟易してしまう。いや、ボッチでなくてもするか。

 

一つ咳払いをして、青い髪の男が立ち上がった。名をリンドという。攻略組のリーダー格だ。元々はディアベルの仲間だった男で、ディアベルの後継者を自称してる。正直、ディアベルのようなカリスマ性はないが、堅実な男ではある。

 

「少し論点がズレてしまっているな。アルゴさん、この層の半分までは今までと同じくβテストの情報を得られると思っていいんですね?」

 

そのリンドが、会議に流れる良くない空気を感じ取ったのだろう。議論をまとめにかかる。

 

「ああ、その点は確かだヨ」

 

問われたアルゴは、冷静だが力のある声で返答する。アルゴのやつ少し怒ってんのかもな。情報収集に命懸けてるプレイヤーとしては、この会議での発言の中にはおもしろくない、というよりはプライドを傷つけられたものもあると思う。

 

「なら、この層の前半までは今まで通りに攻略を進める。その後は、攻略組全体で情報収集にあたりながら攻略を行う。少し攻略速度は落ちるかもしれないが、焦って余計なリスクを追うのは得策ではないし、これなら公平性も保たれるはずだ。ただし、前半のうちからこの層の攻略に関する重要な情報が出てくるかもしれないから、常にアンテナを張っておくこと。どうだろう、キバオウさん?」

 

リンドは、これまでの内容を統合しつつも自身の交えた統合案を示し、もう一人のリーダー格に了承を求めた。

 

「全部に納得したわけやないが、それが合理的やと思うわ。それに、攻略速度が遅くなる言うんなら、その分頑張ればいいだけの話や」

 

もう一人のリーダー格、キバオウはフンッと不機嫌そうに鼻を鳴らすと、一応了承の返事をした。キバオウは、第1層攻略後に反βテスター派をまとめ上げて、今や攻略組のツートップの一人となっていた。ちなみに、キバオウもディアベルの遺志を継ぐと言っているが、独自の考え方も強く抱いている。というか、非テスターの代表格であるために、プレイヤー間の公平性についてうるさい。対してリンドは、多くの部分でディアベルの模倣をしており、どうも自分たちこそがこのデスゲームを攻略する戦士という意識を持っている。このため、ゲームリソースの優占は必要なことだと思っている。こういった姿勢の相異なのか、二人の仲は良好とはいえない。

 

キバオウの了承が得られたところで、リンドが皆に向き直って決議内容を復唱する。これでこの議題は終了だ。

 

ん?俺が何も発言してないって?バッカお前、俺が発言する意味とかねぇだろ。場の空気悪くするだけなんだから。以前の会議でうっかり発言したら、睨まれるわ舌打ちされるわ散々だった。その後、アスナが俺と同じことを言ったら、うんうん頷いたり、感嘆の声を漏らしたり、終いには拍手するんだぜ。いくら可愛いは正義って言ってもヒドすぎるだろ。俺ってそんなに可愛くないの?ブサイクではないはずなんだが。

 

その会議の後、アスナに慰められてしまった。年下に慰められるとかちょっと情けなかった。エギルもフォローしてくれたけど、キリトはフォローもなしでトラウマ抉ってきたので、『絶対に許さないノートinSAO』に追加してやった。もちろん舌打ちしてきたりした奴らもな。

 

「さて、先程から気になっている人もいるだろうから、ここで紹介しておく。皆さん、前へ出てきてくれるかな?」

 

リンドがそういうと、五人のプレイヤーが前へ出た。今まで見たことのないプレイヤーたちがいるのには気付いていたが、毎層新たなメンバーが加わっていたので、今回もそうだろうと思っていた。実際にその通りだった。ただ、俺がいる位置からは後ろ姿しか見えなかったので、正面から彼らを見るのははじめてだ。はじめてのはずだ。

 

「この五人は、この層から攻略組に参加するメンバーだ。どこかのギルドに属している訳ではないが、五人パーティーとして徐々にレベルを上げ、ここまで追い付いてきた。その実力は、俺とキバオウさんを含めた数名で確認済みだ」

 

リンドが紹介をする。レベルや実力の話を最初に持ってきたのは、攻略組においては何よりも関心が高いからだ。パーティーは男三人、女二人だ。使用武器はわからないが、金属製の甲冑を着たタンクタイプが二人。腰に両手剣を提げたアタッカータイプが一人。女性二人はアタッカーあるいはバックアップで、一人が片手剣でもう一人が片手棍だ。どちらも盾を持っている。

 

「こん層ではボス偵察に加わってもらうことになっとる。攻略組に慣れてもらわなあかんからな。そういう訳やから、みんなよろしく頼むで」

 

キバオウがリンドに続き、リーダーらしい発言をする。その時、俺の脳の中を何かが強烈に刺激していた。原因は片手剣の女性プレイヤーだ。装備は一般的な片手剣士のもので、レザー製のブーツとパンツにチェストプレート。その上にフード付きのケープを羽織っている。フードが顔の上半分を隠すほど降ろされているために、表情は読み取れない。せいぜい口許が見える程度だ。なのに何故だ。俺はこの女性を見たことがある。いや、知っている。気がする。

 

「じゃあ、簡単に自己紹介してくれるかな?」

 

リンドが促すと、その女性プレイヤーが前に出た。それは僅かな動作だったが、それでわかってしまった。俺はこの人を知っている。しかも、話したことさえある。だが、そんな人がこの世界にいるはずがない。いや、いてほしくない。

 

だが、俺のその生々しい願望は、一縷の望みさえ残さず打ち砕かれた。

 

フードを払い去ったその顔が、続いて発せられたその声が、俺を現実へと叩き落とした。

 

「攻略組の皆さん、はじめまして。このパーティーのリーダーをしているハルノです」

 

そこから先はほとんど覚えていない。他のパーティーメンバーが順に挨拶していた気がする。会議が解散したら、逃げるようにその場を立ち去った。誰かが声をかけて来た気がしたが、振り返れなかった。

 

 

 

気付いたら昨日から寝床にしている建物に来ていた。

 

自分がわからなかった。

 

何故。何故。何故。

 

そんなことばかりが頭の中を埋め尽くしていた。

 

その思考を振り払おうとすると、彼女の声が頭の中で響いた。

 

俺は一体どうしてしまったのだろう。

 

何かが変わってしまったのだろうか。

 

いや、確かに変わったのかもしれないが、人は環境が変われば多少変わるものなのだ。そこじゃない。きっと俺は、忘れてしまったのだ。無くしてしまったのだ。

 

 

自己というものが、ひび割れ、欠けていった。いつからかなくしてしまったピースを補うことも出来ずに。

 

 

 

第15話 まさに、青天の霹靂である。 終




実は八幡が壊れていましたという話です。
いつから壊れていたのかはよくわかりません。これから明らかになるかもしれないですが、ならないかもしれません。

それと、彼女がちゃんと喋ったり、動いたりするのは次の話でお見せします。
期待していた人、申し訳ないです。

感想あると作者は頑張れます!

年内に一話分は書きたいけど…。

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