間違ってる青春ラブコメは鋼鉄の浮遊城で   作:デルタプラス

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第5話になります。
初の戦闘描写もありますが、出来はあまり期待しないでw


第5話 彼は一歩を踏み出す。

耳元でアラーム音が鳴り響く。

 

あまりの音量に飛び起きた。しかし、起きてみるとアラームの音量は少し小さくなったような気がする。たぶん気のせいだが。

 

「…うるせぇ」

 

半覚醒くらいの頭で、これからすべきことを再確認しながらアラームを解除する。今が朝の5時。部屋に唯一の窓から外を見ると、まだ外は暗い。どうやら、昨夜の予想は間違っていなかったのだろう。少しホッとする。

 

グュ~

 

なんとも間抜けな音が聞こえた。

 

「…腹減ったな」

 

考えて見れば、SAOにダイブしてからは何も口にしていない。最後にとった食事は現実世界での昨日の昼食だ。腹が減ってしまうのも道理である。外の様子をもう一度確認するが、この様子なら、あと1時間は明るくならないはずだ。

 

「パンくらいは腹に入れていこう」

 

腹が減っては戦は出来ぬという言葉もある。何より、フィールドの真ん中で空腹で倒れたりしたら洒落にならない。本物の死の危険がある以上、余計なリスクは背負うべきではない。

 

俺はメニューから寝る前に外した装備を選択し、再び装着する。次の村に行く以上、この宿は契約を解除した方がいいだろう。すでに6泊分の代金を支払っているが、解除すれば5泊分の代金は戻ってくる。別にケチってるわけではない。こういった類の出費は抑えて装備に費やしたいし。なんか損した気分になるし。

 

もう一度装備を確認したのち、1階のカウンターで契約を解除する。5泊分の代金が戻ってきたことを確認して出口に向かう。おじいさんのNPCは昨晩と同じ場所に座っていた。この老人のNPCはずっとここに座っているのだろうか。

 

ドアを開けるとひんやりとした空気が肌を撫でる。

 

1泊だけとはいえお世話になったのだ。おそらくこの位置からでは反応はないだろうが、例くらい言っても罰は当たるまい。それに、お礼というものは、される側ではなくする側の気持ちなのだ。そう考えて、中の方に向き直る。おばあさんは穏やかな顔をしている。おじいさんは目を瞑っており表情は読めない。

 

「ありがとうございました」

 

軽く頭を下げながらお礼の言葉を口にする。…やはり反応はないか。予想はしていたが、少しだけ残念に思ってしまった。仕方なく出ていこうとすると、

 

「礼などいい。また来なさい」

 

ぶっきらぼうな、でもどこか優しさを含んだ声が聞こえた。男性のものだった。驚いて振り返る。しかし、おばあさんもおじいさんもお礼を言う前と何も変わった様子はなかった。

 

 

 

あれから3時間近くたった。

 

俺は今あるクエストを受けて森の中にいる。クエスト名《森の秘薬》。クエスト内容は、ある特定のmobからドロップするアイテムを入手し、それをクエストを依頼してきたNPCに渡すことである。

 

NPC雑貨屋で買った無駄に硬いパンと井戸で汲んだ水で空腹をごまかすと、まだ明るくならないうちに出発した。

 

もてる敏捷性AGI(アジリティー)のすべてを使ってひたすら駆けたおかげで、1時間ほどで目的地《ホルンカの村》に到着した。

 

道中、何度かmobに遭遇したがいずれも単体で、ソードスキル一発でだいたい倒すことができた。途中から明るくなったことも良かったかもしれない。

 

そして俺は、とくに休息を取ることなくクエストを受けるためにある家へと向かった。その家は、この辺りでは一般的な民家であり、中には母親と思しき女性のNPCと病気に苦しむ子供のNPCがいた。βテスト時と特に変わった点がないことに安堵しながら、俺はクエスト依頼を受けた。

 

 

そして現在に至るわけである。

 

「しっかし出ねぇな」

 

思わず愚痴がこぼれる。かれこれ1時間以上はこの森を探し歩いている。目的のmobは出現率が低い。しかし、まだこの辺りのプレイヤーの数は少ないはずだ。となれば、狩られすぎて出現しないということではないはずだ。

 

「単に俺に運がないだけか」

 

ため息をつく。実際、全くmobに出会わないかと聞かれればそうではない。この森に入ってから10体は狩っている。今も左前方8メートルくらいの位置の1体ポップしかけている。この距離だと、ソードスキルの有効距離まで近づいて攻撃すれば、間違いなくポップした直後を狙える。完全な奇襲になるわけだ。プレイヤーを未発見の状態でソードスキルを受けたmobは100%の確率でノックバックを起こし硬直する。そこまでを瞬間的に思考した俺は、ポップ直前のポリゴン塊まで3~4メートルのところまで接近する。

 

俺は左腰に装備した獲物を抜き放ち、片手剣スードスキルの基本技の一つ《レイジスパイク》の予備動作に入る。右手に握った片手剣の刀身が鮮やかなライトエフェクトに包まれるのと、この森に出現する植物型mob《リトルネペント》が出現するのは同時だった。

 

「ッ!!」

 

俺は無音の気合と共にソードスキルを発動した。《レイジスパイク》は突進技である。威力こそ低いものの、多少の距離は気にしなくていい。3~4メートルあった差は一瞬で消え、剣の切っ先が《リトルネペント》の胴体に突き刺さった。

 

「ジャァァーー!!」

 

奇妙な悲鳴と共に《ネペント》が1メートルほど後退し、その状態で硬直した。目論見通りだ。これで《ネペント》はあと数秒は動けない。

 

しかし、動けないのは俺も同じだ。ソードスキルは攻撃力や射程に優れる分、技を放った後に硬直を強いられる。

 

技の硬直が解けるまでのわずかな時間に、この《ネペント》をよく観察する。外見は1メートル半くらいのウツボカズラのようなmobで、その上部には葉っぱが付いている。HPゲージは3割ほど減少している。

 

「だいたい予想通りだな」

 

そう呟く間に硬直が解ける。《ネペント》の硬直はまだ解けていない。《レイジスパイク》は威力が低い分、硬直時間が短いのだ。

 

硬直している《ネペント》に向かって踏み込み、袈裟懸けに斬り付ける。

 

バシュッ

 

という音と一緒に確かな手応えが伝わってくる。休む間もなく剣を返し、斬り上げる。その後も連続して斬撃を加える。3撃加えたところで《ネペント》の硬直が解けた。とっさにその場から飛びのく。

 

「シャァァァ!!」

 

《ネペント》は怒ったように鳴くと、捕食器にあたる部分から腐食性の液体を飛ばしてきた。それを右にスッテプして回避する。あの腐食性の液体に触ると装備の耐久力が大幅に落ちてしまうため、絶対に食らうわけにはいかない。HPはすでに4割を切っている。これなら、

 

「ソードスキル一本で」

 

いける。そう確信した時、こちらを向いた《ネペント》が再び腐食液を飛ばそうとしていた。

 

俺は腰を落として身構える。そして、

 

「シャァァァ!!」

 

《ネペント》が腐食液を放つタイミングで強く地を蹴る。急激な加速感覚が体を支配する。俺はそのまま、低空を滑空する如く、走る。腐食液が頭上30センチもないところを通過するが気にせずに突っ走る。《ネペント》のすぐ脇を通り、真後ろに回り込む。AGI(アジ)に高めにステータス配分しており、《ネペント》腐食液の軌道を熟知している俺だからできる芸当である。良い子はマネしないように。

 

攻撃を外したことを悟った《ネペント》がこちらを振り向く。だがもう遅い。

 

俺はすでにソードスキルの発動を完了しているのだから。

 

「オオッ!」

 

短い気合と共に青いライトエフェクトに包まれた剣を振り下ろす。片手剣ソードスキル・垂直斬り《バーチカル》。

 

《バーチカル》を食らい真っ二つになった《ネペント》は不自然な姿勢で硬直した後、無数のポリゴン片となって消えた。

 

 

第5話 彼は一歩を踏み出す。 終




八幡の戦闘スタイルは今後変わっていくと思います。
感想よろしくお願いします。

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