間違ってる青春ラブコメは鋼鉄の浮遊城で   作:デルタプラス

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第6話です。
あまりいいタイトルが思いつかなかった…。


第6話 まだ、彼は気付いていない。

「ふぅ」

 

真っ二つにして倒した《ネペント》のドロップ品を確認し、周囲に新たなポップがないことを確かめてから緊張を解く。

 

今回のクエストのターゲットは、《リトルネペント》の中でも上部に付いている"葉っぱ"の部分が"花"の個体だ。だが、これまで出会った個体はすべて"葉っぱ"だった。この2種の他に"実"が付いているやつもいるが、この個体には出会う必要がない。この個体の"実"を破壊してしまうと、周囲にいる《ネペント》達を大量に呼び寄せてしまうからだ。もしそうなってしまったら、脱出するのは容易ではない。

 

「しようがない。一旦戻って出直すか」

 

ゲームにおいて中々目当てのものに巡り合えない時は、意地を張って探し続けるよりも、出直した方がいいということが往々にしてあるのだ。もちろん、ゲームなのだからシステムが確率論的に出現率を定めているわけで、数撃ちゃ当たる可能性は高くなる。だが、現実世界でもそうだが、運とかツキとかいうものは確かにあるように思えるのだ。正直、時間的ロスは痛いが、無理をしてリスクを高めることだけは避けたい。このSAOはもう普通のゲームではないのだ。紛れもないデスゲーム。

 

「死ねない、もんな」

 

 

 

《ネペント》を引っかけないように注意しながら歩くこと20分。そろそろ森の出口も近くなるというところで、俺は足を止めていた。俺は今、少し太めの木の幹の影に隠れている。その視界には、敵mobを示す3つの赤いカーソルが表示されていた。ここから約15メートルほどのところに1体。さらにそこから7メートルほど離れたところに1体ずつ。ほぼ正三角形を描くようにして《ぺネント》達がいる。そして、

 

「花付き。こんなところにいたのか」

 

花付き。このクエストで俺が探し求めていた《リトルぺネント》だ。まさかこんなに出口に近いところに出るとは思わなかったが、これは間違いなく好機だ。一旦は諦めて戻ろうと思った矢先なのだから。

 

「しかし、どうするよ。これ」

 

3体いる《ネペント》の距離が近すぎる。仮に花付きだけを狙っても、おそらく倒し終える前に他の2体も俺の存在に気付き、攻撃を仕掛けてくるだろう。そうなれば、俺は一気に窮地に立たされかねない。余計なリスクは負わない。勇気と無謀は違う。そうだろ?

 

だが、だからと言ってこのチャンスを逃すのは勿体ない。どうする?考えろ。よく状況を観察しろ。

 

「………」

 

よし、作戦は決まった。

 

「スゥー、ハァー」

 

ひとつ大きく深呼吸する。一番近くにいる葉っぱの《ネペント》が向こう側を向いた瞬間、剣を抜いて一気に躍り出た。AGIを全開にして駆ける。目標との距離、10メートル、5メートル。あちらも俺を認識したのだろ。蔓の鞭を振り上げて攻撃態勢に入る。だが、

 

「遅いっ!」

 

刀身が鮮やかなライトエフェクトに包まれる。《レイジスパイク》。今にも攻撃しようとしていた《ネペント》は攻撃を中断されてノックバックを起こす。だが、今回は硬直は起こらない。《ネペント》がノックバックから回復するのと、俺が技後硬直から脱するのはほぼ同時だった。すぐに3度のバックステップで大きく距離を取る。素早く左右に視線を走らせるが、残りの2体が俺に気付いた様子はない。

 

「これなら!」

 

正面の《ネペント》がいかにも怒った様子で距離を詰めてくる。それを見てさらに後退する。残りの2体の有効索敵圏から十分脱したと思うまで同様のことを繰り返して後退する。これで完全な一対一。思わず口元が緩む。油断は禁物だが、これで勝てる。相手の攻撃タイミングに合わせて、攻撃を避けながら、AGIを全開にして肉薄する。

 

「オオッ!」

 

全力のソードスキルを叩き込む。《ネペント》がポリゴン片になったのを確認すると、すぐにもう1体の葉っぱ《ネペント》のところに向かう。

 

 

 

3分後、2体目の《ネペント》が消滅した。

 

 

 

「ハァッ!」

 

最後に残った"花付き"に全体重を乗せた袈裟懸け斬りをお見舞いすると、ポリゴン片となって消滅した。戦闘を開始してから10分ほど。かなり上手く狩れたと言っていい。

 

ウィンドから、今回の目的のドロップアイテムが確かにあることを確認してやっと安堵する。

 

これで《ホルンカ》に戻って依頼主のNPCのところに行ってアイテムを渡せば、長い朝は終了である。

 

十数度の戦闘で多少の疲れはあったが、むしろ来る時よりも軽やかな足取りで森の出口、そして、《ホルンカの村》へと戻っていった。

 

 

 

クエスト依頼主の女性NPCに目的のアイテムを渡して、クエスト完了のウィンドと効果音と共に《アニールブレイド》を受け取る。これで完了だと思って伸びをしていると、女性は俺が渡したアイテムから作ったらしい薬を持って隣の部屋に入っていった。俺はなんとなくそのあとを追った。

 

その部屋は、特徴的な装飾もなく、簡素なベッドとその枕もとで明かりを放つ照明器具があるだけだった。ベッドには10歳くらいの少女が寝ていた。少女は苦しそうな顔をしていた。母親が側まで行くと、起き上がって薬を飲んだ。

 

「これで治る?」

 

少女は不安げな顔で母親に尋ねる。

 

「ええ、良くなるわ。きっとね」

 

母親が微笑みながら答える。それを聞いた少女は安心したように笑顔でうなずいた。

 

さて、俺はどっか行くか。ここにいてもお邪魔だろ。そう考えて、足をドアの方に向けた。

 

「剣士さん、ありがとう」

 

振り向いた。少女が真っすぐな笑顔を向けていた。思わず目を逸らしてしまう。やめろ。そんなんじゃない。別に君を助けようとしてクエストを受けたんじゃない。ただ俺が強くなるために受けたんだ。そう、ひどく独善的な理由で。だから感謝されることなんて何もしてない。

 

逃げ出そうかとも思った。だが、少女の姿に幼い頃の小町が重なって、出来なかった。

 

「そうか。まあ、良かったな」

 

なんとかそれだけ絞り出すように言うと、その家を後にした。

 

 

 

「お兄ちゃん、ありがとう」

 

いつだったか、まだ小さかった小町がひどい風邪を引いたことがあって、両親は仕事でいなかったから俺が看病したのだ。その時、小町にそう言われた。それに俺はなんと答えたっけ。

 

 

「ああそうだ。『兄妹なんだから当たり前だ』だ」

 

もう外はすっかり明るくなってのに、まだ肌寒かった。

 

 

第6話 まだ、彼は気付いていない。

 




第5話とのセットで1話分って感じの内容ですかねw
感想くれると嬉しいです!

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